<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


鏡の迷宮

------<オープニング>--------------------------------------
「エスメラルダ、良い情報持ってきたぜ」
「いらっしゃいロッド。久しぶりね」
 ステージを終え一息入れていたエスメラルダは、久しぶりに現れた青年を見て艶やかに微笑んだ。
「今日はどんな良い情報を持ってきたのかしら?凄腕情報屋のロッドさん」
 エスメラルダの問いに、ロッドは鞄から何枚かの資料を出すと、にやりと笑みをうかべた。
「今日の情報は一攫千金も夢じゃない、宝探しの話だ」
「宝探し?」
 不思議そうな表情をうかべるエスメラルダに、ロッドは頷いた。
「ああ、宝探しだ。その情報を調べてみたところ、どうやらその宝は持って帰れない物らしい。どういう訳だかな」
「持って帰れない宝って何なのかしら?それほど高価な物、または大きな物ということ?」
「さあな。その辺の情報はさっぱりだ。だがその宝がある場所の情報は少しだけ資料がみつかったんだ」
 そいつがこれだ、とロッドはエスメラルダに先程取り出した資料を見せる。
「その宝は光と闇によって作られた、鏡の迷宮と呼ばれるところにあるそうだ」
「なんだかすごい場所にあるのね」
 無事に帰ってくるのが難しそうね、とエスメラルダは苦笑する。
「迷宮っていうぐらいだからな。中の造りは複雑なんだろうな。ま、資料があるってことはちゃんと帰ってきたやつがいるってことだ。多分大丈夫だろ、ここに来てる人なら」
 辺りを見ながらロッドは、頼んだ酒のグラスを片手ににやりと笑んだ。
「宝を確かめに行きたいっていう好奇心と度胸のある人、いるかな?」

【1】
「ふわぁ……今日もえらい客が入っとるなぁ」
 久しぶりに黒山羊亭を訪れた少女は、きょろきょろと辺りを見回した。どこを見ても人人人……人だらけである。
「エスメラルダはんに舞台ちーっと借りよう思ったのになぁ」
これじゃあ無理やねぇ、と入り口に突っ立ったまま溜息をついた。
「どうかしましたか?何か悩んでいる様子ですが」
「ん?」
 後ろから聞こえてきた声に少女、ミュウは不思議そうな顔をして後ろを振り返った。すると、そこには眼鏡をかけた温和そうな青年が立っていた。
「あぁ、大した悩みやあらへんから。気にせんといて」
「そうですか?それならいいですが」
 ぶんぶんと左右に手を振って否定をするミュウに、眼鏡をかけた青年、アイラスは安心したように笑みをうかべた。だが……
「いーや!それは良くないねぇ。小さな悩み事でもどどーんと解決させなきゃねぇ」
二人の後ろからどーん!と威勢の良い声が話に割って入った。
「ここは一つ桃色ドッキドキ☆腹黒スーパー親父に相談してみねぇか?」
 でーんと腕を組んで構えた男性、オーマはにぃっと笑みをうかべて言う。
 堂々と構えるオーマに、ミュウは少し驚いたように彼を見上げた。
「おっちゃん誰や?」
「おう!よくぞ聞いてくれました!俺はオーマ・シュヴァルツ。聖都公認腹黒同……うおっ!?」
 率直な質問にオーマはなぜか嬉しそうな笑みをうかべると、嬉々として名乗り始めた……が。
「おっさん!入り口に突っ立ってねーで早く中入ってくれネェ?後つかえてんだけど」
 後から来た銀髪の青年にげしっと蹴り落とされたために、みなまで言えなかった。ちなみに、アイラスとミュウはちゃっかり避けたようで無事である。
「ほんまに忙しいところやねぇ黒山羊亭は」
「これは特殊な例ですけどね」
 階段下に落ちているオーマの様子を見ながらミュウが呟くと、アイラスは苦笑をうかべた。
「お、アイラスじゃん。おっさんと酒飲みに来たの?」
「こんばんは、紅瑠斗さん。ええ、そんなところです」
 咥えていたタバコを手にとった銀髪の青年、紅瑠斗は顔見知りの青年をみつけてにっと笑うと、次はアイラスの隣ぐらいにいたミュウに視線を向ける。
