<PCクエストノベル(3人)>


澱〜戦乙女の旅団〜

------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2079/サモン・シュヴァルツ/ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー   】
【2080/シェラ・シュヴァルツ/特務捜査官&地獄の番犬(オーマ談)   】

【助力探求者】
なし

------------------------------------------------------------
オーマ:「おう、賑わってるな?くぅぅ、これこれ、こうじゃなくちゃいけねえぜ」
シェラ:「ふうん…いい所じゃないか」
サモン:「………」
 珍しいものばかりを扱っている露天が建ち並ぶ広場に、今日もたくさんの人が集まっている。
 ここは、戦乙女の旅団――各地を回っては土地土地の独特の品々を集め、他の場所へ行ってはそれらの品を売ってまわる、行商人のような事を生業とする人々のバザーだった。
 太陽の光を浴びてきらきらと輝く珍しい石や、旅団の中でも独自に作っている占い石などが並べられている中を歩く3人。
 それは、最近何かに悩んでいる…いや、正確に言えば戸惑っているような娘のサモン・シュヴァルツの姿を見て、心配したオーマとシェラの2人が考えた末に思い当たった旅行プランだった。
 最初はただの気晴らしに観光地へ旅行に行こうとしただけだったのだが、どうせならこうした賑わいと、交易品という何よりも想いが染み込んだモノが数多く並ぶバザーを見せてやりたいとサモンを伴って、親子水入らずの旅行と洒落込んだのだ。
シェラ:「…ん?おや、これは」
 ぴたりと足を止めたシェラが、サモンを手招きして呼ぶ。
 そこにあるのは、半透明の色とりどりの石を磨いてペンダントやイヤリングに加工したもの。その隣には鮮やかな紅も置いてあり、シェラが目を細めて見ていた。
 その隣に、サモンがちょこんとしゃがむ。
シェラ:「どうだい?こう言うのも、綺麗でいいだろう?」
サモン:「……そうだね…」
 無表情に近いながらも、やはりそこは女の子。アクセサリーに手を伸ばし、ほんの少しだけ表情を緩めるサモン。
シェラ:「サモンに似合うのはどういうのかねえ。サモンなら、何でも似合うかな?」
サモン:「……ど、どうかな…」
 羽を広げた蝶の羽の中にきらきらと小粒の石をはめ込んだ髪留めに目を奪われていたサモンが、シェラの馬鹿親発言にほんのちょっぴり照れたような顔をし、何か思いを馳せるように髪留めへまた目を落とす。
 ――きゅぴーん!
オーマ:「お、おう、これなんざどうだ?超ステキ♪な品だと思うんだが」
 この間から、サモンの様子がなんとなくおかしいと思っていたオーマの、どこかの神経に触れたらしい。
 木彫りの髑髏に木の棒を付け、髑髏の頭を動物の毛で覆った、どう見ても何かの呪術道具にしか見えないものをにゅうっと2人の前に突き出す。
シェラ:「……オーマ?」
サモン:「……………」
 オーマの笑顔が、2人からの目に見えないオーラに次第に引きつって行く。
 その目はこう言っていた。
 『女同士の邪魔をするな』と。
オーマ:「ううっううっっ、俺様除け者かよぅ。ここにしようって言ったのは俺様なんだぞぅぅ」
 泣きながらその髑髏を店に戻したオーマが、今度は女性なら毛皮だ、と――毛を剥いでなめしただけの、つまりはツメやら顔やらがしっかりと残ったヒラキ状態の毛皮を掴んでにこにこ顔で2人の元へ行き――先程よりも冷たい瞳に追い出されて半べそで戻って来た。
 ――辺りの人々の憐れみの視線を浴びても尚、諦めずに仲間に入れてもらおうと必死のオーマ。だが、普段の彼の好みをまだ年若いサモンに押し付けようとしてもそれは無駄な試みでしかなく、また、シェラ1人の女心を理解するのにさえ苦労しているオーマが、一人娘の…それも、長い間離れていた彼女の好きそうな物を偶然にせよ見つけるのは無理に近かった。
 宝飾品に関しては、今シェラと陣取っている場所がそうだし、とちょっぴりいじけながらオーマが、
オーマ:「あ、あの、あのなっ。あ、あれくらいの年頃の女の子の好きそうなモノって何だか分かるか!?」
 くらいも何も、彼女の好みだろうに、という事は周りから見れば一目瞭然のこと。だが、オーマが切羽詰って訪ねたのは、馬の鞍を専門に売っている大柄で無骨そうな男で。
 ぼりぼりと訪ねられて心底困った顔をした男が頬を掻きながら、差し出したのは牛の角と皮で作られた、完全に男向けのごついウエストポーチ。
オーマ:「お、おおっ、これかッ!?」
 喜び勇んで走って行ったオーマがあっさり玉砕するのを、やっぱり、と何人もの目が見て、溜息を付いた。

