<PCクエストノベル(5人)>
星月夜の内緒話
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 1962 / ティアリス・ガイラスト / 王女兼剣士
【 1125 / リース・エルーシア / 言霊師
【 1925 / ユーリ・フォレスト / 植物学者
【 1948 / カルン・タラーニ / 旅人】
【 1996 / ヴェルダ / 記録者】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
なし
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夏の終わり、クレモナーラ村の森へとキャンプに出かけようと集まったのは、ティアリス・ガイラスト、リース・エルーシア、ユーリ・フォレスト、カルン・タラーニ、ヴェルダの5人だった。
女3人集まればかしましいというが、軽くその倍近くの5人も居れば賑やか以外のなにものでもない。
まるで学校行事のお泊り会のようだ。
木漏れ日が梢の間から差し込み山道に影と光の模様を描く。まるで水面のようなその模様はどこか涼しげな雰囲気を感じさせる。
しばらく森の中を進み、美しい川の流れる畔を今日の宿泊地と定める。
両脇に木々の生い茂る道を抜け視界が開けた。
草地広がった先には清流が流れている。
やや上流になるのか割合大きな石が川の中、そこかしこに転がっている。
流れる水音、少し先にある急流で小さな滝が出来ており、微かな水しぶきが清涼感を醸し出していた。
川のせせらぎに耳を傾けているユーリの耳にばしゃばしゃと水を跳ね上げる音が聞こえた。
リース:「えいっ」
カルン:「きゃっ! 冷たいー」
箸が転がってもおかしい年頃なだけあって、小川を見るなり水の掛け合いを始めた2人の首根っこを悪戯をした子猫のように掴みあげる2本の腕。
ヴェルダ:「ほら、お嬢ちゃんたち。元気なのはいいけどいい加減にしておいた方がいいよ」
リース、カルン:「「はーい」」
ティアリス:「そうよ、気持ちいいけれど風邪を引いたら大変よ」
額の汗を拭きながらそう言ったティアリスは大きなテントに悪戦苦闘している。
よく見れば、ヴェルダも同様だった。
リースとカルンは自分達がはしゃいでいる間に何も言わず苦労して今晩の寝床を作ってくれようとしている2人の姿を即座に理解した。
ヴェルダ:「そんなにしょぼくれなくても、料理の方で手伝えばいいよ。私はそっちはからっきしだから手を出さない方がいいだろうしね」
ユーリ:「夕飯に使うハーブの類を探しに行こうと思うのですけれど手伝っていただけますか?」
助け舟を出すようにユーリがそう言うと、
リース:「うん」
カルン:「私も行きます」
とリースとカルンの2人は慌ててユーリの後を追っていった。
そんな3人を見送りながら、ヴェルダが腕まくりする。
ヴェルダ:「さて、3人が戻ってくる前にコイツを片付けないとね」
ティアリス:「そうね。テントだけじゃなくて火をおこしたりイロイロやる事は山のようにあるもの」
そう言うと、2人は大きなテントに再び挑む事にした。
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一方その頃、最初こそユーリを先頭に後を追っていたカルンとリースであったが、いつの間にか二人がいろいろな種類の草花を取って戻ってきたものをユーリが鑑定するという図式がいつの間にか成立していた。
リース:「ユーリさんこれは?」
ユーリ:「それは、食べられないわね」
リース:「そっかぁ。じゃ、次ぎ探して来るね」
そう言ってリースは再び掛けて行った。
もうユーリの足元にある籠には何種類もの料理に良く使うハーブと少しの薬草が入っている。
道に迷わないようにずっと川沿いを歩いてきた為、すぐ側には先ほどの川がある。
大きな岩に腰掛けていたユーリはしばらくカルンが戻ってきていない事に気づいた。
再び戻って来たリースに、
ユーリ:「カルンさんの事見かけました? しばらく戻ってきてないの……」
心配そうなユーリに、
リース:「あたし、探してくる!」
と飛び出す。
ユーリ:「私も行きます」
ユーリは足元においてあった籠を抱えて後を追った。
