<PCクエストノベル(1人)>


邪剣への変異 〜封魔剣ヴァングラム〜
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【冒険者一覧】 整理番号 / 名前 / クラス

 2843 / トゥクルカ / 異界職
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 闇深きその洞窟に、生の気配はなかった。
 あるのは禍々しき負にとりつかれし魔の気配。
 心地よい気配に、トゥクルカは、にこりと無邪気な笑みを浮かべた。十四歳という外見よりもさらに幼く見えそうな笑みでありながら、その奥には子供だからという理由だけでは説明しきれない酷薄な色を湛えて。

トゥクルカ「へぇ〜。いかにも魔剣がありそうって雰囲気」

 紅玉の瞳が楽しそうに煌いて、トゥクルカは洞窟の奥の闇へと目を向けた。
 彼女がここにやってきたのはとある魔剣が眠るという噂を聞いてのことである。
 魔剣の名は封魔剣ヴァングラム。強力な魔物が封印されている魔剣であり、魔法さえも切り裂くといわれている逸品だが、精神の弱い者は剣の魔物にとりつかれ、自ら魔物になってしまうという。
 ただし。
 もし剣の魔物に打ち克てば、逆にその魔物を使役することも可能ということらしい。
 まあ、噂の真偽がどうであれ、トゥクルカには関係ない。
 だってトゥクルカはそんなものに負けるほど弱くはないし、女王にこの剣を献上しもっと認めてもらうという強い目的意識があるのだ。
 トゥクルカの隠さぬ気配を察してか、洞窟の闇の向こうの気配がざわざわと騒ぎ始める。
 唇の端を微かに上げて、トゥクルカは薄い笑みを浮かべる。

トゥクルカ「待っててね、今からトゥクルカのものにしてあげるから……」

 トゥクルカ本人の身長よりも長い、大きな鎌を難なく手にして、トゥクルカは洞窟の奥へと歩き出す。
 洞窟は人の手が入っていないらしく、これといって整えられている様子はなかった。だが、トゥクルカと同じように魔剣を手に入れようとした者は多かったらしい。人の入って行った痕跡があちこちに見受けられた。
 噂通り、魔剣が人を魔物へと変えるのならば、それだけ多くの魔物がここにはいるはずなのだが……。

トゥクルカ「みんな、魔剣の傍にいるのかしら」

 道中にいないということは、そういうことなのだと考え、いつでも戦えるよう体勢を整えながら奥へと進む。
 外の光がないゆえに、どれくらい進んだのか、段々と曖昧になってくる。
 他種族の負の感情をエネルギーとするトゥクルカにとって、ここはエネルギーに満ちていて、困ることはなかったが。
 近づいて行くにつれて、はっきりとわかる。
 魔剣への畏れ。魔者になってしまった自分への不安。そして……自業自得だということすら忘れて、人として生きる者たちへ嫉妬するその醜い心根。
 人であったころの理性など、もうほとんど残っていないのだろう。

 どれくらい、進んだだろうか……。

 狭い通路がふいに開けた、その、瞬間。
 飛び掛ってきたモノを避けて、トゥクルカは空間と飛んだ。
 警戒を強めながら改めてみれば、洞窟は少々広い空間になっており、その奥には一振りの剣。そして剣の周囲を取り囲むようにして、多数の魔物が群れていた。
 確認した瞬間、トゥクルカは洞窟の天井ギリギリまで飛びあがっていた。

トゥクルカ「パーシステント・ヒュドラ!」

 詠唱ののち、最後の言葉をきっかけに、部屋いっぱいに鋭い水晶弾が飛び散った。
 トゥクルカが得意とする魔法のひとつで、追尾性能を持つ無数の水晶弾を全方位へと放つ闇と氷の合成術だ。
 しかも水晶弾は、それぞれ違う移動パターンの軌道を持って魔物たちを追って行く。
 水晶弾があらかた地面と魔物に突き刺さったあとには、残っている魔物はほんの数体にまで減っていた。
 魔物が体勢を整えるのを待つことなく、トゥクルカはヒュッと下方へ急降下する。
 トゥクルカの小柄な身体に似合わない巨大な鎌が、勢いよく振りまわされる。手加減なしのその威力に、残る魔物もあっという間に両断されて、そして……。
 静寂とともに残ったのは、おびただしい数の血と、肉片と。変わらぬ魔力を放って佇む魔剣。その魔剣の前に立つ、トゥクルカ。

トゥクルカ「トゥクルカと一緒に来てもらうよ」

 勝利者の笑みで告げて剣に触れたその直後。トゥクルカの表情が怒りに満ちたものへと変化した。
 剣が弱き者を取りこもうとするものであることは知っていた。知っていたけれど、実際にやられると、気に食わないのも確かなのだ。

トゥクルカ「……トゥクルカを支配しようなんて……」

 呟く声音は、静かで、抑揚がない。だがそれだけに、怒りの色が濃く現れていた。

トゥクルカ「そんなこと、できると思っているのかしら?」

 言葉と同時に、魔剣の周囲に力が満ちる。
 魔剣のものではない。トゥクルカのものだ。
 トゥクルカの創成術が、逆に魔剣を支配しようとしているのだ。
 魔剣はその力に抗うように、空気を震わせさらに強い魔力を放つ。だが、それもトゥクルカの魔力には敵わなかった。
 剣が、変化していく。
 剣だったものが、剣でありながら剣でないものへ。
 生物のようであり、けれど正確には生物ではない。
 そんなものへと変わっていく。

トゥクルカ「……トゥクルカの、勝ちだね」

 すっかり大人しくなった魔剣を前に、トゥクルカはにっこりと幼い少女そのままの笑みを浮かべてわらった。
 トゥクルカの手には、もう魔剣と呼ぶには似つかわしくない。邪剣と呼んだほうがしっくりとくるヴァングラムが握られていた。