<PCクエストノベル(1人)>


その剣をわが手に 〜封魔剣ヴァングラム〜

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【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【助力探求者】
なし

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 封魔剣ヴァングラム。
 知る人ぞ知る強力な魔剣の名であり、手にした者には大いなる力を約束する代わり、所有者の精神力が弱ければ逆に魔物化してしまい、結果的に次の『所有者』により倒されてしまう事もあると言われる、諸刃の剣である。
 それでも、内包されていると噂される魔物の力を求めて、剣を探すものは決して少なくない。それが、自分にとって耐え切れる重圧なのか、考えもせずに。

 ――そして。
 最近、それとはほんの少し――いや、まるで違う魔剣の存在が、何故か急に巷で噂されるようになって来た。
 その名は、魔剣『ばんぐらむ』。
 パチもんか、という突っ込みも多々ありながらもその名がじわじわ浸透して来たのは、ひとえに剣の持つ力の凄さ派手さにあると言ってもいい。
 何しろ、剣を持てばそれだけで力を与えてもらえると言う噂が、実際に剣を持っていると言うマッチョな男が、ひと月前まではガリガリだったと言う検証がなされているのだから。
 ただし。その男が言うには、自分が持っている剣こそが『魔剣ヴァングラム』なのだと言い張って止まないらしい。
オーマ:「なぁに馬鹿な事言ってやがる。ヴァングラムは別の奴が持ってるに決まってるだろ」
 そんな噂がオーマ・シュヴァルツの元へ流れて着た時、オーマは最初歯牙にもかけなかった。だが、その話のどこかに引っかかるモノでも覚えたのか、次第に話をする者に惹き込まれていき、
オーマ:「それじゃ俺様が本当かどうか調べて来てやろうじゃねえか」
 誰も頼んでいないのにそう一言言うと、勝利を確信したようにわははは、と笑い声を上げた。

