<PCクエストノベル(2人)>


生と死の狭間で

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2478 / エミリアーノ・オリヴェーロ / 海賊】
【2666 / エンプール / 皇族(王様)】
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<1・小箱>

エミリオ:「死にそうなんだが」
エンプール:「俺も死にそうなんだけどね」

 二人して対峙する。
 鬱蒼と生い茂った森の中、緊迫した雰囲気に似合わない涼やかな風が通り過ぎた。
 エミリアーノ……エミリオとエンプールの間には一つの小さな箱が存在していた。箱からは良い匂いがしている。

エミリオ:「困ったな」
エンプール:「そうだね」

 真剣な表情をしたエミリオに柔らかな笑みでエンプールは対応する。

エミリオ:「俺はひかんぞ」
エンプール:「諦めないよ」

 空気が張り詰める。
 見詰め合うこと数秒。どちらともなく、腹の音が鳴った。
 緩んでいく空気に、自然と二人の頬も緩んでいく。

エミリオ:「二人で分けるか」
エンプール:「そうだね」

 このような極限状況に陥ったのには理由がある。
 さかのぼること数日前、エミリオが一人の老婆に出会ったことが全ての始まりだった。
 老婆は街の付近に存在する森に、夫の形見を落としてしまったという。
 うろたえ、必死で探してくれと土下座して頼み込む老婆にエミリオは根負けしてしまい、森に捜索へ出た。そうして同じく老婆に頼まれたというエンプールに出くわし、そのまま二人迷子になってしまったというわけだ。

 数日も森をさまよえば、腹もすく。
 辺りが闇に染まれば、動物たちの動きも感じ取りにくくなり、二人が獲物として捕らえる手段が少なくなってしまう。それだけ、食料が手に入りにくくなってしまうというわけだ。

エミリオ:「まさか、あんたに会うと思わなかった」

 エミリオは苦々しい口調でそう言った。前々から少しお節介で馴れ馴れしいと感じていたが、見も知らぬ老婆の言うことを聞くほどだとは思わなかった。それを述べるならば、エミリオ自身も人のことは言えぬのだが。

エンプール:「あの、お婆さん、道歩く人全てに頼み込んでいたみたいだよ」
エミリオ:「まじか、何だそれは」
エンプール:「それだけ切羽詰っていたんだろうね……と思いたいけど、よく考えれば痴呆かな」
エミリオ:「じゃあアレか。骨折り損のくたびれもうけか! ボケのせいで死ぬか生きるかの瀬戸際なわけか! それは参った」

 会話をしながらも、箱の上に置いた二人の手は微動だにしない。

エミリオ:「森の中に落ちていたよい匂いのする箱! 怪しさ満点だが、背に腹は変えら二人で分けるという話だろうが! 手を離せ」
エンプール:「いっせいの、で離そうよ」
エミリオ:「信用ならねぇ」
エンプール:「俺が一人で箱の中身を食すとでも? 大丈夫だよ」

 見詰め合うこと数秒。先に視線をそらしたのはエミリオの方だった。

エミリオ:「よしわかった。じゃああんたが開けてみろ」
エンプール:「では早速」

 エンプールはゆっくりと箱を開ける。そこから出てきたのは湯気を放つ温かそうなスープだった。

<2・封印>

エミリオ:「で、だ」

 封印の塔を見上げながら、エミリオは深くため息をついた。

エミリオ:「どうして、俺があんたと一緒にこんな場所まで来なきゃいけないんだ?」
エンプール:「それは二人して仲良く箱の中身を食べてしまったからだろう」

 さらりと述べるエンプール。エミリオは頭を抱えた。
 同時に二人の腹が鳴る。
 エンプールは目を細めて、自らの腹を撫でた。

エンプール:「一度中のものを食べてしまえば、それ以上他のものを食べること叶わなくなる。いや、面白い呪いだ」
エミリオ:「冷静に言うな。既に生と死の境だ。無理に喰っても吐くってどうよ」
エンプール:「どうだろう。あまり感心しないよね」
エミリオ:「いや、だから、よく、そこまで落ち着いていられるなと!」
エンプール:「俺もぎりぎりだからね。だからこうして一緒に協力したいと申し出たんだよ」
エミリオ:「俺は頼んじゃいないんだが。一人でもこんな呪いなんざとけるんだが!」
エンプール:「ほら、でも何かあったら大変だし」

 エンプールは柔らかく笑んだ。無言になったエミリオは、彼から視線をそらし、嘆息した。

エミリオ:「まぁ、確かにアレだ。食糧危機だ。飢え死に寸前だ。男二人で腹をすかせたまま野垂れ死になど御免こうむる」
エンプール:「それは俺も同感かな」

 言って、エンプールはエミリオが腰に下げる茶色い袋へと視線を移した。そこには、二人に忌々しい呪いをかけた小箱が入っている。
 ほんの少し、表情をゆがめる。

エミリオ:「おとなしく、封印できればいいんだけどね」

 エミリオの腹が盛大に音を鳴らす。エミリオは頬を紅潮させて、口の端を引きつらせた。
 そんな彼を見ながらエンプールは苦笑する。

エミリオ:「シリアスな雰囲気が続かないね」
エンプール:「俺は真剣そのものだ。色んな意味で真剣だ。こんなところで死んでたまるか」
エミリオ:「まぁ、確かにこの時代に飢え死には洒落にならない」

