<PCクエストノベル(1人)>


救出〜封印の塔〜

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【冒険者一覧】

【整理番号 / 名前 / クラス】
【2829/ノエミ・ファレール/異界職】

【助力探求者】
【キャビィ・エグゼイン/盗賊】

【その他登場人物】
【ケルノイエス・エーヴォ】
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封印の塔。そこは呪われたアイテムを封印することのできる場所として、そして不老の美青年が塔守として住んでいることでよく知られている。危険なアイテムの封印をしに、あるいは閉ざされた外界に興味津々の塔守と話をしに、立ち寄る冒険者は後を絶たない。
 が、今はこの塔に非常事態が起こっていた。塔守、ケルノことケルノイエス・エーヴォが邪念物の封印に失敗し、生み出されたリッチによって逆に結界に閉じ込められてしまったというのだ。
 たまたまその場にいて、命からがら逃げ帰った冒険者の話によると、塔の入り口がリッチの強力な結界によって閉ざされてしまい、入れない状態なのだという。
 その話を聖都で聞いたノエミ・ファレールは、さっそくケルノを救出すべく封印の塔にやってきたのだが、果たして話に聞いていた通り、塔の入り口は強力な結界に塞がれていた。
ノエミ:「確かにこれじゃあ、入れそうもないですね」
 重厚な白銀の鎧に身を包んだノエミは、塔を見上げて呟いた。その隣で、対照的に軽装のキャビィ・エグゼインがひらひらと手を振った。
キャビィ:「だからあたしを呼んだんでしょ?」
 彼女は盗賊なのだ。正規ルートで進入できないなら、専門家に裏ルートを探してもらおうと、ノエミが協力を依頼したというわけだ。
ノエミ:「ええ、お願いします」
キャビィ:「入り口はもう見つけてあるよ。でも今回は中までは入ってない。リッチに見つかるとヤバいからね。あと、モンスター出た時にはよろしく」
 キャビィは軽く肩をすくめた。
ノエミ:「ええ、もちろんです。参りましょう。ケルノ様、ご無事だといいんですけど……」

 キャビィに案内された先は、塔の裏側だった。金やすりのようなものを取り出し、キャビィは石の継ぎ目に当てる。と、その先は抵抗なく奥へと沈んでいった。ぐるりと周囲にやすりを入れて、浮いた石をそっと抜く。その作業を3回ほど繰り返せば、人ひとりかがんで通れるくらいの穴がぽっかりと空いた。
キャビィ:「さ、行くよ」
 キャビィに促され、何かが潜んでいた時のために、ノエミが先に入った。カンテラを差し入れ、狭い穴をくぐる。鎧の肩当てが壁にこすれたり、大きな盾がつっかえたり、と苦心しながらもようやく内部進入に成功した。ノエミの予想通り、リッチの結界が張られていたのは正規ルートのみだったらしい。
ノエミ:「塔にこんなところがあったんですね。それにしても……、何かのからくりみたい……」
 カンテラを掲げ、ノエミは思わず溜息をついた。
 階段の裏側にあたるこの巨大な空洞には、ノエミの言葉通り、巨大な歯車やらベルトやらが積み上がっていた。カンテラの光にうすぼんやりと浮かび上がるそれらが、ゆっくりときしみながら動く様は、まさに壮観だった。
キャビィ;「呪われたアイテムを封印できる塔だもん、封印を強化するためのからくりとかあるのかもね。どっちにしろ、ここを登って行くしかなさそうだよ」
 難なく穴を通り抜けたキャビィがノエミの横に立って、同じように塔内部を見上げた。
キャビィ:「この造り、普通に登ることは想定してなさそうだけど……、大丈夫?」
 重厚な鎧に身を包んだノエミを、ちらりと見遣る。
ノエミ:「……頑張ります」
 ノエミはそう答えるしかなかった。