*****

 次の日。
オーマ:「おうオッサン。変な剣の噂聞いたんだが」
親父:「あんたもかよ。ったく、今朝からうるせえのなんのって。見てくれよこの剣」
 剣の事ならまず武器屋、と訪ねたオーマに、店の親父が渋い顔をして奥を指差した。
 そこに積み上げられたのは、近寄らずとも禍々しい気を放っているのが分かる剣。そしてその見た目は何故かよじれていたり直角に曲がっていたり螺旋状に渦を巻いていたりして、ひとつとしてまともな形状の剣は無い。
オーマ:「…なんだこりゃ?」
親父:「なんだ。おめえもこの事を知って来たのかと思ったぜ。今朝からな、俺ンとこの商品が全部こんな風に使い物にならなくなったって返品騒ぎさ。しかもだ。あれを握ると変な声がするんだとかで打ち直しも断わられちまってな」
オーマ:「変な声だと?」
親父:「おう。なんつーたか…剣の持ち主の事を主とか言い出してよ。力が欲しくないかとかどーとか…でもって、持ち主を主人とか言う割には自分に忠誠を誓えば好きなように力を震わせてやるとかなんとか?断わった途端ああなったと言ってな。変な力を付与したのは俺じゃねえってのに」
 むすっとした男が、奥の鍛冶場に火も入れず店の前で腕を組んでいる。
オーマ:「そりゃ、ご愁傷様だったな。他には何か聞いてねえか?」
親父:「――言う事を聞いてのさばり歩いてる奴もいるって話だ。後はな、言う事を聞くも何も突然暴れ出して手が付けられなくなってるのもいるそうだ」
オーマ:「………」
 ふぅぅむ?
 オーマの親父の真似をして腕を組み、ぐるりと首を回す。
 昨日聞いた話では1人だけだった筈なのだが、いつの間にこれだけ増えてしまったのだろうか。
オーマ:「…まるで剣が伝染してるみたいだな」
 ぽつりと呟いたその時、
男:「おおおおい、やめろぉぉぉっっ!!」
 通りの向こう側で、そんな声が聞こえて来た。
 その声の必死さと、周囲から流れるざわざわと緊張が張り詰めて行く様子に、オーマが店を出て声の方向へ歩いて行く。
男:「やああかましい!俺は、俺はっ、強くなったんだぞ…っ!!」
 ぶううん、と身体よりも大きな剣を振り回して、店の壁に叩き付けているのは1人の青年。口の端に泡を吹き、目はどこを見ているのか焦点が定まっていない。
 そして何より、そのはちきれんばかりの肉体は、着ていた服に収まりきりそうになく、いつはじけてもおかしくないくらいぱんぱんになっていた。
 その周辺でおろおろしながら何とか男を宥めようとしているのは、男の知り合いなのだろうか。オーマは人ごみをかき分けながら、その人物の側へと近寄って行く。
オーマ:「手助けはいるか?」
男:「あっ!た、助けてくれるんですか!?」
オーマ:「あの剣を取っちまえば取りあえずは大丈夫だと思うからな…ちょっと下がってろ」
 しばし考えた後で、オーマが手を、何かを握り締めるように動かす。と、その手にはショッキングピンクの長鞭が現れ。
オーマ:「当たったら勘弁な」
 動物を相手にした調教師よろしく、ぴしりと1回石畳を鞭で叩いてから距離と勢いを測って、ひゅんひゅんひゅんひゅんと手元で鞭の先を回転させる。
男:「――あああ、俺に逆らおうってええのか!?この、ヴァンサーがああっ!」
オーマ:「ほおおおぅ。そーか、俺様の事を知ってる奴が裏にいるんだな?」
 ぴしいっっ!
 その言葉を聞いたオーマが右手で鞭をしならせ、剣を巻き取るようにくるくるくると巻きつける。そして、ぐいと引張ってみると、余程強い力で握り締めていたのか、男の腕ごとオーマの元へ引きずられて来た。
オーマ:「ほーら。いい子だから大人しくしてろよ?」
 ぎゅうと握り締めた指を、1本1本力を込めてはがしていくと、やがて男から苦痛の呻き声が漏れ、かららん、と剣が地面へと落ちた。
 その途端、剣が飴で出来ているかのようにくにゃりと曲がる。まるで、抜け殻のように。
 つんつん、とオーマがその剣を足先で突いてから、熱い物を持つかのようにそおっと指先を近づけ、しゃがみこみながらつんつんと剣を突いた。
 特に何も起こらない。そのすぐ近くでは、風船がしぼむようにひょろひょろの身体になっていた男が、ゆっくりと頭を振って起き上がったところだった。
オーマ:「目が覚めたか」
男:「――何が…あったんだ?」
 男を助けようとしていた男に手を貸して貰いながら、頭が痛むのか顔を顰めつつ、オーマへと声をかけた。
オーマ:「覚えてねえのか?おまえさん、今すぐそこで暴れてたんだぞ」
 そうそう、と頷く男に、
男:「俺が?…まさか。俺の非力さはお前が十分良く知ってるだろ?今着てるこの鎧にしたって、普通のだと重くて動けないから裏側はほとんどハリボテじゃないか」
 立っていても、そよ風にそよいでしまいそうな男の格好を見て、オーマがさもありなんと頷く。
オーマ:「けどなぁ、おまえさん自身がやたらとマッチョになってこの辺で暴れてたんだぞ?服なんかぱんぱんでな。なあ?」
男:「ああ、そうだとも。本当の事だ。お前はこの人の言う通り、筋肉質な男になって暴れまわってたんだよ」
オーマ:「それについて、何か心当たりはねえか?武器屋の親父も剣がかなりの量返品されたって落ち込んでたしな、他にもおまえさんみてえに急に暴れ出すのがいるっつう話もある」
 オーマたちに言われ、考え込む男。やがて、ふっと顔を上げると、
男:「心当たりっていうほどじゃないけど…ヴァングラムの話をこの間聞いてから、それが羨ましくてこの剣を買ったんだ」
男:「なんだ、急に剣を買ったりするから何かと思えば、そうだったのか」
 こくこくと頷く男。
オーマ:「ん?ちょっと待て」
 そんな2人に、オーマが訝しげな声を上げて割り込んだ。
オーマ:「羨ましいからって、そこら辺で売ってるような安物の剣を買っても意味ねえだろ?」
 さっきまで話していた武器屋の親父に鍛冶槌片手に追いかけられそうな事をさらりと言って、
オーマ:「せめてヴァングラムを模した剣を欲しがるっつうなら分かるんだけどな」
 首を傾げた。
男:「え?俺が聞いたのは、剣を持つ者の中で選ばれた者にヴァングラムの魂が降臨するって話だったけど…だから、駄目元で買ってみたんだ」
オーマ:「……そりゃ違うぞおまえさん。流石におかしいと思えよ。っつうかヴァングラムの魂って何だよ」
男:「俺もちょっとはおかしいと思ったんだけどさ…」
 ちょっとじゃねえだろ、と軽く突っ込んでおいてから、オーマがふぅぅむ、と腕を組む。
 男が聞いた話が本当だとすると…と言ってもヴァングラムの方ではなく、『ばんぐらむ』の方なのだろうが、手当たり次第『降臨』している事になる。その効果はあまりにもはっきりとオーマの目に焼きついていた。
 一瞬、自分の剣に降臨したら、自分の身体がどのくらいむきむきになるのか試してみたいような気もしたが、ぷるぷると首を振ってその考えを振り払い、
オーマ:「で、だ。剣を持ってた時はどうだった?覚えてる範囲でいいから教えてくれねえか」
 うーんうーんと唸る男が、ぽつぽつと語るところによれば、自分の身体に自分ではないものの意識が入り込んだような気がしたとか、『お前は強い。お前は強い』と延々耳元で囁かれていたとか、腹黒ヴァンサーに与するのはやめて暗黒教に入れと言われた、等…特に最後の言葉にはオーマがぴん、と耳を立てる。
オーマ:「ぬぁにぃっ!?そりゃああれか、腹黒同盟に対する宣戦布告かっ!?」
男:「いやそんなこと俺に言われても」
 詰め寄るオーマを避けながら、男が困ったようにオーマを見上げた。

