<PCクエストノベル(1人)>
過現 〜コーサ・コーサの遺跡〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / 職業】
【1256 / カイル・ヴィンドヘイム / 魔法剣士 兼 治癒術士】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
店主 / 花屋
ギル・ティニー / 恩師
ジーク/ ワーウルフ
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森に囲まれた遺跡――コーサ・コーサと呼ばれるその遺跡入り口に佇む青年が居た。手には白を基調とした清楚なイメージを思わせる花束を持って。
青年は蔦絡みの瓦礫と化した修道院を見つめるだけで、中々足を進めようとはしない。同じ馬車に乗っていた他の冒険者達は既に遺跡の中だというのに。
彼が何故足を止めるのかは分からない。が、抱える花束をふと見た青紫の瞳が"遠い記憶を見つめる"そんな眼をした。
青年はもう一度遺跡を見る。
意を決したのか遺跡に向かってようやく歩き始めた。
―――銀髪の青年の名は、カイル・ヴィンドヘイム。
******
過去を思い出すきっかけというのはいつも些細な事。
聖都エルザートを歩いていた時、馬車で移動しながら売る車上販売の花屋に会った。色とりどりの綺麗な花に惹かれ、カイルは立ち止まる。エルザートではもちろん近隣の村でも見かけない花がいくつも売られているようだ。様々な種類の花のなかでも一際目立つ花にカイルは店主に声をかけた。
カイル:「とても綺麗な鬼百合ですね。本当、大きいなあ。この鬼百合の茎から滋養強壮や鎮静に効く生薬が作れるんですよね」
店主:「お、兄ちゃん詳しいね。薬師かい?じゃあこれからはどんな生薬が作れるかな」
カイルをからかうように悪戯な瞳をした店主が、紅色の大きな花をつけた鉢植えを指した。カイルは指された花を見て笑う。
カイル:「おじさん、僕を試しているのですか?この花は牡丹でしょう。解熱や鎮痛を目的とした漢方薬になるんですよ。生薬として使うのは根の皮部分。根だから太くしなければいけない。だから花は蕾の内に摘み取って苗から四〜五年した頃に株分けして採取するんです。でも、この牡丹からは生薬は作れません。本来牡丹の根というのは横に広がるから鉢植えには適さないんですよね。こうして園芸用に販売されているのは芍薬の根に牡丹を接木しているのでしょう?」
店主:「いやあ、参った!大当たりだよ。実は俺もこうして花を売る傍ら、薬師もやっていてね。ソーン中の花を集めては薬を作ったり、栽培したりしているんだよ。ところで、兄ちゃんも花から生薬を作るのかい?」
カイル:「いえ、生薬作りの知識は趣味で勉強したもので実際には作りません。僕は魔法と薬草を使った治療を行っているんですよ」
店主:「へえ、魔法使いかい。でもその知識を持ちながらもったいないねえ。今からでも遅くない、生薬を作る薬師になったらどうだ?」
店主の豪快な笑顔に吊られてこちらもつい笑みがこぼれてしまう。話を軽く笑い流しながら他の花を見回していたカイルは、向日葵の後ろに隠れていた花に眼がとまり、体が固まった。
(あの白い花は・・・)
店主:「珍しいだろう、白いトルコ桔梗だ。これはコーサ・コーサの遺跡にしか咲いていなくてね。今年になってようやく、栽培に成功したんだよ」
ごく普通の何気ない店主の言葉に、カイルの遠い過去の記憶が刺激される。
(・・・トルコ桔梗、・・・コーサ・コーサ。・・・・・・恩師・・・)
『――違う、違うカイル。ちょっと早い。このタイミングだよ。分かった?さあ、もう一度――』
『――今度は遅い。もう一度やってごらん。・・・そう、そう!今のタイミングだ!――』
『――ほらっほら、カイル!忘れない内に何度も練習して!――』
『――よし、それはもうマスターしたね!じゃあ一休みにしよっか。今日のハーブはセージティーでどうかな――』
『――魔法で回復するのもいいけれど、こうして大地の力をたくさん吸った花のハーブを飲むことは、体にも心にもとっても良いんだよ――』
恩師、ギル・ティニーは一流治癒術士でありながら、生薬を作る人だった。自然の力はどんな魔法にも劣らない、と言うのが口癖で。
色んな薬草の生薬作りを手伝い、一度誤った方法で生薬を服用し死に掛けた事がある。その生薬は水仙だったろうか、口に含んでしまった生薬は嘔吐、けいれん、麻痺を起こし、師に魔法で中毒症状を治して貰った。
懐かしい遠い昔の記憶。
