<PCクエストノベル(4人)>


力の片鱗 〜ヤーカラの隠れ里〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2081/ゼン        /ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー   】
【2082/シキョウ      /ヴァンサー候補生(正式に非ず)     】
【2085/ルイ        /ソイルマスター&腹黒同盟ナンバー3(強制】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
案内人
村人
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男:「おめでとうございますっ」
 男以下、数人の男女がぱちぱちぱちっ、と拍手をして、目の前の青年に笑顔を送る。
ルイ:「おやおや。当ててしまいましたか」
 青い髪をさらりと掻き上げつつ、くい、と眼鏡を軽く持ち上げたルイが、にこりと微笑んで男女を見る。
 ――ここは、商工会議所裏手に小さく設置された福引所。夏もそろそろ終わろうかというこの時期、秋の行楽シーズンに合わせるよう考え出されたのがこれだった。
 1等はこれから恋しくなる温泉を楽しんでもらおうとハルフ村宿泊券。2等は今年取れた羊毛から作られたフェルト地の特大毛布。3位が山の幸盛り合わせ。
 そして、ルイが当てた特等が、神秘の里・ヤーカラミステリーツアーだった。

 ヤーカラの隠れ里と言う場所がある。
 地図に載る事の無い、ヤーカラと言う特殊な血を持つ一族が住み暮らすと言われる小さな村で、そこに行き着ける者はそう多く無い。
 過去に体内に宿る血によって人々から襲われた経験を持つ彼らは、あまり人に対して友好的な態度を取る事が無いのだ。
 そんな場所にツアーを組んだ者がいただけでも驚きだが、それは福引所の皆も同じだったらしく、一般人とは少し違う雰囲気のルイが当てたことで、ほっとした様子なのも手に取るように分かった。
 これがエルザードに生まれ暮らす人々に当たっていたら、どうしようかと気を揉んでいたらしい。
 それならば商品の名前だけ見せておいて、当てなくてもいいじゃないかとルイなどは思うのだが。
ルイ:「…特等の商品を考えたのは、一体誰でしょうかねえ…」
 ふっと頭に浮かんだのは、言わずと知れた腹黒大将。その男がぐっと親指を立てて、にんまりと笑う姿までが一連の動作としてルイの頭上で踊っている。
 一般人が当ててもあまり嬉しく無さそうなこのツアーは、場所も定かではないこの村へ行くための案内人も付けてくれるようで、ルイもそれならば、とあっさりチケットを受け取って家へと戻る事にした。
ルイ:「4人分ですか。どなたを道連れに致しましょうかね」
 そんな不穏な事を口にしながら。

*****

ルイ:「と言う訳で皆様、参りましょうか」
 簡単に今回の旅程を告げたルイが、自分だけはしっかりと荷造りしたバッグを手に3人へ告げる。
オーマ:「おいおい。いくらなんでもいきなり過ぎるぞそれは。つーかどこに行くんだ」
 集められた中でも頭ひとつふたつ飛びぬけて高い男、オーマ・シュヴァルツがソファにどっかりと座りながら聞いた。
ルイ:「福引で特等を当てましたので。4人のツアーですから、残り3人を誘わないと皆様寂しがると思いましてね。厳選なる抽選の結果貴方たちに決まったのです」
ゼン:「勝手に決めるんじゃねェよ。つうかてめぇ、本当に選んだんだろうな?」
 そーか、ヤーカラ行きはルイが取ったのか、という嬉しそうな声を耳にしつつ、ゼンが渋い顔をしてルイへくってかかる。
ルイ:「当然ですよ。女性たちの中でいったいどなたを選ぼうかと苦心致しましたから」
ゼン:「男は決定かい!」
ルイ:「――それはもう自然の営みの如く初めから決められていた事ですから」
 にっこり笑うルイに、ゼンがげんなりとした顔をして俯いた。
シキョウ:「ヤーカラってどこにあるの〜〜?」
 そんな2人には関係なく、シキョウが目をきらきらさせてオーマへ問う。このところ旅行が続いているが、それが楽しみで仕方ないらしく、本当なら毎日でもいいのに、とぽそりと本音を呟いてはゼンに良く怒られていた。
オーマ:「地図には載ってねえ村さ。昔は良く苛められてて、隠れちまったんだよ」
シキョウ:「そうなんだ〜〜〜〜。わるいひとは、めーーーっておこらないとだめだよね〜〜」
オーマ:「そうだな。シキョウはいい子だからそう言う事はしないな」
シキョウ:「うんッッ」
 にこにこ笑いながらこっくりと頷く少女に、オーマがわしわしと頭を撫でてやり、
オーマ:「そんじゃ支度するからちぃと待っててくれ。今回は歩きそうだからでかい荷物はいらねえな」
ルイ:「そうですね。案内人の方が迎えに来られるまでもう少し時間はありますから、その間にどうぞ」
オーマ:「おう、分かってら。ゼンも急げよ」
ゼン:「……何でこう、俺も行かなきゃいけねえ事になってんだよ…」
 ルイの連れと言うのがとても嫌そうな顔で、ゼンがのたのたと自室へ戻って行く。それでも、抵抗は初めから無駄だと諦めているようだった。