 果たして、鎧を着込んだまま、回転する歯車やら逆走するベルトやらをよじ上るのは骨だった。何せ、頑張ってよじ上っても、すぐに元の位置に戻ってしまうのだ。
キャビィ:「そことそこに足をかけて、とんとんとーん、と跳んで。思い切りだよ、思い切り」
 そんなキャビィのアドバイスを受けて、どうにか登って行く。
 一方のキャビィはさすがの身のこなしを見せた。ノエミが苦戦している間に、下の方に行き倒れの冒険者を見つけては、めぼしい所持品がないかを確認しに降り、機嫌良く戦利品を手にしてはまた登って、を何度か繰り返していた。
 そうこうしてようやく一番上までたどり着いたのだが。
ノエミ:「行き止まり……?」
 ノエミは呆然と呟いた。2人の前には壁が立ちふさがっていたのだ。
キャビィ:「いや、落とし戸だね、これ。向こう側からしか開かないようになってるかもしれないけど」
 キャビィがその壁をこんこんと叩く。
 この扉の向こう側が正規ルートに繋がっているのだろう。ここの空間が塔全体のからくりの機動部だとしたら、向こう側からしか開かないようになっているのも頷ける。
 けれどここまで来て諦めるわけにもいかない。ノエミはカンテラを掲げながら壁を見上げた。その上部に、壁をつり上げるためと思しき鎖がついているのが目に入る。
 ノエミはさらに、カンテラの明かりを頼りに、その鎖を辿った。それは、途中滑車にかまされたり、歯車に繋がったりして、最後に壁際にあるレバーに行き着いていた。
 問題は、それがノエミたちのいるところからかなり離れていることだった。当然、そこまでの足場はなく、さっき苦労して登って来た奈落の闇がぽっかりと口を開けている。おそらく、それも正規ルートの方に小さな隠し扉があったりして、そこから操作できるようにと設置されているのだろう。
ノエミ:「キャビィ様、あれ……」
 ノエミが指差すと、キャビィも気付いたのだろう。軽く眉を寄せた。
キャビィ:「遠いね。でもここがあたしの腕の見せ所ってやつ?」
 キャビィは荷物の中からロープを取り出すと、先におもりよろしくダガーをくくりつけた。それを頭の上で数度回したかと思うと、レバーめがけて投げる。まるで意志を持つかのように、まっすぐ目標に向かって飛んでいったロープの先は、見事レバーにまきついた。
キャビィ:「じゃあ引っ張るよ、せーのっ」
 その言葉で2人一緒にロープを引く。思いのほか軽くそれは倒れ、重たい音をたてて扉が持ち上がった。

 予想通り、扉の向こうは入り口から入って来た時の正規ルートに繋がっていた。どうやらここにはリッチの結界は張られていなかったらしい。けれど、油断は禁物だ。ノエミとキャビィは周囲に注意を張り巡らせながら、一歩一歩螺旋階段を昇って行った。
 そうしてたどり着いた、小さな階。リッチの仕業だろうか、不吉な薄やみに覆われた部屋に、明かり取りと思しき窓から幾筋かの光が漏れ入ってきている。
ノエミ:「この階の上が最上階のはずですが……」
ノエミは呟きながら周囲を見回した。そして、床に描かれた魔法陣を見つける。おそらく転移装置となっているであろうそれは、光を失い、働かなくなっていた。
 何か起動装置があるはずだと、さらにノエミは周囲を探す。その目が、薄やみに沈む天井の水晶をとらえた。
ノエミ:「あれに光を当てれば……」
キャビィ:「カンテラじゃダメみたい」
 さっそく水晶の真下に立ち、カンテラを掲げたキャビィが首を傾げる。ノエミは、じっと水晶と、外から漏れ入る陽光とを見比べた。
ノエミ:「あの外の光……」
 あれを水晶に当てることができたら、作動させられるのではないか。しばらく考え込んだノエミは、自らの盾に光を当てた。思った通り、磨き抜かれた白銀の盾は、きれいに陽光を跳ね返す。
ノエミ:「これで……」
 ノエミは立ち位置と盾の角度を調整し、陽光を水晶へと導いた。光を受けた水晶は途端に輝き、魔法陣を照らし出す。魔法陣から光の壁が立ち上がった。
キャビィ:「やったね。さすが」
ノエミ:「行きましょう」
 間違いなく、この上にはリッチがいる。ノエミは顔を引き締め、キャビィを守れるように気を張りつめながら、魔法陣へと足を踏み入れた。