*****

 そんな穏やか?な時間を過ごし、いくつかの女の子らしいアクセサリーを買ったサモンが、シェラがついでに買った淡いパールピンクの口紅を塗ってみたりして、脇からこっそりその様子を窺っていたオーマを悶絶させる。
オーマ:「だ、駄目だサモン、そんなのを付けて歩いたら、余計な虫がーっっ!!」
シェラ:「やかましいよさっきから!ったく、今からそんなんじゃ嫁に行くどころか、恋人が出来たなんて言った途端悶死しそうだね」
サモン:「…恋人…」
オーマ:「い、いいいいるのか!?サモン、俺様を差し置いて恋人がああっっっ!?!?」
シェラ:「――その前にあたしが墓場に連れ込んでやろうかね。今日は鎌を持ち出さずに済ませようかと思ったけど」
 シェラの噴出した殺気に、かくかくと変な人形のように揺れたオーマが暫く後ろを向き、ふるふるふるふると震えながら必死で何か考えていたが、
オーマ:「――うむ、分かった。大人しくしよう」
 顔面に張り付いたような笑顔で、『サワヤカ』にそう答えたのだった。

 ――なんだろう?
 なんだろう、この――むず痒いような、温かいような、何でも無いのに目元にふっと何かが浮かびそうになる、この感覚は――。

 ソーンに来てから、驚く事ばかり起こる。それは、今日もまた。
 アクセサリーが欲しいと思ったのは、初めてじゃないかと言う驚き。シェラが嬉しそうに小指で塗りつけてくれた口紅が嫌じゃ無かった事も。そして、何故だかオーマがそれを見て取り乱した事も…呆れながらも、愚直に好意を寄せている事が分かるその露な感情に、戸惑いながらも、それが『嫌いではない』と気付いた事への、驚き――。
 鏡で、自分ではないような鏡の中の少女を覗き込みながら、サモンが思う。
 そこにいたのは、身支度を整えるために鏡を覗き込んでいた、無駄を嫌う固い顔の人物ではなく。
 目の色と同じような、柔らかな赤い石のペンダントと、短い髪ながら丁寧にまとめてあの蝶を模った髪留めを付けて、ピンク色の唇をして戸惑ったように微笑む、1人の少女の姿だった。
サモン:「シェラ、オーマ…これ…似合う?」
シェラ:「もちろんだとも。自分で見ても分かるだろ?」
 シェラがにっこり笑ってその髪をそっと撫で、
オーマ:「おうそりゃもちろん似合い過ぎて怖いくらいだぜ…とりあえずこの場にいる男たちに目隠ししたいくらいだな」
 オーマとしても、サモンの問いに大きく頷いて答えながら、サモンに目を付けた奴がいないかとちらちら周囲を見るのに余念が無い。
シェラ:「まあったく。生まれた時からこうなんだからさ…ねえサモン。旦那にするんだったら、ここまで親馬鹿になりそうも無い男を捕まえるんだよ?」
サモン:「―――っ。…ねえ、シェラ――」
 シェラの言葉の何かに反応したらしいサモンが弾かれたように顔を上げ、何かを聞こうとするように口を開いた、その時。
行商人:「さあどうだ。この『とてもとても珍しい金属』から作り出した、世界で1台しかないこのオルゴール!音色を聞いてみるかい?」
 ぞわり、と、オーマとサモンの背が逆立った。一瞬遅れ、シェラも顔を顰めてそれを見る。
 満面の笑みで自慢するように貴重な品を広げていた男が、手の中にあった『奇妙な金属』で出来たオルゴールを見せて回り、きりきりとネジを巻いて蓋を開けようとしている。
オーマ:「――ありゃあ――何てこった!シェラ…サモンを頼む」
 オーマがサモンとシェラを一瞬抱きかかえるようにしてから、その場を飛び出した。
 だが――その時には、既に遅く。