*****

案内人:「準備は良いですか?では行きますよ」
 ツアー客を案内するような人ではなく、毛皮と弓矢を携えた狩人そのままの男が、緊張気味の笑顔で言う。
ルイ:「硬くなる事はありませんよ。身体を楽になさい。わたくしたちはこう見えてもトラブルには慣れていますから」
ゼン:「トラブルって何だよ」
 ぶつぶつゼンが呟くが、男はルイの言葉に少し体の力を抜いて、
案内人:「それは良かった。何しろ行き先が行き先ですからね。このツアーに喜んで参加する人はどんなだろうと考えていたんですよ」
 山道も歩きますしね、と告げながら、健脚ぶりを見せつつ男が先導する。
 当然の事ながら、ある意味では人間離れしている4人のこと。そんな男の動きに音を上げるような者は1人もいなかった。
案内人:「ここから登りになります。崩れやすい岩もあるので気を付けて」
 それまでの4人の動きを見て安心したか、案内人は比較的緩いが遠回りの道を止めて、野生の鹿などが良く通ると言うルートへと皆を案内した。
案内人:「とりあえずは俺が登ってロープを下ろすので、それを伝ってきて下さい」
 ひょいひょいと、行きなれた様子の男が上へ上って行き、少ししてするすると丈夫に編まれたロープが下がってくる。
シキョウ:「わああい、やまのぼりだね〜〜っ」
 まっさきに、この中でも特に身軽なシキョウがロープへと取り付いて、片手で一応それを掴みながら、他の手と足で無意識に安全な箇所を探ってするすると上へ登って行く。
ゼン:「…あいつにロープいらねえんじゃね?」
 そう言ったゼンが、その後にゆっくりと続いた。その次にルイ、そしてしんがりがオーマ。
ルイ:「万一オーマさんが上から落ちて来たとすると、わたくし潰れてしまいますから」
 …というルイの言葉にあっさり納得したオーマが、ぐいとロープを握ってぐんぐん力強く登って行く。
 上に霧でも降りて来ていたのか、登って行くうちに周辺がじわりとぼやけるようになった、その先に3人はいた。
オーマ:「お待たせ――と、おや?もう1人はどうした?」
 一番先に上がって来ていた筈の案内人の姿が無い事に気付いたオーマが訊ねると、
シキョウ:「シキョウがここにきたときにはねー、だーれもいなかったよー?」
 身振り手振りでそう告げるシキョウ。
 ロープが降りてすぐに、あの速度で上がって行ったシキョウの目に既に彼がいなかったとすれば、ロープを結わえてすぐにどこかに立ち去りでもしない限りはありえない話だが、そう言う事をする理由は特に考えられず、不可解なままだった。
オーマ:「どうする?」
ルイ:「そうですねえ」
 辺りを囲む霧は、しっとりと4人の肌を濡らして行く。ここから帰るにしても、いくつかの道を過ぎた後だけに、すんなりと帰れるかどうかは怪しいもの。と言って案内人なしで村へたどり着けるかと言うとそれも難しそうに思える。
ルイ:「…おや?」
 ふと。そんな中、ルイが顔を横に向けた。ほとんど同時にシキョウもそっちへ顔を向ける。
ルイ:「…聞こえますね」
シキョウ:「ひとのこえがするよー?」
 あっち、とルイが顔を向けた方へ腕を伸ばすシキョウに、
オーマ:「うん?つう事はあれか?村がもう近いんで、案内人が先に村の連中とコンタクトを取りに言ったってことか?」
 礼儀としては4人のうち誰かが来るのを待って、言付けてから行くのが筋だろうが、そう言う事もあり得るかも、と言ったオーマの言葉になんとなく3人が納得した様子を見せ、
ゼン:「なら行ってみればいいじゃねえか。すぐ近くなんだろ?」
シキョウ:「うん。いこう〜〜っ」
 ぴょんと立ち上がったシキョウがぱたぱたと身軽に前方へ駆けて行き、
ゼン:「ちょっと待てこらっ!この辺崖があるっつぅのを忘れてんじゃねえのか!?」
 ゼンが慌てて後を追った。
ルイ:「全く…ゼンは2次災害への道まっしぐらですね」
オーマ:「そう思うならおまえさんも黙ってねえで教えてやれよ」
 そして、若者2人が移動して行く後を大人2人が付いて行く。