実はカルンは独自の方位磁石の持ち主……一言で言うならとんでもない方向音痴なのである。2人が心配になっても無理はない、前科持ちなのだ。
どれくらい探しただろうか、膝を抱えて座るようにして木の根元に生えている葉っぱをぶちっぶちっと千切っているカルンを発見した。
カルンは全く、2人の姿に気付いていないのか、ひとつ大きく溜息を落とした。
リース:「居たー! ユーリさんこっち、こっち!」
大きな声に振り向くとリースがカルンを見つけてユーリを大きな声で呼んでいる。
血相を変えている2人の姿に、カルンはきょとんとした顔をしている。
カルン:「どうしたの、2人とも?」
その顔を見た2人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべていた。
リース:「うぅん、そろそろ戻ろうかと思って探してたの。ねっ」
リースはすばやくユーリに目で合図を送り、ユーリは同意するように頷いた。
カルンの後姿を見たリースは何となくカルンの溜息に気づかないふりをしたほうがいい気がしたのだ。
カルン:「そうだね。そろそろ料理始めないと食べる頃には真っ暗になっちゃうもんね!」
行こうとカルンは右手でリースの腕を左手でユーリの腕を取ってティアリスとヴェルダの元へと急いだ。
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カルン:「ただいまー」
先頭を切って元気に帰ってきたカルンは次の瞬間驚いて目を見開いた。急に立ち止まったカルンの背中にぶつかってリースが驚いた声をあげた。
リース:「どうしたの?」
ひょいとカルンの背中からリースは覗き込んだ。
すると、テントの他に、すでに釜場に火もついている。
ティアリス:「おかえりなさい」
そう言ったティアリスは長い髪を後ろでまとめてすでに料理の準備に取り掛かっている。
一体どうやって運んできたのか、ティアリスの前に大きくて平らな石がまるでテーブルのように置かれている。
そして、その周囲を囲むように中くらいの椅子が5個。
カルン:「もしかして、それってテーブルとイス?」
凄い!と、叫んでカルンが駆け寄った。
ヴェルダはそれを見ながら小さく含み笑いをする。
ティアリス:「さぁ、日もだんだん短くなってきたんだから早くお料理始めないと真っ暗になっちゃうわね」
ヴェルダ:「私に調理を手伝わそうなんて恐ろしい事考えちゃいないよだろう?」
壊滅的な料理の腕をあらわすように、ヴェルダは肩を竦めて両手を挙げている。
ティアリスがナイフを片手にゆっくりと全員を見回した。
カルン:「あ、私、火が消えないように薪になる枝でも拾ってこようかなぁ」
カルンは1歩後ろに後ずさった。
ヴェルダ:「私も一緒に行ってくるかな。迷子になられても困るしねぇ」
と、ヴェルダは多分に意を含んだ笑みを口元に浮かべる。
ユーリ:「私は料理の方をお手伝いします」
ティアリス:「助かるわ」
と、ティアリスは微笑んだ。。
ティアリスは野宿の経験もあるため野外料理もお手のものらしく、荷物のなかから肉や野菜類を取り出し手際のいい様子で調理をしている。
ユーリ:「ティアリスさんって料理も得意なんですね」
少し羨望の混じった視線で見られて、ティアリスは少し頬を染めた。
ティアリス:「ちょっと慣れているだけよ。ユーリさんとそんなに変わらないわよ」
ユーリ:「そんなことないです。元々あまり得意じゃなんですけど、最近ようやく作ってあげれるようになりましたけど」
ティアリス:「作ってあげられる、ね……ふふふ。手料理を振舞ってもらえる幸せな人の話は後でゆっくり聞かせてね」
鶏肉に刻んだハーブと塩で下味をつけていた手を少し止めたユーリが今度は頬を染める番だった。
2人がそんな話しをしている間に、迷子にならないようにヴェルダと一緒に薪を拾いに行っていたカルンは拾ってきた薪をぐつぐつと湯気と美味しそうな匂いを辺りに振りまいている鍋の側に置くとこっそりとスプーンで掬う。
カルン:「美味しそう」
ふーふーと息を吹きかけてスープを冷ましている所をばっちりユーリに見つかった。
ユーリ:「ダメですよ、つまみ食いは」
カルン:「つまみ食いじゃなくって“味見”だから」
そう言ったカルンはユーリの手に緑がかった液体があることに気づいた。
カルンの視線を察知したユーリは、