 軽いめまいのような感覚に襲われ、目の前の景色が変わる。が、それにひたる間もなく邪悪な気配がノエミの神経を研ぎすませた。
ノエミ:「リッチ……!」
 ノエミはすばやくキャビィを背後にかばう。そこには大魔法使いのなれの果て、ぼろぼろの黒いローブに身を包んだ骸骨が佇んでいた。その後ろ、黒い結界に閉ざされたケルノの姿も見える。
 と、リッチが骨だけの手を振り上げた。もはや緩くなりきった指輪の石が妖しく光る。
 ノエミはとっさに、キャビィをかばったまま盾を構えた。あたかもそれを待っていたかのように、白銀の盾シュヴーアを雷撃が襲う。
ノエミ:「くっ……」
 ノエミ自身、高い魔力を秘めているし、盾も鉄壁の防御力を誇る。とはいえ、リッチの強烈な魔法の衝撃までは殺しきれず、ノエミの腕にびりびりとしびれが走った。
 それでも雷撃の魔法をしのぎきると、ノエミは一気に間合いを詰めた。次の魔法の詠唱に入ったリッチに、用意してきた聖水を見舞う。
リッチ:「ギィィィ……」
 命の規律を外れた存在は、聖水にその身を焼かれ、白い煙を幾筋も上げた。
 すかさず、ノエミは剣を振るう。リッチの頭をとらえた、と思った瞬間、刃はその手前で止まっていた。リッチがバリアを張ったのだ。
 それでも構わず、ノエミは剣を振るい続けた。リッチに高度の攻撃魔法を使わせるわけにはいかない。聖水で弱体化させたとはいえ、リッチの魔法は侮れない。有効範囲の広い魔法を使われれば、ノエミはともかく、キャビィが餌食になってしまう。
 ノエミは、リッチに詠唱のための注意集中を許すまいと、バリアに弾かれながらも何度も剣を振るう。あとは、キャビィがノエミの意図を正しく汲み取ってくれることを祈るだけだ。
キャビィ:「ノエミ!」
 キャビィの声に、ノエミはすっと首をそらした。そのすぐ脇を銀色の光が走って行く。すかさずノエミは盾を構えた。
 キャビィが投げた短剣が、リッチのバリアに突き当たる。と思いきや、バリアが不意にかき消えた。
ノエミ:「ミラースマッシュ!」
 叫んだ技名が気合いに変わる。わずかの隙を逃さず、ノエミは盾をまっすぐ構えてリッチに向かって突っ込んだ。
リッチ:「ギギャッ」
 突進力を乗せ、反射魔術をかけた盾の一撃に、たまらずリッチは吹き飛んだ。壁に激しく激突した骸骨は、ばらばらとその形を失って崩れ落ちる。
リッチ:「ギ……ギ……」
 それでもしぶとく再生しようとうごめくリッチだったが、既に結界を維持する力は残っていなかった。
ケルノ:「はい、おやすみの時間だね」
 解放されたケルノが、やすやすとリッチを封印する。
キャビィ:「これにて一件落着、だね」
 キャビィが先ほどリッチのバリアを破った短剣を拾い上げた。この塔内で行き倒れになっていた冒険者が持っていた、対魔効果の施されたなかなかの業ものだ。
ノエミ:「ケルノ様、ご無事で何よりです」
ケルノ:「ありがとう。おかげで助かったよ。いやぁ、それにしても貴重な体験しちゃったなぁ。結構長生きしてるけど、結界の中に閉じ込められるなんて初めてだよ。封印されるアイテムの気持ちがちょっとわかったちゃった」
 ノエミが安堵の表情を向けると、美貌の塔守は能天気に笑った。
ノエミ:「はあ……」
 思わず返す言葉に困った分、別れの言葉を口にするのが遅れたノエミ。
ケルノ:「それよりさ、せっかく来てくれたんだから、外の話してよ。君の故郷の話とかなんでもいいからさ。ね、ね?」
ノエミ:「外の話……ですか?」
 ケルノに無邪気なおねだりは、リッチの結界よりも強力だった。結局断り切れなかったノエミは、結局延々と今までの冒険の話を――とはいってもさすがに真の素性までは話さなかったが――させられることになった。
キャビィ:「ミイラとりがミイラってね」
 傍らで、キャビィが軽く肩をすくめた。

<了>