「可愛い子がいるネェ。名前は?俺は紅瑠斗」
「うち?うちはミュウ・テティスや。よろしゅう頼むわ」
 ナンパにもとれる発言を特に気にした風も無く、ミュウは紅瑠斗に笑顔で返した。
「いきなり蹴り落とすたぁひでぇじゃねぇか」
「あぁ?んなところにいるおっさんが悪ぃんだろ」
 大したダメージも無かったのか、セリフとは裏腹に笑顔をうかべつつ、オーマが階段の下から紅瑠斗に文句を言うと、紅瑠斗はタバコを咥えて文句を返す。
「まぁそいつぁいいとしてだな。そろそろ席につこうぜ」
 だが、紅瑠斗の文句をそこそこに切り上げさせると、オーマはこっちに席を用意してあるからよ、と階段の上の面々に向けて言った。
 入り口付近にいた三人は、オーマの発言を聞いてそうだな、と納得して階段を降り始めたが……ふとアイラスはあることに気付いてオーマに問いかける。
「オーマさん、訊いてもいいですか?」
「おうよ!何でも訊いてくれ」
 階段下についたところで話し掛けられ、オーマはアイラスの方を振り返った。
「席が用意してあると言いましたが、ミュウさんと紅瑠斗さんとはここで偶然遭ったんですよね?二人の分の席も用意してあるんですか?」
「訊きてぇことってのはそのことか」
 アイラスの疑問にオーマはにっと、意味有り気な笑みをうかべた。
「なーに、そのことなら心配ねぇさ。今日は女王様が一緒だからねぇ。席は余分にとってあるのさ」
「女王様?」
 オーマの発言にアイラスは誰のことを言っているのかわからず、疑問の表情をうかべる。
「行けばわかるってな。席は奥のほうだ。お!女王様の他に一人先客がいるようだねぇ」
 背の高いオーマからは予約してある席が見えたようだ。
 オーマを先頭に、混雑している席の間を通り抜けた三人は、広いテーブルに足を組んで座っている華やかな女性と、肩ぐらいまで真っ直ぐな銀髪をのばした少女の姿をみつけた。
「遅いわ。一体何をしていたの?待ちくたびれちゃったわ」
「こんばんは!お邪魔してます!」
 はあぁぁ……と文句言いたげに溜息をつく女性、ユンナと、元気に挨拶をしてぺこりと頭を下げる少女、カルン。
「可愛いお嬢さんがいるねぇ。俺はオーマ。よろしくな」
「わ!ありがとうございます……!わたしはカルンっていいます。よろしくお願いします」
 オーマに可愛いと言われたカルンは、嬉しそうに笑顔をうかべた。
 そんな微笑ましい光景の隣では、アイラスが成る程……と一人納得していた。
「女王様というのはユンナさんのことでしたか」
 そしてその隣ではおお!とばかりに目を輝かせた紅瑠斗の姿が。
「今日は美人が揃ってるネェ」
 ちょっとキツめの美人も、天然の入ってそうな可愛い美人も紅瑠斗の好みの範疇である。
「すごいなぁ。一人で来たのに今日はぎょうさん知り合いができたで」
 その隣ではミュウがなぁ?と肩にいるイリスに同意を求める。
 周りの迷惑にならないように、とその場の面々は歓談もそこそこに適当に席につくと、まずはお互いの自己紹介から始まった。
「みなさんお揃いのようね。こんばんは」
 自己紹介が終わると、タイミングを見計らっていたのか、エスメラルダがいつものように艶やかな笑みをうかべて現れた。
「よぉエスメラルダ。忙しい時間帯に予約して悪かったねぇ。助かったぜ」
「いいのよ。常連さんのためだもの」
 飲み物のオーダーを取りながら、エスメラルダはにこりと笑顔をうかべた。
「ところで、そんな常連さんに依頼の話があるのだけど。いかがかしら?」
「依頼?いいねぇ。どんな依頼もガッツリこなしてやるぜ」
「僕も受けたいですね。どのようなものか聞くのが先決ですが」
 オーマとアイラスがもちろん、といった笑みをうかべると、エスメラルダはくすりと小さく笑った。
「いつも頼もしいわね。では説明をといきたいところなのだけど、説明はロッドから聞いてね。ここへ来るように言っておくから」