 ぽろん…ぽろん、ぽろん…。

 可愛らしい、それなのにどす黒い気配に満ちた音が、この場に流れ出した。
 ざわめいていた人々が、惹かれたように音の方向を向く。
 そして、オーマが箱の蓋を閉めようと手を伸ばすも、箱から音と共に飛び出した具現が、きしきしと箱を軋ませつつ、あっという間にこの場を包み込んでしまった。

*****

 ぽろん…ぽろろん、ろん…ぽろん…。
 か細い音が、鳴り続けている。
 バザーは見るも無残な有様になっていた。この場にいた人々は例外なく音を聞いてから正気を失い、あらぬ方向へ行ってしまうか、その場にへたり込んで力なく笑い続けるか…ひくひくと痙攣を繰り返す者もいた。
 オルゴールはそんな人々の手に触れる事無く、そしてとうに動かなくなる時間を過ぎても尚、音を鳴らしている。ネジは止まっていると言うのに。
シェラ:「――あれを止めさえすれば、始末は付けられそうだっていうのに、なんだいこれは!邪魔だよっっ!」
 その音色はどこまで届いたのだろうか。
 これもまた、正気を失い、オーマたちヴァンサーへ敵意を剥き出しにしたウォズたちが大挙して押し寄せてきていた。
 それを捌き、辺りに転がっている人々に危害を加えないようにするので手一杯。何よりも、シェラ自身はいくら戦闘能力に秀でているとは言え、ヴァンサーではないのである程度以上の傷は付けられず、封印も出来ず、フォローに回るしかないため、オルゴールに近寄る事は至難の業になっていた。
サモン:「……ぁ……」
 そんな中。
 サモンが、胸を押さえてがくりと膝を付く。
オーマ:「サモン!?どうした!」
シェラ:「サモン、どこか怪我でも――」
 慌てて駆け寄る2人、その2人に、
サモン:「う……あ、ぁ……い、いたい…からだが、あたまが…」
 がくがくと、身体と頭を押さえつつ、声を上げる。その言葉はいつもと同じ、あまり感情を交えないものだったけれど――それでも、悲鳴がそこから聞こえて来た。
 そして――その髪の色が。
 身体の線が、変わって行く。
オーマ:「いけねえ、暴走だ――」
 叫んだオーマがサモンを抱きかかえようとして、
オーマ:「うぶっ!?」
 何か巨大なモノと正面衝突して、顔を押さえてうずくまる。
シェラ:「あんた――銀次郎!?」
 そこにいたのは、身体を折るサモンからはじき出された銀色の龍。それは、主を気遣うように周囲に纏わり着くウォズたちを蹴散らし、吼え声を上げた。
オーマ:「サモン――駄目、だ――」
 顔を上げるオーマに背を向けたまま、銀色の髪を揺らした少年姿のサモンが、一瞬だけ血のように赤い目を2人と1匹に向け、
サモン:「―――――――――――!!!!」
 最早人の声ではない言葉で、吼えた。
 手には巨大な両刃の剣を持ち、小柄な身体が狭くてたまらないとでも言うのか、その肢体は服を弾けさせながら成長を続け、銀の髪は背中まで覆うようにばさりと伸び。
 ――それはまるで、ウォズのように身体を変えながら、その身体に見合うだけの激しい力を店や地面に叩きつけていた。
オーマ:「銀龍――いや、銀次郎だったか。チクショウ誰に付けられたか知らねえが男だったら容赦しねえぞ、じゃなくてだ、ちぃと大変だがウォズを頼む。ご主人様を救うと思って奮起してくれ」
 こっくりと頷いた銀次郎が、言われるまでもなく、先程よりも苛烈にべしべしとウォズたちをしばき始めた。それを見たオーマが、次にシェラの顔を見る。
シェラ:「聞くまでもないさ。――行くよ?」
オーマ:「おう」
 2人は、目を見交わしてこくりと頷くと、どちらからともなくサモンへ――変化したサモンへ飛び掛っていった。武器を携える事ないまま。