失敗は成功のもとだ、と寛大に笑っていた師。いつも子供じみた遊びをし常に笑っていた師。
その師はこの世にはもう、いない。
自分に向ける笑顔を思い出す度にカイルの心は悲しみに締め付けられた。
店主:「どうした?兄ちゃん、具合でも・・・」
カイル:「――おじさん、このトルコ桔梗を中心に白い花束を作って貰えませんか?・・・供花用に」
******
カツン、カツン、カツン・・・とカイルの靴音が冷たい石に反響して響く。
師の墓石は遺跡入り口からみて北北西に位置する小さな墓地の中にある。墓地の周りは幸いにも壊れておらず、隙間から太陽の光が降り注いでいた。
均等に並べられた墓石の中央にゆっくりと足を進める。年月が経っているため、所々欠け始めた古い墓石にギル・ティニーの名が刻まれていた。カイル以外にも誰か訪れる人がいるのだろうか、きちんと綺麗にされている。
カイルはその場に片膝を付き花を供え、胸の前で両手を組みながら祈った。
師は人間でありながら、ライカンスロープという種族の人間では無い僕に薬師の技を教え込んでくれた人。
何一つもっていなかった僕に師は技以外の生きる知恵も教えれくれ、かけがえのない大切な人だった。
たとえ、一流の治癒術士であっても寿命には敵わない。
(ギル先生・・・お元気ですか)
今にでもお墓から当たり前じゃないかという笑い声が聞こえてくる気がした。
***
カイルは恩師とのひと時の対面を終え、遺跡中央の庭で薬草を洗っていた。
カイル:「冷たくて綺麗な水だから幸せだし、この水で薬草を洗うのだからお金にもなる・・・かもね」
こんこんと沸き出でる水は触れる事で富と幸福をもたらすと言われている。悪しき心で近づけば大変なことになるとも言われているが、カイルは全く信じていなかった。
???:「カイル・・・か?久しいな」
懐かしい気配と懐かしい声にはっと後ろを振り向くと、カイルにとってもう一人の恩師、ジークが立っていた。
カイル:「ジーク様っ!」
薬草もそこそこにジークの元へ駆け寄る。
彼はコーサの護神であり『コーサの落とし子』と呼ばれているワーウルフ。智に長け、武を誇るジークには戦い方を教わった。
カイル:「お久しぶりです、ジーク様。お元気そうで何よりです」
ジーク:「ギルの所には行って来たようだな」
カイル:「じゃあ、ジーク様が・・・」
ジークはその問いには優しく目を細めただけで答えず、カイルが洗っていた薬草を集めた。
ジーク:「これは、治癒力を高める薬草・・・だな。ここにある薬草も持っていくが良い」
いつまで経っても変わらない剣の師。そしていつまで経っても、此処に一人。カイルはついにいつも疑問に思っていた事を口に乗せた。
カイル:「・・・ジーク様は、いつまでこの水と共にありつづけるのでしょう?」
ジーク:「さあ・・・分からぬな」
カイルは剣の師であるジークを案じていたのだ。カイルだっていつか寿命がつき、ギルのように墓石の人になる日が来るだろう。
だが、護神であるジークは?いつまでここに独りでいれば?
富と幸福をもたらすと言われるこの水など枯れてしまえば良いと時々カイルは思う事がある。この水が無くなればジークはコーサを護る事なく、自由に生きられるのに。
カイルの考えている事が顔に出ていたのだろうか、ジークは優しく笑いカイルの頭を撫で回した。
ジーク:「そんな思いつめた顔をするな。いつでもギルと共にお前の事を見守っている
カイル:「ジーク様・・・ありがとうございます」
カイルは胸が締め付けられる想いで、深々とジークに頭を下げた。
ジーク:「さあ、おまえがどんな風に成長したか教えてくれ」
多くの冒険者と会話をするのが最近の楽しみなんだ―――とジークは笑った。
日が落ち満天の星が煌くコーサ・コーサの遺跡に昔話に花を咲かせた楽しげな声が響く。
上弦の月と無数の星と空のギル・ティニーだけがその声を聞いていた。
了
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□ライター通信
カイル・ヴィンドヘイム様
大変おそくなり、誠に申し訳ございませんでした。
精一杯書かせて頂きましたが、如何だったでしょうか。
納期が遅れてしまったこと、改めて深くお詫び申し上げます。
今回のクエストノベル、カイル様の望む過去とは別の物になってしまったのではなかろうかと不安で一杯です。
『過去を匂わせる切ない物語』とは遠くなってしまった気が致しますので。
それでも、楽しんでいただけたら幸いです。
ご発注頂き、ありがとうございました。
渡瀬和章
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