 その4人の目の前ですぅと霧が切れると、いつの間にこんな近くに来ていたのか、と思う程目の前に小さな村があった。
 村人らしき人たちが総出で、にこにこと満面の笑みを浮かべてそこに立っている。
村人:「ようこそいらっしゃいました!お待ちしてましたよ!!」
 代表格の若者がすいと一歩前へ進み出て、心底嬉しそうな顔でそう告げると、さあさあ、とオーマたちを村の中へ引き込んで行く。
ゼン:「…思ってたより全然人懐っこいじゃねえか」
ルイ:「伝聞は歪むと言う事なのではないでしょうか」
 うきうきしたシキョウが村人に囲まれて質問攻めにあっているのを見ながら、ゼンとルイがぼそぼそ話す。そんな2人の、特にルイの肩へぎゅっと手を置いて握ったオーマがにっこりと笑うと、
オーマ:「違うだろそこの2人。つうか、気付いててそう言う事言うか?」
ルイ:「――いいじゃないですか。本当に気付いていないひともいるんですから」
ゼン:「え?」
オーマ:「先入観捨ててよく『見』てみやがれ。目の前にいる連中はヤーカラの人間じゃねえぞ」
 言われて、ようやく気付いたゼンが、
シキョウ:「え〜〜〜?そんなこといわれてもシキョウよくわかんないよ〜〜〜〜〜」
 嬉しそうに、または泣きそうな顔をしつつシキョウに取りすがっている村人たちを目にして、すっと表情を硬くした。
オーマ:「それに――だ。おまえさんたちも、『ヤーカラ』の人間がどういう人間か分かってねえだろ?」
村人:「……どういうことでしょうか?」
 ほんの少しの沈黙の後、村人が笑顔のままオーマへ聞き返し、
オーマ:「残念だが、俺様はヤーカラの人間がどういう連中か知ってるんでな」
 それに、とルイが微笑みながら言う。
ルイ:「いくら偽装をしたつもりでいても、『匂い』は誤魔化せませんよ。ですが――どうして貴方様たちはここにいるのです?…既に死んだ身で」
ゼン:「!――何か変だと思ってたら、それが理由か。おいシキョウ――って、シキョウ!?」
 シキョウへ十重二十重に輪を作り続けていく村人。その中心にいる筈のシキョウの声は聞こえず、ゼンがその人の輪を掻き分け掻き分け進んで行くと――そこにあるのはただひとつ、彼女が被っていた帽子のみ。
ゼン:「てめぇら――シキョウをどこにやった!?」
 咄嗟に手に出現した剣を横に薙ぎ払うと、今までの人の良さそうな笑みはどこへ行ったか、張り付いた笑みを浮かべ、足はほとんど動かないままですすす、と後ろに下がってかわす。
「あの方は、我々にとってとても大事な方。いただいていきますよ」
 村人の1人が、そう言ってふっと笑う。
 ――ここは、ヤーカラの隠れ里ではない。
 隠れ里に見せかけた、ウォズの具現空間だった。それも、生きている者ではなく、全てが死んだウォズの作り上げた世界。
 そこにすっぽりと包まれるまで気付かなかったのは、はっきりとウォズの気配が出ていたわけではなく、いつもと勝手が違ったからに他ならない。
オーマ:「っつってもなぁ」