 ――いらない。
 ――いらない。
 ――感情なんて、必要無い。
 あれば無駄な行動が増えるだけ。まして、『不良品』の自分には、あっても仕方ないモノ――。
 サモンは、暴走し、姿の変わった自分を後ろから眺めながら、焦点の合っていない目で繰り返し呟いていた。
 人間ではなく、ましてオーマの種ともサモンの種とも違う、この身体。
 生れ落ちた時から、呪われているように、形さえ満足に取れなかったこの身体。

 ――不良品だから。

 いらない、ものだから。
 そう教わってきた。自分の居場所はあの場所だと、常に死と隣り合わせにあるような場にしか、存在価値など無いと教えられ、そう信じてきた。
 なのに。
 なのに、ここは温かい。温かすぎる。ここでは、役に立てる事は少ない――いらないものが、そうじゃないように生きていかなければならないのに。

 ぽろん…ぽろん。

 自分の姿かたちを自由に変化させる事が出来る特性を、ウォズも持ち合わせていると知った時に、ひとつ、こころが折れた。そこからじくじくと流れている血は、澱となって身体の中に溜まっている。
 穏やかな場に身を置き続ける事は、澱を増やし続ける事に他ならない。
 それなのに、あの2人は――愚かにも、自分を好きだと言う。そんな感情、必要ではないと思うのに、抱きしめたい、触れたい、好きだと言いたい、そう言って笑う。
 笑う。
 笑う。
 ――――――いらない。
 ――――――いら、な、い…。

オーマ:「サモン!」
サモン:「!?」
 がしっ、と抱きしめたのは、今はあまり体格に差が無くなった男――オーマ、とか言う。サモンの父親らしいが、今は邪魔をしている。倒さなければならない、ならない、ならない――。
シェラ:「……駄目だよ」
 その後ろから。
 ふわり、といい匂いが届く。――いい匂いなんて、思考から外さなければならない。これはシェラ、サモンの母。サモンが初めて目にした時には、眠ったまま抱きしめも笑いかけもせずに横たわっていた彼女。
 何故邪魔をするのか。理解出来ない。邪魔をするのに、武器すら持たず、どのくらいの攻撃を浴びたか2人とも服がぼろぼろで傷だらけで――。
オーマ:「ストリーキング候補が3人もいやがるぞ。つうか俺様はともかくおまえたちはまずいな。ここで服を買って帰るか。フリフリの可愛いのをな」
シェラ:「あんたの素っ裸を見て驚かないなんてあたしくらいだろうさ。下らない事を言ってないでオーマも買って帰るんだよ」
 それなのに、笑う。
 笑う。
 ――取り戻せると信じていて。
 愚直なまでに、自分を信じていて。