 エスメラルダはそう言うと、次の仕事があるからとオーダーを持って奥へと行ってしまった。
 それから程なくして、エスメラルダの代わりにロッドが六人のもとへと姿を現した。
「久しぶりだな、オーマ、アイラス、紅瑠斗。今日は随分と大所帯で。全員依頼参加希望者か?」
「おう!久しぶりだねぇロッド。随分と姿を見なかったが元気そうで何よりだぜ」
「お久しぶりです、ロッドさん」
「そういや久しぶりだったネェ」
 ロッドと会ったのはもう去年のことだったか、と思いながら三人は返答する。
「依頼に参加するかどーかは話してから決めんじゃねーの?」
「ま、それもそうだな」
 紅瑠斗の言葉に気が早かったか、とロッドは苦笑すると、空いている席をみつけて座った。
「今から依頼について説明するが、参加するかしないかは任せるぜ。飯食べながらでいいから興味があったら聞いてくれ」
 ロッドは前置きを言うと、少し間をおいてから話し始めた。
「今回の依頼、というかこれは情報なんだが。一攫千金も夢じゃないほど高価な宝が、鏡の迷宮というところにあるらしいんだ」
「お宝!?」
 説明はまだ始まったばかりだというのに過敏に反応したのは、ミュウであった。元は海賊船にいただけに宝というものには弱いらしい。
「お宝ゆーたら海賊の血が騒ぎますわぁ♪それはどないな宝なん?宝石か?金貨か?それとも……」
「……ミュウさん、最後まで説明を聞いてから質問したほうがいいと思いますが……」
「あ……」
 キラキラと目を輝かせて夢を膨らますミュウに、アイラスが苦笑して止める。ロッドがミュウを見て呆れたような笑いをうかべていたので。
「すまんなぁ。お宝言う言葉を聞くとついつい……」
 謝りながら苦笑すると、ミュウは手元にあったお冷を傾けた。
 ロッドは目でアイラスに礼を言うと、続きを話し出した。
「その宝について質問があったから先に言っておくが、その宝はどうやら持って帰れないものらしいんだ。なぜ持って帰れないのかはわかってないが。そして、その宝がある鏡の迷宮は光と闇で作られたところらしい。こちらも詳細はわかっていないけどな」
 ちなみに資料はこれだ、とロッドは古めかしい本を六人の前に提示する。
「迷宮のある場所はこの本に載ってる。が、それ以外の詳細情報はほとんど無いな。迷宮内は恐らく一筋縄ではいかないぐらい複雑な造りをしているんだろうが……まぁ資料があるということは帰ってきたやつもちゃんといるってことだ。何が起こるか分からないが、上手くやれば大丈夫だろうよ」
 説明は以上だ、とロッドは資料から顔をあげて六人を見た。どうする?と。
「持っては帰れない宝ですか、面白そうですね。鏡の迷宮とやらにも興味がありますし、ご一緒させていただけますかね?」
「あら、何だか面白そうな話しね?いつもならペットにもでも使いに出させるのだけれど、今回は特別に私直々に出向いてあげようかしら。だけれど、つまらない宝だったら承知し・な・い・わ・よ??」
「「持って帰れない」なんて、どないな宝なんやろね〜。植物とか、綺麗な景色とかでっしゃろか? 何にせよ、ソーンに来てから初めての宝探しやさかい、楽しみやわ〜」
「やっぱよ、宝つったら腹筋踊り狂う魅惑の親父レア筋アイテム★っつーのが聖筋界冒険アニキ浪漫じゃねぇかね?」
「ヘェ、宝探しね。一攫千金なんてモンは興味ねーケド、面白そーじゃん。持って帰れないものって言うんだから鏡の迷宮にしか存在できないモノってコトだよな? 光がドッカから入って迷宮自体が巨大な万華鏡みたいになってるとかだったらおもしれーのになー」
「鏡の迷宮って綺麗なところなんだろうなぁ…見てみたいなぁ……。綺麗なところにあるお宝だから…やっぱ金銀財宝?綺麗な宝石がいっぱい転がっているのかな?」
 ロッドの無言の問いかけに、六人はというと……行く気満々の様子である。誰も訊いていないのに宝物の予想までされている。