*****

オーマ:「ここもか」
 オーマの目の前にあるのは、やはりひしゃげた剣の山。そして、こちらは同じ武器だが大丈夫だったらしい槍を持った警備兵が困り果てたようにオーマの言葉に頷いた。
兵士:「もぉ参りましたよ。剣を持って訓練していた兵士がほぼ全員いきなり体格が良くなって、筋肉を揺り動かしながら周りに攻撃し始めるんですから」
オーマ:「……ほほう」
 それはちょっと見たかった、と口には出さずに、
オーマ:「それは止めるの大変だったんじゃねえか?」
 疑問に思った事を聞いてみた。すると、ちょっとだけ困ったように笑ってから、教えたなんてナイショですよ?と顔を寄せて、
兵士:「城内にあるありったけの棍棒と盾を装備して、筋肉には触れないように叩きのめしました。今は救護室で全員寝てます」
 剣以外の武器にはこの『効能』は現れないと見て取った慧眼は流石、と言ってもいいかもしれない。打撃武器の棍棒を使ったという点でも。
兵士:「と言う訳で今はちょっと城内が手薄なので、無いとは思いますがこの機に攻められても困りますので、くれぐれも口外しないで下さいね」
オーマ:「それは安心していいぜ。俺様の口は硬いんで定評があるからな」
 オーマがにっと笑うと、はい、と兵士がこくりと頷いた。
 それにしても、とオーマが王宮から離れて難しい顔をした。ほぼ無差別に『降臨』してしまっている様子だと、根城があるのかどうかさえも疑わしくなってくる。
オーマ:「しゃあねえなぁ」
 がしがしと髪を掻き上げてから、オーマは自分の身体に似つかわしくない小さな財布を取り出して、小銭を一枚一枚数え始めた。次第に眉を寄せながら。