 ぽそりとオーマが呟く。ちょっと困ったような声で、
オーマ:「『死んだ』ウォズを相手にした事ねえしな――封印できんのか?」
 仮に封印が出来たとしても、それによる代償に何が奪われてしまうのか、想像出来ない。ウォズの死により生まれ出る多大な力がどう作用してしまうのかが分からない以上、下手に手は出せそうもない。
ゼン:「そんなこと関係ねえだろ!シキョウがいなくなったんだぞ、んなのんびりした顔してねえで何か考えろよ!もう死んでんだから殺したって構わねえんじゃねえのか!?」
オーマ:「その結果山ひとつがふっ飛んでもいいっつうんならな」
ゼン:「――う…っ、く、クソォォォッ!」
 ゼンにしてみれば、村人に攫われたらしいシキョウの行方が気になって仕方ないのだろう。一言叫んで村の出口へと向かう、が、そこで何かに弾き返されて地面へと腰を付いた。
村人:「出しません。死して尚この体が消滅する時に何かが起こる可能性を考えればヴァンサーなどは怖くありませんが、我々の力に対抗する力を持つ者を呼ばれては困ります」
ゼン:「て…てめぇら…」
 ぎり、ぎり、と歯軋りする音にも動じた様子は無く、村人は3人の周りをぐるりと取り囲んだ。
村人:「大人しくしていればいつかは解放して差し上げますよ。我々を救えるのはあの方だけなのですから」
 にこりと、表向きは邪気などなさそうな笑顔で村人が言う。が、それでも3人を解放するつもりは全くないようで。
 そこに、くすっ、と小さな笑い声が起こった。
ルイ:「やれやれ。自らの身体を盾に取っての脅迫ですか。それはまたなんと考えなしな事でしょうか」
 くい、と眼鏡を中指で押し上げ、ほんのりと笑みを浮かべたルイが村人を眺め回す。
村人:「なんですって」
ルイ:「仕方ありませんね。仲間が襲われたと言う非常に大変な局面になっていますので、わたくしも少し本気を出させていただきましょうか」
 にこり。
 口元に浮かべた笑みとは裏腹に、ルイの全身から冷気が吹き出して行く。
ルイ:「オーマさん。ゼンを連れて少し離れていてくださいませんか。ああ、それと――少しばかり教育上よろしくないものをお見せする事になりますので、目と耳も塞いでおいて下さいね」
オーマ:「…方法があるっつうなら、任せるぜ。手伝う事があれば言ってくれ」
ゼン:「待て、おい、何するつもりなんだ?」
オーマ:「いいからこっち来いってえの。あの気配で気付けよ」
ゼン:「そりゃあの極悪男の事だ、碌な事にゃならねえはず――ってオッサン!?」
 人の輪から外へ出る事は出来ないなりに、ルイからほんの少し離れたオーマが、ゼンに耳栓とアイマスクを被せてぎゅむ、と抱きしめる。
ゼン:「うわやめろオッサン気持ちワリィ触んなチクショウ!」
 じたばた暴れるゼンを意に介さず押さえつけながら。オーマが先程から全身の毛が逆立ちそうな感覚を感じさせまいと、自分の周りに小さなバリアを張ってルイを見た。
 初めて目にする彼の技を。――実に楽しそうに、笑顔を浮かべたまま敵を屠るルイの姿を。