 それぞれの宝の予想を聞いたロッドは思わずぷっと吹き出すと、耐えられずに声をあげて笑い出した。
「まぁみんなで行って、宝がなんなのか見てきてくれ。で、後で俺に教えてくれないか?」
 そしたら情報料はとらないから、とロッドは笑い止むと言った。
 そんなロッドの言葉にオーマはどーんと胸を張った。
「おうよ!ちゃんとロッドの分も見てきてやるぜ」
「…オーマ、あんたコレの存在忘れてるのかしら?」
「……」
 どーんと胸を張ったオーマに、ユンナは具現能力を使ってカメラを出すとオーマに突きつけた。
「カメラに収まるぐらいの物だったら撮ってくるわ、ロッド。そうすれば行かなくても実物の宝が見れるもの」
 こうすれば物を写すことができるのよ、とユンナはロッドに説明をしながらオーマにある意味を込めた視線を送った。
 カメラの説明を聞いたロッドは少々驚きつつ、手にとって眺めていたが、そうそうと言ってアイラスに本を手渡した。
「ま、そういうことでよろしく頼むよ。迷宮の冒険が終わるまで本は貸しておくから」

【2】
 ロッドから依頼を引き受けた二日後。六人は本を頼りに鏡の迷宮へと向っていた。
 依頼を受けた次の日に出ようと考えていた四人であったが、アイラスとミュウが調べ物をしてから出発したい、ということで一日おいたのである。
「我侭言うてごめんなぁ。やっぱ行くからには調べてから行ったほうがええ思うてなぁ」
「わぁ……!すごいです!こんなに資料みつけたんですか!?」
「それほど多くの情報をみつけることはできなかったのですが、関連すると思われる情報を抜き出してきました」
 歩を進めながらアイラスとミュウが何枚かの資料を出して見せると、カルンが驚いて歓声をあげた。
「ふーん……鏡の迷宮っつーのは魔法が関与してるんだネェ」
「どうやらそのようです。その記述が確かであれば、鏡の迷宮は昔、ある賢者が魔法によって作り出したものだそうです」
 資料を見ながら言う紅瑠斗に、アイラスが応える。
「魔法によって作り出されたもの、ということはその賢者が生きていなきゃ今はその迷宮って存在しないんじゃないのかしら?」
「いい質問ですね、ユンナさん」
 紅瑠斗との会話を聞いていたユンナは、すかさずアイラスに向けて疑問をぶつける。魔法で作られたものならば、魔法を行使する人がいない限り、その迷宮は魔法が切れていて存在しないことになる。
 そんなユンナの質問にアイラスは笑顔で答えた。
「その賢者は鏡に魔法を組み込み、半永久的に作動するように仕組みを作ったようです。よって、魔法によって特殊な効果を得た鏡を使って作られた迷宮なので、今も確かに残っていると思います」
「ふーん、そうなの」
「なぁアイラス。そういう資料が残ってるってぇことはだ。他にもこの迷宮のある場所を知ってて、行った人ってぇのがいるんじゃねぇのか?」
 今度はユンナの質問の答えを聞いて、オーマが質問をする。
「そうですね……その可能性は否定できないですね」
「ってぇことはだ。元のまま残ってないってことも考えられねぇか?」
「……その可能性も否定できないですね」
 鋭いオーマの指摘に、アイラスは苦笑をうかべた。
「でもなぁおっちゃん。鏡の迷宮の場所、ロッドはんから借りたこの本にしか載っておらへんかったんよ」
 苦笑をうかべているアイラスの横からひょいっと顔を出したミュウが、ほれ見てみいと自分の持ってた資料を渡す。
「なるほどねぇ。確かにミュウの言う通り、他に場所の載ってる資料は無いねぇ」
「そうなんですか?あ、わたしも見てみたいです!」
 オーマはロッドから借りた本を見て、ミュウから渡された資料を見て確かめると、その隣でぴょんぴょんとジャンプして、なんとか資料を見ようとしているカルンに笑みをうかべて資料を渡す。
「ありがとうございます!……わぁ……本当だ!ここにしか載ってないですね!」
「そうやろ?」
 一生懸命に本と資料を見比べているカルンに、ミュウはにこっと笑みをうかべて同意を投げかけた。