*****

オーマ:「オッサン」
親父:「おう。何だ、また来たのか。どうだ、何か分かったのか?」
オーマ:「五里霧中って感じだな。何せ不特定多数だからよ」
親父:「そうか。――で、どうしたんだ?わざわざ俺に声を掛けてくるなんて」
 最初会った時と変わらずむすっとした顔のまま椅子に腰掛けている武器屋の親父のところへ戻ったオーマが、「まあ、なんだ」と奥歯にものを挟んだような声を上げたその後で、
オーマ:「剣1本くれ。1番安いヤツで、出来ればまけて欲しい」
 この値段で、と、財布をざららっとひっくり返して言った。
親父:「……………ガキの玩具とはワケが違うんだぞ?おととい来い…と言いたい所だが」
 ひいふうみい、と小銭を数えた親父が、それを自分の懐に仕舞い、
親父:「こっちも商売あがったりなままじゃ困るんでな。足らん分は依頼料にしておいてやる」
 そう言ってのそりと立ち上がった。
オーマ:「う」
親父:「不満か?」
オーマ:「いや。最初からそう持ちかけてりゃ虎の子を出す事も無かったなと」
親父:「…………」
 ふと無言になった親父に、流石に調子良すぎたかと思ったオーマだったが、
親父:「あれっぽっちで虎の子か。昔の俺より悲惨だな」
オーマ:「ほっとけ!」
 無言の同情だったらしい。奥へ入った男が、スタンダードなサイズの剣を持って来てオーマの目の前にごとりと置いた。
親父:「これで解決しなかったら、おめえさんの所に請求書叩き付けに行くぞ」
オーマ:「お、おう」
 これで失敗したら、自分の首と身体が泣き分かれしそうだな、と思いつつそれを受け取り、親父の目の前ですらりと剣を抜いた。

 ――考えて見れば。

 オーマが、具現によらない武器を手に取ったのは、本当に久しぶりの事だった…。

*****

 剣を握った途端、脳裏に魔剣に良く似た剣を手にした人物の姿が浮かび上がってきた。しきりと何か言っているが、オーマの耳にはまだ届いて来ない。
 が。
 良く見ればその剣は、柄の部分からにょきりとマッスルポーズを取るむきむきの男が刻まれていた。
オーマ:「あからさまにニセモノじゃねえか…」
 ぼそりと呟いたオーマの耳に、ようやく男の言葉が飛び込んで来る。

 ――身体を鍛えよ。世は全て筋肉!筋肉こそが美!
 力は鍛え上げた筋肉の中にこそ宿るもの!
 崇めよ讃えよわが筋肉!
 さあ今こそ大いなる力を欲する時、剣を手にした者よ、我が暗黒教と共に筋肉街道を驀進しようではないか!

 それと同時に、むずむずするような感覚が握った手から全身に広がって行った。具現波動にも似たそれは、オーマの身体を筋肉で支配しようと這いまわってはいるのだが、暗黒教という割には雰囲気は闇ではなくむしろピンク色に染まっており、いろんな意味で危険な波動に身体を侵食されないよう耐える。

 お前は強い、お前は強い、お前は強い、お前は強い――

オーマ:「やかましい!」
 『剣』と言う物体に対しての働きはどこからなされているのか、それは分からない。分からないが、このままではこの国の剣が全て駄目になってしまう。
 ――本物のヴァングラムが手元にあれば、こんなのはあっさりと倒せそうな気もするが、と考えたオーマが、ふと何かを思いついて手元の剣へ目をやった。
 相変わらずピンク色の波動が剣から噴出している。――遠隔地から全ての剣へこの波動が送られているとするなら、逆探知は出来ないか、と考えたのだ。
オーマ:「やってみる価値はあるな」
 ぐっと握りを持つ手に力を込め、それでいて抵抗していた自分の意識をほんの少しだけピンク波動に向けて解放する。その細い『糸』を自らの身体へ巻き付けると、自分の身体が完全に侵食される前に、意識の海の中へとダイブして行った。