 ルイは――手近な村人を、生きたまま喰らっていた。

 いや、死んでいるのだから生きたままという表現はおかしいが、
村人:「……っ、が、あっっっ、や、やめろぉォォッッッ!?!?」
 自分の体が痛む事が信じられないというように目を見開きながら、自分の身体に齧り付くルイを、信じられないものを見るような目で見、必死に逃げようと無駄な抵抗を繰り返していた。
村人:「やめなさい!何をしているのか分かっているのですか!?」
 手に手に鋤や鍬などを持った村人たちが駆け寄り、ルイの頭上へ振り下ろすも、
ルイ:「駄目ですよ。順番はきちんと守らなくては。ああ、でもわたくし1人では時間もかかりそうですし、この方たちに代理をお願いしましょうか」
 口元を赤く染めたルイがにっこりと笑って、その周囲に4体の人食い巨人――爪も牙も伝承にあるよりも巨大なオーガを出現させた。
オーマ:「………」
 地獄絵図という言葉が相応しい光景を何度か見て来たオーマだったが、その思い出にこの風景が加わることになろうとは想像もしていなかった。
 補食の早さから言って、あれはある種の『儀式』のようなものだと看破したオーマだったが、ぷんと匂って来そうな朱の色にはあまり良い顔も出来ずに眉がぎゅぅと寄せられる。
 その腕の中でじたばた暴れていたゼンも、音も映像も無いがその場にある気配には気付いたらしく、今はすっかり大人しくなっていた。
ルイ:「ふう。さて次は――」
 最後まで悲鳴を上げ続ける村人をぺろりと平らげたルイが、怯えて逃げ惑う1人をまた捕まえる。あくまで優しい目で、ごきりと音を鳴らして右腕を折り、肩から千切りとって。
村人:「――――――――――!!!!!!!!」

 それはもう、悲鳴などと呼べるものでは無かった。

*****

ゼン:「……終わったのか?」
ルイ:「どうでしょうか?目の前にいる村人は1人しか残っておりませんが、あの子の側に何人付いているか分かりませんのでね」
村人:「あ…あなたは」
ルイ:「死人専門の職業に就いておりまして、ね。さて貴方様方の攫った娘についてですが――教えてもらえますね?」
 ついとルイが最後に残った村人の腕を取り、その手に口付けようとした途端、村人がこくこくと激しく頷く。
 その目に焼きついた凄まじい恐怖の色を、直前まで見ることも出来なかったゼンが訝しげに見つめ、オーマへと視線を投げかける。
オーマ:「まあ、なんだ。色々あったんだよ、うん」
 オーマはゼンから視線を逸らして、それだけを言った。
ゼン:「シキョウ!?無事か!!!」
シキョウ:「――あ!ゼン、オーマ、ルイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
 『村』から少し離れた洞窟の中、小さな祭壇の上にシキョウは座っていた。3人の姿を見た途端、嬉しそうに飛び上がって、名を呼んだのとは別に、オーマとルイにぎゅぅっと抱きついて、ゼンをちらと見た後もう一度オーマに抱きつく。
ルイ:「名を呼ぶ順と抱きつく順の違いが非常に興味深いですね」
ゼン:「………お、俺にだって、別に怒ったりしねえのに」
 わきわきとシキョウに見えないよう手を動かしているゼンに、オーマがにやりと笑ってその頭をぽんぽんと叩き、そしてあからさまにゼンへ身体を向けてからシキョウをぎゅぅぅっと抱きしめた。
シキョウ:「なんだかね〜〜〜〜〜〜、ここでまってて〜〜〜〜〜〜〜〜っていわれたの。いっぱいっぱーい、おはなしすることがあるんだってー。でもだれもこないのよ〜」
ゼン:「あー…そりゃなあ。どうしようもねえな。っつうか…本当に何もする気が無かったのか?」
ルイ:「違うでしょう?彼女に大切な用事、または『役目』があったようですが、それをしてもらうまでは帰す気がなかったのですからね」
 誰も来なくてつまらなかったらしい彼女が、3人が来た事で嬉しそうにしながら、
シキョウ:「シキョウ、もう帰ってもいいの〜〜〜〜?」
 真上にあるオーマの顔に首を持ち上げて問い掛ける。
オーマ:「そうだな」
 帰るか――と言いかけたその時、
村人:「お、お待ちください…っ!」
 洞窟の入り口まで案内させられた最後の1人が、3人をすり抜けてシキョウへと縋り付いた。
ゼン:「テメェ、まだ何かやろうってのか!?」
 ずいと近寄るゼンにふるふると首を振りながら、どうか、どうか、とシキョウへ取りすがる村人。
村人:「どうか――最後の1人になってしまった私を、お救い下さいませ…っ」
 物凄く必死な声に、オーマがさもあらんと呟く。
 何しろ、ここでシキョウが何かのリアクションを起こさなければ、後ろでほのかに微笑んでいるルイの文字通り毒牙に掛かってしまうだろう事が決定されているからだ。
シキョウ:「すくうーーー?シキョウが〜〜〜〜?」
村人:「は――はいっっ!」
 一縷の望みをかけて、目を輝かせる村人。だがシキョウは困ったように首を傾げて、
シキョウ:「シキョウ、なにをしたらいいかわかんないよ〜?」
 と、言うばかり。
 そして、背後のルイの眼鏡がきらんと光った直後。
シキョウ:「えーとね、えーとね…じゃあ、はい、こっちにきて?」
 シキョウがオーマから離れ、おずおずと村人を呼んだ。小さな身体で手を大きく広げながら。
 そして、吸い込まれるように近づいた村人を、村人よりもずっと小さな体のシキョウがぎゅうと抱きしめる。
シキョウ:「あ――いたかったんだ、ね。もう、だいじょうぶだよ。いたくないよ」
 いつもの口調なのに、それは、随分と落ち着いていて。半泣きだった村人も、次第にぼうとした表情へ変わって行く。
シキョウ:「ほら―――」
ルイ:「………む。残念ですが、最後は諦めるしかなさそうです」
 ルイの呟きと共に、シキョウの腕の中の村人が一瞬にしてすぅっと掻き消えた。
シキョウ:「―――あれーーーーーー?どこいっちゃったの〜〜〜〜?」
 そして。その『何か』をしたシキョウが、何が起こったのか分からないままきょとんとした顔を3人へ向けた。