「ま、そういうことやおっちゃん。鏡の迷宮いうのを知っとる人はいるかもしれへんが、場所まで特定されてるとは限らへんってことや。それにこの本にしか場所が載ってないいうことは、ある場所を特定できた人は極僅か。行ける人も極僅かってことやろ?」
「つまりミュウは元のまま残ってる可能性の方が高いっつーのが言いたいんだろ?」
「そういうことや」
 要約ありがとな、とミュウは紅瑠斗に言いながらオーマを見上げた。
「ねぇミュウ。後どれくらいで着くのかわかるかしら?」
 随分歩いたわよね、とユンナは歩きながらミュウに問いかける。
 六人が本の示す山に入ってから数十分、ずっと上りの道無き道が続いている。いつになったら着くのか、そろそろ気になり始めたようである。
「えーと、ちょっと待ってな。この方角を歩いてきて、大体これぐらいのはずやから……」
 ユンナに問われてミュウはカルンから本を返してもらうと、持参してきたコンパスで方角を確認し、進んでいる速さと距離に見当をつけると、この辺や、と地図を指差した。
「さっきおっきい岩の二つ三つ並んでるところを通りすぎて来たから間違いないと思うで」
「ああ、そういえばあったわね。こんな形の岩が」
 地図に目印として描かれていた岩の形を見て、ユンナは頷く。
「ではもう少し行ったところに入り口が見えてくるはずです」
「地図によるとこの先に行き止まりがあるらしいんよ。そこが入り口やと書いてあってな」
 本を見ながら歩くミュウとアイラスを先頭に、四人は地図が示す場所へと向っていく。
「あ!あれやな」
 位置確認をした場所からそれほど歩かないうちに、岩の壁に囲まれた、入り口と思われる縦穴が見えてきた。
「あれ?横幅がすごく狭いです」
「高さはあるのに、おかしいわね」
 縦穴の前に着いた六人は、その不思議な形の入り口に不思議そうな表情をうかべていた。
「なんとか通れるだろうけどよ。高さがあって横幅が無い洞窟の入り口なんて初めて見たぜ」
「今までにいろいろな所へ行きましたが……こういう入り口の洞窟は初めてですね」
「なんか意味あるんやろか?」
「魔法となんか関係あるんじゃネェの?」
 岩壁にぽっかりと開いたその入り口は、人一人が通れるぐらいの幅の、高さが一番背の高いオーマよりもある。
「ここに突っ立っててもしょーがネェし。行ってみようぜ」
「そうですね。この中のことは本には記されていませんし、行くしかなさそうですね」
「じゃあ俺が先頭を行くぜ」
 六人は、オーマを先頭にカルン、アイラス、ミュウ、ユンナ、そして最後尾に紅瑠斗といった順で入り口をくぐっていった。

「うわぁ……!綺麗綺麗っ!すっごい綺麗っ!」
「これ全部鏡で出来てるんか?」
「どうやらそのようね。あら、入り口で引っかけたのかしら?嫌だわ、もう」
 中に入るとそこは、一面鏡張りの世界であった。壁、床、天井、何処を見ても自分の姿が映っているのが見える。合わせ鏡の効果もあり、それほど広くない空間も目の錯覚でかなりの奥行きがあるように見えている。魔法の効果のためか、日が入っていないのにも関わらず辺りは真昼のように明るい。
 天井からぶら下げられた、鏡で出来たシャンデリアをみつけて思いっきりはしゃぐカルンに、張られた鏡を確認するかのようにコンコンと叩くミュウ。そして張られた鏡を見て入り口で髪の毛を引っかけてしまい、不機嫌そうに結い直すユンナ。
「魔法の組み込まれた鏡ってぇ言っても普通の鏡と変わらないねぇ」
「このシャンデリア、とても精巧なものですね」
「なんだか万華鏡の中にいるみたいだネェ」
 髪を直すユンナの隣で、オーマは腕を組んで辺りを見回し、アイラスはシャンデリアを見上げて見分している。紅瑠斗ははしゃぐカルンを見て笑みをうかべながら、合わせ鏡の空間を見回した。
「そろそろ先へ進みましょうよ。宝が何なのか早くはっきりさせたいわ」
「そうだネェ。じゃ行く……うおっ!?」