サモン:「…何故、だ」

 ぽろりと取り落としたのは、剣か――それとも、頑なな心か。
オーマ:「それを聞くか?そんなのは当然じゃねえか、大事なモンがここに居るからだよ」
サモン:「大事な――もの」
シェラ:「当たり前だろう!?あんたはあたしが腹を痛めてまで、生まれて欲しいと思った子だよ……帰っておいで。性別も、大きさも関係無い。あんただから、大事なんだよ」
サモン:「でも――僕は」
 前後から抱きしめられたサモンの身体が、少しずつ萎んで行く。
サモン:「わからない――わからないんだ」
 それは、涙の無い泣き声のような。そんな声にオーマがにっこり笑って、
オーマ:「考える必要はねえさ。おまえはとうに分かってる」
 楽々腕が回るようになったサモンを、シェラごと抱きしめる。息が詰まるくらい、強く。
オーマ:「おまえは覚えてないだろうがな。生まれたばっかりの時は…そう。なんつうかな。粘土細工みたいだった。ぐねぐねしてて、柔らかくてよ。どっちが顔か分からねえ格好だったもんな、おまえ」
サモン:「……」
シェラ:「ああ、本当にそうだった。あんたは最初の一言がそれだったからね」
サモン:「……」
オーマ:「けどな――おまえは、そんな姿でも、俺に抱きついて来たんだぜ?」
サモン:「―――――え…?」
 サモンが、オーマの言葉に、信じられないという顔をする。
オーマ:「生きてやれ。自分のためでいい。頬擦りした俺の顔に力いっぱいしがみ付いた時みたいに」
 ――赤い髪は、ふわりと長く。
 見開いた、同じく赤い目が、ゆっくり、ゆっくりと閉じられて。
 半裸に近い少女へと戻ったサモンが、ぎゅう………っ、とオーマに抱きついた。
シェラ:「やれやれ。お株を奪われちまったかね、あたしだってサモンに思い出話をしたかったよ」
オーマ:「なあに、今からだって時間はあるさ。好きなだけ話せばいい。――さて、と…服もそうだが、アレをさっさと回収しねえとな」
シェラ:「ああ、じゃあ任せたよ。あたしたちは急いで目の毒を隠さないといけないからねぇ」
オーマ:「おう。俺様はこの格好でもエルザードに帰って平気だからな――って、痛ぇっ!」
 すかーん、と上半身はヴァレルで覆っているからまだマシなものの、それでも普通の服は穴だらけになり、その上下半身はほとんど半ズボン状態だったオーマの後頭部に、牛の角から作られた腕輪が容赦なく当たる。
シェラ:「馬鹿言ってないでさっさとしておいで!」
オーマ:「ほぉ〜い…」
 しょぼんとしたオーマが、オルゴールをわしっと掴んで、八つ当たりのようにぱちんと力任せに蓋を閉じると、すぐさまそれに封印処理を施した。
 その背後では銀次郎がまだまだ頑張れるとウォズたちをべしばし叩いて追い出している。ウォズも何故ここに来たのか分からないような顔をして、銀次郎にしばかれながらわらわらと逃げ出していた。
 それを見てふっと笑うと、今度は医者の顔になった…でも半裸に近い格好のオーマが、倒れている人々の状態を見に行く。

 ――少しして、起き上がり始めた人々の間からちょっとした悲鳴が上がり、それに構わず急いで服を着込んでいたシェラとサモンが顔を見合わせ、シェラがふぅと溜息を付いた。

*****

オーマ:「お?そういやサモン、髪伸びたな」
シェラ:「そう言えばそうだね――ふぅん、似合うじゃないのさ」
サモン:「……帰ったら…切る…」
 髪留めが似合うくらいの、背中までの髪に触れたサモンが、シェラの言葉に照れたように俯きながら言う。
シェラ:「あら、勿体無い。その姿なら、きっと若い子のハートを直撃するんじゃないのかい?ねえオーマ」
オーマ:「はははハートを直撃ッッ!?だ、駄目だ駄目だ、家に帰ったら切ろう、うんうん、俺様が丁寧に切ってやるぞ、なっなっ!?」
シェラ:「って位だから」
サモン:「…………少し、考える」
オーマ:「のぉぉぉぉぉっっっっ!?」
 白い肌にうっすらと、ほんとうにごく僅かに赤い血の色を散らしたサモンが長い髪を指先で摘んでくるくると指に巻きつけ、そんな様子を見たオーマが、荷物を手に抱えつつ悶絶した。
 ――サモンは、そんな両親を見て、無意識に、そしてとても幸せそうに微笑んでいた。


-END-