*****

案内人:「ああっ!皆さんどこに行っていたんですか!?」
 村を出て、少し歩いたところで4人はばったりと狩人に出会った。
オーマ:「おう、すまねえな。何だか道に迷っちまったみたいでよ」
案内人:「いつまでも垂らしたロープから登ってこないので降りてみても誰もいないし、どうしたのかと思いましたよ」
 道に迷ったのなら自分の責任じゃないかと考えていたらしい男がほっとした顔をして、それから申し訳無さそうな顔をする。
案内人:「それで実はですね、皆さんに謝らないといけない事がありまして」
ルイ:「謝らなければいけないこと?」
 はい、と案内人が頷く。
案内人:「ヤーカラの村なのですが、この数日は村に旅人を入れてはいけないのだそうです」
シキョウ:「え〜〜〜〜〜〜っ。せっかくきたのに〜〜〜〜〜〜」
案内人:「すみません。事前に確認しておけばよかったのですが」
 申し訳無さそうに謝る男に、
ゼン:「仕方ねえよ。駄目なもんにごねても意味ねえし。で、一体何で駄目なんだ?」
 ロープを垂らした位置まで行っていたゼンが、ふと気になったように訊ねた。
案内人:「先祖霊を祀る大切な儀式だとかで、旅人が現れると、その旅人に関係する霊が引き寄せられてしまうからなのだそうですよ。詳しい事は分かりませんが」
 ――その言葉を聞いて、シキョウ以外の3人の動きが僅かに止まった。
オーマ:「そう言う事なら帰るしかねえな」
ルイ:「そうですね。まあ、わたくしとしましてはあれらが片付いたようですのでその点に尽きましては良かったと思いますよ」
ゼン:「…すんなよそんな儀式」
 3人がそれぞれの感想を告げて帰り道を行き。
シキョウ:「またりょこうにこようね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 こういう日帰りツアーでも非常に楽しかったらしいシキョウだけが、満面の笑みを浮かべて険しい道を楽々歩いていた。


-END-