 髪の毛を結い直し終わったユンナは、まだ辺りを見回している面々にそう言うと、先へ続いているだろう道に向って歩き出す。
 ユンナの意見に賛同した紅瑠斗は、ユンナの後に続いて歩き出した。が、しかし……ふいに何かに跳ね返されて尻餅をついてしまった。
「っつー……んだよコレ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
 突然のことに対処できず、まともにぶつかってしまった紅瑠斗を見ていたカルンが慌てる。
「? なんやこれ?部屋の真ん中に見えない壁があるんか?」
 部屋の真ん中辺りの空間を叩いてみるミュウ。彼女の手は空をきらずにゴンゴンと何かにぶつかり、拒まれている。
 そんな様子を見ていたオーマたちも真ん中の空間に向って手を伸ばしてみる。
「ホントだねぇ。見えねぇけどここに何かあるな」
「部屋の真ん中で区切られているということは……入った時から既に別々の空間にいたようですね」
「もしかして、ここの入り口が狭かったのはそのせいなのかしら?」
 ぺたぺたと何かにあたる感触に全員が不思議そうな顔をする。同じ空間にいたはずが、いつの間にか分かれさせられていたとは……。
「俺たちはそっちに行けねぇし、お前さんたちはこっちに来れない。となると別行動しなきゃってぇことだねぇ」
「そういうことになるんやろな」
 こっちにも道があるで、とオーマの意見に賛同しつつ、ミュウは奥を示した。その道は、オーマたち側とほぼ同じぐらいの位置にあった。どうやら部屋の真ん中を基点として、対称に作られているらしい。
「じゃーこっちはこっちで動くからよ。どっかで合流出来たらしよーぜ」
「わかりました。三人とも気をつけてくださいね」
「そっちもな」
 やれやれと立ち上がった紅瑠斗はそう言うと、行動するのは早かった。
 アイラスにミュウが答えると、オーマチームと紅瑠斗チームはそれぞれ自分たちの進路の通りに奥へと進み始めた。

【3】
「ぜってー反則だよな、アレ……」
「そうやねぇ……不意打ちもいいところやったからなぁ」
「おでこが赤くなってますけど大丈夫ですか?」
 オーマ達と分かれて歩き出した紅瑠斗、ミュウ、カルンの三人は、辺りを警戒しながら歩いていた。
 タバコを咥えてぶつくさと文句を言っている紅瑠斗に、ミュウは賛同し、カルンは紅瑠斗を心配そうに見上げている。
「ん?あぁこんぐらいヘーキ。ありがとなカルン」
 にっと笑みをうかべて、ポンポンとカルンの頭を撫でる紅瑠斗の姿に、ミュウはくすくすと笑う。
「なんかほんまの兄妹みたいやなぁ。同じ銀髪やし」
「えぇ!?そんなの紅瑠斗さんに悪いですよっ!」
 ミュウの発言にカルンはぐっと拳を握って、慌ててそう言い返す。
 カルンの発言に、紅瑠斗とミュウは一瞬きょとん、とした表情をうかべたが……次の瞬間、二人は一斉に笑い出した。
「え?え?」
 何がおかしくて二人が笑っているのかわからず、カルンは二人の顔を交互に見て困った表情をうかべている。
 そんなカルンの様子に二人は笑いを収めると、カルンを見た。
「うちの姉貴も相当な天然だけどよ。カルンも相当な天然だな」
「カルンはんかわええなぁ」
 今度は二人に頭をポンポンと撫でられ、ますます混乱しているカルンに、紅瑠斗は言った。
「全然悪くネェよ。カルンみたいな可愛い妹だったら大歓迎」
「うちもカルンはんみたいな妹欲しいなぁ」
 にっと笑みをうかべていう紅瑠斗と、笑顔をうかべて言うミュウに、カルンは少し照れた様子で言った。
「あ、ありがとうございます……っ!」
 こんな調子で三人が一面鏡張りになった通路を進んで行くと、次第に二手に分かれる道が見えてきた。
「まいったなぁ……二手に分かれてしもうたで」
「わわ!どっちに行ったらいいんでしょうか……?」
 道の分岐点に立った二人は、両方の道を覗いてきょろきょろとしている。
