<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【月空庭園】月の輝く夜に


 花は何故咲く。
 何時の時でも色鮮やかに変わりなく。

 どの地であろうとも。
 何処の国であろうとも、変わらずに。
 其は何故の色合いか。




「っと……ああ、邪魔しちまったかな?」
「いいや? 見ての通り暇を持て余していてね……だからこそ、一杯のお茶を勧めることも出来るわけで」
「そっか、そいつは何より」
 ひょろりと体を揺らし、オーマ・シュヴァルツは、目の前に立つ青年を見た。
 月夜でなければ、また、青年の瞳が黒であったなら見過ごしてしまったであろう黒尽くめの青年……歳はさて、いくつ位なのかとオーマは一瞬考えるがソーンでは外見年齢が内面年齢と等しく同じではない事、また、人に見えようが違う可能性もある事も知っていたので、直ぐに、考えを止め、辺りを今一度、見た。

 気まぐれの門、そう言われている門だった。
 あまりに気まぐれに開くので、次に見に行こうと思う時には閉ざされてしまっていると。
 道を思い出そうにも何処の一本を辿れば行けたのかさえ忘れてしまう事があるのだと。

「こうなっていたとは、思わなかったな」
 呟いて、知らず知らずの内になるほど、と思う。月夜に咲く花なのか、白い可憐な花たちがそよそよ、夜風に揺れている。
「……意外だったかな?」
「ああ、そう言う意味じゃなくってな。確かに意外かもしれないが――、見れないことに比べたら何ともない。納得できたんでな」
「納得?」
 首を傾げながら青年は、オーマを導くように、こちらだと言うように手招く。
 花々の間にある小道を歩けば、嗅いだことのない芳香、夢の中に置いてきたように馨る。
「良く言うだろう? 見ないから興味がある、見ちまえば後は……ってか……無論悪い意味でなく」
「気にしていないよ、確かに見えないから不思議だと思うものは多く存在しているからね、何時の世でも」
「ああ」
 手招かれた場所へつくとオーマは椅子へと座る。夜ゆえ、音を立てないようにして座るが、それでも少しの軋んだ音が響いて、苦笑を浮かべてしまう。
「こいつは……中々、アンティークな作りのようだな?」
「どんなに静かにしようとしても夜では大きく響くものだよ」
 そうかも知れないがなあ…等と言いつつ、差し出された紅茶を一口。
「美味い」
「それは良かった……お替りなら充分にあるし……さて、じゃあ、どのような話を聞かせてくれるのかな?
「そうだな……今は珍しい花となってしまった話なんてどうだ?」
「面白そうだね……是非」
「ああ。じゃあ…何処から話すべきか……まずは、その花の名前から―――……其処から始めるか」

 ルナリアと言う花があった。
 過去形になるのはその花の名が、今はもう何処にもないからだ。
 今から八千年程前……ゼノビア、と言う国があって……まあ、とりあえず国の名前とか覚えといてやってくれ。此処ではない場所だし、アンタには意味がないかも知れんが…って。
 不意にオーマは言葉を止め、真向かいに座る青年を見た。
「そういや、俺はアンタの名、聞いてねえなあ……ついでに名乗ってもいなかった。俺はオーマ、オーマ・シュヴァルツ。見ての通り……異邦人で、オヤジだ」
「ああ、確かに…私の名は、カッツエ。"猫"と言う意味を持つらしいよ…良くはしらないが…主が好きでね」
「カッツエって言う言葉がか?」
「いいや――、猫が。で、そのゼノビアから何故、ルナリアと言う名前は消えたんだい?」
「ある事象が起きてな……ロストソイル、と言われているが…其処からその花は希少価値へと姿を変え、更には名を変えた」
「へえ……」
「その花をルベリア、と。偏光色に輝く花――、ある伝承を持つ花。元々は万能薬・呪い事に使っていた花だが……希少価値になって以来、見つけたものは伝承による力を借りようとする、実際、俺も……」
 そう言って、げふんがふんと謎の咳をするオーマ。
 当時、自分へと贈ってくれた彼の人の真摯な顔を思い出してしまったのだ。
 不適に微笑うでもなく、じっとオーマを見つめ、花を差し出してくれた、彼の人を。
 そうして、無事に彼の人がウォズ討伐より帰って来た時、オーマへ向かい言った言葉を。

 ――顔の真摯さと比べると台詞が微妙に痛いんだが。

 が、それでオーマの「今ある人生」が確定したのだから、人生って解らない…じゃあなくて、楽しいものだとも思う。
 想いを寄せてくれる人と絆を深めていける事の何と心地よい事か。

 そう。
 ルベリアの花が持つ伝承、それは。
 想う人に贈ると永久の想いと絆で結ばれると言う物であり、それはまた、想い人に限らず、友情でも他の感情でも良いのだ。
 絆を作ろうとする想いさえあれば、花は答え、如何様にも深まっていく…善きにつけ、悪しきにつけ。

「…中々、興味深い過去を持っているようだね」
「は…はは。まあ、人生長いからな」
「伝承は聞かずとも何となく解ったような気もするけれど、ルベリア、と言うのは――」

 こういう、花かな?
 カッツエが問い掛けた途端、白い花が消え、庭園に一面のルベリアの花畑が現れた。




「へえ…こりゃあ、見事だ。どう言う術なんだ?」
「思い出を具現化出来る…と言うと解りやすいかな。月夜の晩だけ見れる風景…人の思いが作る、風景と」
「ふんふん……そういや、言い忘れたんだがルベリアの種はソーンに運ばれててな」
「へえ……では今度、外へ出て探してみようかな?
「ああ、そりゃあいい。是非探してみてくれ…何、直ぐに見つかると思うが……」
 でも、と言葉を置きながらオーマは話を続ける。
 希少価値の花だから種から育てるにせよ根付くがどうかは多少の不安があったんだ……が、まあ、以外にもルベリアは此処の土に順応し、見事な、花を咲かせた。
 そうして、それは瞬く間に有名となったが。

(誰にだって秘密が一つくらいはあって……いいものだよな?)

