<PCクエストノベル(2人)>


埋もれた歴史 〜フェデラ村の調査〜

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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

 ■2623/廣禾・友巳/編集者
 ■1929/トマス・レイク/シーフ

【助力探求者】
 ディアナ・ガルガンド

【その他登場人物】
 ネロ(フェデラ村住人、少年)
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――――――そして暫く私は海の底を漂う夢を見続けた。
それほどあの美しい海底は魅力的で、強大な力で私の心を奪ったのだ。
そこにはその神殿に込められた数々の想いも影響しているのかもしれない。
大切に守られ、そして代々受け継がれてきた海への想い。
それらが海底神殿を外部のものから守ってきたのではないか。そんな気がしてならない。
これらの神殿、そしてフェデラ村については調査してみたい事柄が数多く出てきた。
調査していけばきっと探求心を満たしてくれるような事実が明らかになるに違いない。
あのような神殿を作り上げた海人の当時の生活、そして文化をもっと調査してみたいと思う。――――――


 こんな感じかな、と友巳は筆を置き大きな伸びをした。
 コキコキと肩を鳴らしながら、たった今書き上げたばかりの原稿を眺める。それは先日訪れたフェデラ村の海底神殿に対するレポート記事だった。
 友巳はそこでネロというフェデラ村の少年に案内され、海底に眠る海底神殿を観てきた。水力のかかる海底でもその装飾の美しさを保っており、それが友巳の心を奪う。海底神殿は海の中で圧倒的な存在感を醸し出していた。
 そしてその海底神殿のある海は、今まで潜ったどの海よりも美しく、そしてそこはどの海よりも謎に包まれていた。
 その謎が友巳の探求心を擽る。
 疼き出すその心を止めるのは得策ではないと友巳は更なる調査を心に誓う。
 真実を曲げて報道はしたくない。中途半端にしておくのも性に合わない。
 それならば前に進むしかないではないか。

友巳:「よーし、それじゃあの人に聞きに行かないとね」

 友巳は原稿を纏めると、海を想わせるような青く透明な文鎮で押さえた。

友巳:「これでよし」

 そして友巳は待ち合わせの場所へと向かったのだった。





 友巳は目当ての人物を見つけ軽く会釈をし近寄っていく。すると相手も友巳に気付き軽い笑みを返してきた。
 待ち合わせの相手はソーン人のトマス・レイク。
 ソーン人であればその世界の事について詳しいだろうと踏んでの事だったが、種族事に異なる文化を持っているソーンという世界の事をトマスもそこまで詳しく知っている訳ではなかった。ただ、異世界からやってきた友巳よりはこの世界に関する知識の量は格段に上だったが。それに裏で流れている本当か嘘か分からない情報も耳に入ってくる。

友巳:「こんにちは。すみません、突然のお願いに快く応じて下さってありがとうございます」
トマス:「いやいや。お気になさらず。それでレポートはまとまったのかな?」
友巳:「えぇ、お陰様で。書き上がってみたら余計に海底神殿の事が気になってしまって」

 最近は寝ても覚めても海の事ばかり、と友巳が笑うとそれにつられたようにトマスも笑う。

トマス:「いいと思うけど? 夢中になれるモノがあるってことは」
友巳:「充実した毎日が送れますね」
トマス:「そうだね。あ、そうだ。それで肝心の海底神殿の事だけど、俺も知らないんだ。なんとなく噂では聞いた事があったんだけど、実際に友巳さんみたいに見た事もないからね。友巳さんの話を聞くまで根も葉もない本当に噂だと思ってたよ。その海底神殿については友巳さんの方が詳しいと思う」
友巳:「そうですか」

 ただし、とトマスは友巳に告げる。

トマス:「海底神殿には詳しくはないけど、ソーン全体の事に関しては少しはね。その海底神殿やフェデラ村の過去の事についての文献がありそうな場所は知ってる。ちょっと変わったディアナ・ガルガンドっていう女主人が営む、ガルガンドの館と呼ばれる図書館があるんだ」
友巳:「図書館? へぇ、そんなものが‥‥」
トマス:「あそこは見渡す限り本の山っていう話だから、探してみる価値はあると思うよ」

 行ってみる?、と聞かれ友巳は一も二もなく頷く。
 情報を手に入れる事が出来るのならば、何処にでも出向くのが友巳だ。

友巳:「ぜひ案内して下さい」
トマス:「よし。それじゃ早速行こうか」

 実はそう言うと思って既に相手に連絡してあるんだ、とトマスは茫洋とした笑みを浮かべる。
 友巳はその笑みを見ながら、侮れないな、と胸の内で呟きトマスに快活な笑みを見せた。