 光の加減、道幅、見た目……どちらの道も全く同じ造りをしているため、余計にどちらを選んだ方が良いかわからない。
「紅瑠斗はん、どう思う?」
 すぱーっとタバコを吸っている紅瑠斗を、ミュウは振り返って尋ねる。
「んーそうだネェ……」
 ふーっとタバコの煙を吐き出した紅瑠斗は、左右の道をキョロキョロと見比べると、すっと右側の道を指差した。
「俺はこっちだと思うけど?」
「えぇ!?何で断言できるんですか?」
 迷いもせずに右の道を指した紅瑠斗に、カルンは目を丸くして問う。どうして?と。どうやらミュウも訊きたかったらしく、うんうんと頷いている。
 二人の問いに紅瑠斗は新しいタバコを咥えながら答えた。
「あ?なんでわかったかって?そんなの勘だよ勘」
「え!?勘であれだけ断言できるんか?」
「うわぁ……すごいです!」
 紅瑠斗の答えに二人はおお!と歓声をあげた。断言できるのがすごい、と。だが……
「っつーのはまぁ冗談だって」
紅瑠斗の次の一言で二人は思わずこけそうになった。
「冗談かいな!」
 しかし、ミュウは踏みとどまり、紅瑠斗にびしっと突っ込みを入れる。流石、である。
 ミュウから突っ込まれた紅瑠斗は、軽く笑い声をあげると二人を見た。
「ま、勘っつーのもあるけどな。断言できた理由はコレ」
「? タバコの煙ですか?」
 新しく火をつけたタバコから立ち上る煙を指す紅瑠斗に、カルンは首を傾げた。
「煙っつーのは風に流されてくだろ?っつーことはだ。風が通ってる方に向えば何かあるんじゃネェの?」
 ただそんだけ、という紅瑠斗にカルンとミュウは成る程と納得したようだ。
「では早く行きませんか?何があるのか楽しみです!」
「そうやね。ほな行こか」
「何があるかわかんねーから気をつけていけよ?」
 先頭に立って歩き出した二人に、紅瑠斗は保護者のような笑みをうかべると自分も二人の後に続いて右の道へと進んで行った。
 三人が右の道を進んでいって程なくして、左の道は何事も無かったように消え去っていた。
 その後も分岐点が何度かあったものの、紅瑠斗のタバコの煙が流れるほうに三人は進んで行った。行き止まることがないのだから、あっているんだと。
 そうして何度目かの分岐点を通り過ぎたところで、紅瑠斗がぴたっと足を止めた。
「何かあったん?」
 紅瑠斗が突然足を止めたのを見て、ミュウが問う。
「何か感じねーか?魔物とか獣とかそういう気配のよーなやつ」
「んー……わたしは戦闘のことさっぱりなんでわからないです」
「そう言われればなんか妙な気配感じるような気がするわ……」
 全然わからない、と苦笑するカルンの隣で、ミュウは辺りを見回した。
「この辺に異常はあらへん。ということは……」
「この先ってことかネェ」
 紅瑠斗はやれやれと溜息をつくと、赤みのかかった結晶を手にとり、力を解放した。
「わっ!すごい!かっこいいですっ!!」
「うわぁ……紅瑠斗はん、不思議な力が使えるんやねぇ」
 手に炎を纏った剣、紅刃を具現化した紅瑠斗を見て、二人はおお!と歓声をあげた。
「ちなみにうちはこれや」
 紅瑠斗が剣を装備したのを見て、ミュウも銃を取り出した。
「わぁ……!ミュウさんもかっこいいですっ!すごいなぁ……」
「銃が使えんのか。じゃ、何かいたら遠距離攻撃は任せるぜ」
 にっと紅瑠斗は笑みをうかべると、行くか、と歩き出した。
「任せとき!ほな行くでカルンはん」
「は、はいっ!」
 ガチャリと滅多に使わない実弾を装填したミュウは、そうカルンに言って歩き出した。
 ミュウに言われてカルンは返事をしてから歩き出したが……影でこっそりと溜息をつき、しかしぐっと拳を握った。足手まといにならないように頑張ろうと。
 二人いわく、妙な気配のする方へと三人が歩を進めることしばし……。次第に鏡に囲まれた広い空間が見えてきた。
「……勘が当たっちまったな」
「見事やなぁ紅瑠斗はん」
 鏡に囲まれた空間の全貌が見えてくるに従って、妙な気配のするものの正体も同時に見えてきた。