 二人して笑みを引きつらせた。

<3・階段>

 封印の塔で目的地に辿り着くまでに時間がかかる。
 それは二人も理解していた。
 なんといっても塔だ。その距離は長く、階段はどこまでも続いているような錯覚を感じさせる。
 いつか目的地に辿り着く。そう信じて。

エンプール:「信じても、無理なこともある、か」
エミリオ:「諦めるつもりか! おい!」

 うな垂れて足を引きずるようにして歩くエンプールに、エミリオは必死な様子で声をかける。

エミリオ:「確かに、すきっ腹にこの階段とこの距離は辛いが」
エンプール:「よく考えればもう五日は何も口にしてないんだよね」
エミリオ:「具体的に数字を述べるな。自覚しちまう」
エンプール「ごめん。確か水はきちんと飲んでいたよね」
エミリオ:「ああ、思い出させるな。極限状態なんだ俺ら! 脂ののった魚が目一杯食いてぇ」
エンプール:「大丈夫。水だけで一週間持つから」
エミリオ:「水! 海! 旨い魚! だから考えさせるなと!」

 吼えるエミリオに、エンプールはわずかに首を傾いで弱々しく笑った。

エンプール:「その連想は少し無理があるかもしれないな。俺を責められても。まぁ、俺を責めて、少しでも楽になるのなら」
エミリオ:「楽になったらその瞬間死ぬんじゃねぇか」
エンプール:「ああ、それはまずい。キミはうまいことを言う」

 瞬間。
 エミリオは階段から足を踏み外した。思いのほか、体は衰弱しているようだ。くらくらする頭を押さえながら、エミリオはせめて受身をとろうと体をねじらせて。
 エンプールが自然と差し出された彼の手を咄嗟に掴んだ。
 片足をひきずる形で、エミリオはエンプールに支えられている。

エンプール:「大丈夫?」
エミリオ:「糞。眩暈が」
エンプール:「俺もさすがに飢えというのがこれほどとは思わなかった」

 難しい顔をするエンプール。壁に手をつきようやく息を整えたエミリオは、彼から手を離した。多少よろめきながらも、自分の両足で立つ。

エミリオ:「放っておけば良かったものを。俺が足を滑らせようがあんたにゃ関係ないだろうに」
エンプール:「放っておけないんだよ。こういう性質でね」

 微笑むエンプールに、エミリオは不思議だと目を瞬かせた。

エミリオ:「あんた、意外と素早いな」
エンプール:「うん? 何?」
エミリオ:「だから、あんたは見た目とは違って結構動きが素早いんだな」

 肩で息を整えながら、エミリオは言った。

エミリオ:「悪く言っちゃ何だが、少しボンボンっぽいじゃねぇか、あんた」
エンプール:「鈍間に見えると?」
エミリオ:「誰もそこまで言ってねぇ。褒めてんだよ」
エンプール「なるほど」

 興味深げにエミリオを眺めてくるエンプールに耐え切れなくなり、エミリオは眉根を寄せて声を発した。

エミリオ:「何だ、一体」
エンプール:「いや、素直に褒められると嬉しいな、と思って」
エミリオ:「……わからん」
エンプール:「何が?」

 エンプールは訝しげに眉をひそめた。頭をかきながら、エミリオは彼と対峙する。

エミリオ:「よくそんな台詞を恥ずかしくもなく言えるな」
エンプール:「促したのはキミだろう?」
エミリオ:「俺か、俺のせいなのか」
エンプール:「大丈夫だよ。呪いにかかったのは二人のせいだから」
エミリオ:「フォローになってねぇ」

 エミリオは重い足を持ち上げ、床を鈍く踏みしめる。上へ、上へと進む。

エンプール:「とりあえず、行き倒れになる前に目的地に着ければいいね」
エミリオ:「倒れんぞ。俺は、倒れん」

 エンプールの言葉に、エミリオは緩く首を横に振った。

<4・対峙>

エンプール:「まぁ、こうなるよね」

 風が吹きすさぶ空間で、エンプールは空虚に言葉を発した。
 二人の目の前には、呪われたアイテムが姿を変えて存在していた。
 封印には幾つか方法があって、その中で一番主流なのが、アイテムに宿る邪悪なエネルギーを物質化

させる方法である。もちろん、それだけでは意味がない。物質化させたものに(大抵はモンスター化する)ダメージを与え弱らせる必要があるのだ。

エミリオ:「美味しそうなのか、グロテスクなのか」

 エミリオは化け物を眼前に、絶句していた。

エンプール:「おそらく普段の状況ならグロテスクに映るんだろうね」

 冷静な口調でエンプールは判断する。
 エミリオは一つ息をついた。確かにそうだろう、と化け物を上から下まで観察した。
 一見すれば、巨大な四足の獣だ。だが、その獣の体のあちこちには奇妙な物体がはりついている。
 物体は、二人にしてみれば見覚えのあるものばかりだった。
 肉を挟んだサンドイッチに、肉の照り焼きに、焼き魚に、アイスクリームの混ざったチョコレートパフェに……。二人にとって欲しくてたまらないものが、目の前に存在していた。