 巨大な門をくぐり抜け、これまた巨大な館への入り口を通って二人はガルガンドの館内へと入った。
 ソーン各地の書物が集められているらしい図書館は、本当に見渡す限り本に溢れていた。遥か彼方に見える壁に設置された棚にも本が置かれているのが見える。この図書館内には数え切れない程の本が上から下まで収納されていた。
 館内には数人の人影が見えたが、この屋敷の内部だけ時が止まっているかのように静かだ。
 ぐるり、と友巳とトマスが自分たちを取り囲むように置かれた本棚を見渡していると背後から声をかけられた。

女:「お待たせしてしまってごめんなさいね」

 艶めいた声の主は腰まである紫の髪を豊かに波打たせたディアナ・ガルガンドだった。

トマス:「いえ、今来たばかりですから」
ディアナ:「フェデラ村に関する事だったかしら?」
友巳:「えぇ、そうです。できればフェデラ村の近くの海底にある海底神殿の事などを調べる事が出来たら嬉しいんですけど」

 その海底神殿の話を聞いてディアナは目を丸くする。
 友巳は何か変な事でも言ってしまっただろうか、と首を軽く傾げた。

友巳:「あの、何か‥‥私変な事を?」
ディアナ:「いいえ、ただ驚いただけよ。海底神殿の事を知っている人は珍しいから」

 トマスが、ホラ珍しいだろ、と言うように視線を送ってくる。友巳もそれに軽く頷いてディアナに向き合った。

友巳:「私、その海底神殿を先日見てきたんです。それでとてもその神殿の美しさとフェデラ村に興味を持って現在調査中で‥‥」
ディアナ:「海底神殿を? あなた、フェデラ村の人達に信用されたのね。村人以外に海底神殿を見ることの出来た人は少ないわ。でも調査って‥‥‥」
トマス:「この人は安心しても良いと思いますよ。別にその神殿をどうにかしたいと思ってる訳じゃないから」

 トマスがすかさず援護に入る。友巳の話を聞いていれば付き合いの浅いトマスでもそんなことはすぐに分かった。
 友巳はきっとただ真実が知りたいだけだ、と。
 その援護を有り難いと思いながら友巳は口を開く。

友巳:「はい。私はあの村の事を記事にしたいと思っています。でもそれは神殿の存在を脅かす事がしたい訳でも、間違った事実を伝える為でもありません。もし、真実を知ってそれがあの村や神殿が危険にさらされると言うのであれば、記事にはしないつもりですし」
ディアナ:「そう。‥‥もしかしてそのことを村の人に言った?」
友巳:「今のようにはっきりとではありませんけど‥‥」

 真っ直ぐな瞳を向ける友巳にディアナは優しく微笑んだ。

ディアナ:「二人とも面白いわ。わたしの蔵所に納めたいくらい」
トマス:「え? 蔵所に‥‥って?」
友巳:「えっと‥‥‥‥よく分からないけれど、聞かなかった事に‥‥」

 ディアナの言葉に不穏な雰囲気を感じ取った二人は、乾いた笑みを浮かべる。
 トマスは一瞬『本に収められている物語は全て実話で、絵は実在の人物だ』という噂を思い出し、それを振り払うかのように頭を振った。
 ディアナは気にした様子もなく、ニコリ、と微笑み告げる。

ディアナ:「それじゃ、フェデラ村についての棚へご案内するわ。その間にフェデラ村での出来事を教えて下さいな」
友巳:「喜んで」

 友巳はディアナにフェデラ村での事を話して聞かせながら、立ち並ぶ本棚の間を移動する。
 見上げる程に高い天井ぎりぎりまで棚が積み上げられ、そこにはぎっちりと本が詰まっているというのに、迷うことなくディアナは一直線にある一角を目指していく。
 トマスはその館内を把握するように視線を走らせるが、似たような棚ばかりが続き、そしてそれが何度も繰り返される為に感覚が麻痺してきてしまう。シーフとして磨き抜かれた感覚をも麻痺させるようだ。わざとその様な作りになっているのではないか、とトマスは嘆息する。
 トマスは溜息を吐きながら館内の把握を諦め、大人しくディアナの後ろについていく事にした。


ディアナ:「さぁ、ここがフェデラ村に関する棚よ」
トマス:「これ‥‥全部?」
ディアナ:「えぇ、そうよ。この館には世界で埋もれた歴史が詰まっているの。過去の物語が此処には記されているわ。暴かれた秘密も」
友巳:「すごい‥‥」
ディアナ:「でもあくまでもここにあるのは記録でしかないの。あの土地に受け継がれてきたという感情やその他の想いは、やはりその土地でしか味わえないものだわ。あなたがその目で見て、感じてきたように」
トマス:「これだけある資料でも味わえないものね‥‥。なんか俺も行ってみたくなるな、そんなこと言われると」
友巳:「それも良いかもしれないですね。次の現地調査の時は一緒に行きます?」
トマス:「考えておくよ」