 ルベリアが最も美しく咲く場所。
 此処を誰かに教えた方が良いかと考えたものの、そのように思い直し、一番美しい場所は、オーマたちだけの秘密の場所となった。

 互いを受け入れ、受け入れられる場所として。

 ああ、なのに。
 此処に、ルベリアの花が見える。
 自分の記憶の中に残る一番に美しい、色合い。
 プロポーズの時に差し出された白く輝く花……討伐へ行くのだと見送った背と共にある、色。

 そうして。
 まだ、愛すべき全ての者と別れることも知らず幸せで満ち足りていた色も見え……ルベリアは、まるで万華鏡のごとく様々に色を変え、オーマを驚かせた。

「ここまで色を変えてくれるのか……嫌になるね」
「何が?」
「俺の中にも、こうして美しいものが残っていたって事がさ。こう言うモンは何処か別の場所に捨ててきたかと思ってた…今、幸せだしな」
「人によって美しいものと言うのは違うだろう? 幸せと言っても、今と昔では違うものさ」
「……これらは俺にとっての善きものって事か?」
「そう。秘めているからこその色、そして、オーマさんだけの色」
「ふん……中々面白いな……あれだな、実はいつもの俺はオヤジモード一直線なんだが……」
 時には、こういう風なのも良いものかもしれない。
 いつもとは違う場所で、夜、茶を飲みながら過ごすと言うものも。

 喉の渇きを少し覚え、カップに口をつけると冷めてしまったお茶。構わずに飲み干すと温かいお茶が注がれて。
 さわさわ、花が揺れ、色が躍る。

「……私もね」
「あん?」
「中々面白かったよ、興味深い話を聞けて、更には美しい花も見させてもらったからね……」
「そう言ってもらえりゃ幸いだな」
 にっと微笑うと、笑みを返し「ちょっと待っててくれるかな?」とカッツエは席を外した。
(どうしたんだ?)
 が、何か用事があるのだろうとオーマは温かなお茶を飲み、様々な事へ想い馳せる。
 ソーンの世界にゼノビアの花が根付いた事、ウォズの侵入と、阻むべくある自分の立場と。
 愛すべき日常ももちろんだが、本当に自分一人の身にも色々な事があるのだと花を見て気付いたのだ。
(気付いたってどうしようもねえけどな)
 火の粉は振り払う為に、そして、この手は護る為にあるのだから。
 ややあって、オーマの目の前に赤い色が飛び込んできた。
 赤の、サルビア。
 夏の終わりに咲いた最後の鮮やかさが、何かを訴えかけるようで、暫くの間ルベリアの色の移り変わりさえも見ず、じっとサルビアの赤を見ていた。
「…これは?」
「話を聞かせてもらったお礼に。それと」
「?」
「瞳の色にも良く似合ってると思って……と言うのは冗談にして。何となくね、この花がオーマさんには相応しい様な気がしたんだよ」
「花言葉はあるのか?」
「――家族愛、と」
 愛すべきものが全て連なり、揺れている。
 そんな、サルビアに相応しい花言葉のようでオーマは手を軽く叩いた。
 パンッ、と乾いた音が響く。
「へえ……気に入った。おし、さっきの言葉撤回するぜ、カッツエ」
「さっきの?」
「外に出りゃ直ぐにルベリアの花が見れるだろって奴さ」
 まるで手品のようにオーマはルベリアの花を掌から出現させ、手渡した。
 自然、カッツエの瞳が丸くなる。
「え? え?」
「友情でも絆は有効ってな……友の絆の証に」
 何時でも何処でも、何をしてようとも絆だけは変わらないさ――、オーマは豪快に笑い、サルビアの花束を抱き締めた。
 まるで、小さな子供を抱き締めるように、優しく。





 花は何故咲く。
 何時の時でも色鮮やかに変わりなく。

 どの地であろうとも。
 何処の国であろうとも、変わらずに。
 其は何故に。

 想い故に。
 ――人の数の想い故に、花は咲き……色、映してゆく。



―End―

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男性 / 39歳(実年齢999歳)
/ 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【NPC:カッツエ】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
オーマ・シュヴァルツ様、こんにちは、初めまして。
ライターの秋月 奏です。
今回はこちらのゲームノベルにご参加、誠に有り難う御座いました^^
参考に、と言ってくださったノベルも有り難う御座います。
ルベリアのお話など、とても楽しく拝見しまして…私で果たして良いんだろうか、と
うんうん頭を抱えつつも楽しく書かせていただきました。
元々、オーマさんは雰囲気のあるPC様ですから、私の書くオーマさんでは口調など、
違和感があるかもしれません…その際はどうぞ、テラコンなどでお教え頂ければ幸いです。

最後に。
カッツエへルベリアの花有り難う御座いますv
本人、口にだしませんが嬉しいようですので…またどうぞお手すきの時には
逢いに来てやっていただけますと喜ぶかと。

それでは、今回はこの辺にて失礼させていただきます。
また、何処かで逢える事を祈りつつ。