エミリオ:「これは、何だ。その、俺に喧嘩を売ってんのか」
エンプール:「いいね、この喧嘩買おうよ。さすがにこれは俺もまずい」
エミリオ:「まずいって言うか。美味しそうだな」
エンプール:「いや、俺はそういう意味で使ったわけじゃないんだけどね」
エミリオ:「わかっている。だが、今は仕方がない。全てが食料に関することに自然変換されるんだよ」
エンプール:「飢えてるね。まぁ、俺も人のことは言えないけれど」

 じゃあ、倒しますか、とエンプールは常備している細身の剣を構えた。
 エミリオも格闘用ガントレットを僅かに前方へと押し出した。しかし、二人の様子にはどこか余裕がある。
 それもそうだろう。化け物はその体を一つたりとも動かしてはいなかった。ただ、静かに存在しているだけなのである。攻撃意思は感じられない。そもそもこの化け物に意思という概念すらあるのか疑問であった。
 立ちっぱなしのでくの棒相手に警戒する必要はどこにもなかった。
 エンプールは軽やかに前へ踏み出した。跳躍するように化け物へと駆け寄る。そのまま剣を振り下ろして――
 周りを肉片に囲まれた。
 瞬時に視界から姿を消したエンプールに危惧を感じて、エミリオはガントレットで彼の周囲に出現した肉片を引きちぎる。
 彼の腕を掴み、無理やり外へと引きずり出した。

エミリオ:「おい! あんた!」
エンプール:「あ、ああ。びっくりした」

 エンプールは目を瞬かせている。

エミリオ:「びっくりしたじゃねぇ! 油断してんじゃねぇよ!」
エンプール:「そんなつもりはなかったんだけどね。困ったな。自覚できないほどに疲労しているみたいだ」

 エンプールを掴んだまま、エミリオは急いで敵との距離をとる。
 安全だと判断してから、ようやくエミリオは彼から手を離した。

エミリオ:「どうも、あれ、トラップみたいな感じらしいな。ある一定の距離に近づけば起動するような」
エンプール:「要するに近づくことはできないと言うわけか。どうしようか?」
エミリオ:「何、考えがある」

 エミリオはショートソードを天井へと掲げた。全身から青黒い炎が噴出したと思うと、その炎はガントレットとショートソードに纏わりついた。二つの武器は強い力を宿し始める。
 ブラックバーン・フィードバック……炎の拡散。
 飛び散った炎は、その高熱で化け物の体を瞬時に燃やし尽くした。

エンプール:「さすが」

 エンプールは感心する。手を叩いて相手を賛美している。
 ゆっくりと首をねじり、エミリオはエンプールを見た。口を持ち上げて、勝利の笑みを浮かべようとして。
 エミリオの意識が薄まってゆく。
 暗転する直前、焦燥したエンプールの顔が視界に映った。

<5・うっかり>

 エミリオは目を開けた。
 冷たい床の感触がある。鮮やかになっていく視界を凝らし、辺りを見てみれば、封印の行われた場所から移動していないようだった。

エンプール:「大丈夫?」

 エンプールの声だ。穏やかである。
 エミリオは体を持ち上げた。静かに尋ねる。

エミリオ:「あー、糞、俺も本当にぎりぎりだな。封印は?」
エンプール:「終わったよ。キミのおかげだ。ありがとう」
エミリオ:「あんたがいなきゃ、俺は途中で力尽きていたよ」

 それは事実である。あの時、階段から足を踏み外して落ちてしまえば、体にかかる負担は大きいものになっていた。

エミリオ:「ま、結果よければ良し、だ。これで全てが終わったんだからな」

 エミリオの言葉に、エンプールは残念そうに表情を曇らせた。

エンプール:「それが全て終わってないんだよ」
エミリオ:「は? どういうことだ?」
エンプール:「ここには食料はない」
エミリオ:「そうだな、ないな。……アッ!」

 エミリオは気づいた。顔を青ざめさせる。

エンプール:「そうなんだよ、この空腹状態のまま、俺たちは仲良く階段を降り、封印の塔を出て、食事のできる場所まで行かなければならない」
エミリオ:「あんた、食料持ってこなかったのか!」
エンプール:「うっかりしててね。キミは?」
エミリオ:「……」

 無言は肯定と同様である。つまりエミリオもうっかりしていた、ということだ。
 二人して同時にため息をついた。

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【ライター通信】
こんにちは、初めまして。酉月夜です。
受注どうもありがとうございます。

二人の仲良くなる過程ということで、二人一緒に頑張らせてみました。
こう、親しくなる前の微妙さを、うまく雰囲気として出せたらな、と思います。
二人のキャラクターはとても書いていて楽しかったです。

今回は本当に有難うございました。
またの機会がありましたらよろしくお願いします。