ユーリ:「薬草です。ちょっと苦いけど栄養たっぷりですよ」
と笑顔で答えた。
カルン:「えっ! に、苦いのはちょっと……って、あぁ!」
カルンが止めるまもなくユーリは薬草をすりつぶした物を鍋の中に入れてしまった。
カルンが冷や汗を流している所で、
ティアリス:「出来たわよ」
という声が飛んで来た。
カルンが振り向くとリースはティアリスから受け取った料理を運び、ヴェルダは持参したらしい酒瓶を両手に持っていた。
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どうやら思っていたより全員お腹がすいていたらしく、スープとサラダ、チキンの香草焼きにパンはあっという間になくなった。もちろん食事といっしょにヴェルダが持って来たお酒もほとんどなくなっていた。
ユーリや、無礼講だと言ってカルンとリースも飲んだのだが……まぁ、お酒のほとんどはヴェルダとティアリスのお腹に入って行ったようだ。
歓談中に、ティアリスが思い出したように、
ティアリス:「そう言えば、さっきユーリさんに惚気られちゃったのよね」
と言い始めたのがきっかけだった。
リース:「え、どんなどんな?」
無邪気な様子で身を乗り出すリース。
ティアリス:「最近良く手料理を彼氏に振舞っているって」
ユーリ:「ティアリスさんっ」
ティアリスの中で翻訳された台詞。それを聞いたユーリの顔が真っ赤になのは何もヴェルダが持参した果実酒の為だけではない。
リース:「いいなぁ、ラブラブなんだねっ」
ユーリ:「リースさんまで!」
ティアリス:「彼との馴れ初めを聞きたいわ」
うんうんとリースは頷く。
片思い中のリースとしてはみんなの馴れ初めや経験を聞いて少しでも参考にしようと期待に満ちた目でユーリを見つめた。
紅潮した頬に手を当てていたユーリだが、ティアリスにそう促され、アルコールの勢いもあるのかやがて徐々に自分の恋愛を語りだした。
ユーリ:「彼と元々ライバルだったんです。でもこういう関係になって―――関係が変化するのが最初はとても恐かったんですけど、変わったけれど変わっていないんですよ」
ティアリス:「素敵ね。お互いに支えあって、それでも互いに自己を高めあう関係で居れるなんて」
そう言われて ユーリは少し目を伏せて微笑んだ。
そんなじっと話しを聞いていたカルンが小さく溜息をついたのをヴェルダが目ざとく見つけた。
ヴェルダ:「どうした?」
カルン:「んー……」
口ごもるカルン。
ティアリス:「なにか思い出しちゃったの?」
カルン:「近くにいるとなんだかモヤモヤしちゃって落ち着かなくて、離れると落ち着くんだけど何だかここがスースーしちゃうのって何でかなって」
ティアリスはそれを聞いて小さく笑った。
ティアリス:「それはね“淋しい”って言うのよ」
その言葉にカルンは納得したようだ。
リース:「ティアリスさんも、今は淋しい?」
そう問いかけられて、ティアリスは恋人のことを思い出して小さく頷いた。
ティアリス:「もちろん」
ヴェルダ:「でも、淋しかったりするから、ただいまって帰った時に“おかえり”って言ってもらえるのが嬉しいんだよ」
そう言ってヴェルダが残っていたお酒を一息で飲み干した。そして、
ヴェルダ:「あぁ、そういえば」
と言うと彼女は荷物を固めてあるテントの中に入って言ったかと思うと何か紙袋のような物を持って来た。
リース:「何?」
覗きこむリースに、ヴェルダは口の端を少し持ち上げるようにして、にやりと笑う。
ヴェルダ:「花火だよ」
ぱぁっと、リースとカルンの目が一瞬にして輝いた。
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森の中に、彼女達の歓声が響いた。
七色の火花にを振り回すカルンとリースをティアリスが嗜める。
ヴェルダはそんな3人を少し離れて眺めている。
燃え尽きた花火の消化のために川に水を汲みに行ったユーリがあることに気づいて彼女には珍しく少し大きな声で皆を呼んだ。
ユーリ:「見て下さい」
ユーリが指した空を見上げると、ぽっかりと浮かんだ丸い月と空一面に広がる星。
それぞれが、胸に何かを秘めてしばらくその星空を見つめ続けていた。
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