 そんな二人のやりとりを微笑ましいものを見るようにディアナは見つめる。
 そして一冊の本を手に取り友巳に手渡した。

ディアナ:「海底神殿については一番この本が詳しいと思うわ。それと他にリクエストはある?」
友巳:「神殿を造った当時、海人の文明というべきものがあったのかどうかは分かりますか? それと彼らの由来とか‥‥」
ディアナ:「そうねぇ‥‥‥それはこの本の此処ね。それとこれも結構詳細が載ってるわ」

 これも、と数冊の本をトマスと友巳に手渡した。

ディアナ:「捜し物が見つかると良いわね。わたしの助けが必要な時は呼んで下さいな」
友巳:「ありがとうございました」
トマス:「またよろしくお願いします」

 えぇ、喜んで、とディアナは笑みを浮かべて立ち去った。
 数百冊の中から的確な本を探し出したディアナの能力に舌を巻きつつ、残された二人はディアナから渡された書物を片手に調べ始める。場所だけ教えられただけだったら、一日では到底その記録に辿り着く事は出来なかっただろう。
 もしかしたらディアナは友巳とトマスとの会話で、その情報を教えるか否かを見極めていたのではないだろうか。そうでなければ既にフェデラ村の海底神殿のことなど冒険者達の間に広まっても可笑しくはない事柄だろう。そして財宝の有る無しに関わらず、古代の財宝を求めて冒険者たちが後を絶たなかったに違いない。

トマス:「へぇ、凄いもんだな。今でも工芸品とか素晴らしいものが多いけど‥‥」

 トマスが本に載っている海底神殿の絵に感嘆の声を上げる。

友巳:「まるで写真みたい‥‥」

 トマスの見ていた本を覗き込んだ友巳は、以前見た海底神殿が目の前にあるような錯覚に陥る。

トマス:「この文献によると、『海底で暮らしていたフェデラの人々は、立派な装飾を施した海底神殿で祈りを捧げ、それよりも規模は小さくなるが、装飾の美しい家を海底に建てて暮らしていた。家によってその装飾は別のものであり、代々その装飾は伝えられ家紋のような働きをしていたようだ。海底でも崩れる事のない装飾を施した民族は他に類を見ない。それが海人としての文明とも言えるものではなないだろうか』だって」
友巳:「昔から手先が器用でそういった装飾が代々伝えられるなんて凄い。それじゃ、今もそれは伝えられてるのかな。フェデラ村で私家なんて詳しく見て来なかった! えっと、今から見に行っちゃダメかな?」

 そんな友巳の様子にトマスは笑い出した。でも極力声は抑えて笑う。
 それでも静かな館に響くトマスの笑い声。

トマス:「思い立ったら吉日、は良いけどそんなに急がなくても良いんじゃないかな」
友巳:「あっ‥‥そうだった、まだ調べ物の途中‥‥」
トマス:「そうそう。それにフェデラ村の海人の由来もこれ中途半端になってるんだ」

 見てご覧、とトマスが差し出した本は先ほどの文明云々が書かれている本だ。
 しかし、『フェデラ村の海人の由来は‥‥』と書かれた後は白紙になっている。

友巳:「本になっているのに後ろが白紙って‥‥」
トマス:「まだ暴かれていないってことじゃないかな?」
ディアナ:「良くできました」

 ふいに現れたディアナにトマスは、びくり、と肩を振るわせる。
 トマスに気付かれることなく気配も無しに現れたディアナは一体何者なのか。ただの女主人ではないような気がしてならないが、今は追求しないでおこうとトマスは早くなった鼓動をゆっくりと落ち着かせる。

友巳:「まだ分からないって事ですか?」
ディアナ:「そうなの。こんなにもたくさんの本があるというのに、まだ誰も解き明かした事のない謎がまだまだこの世界にはあるってことね」

 冒険のしがいのある世界でしょ、とディアナは二人に告げると悪戯な笑みを浮かべる。

ディアナ:「気が向いたらでいいから私の蔵所に新しい情報を追加してやって下さいな。いつでも大歓迎よ」
友巳:「発表できる場をお貸し頂けるならそれに越した事はありません」
トマス:「誰も解き明かした事のない謎ね‥‥まぁ、それも楽しそうではあるけれど‥‥」
ディアナ:「時間はたっぷりある事だし」

 人生楽しく生きないと勿体ないわ、とディアナは自分の蔵所でもあり図書館でもある館を見渡す。

ディアナ:「これは私の生き甲斐。二人とも思う事をやって前に進んでいくと良いわ」

 きっと良い事があるから、とディアナは幸せそうな笑みを二人へと向ける。
 その笑顔を見ていると本当にそのような気がしてきて、友巳とトマスも微笑みを浮かべたのだった。