*****

 ゆっくりとそれを手繰り寄せる。少しずつ太さと丈夫さを増していく糸の先にあるモノを、確実に捉えながら。
 そして――。

男:「腹黒教やヴァンサーといった怪しいモノには近寄るな。暗黒教を崇めよ、そして全ては筋肉のために!筋肉こそが真実!」

 剣を手にしながらぶつぶつと虚ろな目で呟いていた青年の姿を捉えた。

オーマ:「うぉおし発見っ!行くぜそこのおまえ!」
 腹黒同盟が男の言う暗黒教に劣ると言われて、それを了承しかねるオーマが、その場で空間を引き裂いて青年の居場所と無理やり繋げ、その中へ足をずいと踏み入れて行った。
男:「何者――」
 虚ろな目のまま剣を向けかけた男が、ぬうっと現れたオーマに妙に慌てて、その大振りな剣を自分の後ろへ隠す。
オーマ:「うん?」
 その動きに不自然なものを感じたオーマが、眉を潜めて更にもう一歩近寄った。
男:「く、来るなヴァンサー!と言うかなんでお前が来る!?ヴァンサーが普通の武器を手にするなんて聞いた事がないぞ!?」
 じりじりと後ずさりしながら、男が叫ぶ。とは言え、表情そのものには変化が無いままで。目はオーマを捉えておらず、
オーマ:「…そうか。本体は『そっち』か」
男:「っっ!」
 じろりと見たオーマの視線の先――背中へ隠し切れない大振りの剣に目を注がれて、青年がぎくりと身体を震わせた。
オーマ:「そりゃあな。普通なら具現じゃねえ武器なんか扱いづれえのは分かってる。おまけにこれは剣だ。俺様が苦手な武器さ。だがな、こうして逆探知するには丁度いい」
 逃がすものか、とずんずん近寄って行くオーマへ、青年がぷるぷると首を振った。
男:「や、やめろ、来るな、封印されたくない…!」
オーマ:「――はぁん。やっぱりな。おまえ、ウォズか」
 オーマが問い掛ける。青年にではなく、『剣』へと。
オーマ:「よぅしじゃあ取引と行こうじゃねえか。言う事を聞かなかったら即封印な」
男:「それは取引じゃなく脅迫だろう!?」
オーマ:「ああああん?いいんだぜ俺はこの場で封印しちまっても」
男:「う、ぐ…じょ、条件は何だ」
 本体を押さえられてしまってはどうしようもない、と諦めたのか、男が悔しげな声を出す。
オーマ:「まずは暗黒教なんつうふざけたモノを解散する事。そんでもって腹黒同盟に入れ」
 オーマはそう言って、にやりと笑った。

*****

男:「…あれ?ここは…」
オーマ:「気がついたか」
 ひょろんとした、背だけは結構高いが良く言えばスリムな体型の青年が、ぼうっとした顔で身体を起こす。
男:「はあ…気がつきました」
オーマ:「ここから家まで帰れるか?道が分からねえなら家まで送るぞ」
 きょときょとと周辺をゆっくり見回した青年が、ああ、と呟いて頷き。
男:「この遺跡は知ってます。伝説の武具が眠ってるって話を聞いて来たんですが…あれ…それを手に入れたような気がしたんだけどな…」
 不思議そうに首をかしげる青年が、それでも気を失っていた自分にオーマが声をかけたと思ったらしい。
男:「ありがとうございました。大丈夫、ひとりで帰れます」
 そう言って、頼りなさそうな猫背姿勢で立ち上がった。
 ――手を振って去って行く青年と別れたオーマが、その手にある頑丈そうな剣を手ににやりと笑う。
オーマ:「入会おめでとう。これでおまえさんも腹黒の一員だな」
剣:『……………』
 生まれ付いてこうなのか、それとも変身したら元へ戻れなくなったのか、剣の姿をしたウォズは悔しそうな波動をオーマへ向けた。
 魔剣?ばんぐらむ。
 所有者に筋肉を与え、マッチョスタイルへ変貌させる力を持つウォズ。

 十分以上にイロモノの素質を持つそれが、オーマの脅迫に屈して腹黒同盟へ入会してしまったのは、そんないきさつからだった。


-END-