 妙な気配の主の姿を見て、紅瑠斗は苦笑をうかべ、ミュウはほんまにおる、と少々驚いた表情をうかべた。
 二人が見た妙な気配のするもの、それは……。
「うわ……あれ、ゴーレムってやつですか……?」
「多分な」
 二人が嫌そうな表情をうかべているのを見て、カルンはその後ろからこっそりと覗き、目を丸くした。
「本でしか見たことないんですが……おっきくて、キラキラしてるんですね……!」
「いや、キラキラはしてへんよ?ゴーレムゆうのは石で出来てたり土で出来てたりするのが一般的やからな」
「まさか鏡で出来たゴーレムがいるとはネェ」
 ゴーレムに気付かれないようにコソコソと意見を述べる三人。そして……
「あのゴーレム、ぜってーおっさんが欲しがるぜ」
「あのゴーレム、おっちゃんが欲しがりそうやなぁ」
「あのゴーレム、オーマさん好きそうですね……」
考えついたことは同じだったのか、見事な三重奏の意見が。
 三人三様の意見をお互いに聞いた三人はやっぱり、と笑い顔をうかべた。
「ま、欲しがるおっさんはいねーしよ。とっとと片付けて先行こうぜ」
「そうやな。先に進む通路が見当らんちゅうことはあれを倒さなあかん言うことや」
 冗談も程ほどに切り上げると、紅瑠斗はにっと笑みをうかべてゴーレムの横へと走り出す。それを見て、ミュウはゴーレムの正面に出ると、注意を向けるために一発撃ち込んだ。
「さぁこっち……!?」
「危ないっ!」
 ミュウの一撃は狙い違わずゴーレムの肩に命中した。だが、ゴーレムに当たった銃弾はそのまま跳ね返されミュウの頬をかすめた。
「……冗談きついなぁ。うちの実弾跳ね返すぐらい固い鏡なんか」
 頬にできた赤い線を拭いながら、ミュウは苦笑をうかべた。
 ミュウの実弾が跳ね返されたのを見ながら、紅瑠斗は紅刃を振りかぶると、思いっきりゴーレムのわき腹へと叩き込む。しかし……
「!?」
紅刃はひゅんっと空を切っただけで、ゴーレムにダメージは無い。
 ゴーレムが自分の方を完全に向く前に紅瑠斗は退くと、ミュウたちの所まで戻る。
「どーなってんだアレ」
「うちにもわからへん」
 ゆっくりと三人の方へ向ってくるゴーレムを見ながら、紅瑠斗とミュウは少々焦りのある表情をうかべた。自分たちの攻撃が通用しないのでは……と。
「……あの」
「あ?」
「なんやカルン」
 二人の後方に下がって見ていたカルンが、じーっとゴーレムを見ながら話し掛ける。
「あのゴーレムっておっきく見えるだけだと思うんです」
「? どういう意味や?」
 カルンの発言にミュウは銃を前方に向けたまま、振り返った。
「さっきミュウさんの銃がゴーレムの肩に当たったとき、すぐに跳ね返って来なかったんです」
「……」
 実弾が跳ね返ってくるまでに時間があった、というカルンの意見を聞いて、紅瑠斗はしばらく考え込んでいたが……
「ミュウの銃は当たって俺の紅刃は当たらなかった……で、弾が返ってくるまでに時間があったっつーことは……」
辺りの景色を見て、あ!と声をあげた。
「なるほどネェ。そーいうこと」
「何かわかったん?」
 大分距離の詰まってしまったゴーレムから離れつつ、紅瑠斗は笑みをうかべると怪訝な表情をうかべているミュウに言った。
「あぁ、多分だけどよ。あのゴーレム、骨組み以外は虚像で出来てんじゃねーかと思うんだよな」
「骨組み以外虚像で出来とるって……あぁ!そやからうちの銃跳ね返したんやな」
 紅瑠斗の説明に納得がいったのか、ミュウはぱっと顔を明るくした。
「それで紅瑠斗はんの剣が空振ったわけやな」
「ま、そーいうことだな。っつーことで」
 紅瑠斗はゴーレムに向って駆けると、通り抜けざまに紅刃を揮った。
「コレでこいつは片付いたな」
 床にくず折れたゴーレムを見て、紅瑠斗は満足そうな笑みをうかべた。今度はしっかり決まったので。
「すっごいです!!一撃でしたねっ!」
「強いなぁ紅瑠斗はん」
 紅刃を結晶に戻した紅瑠斗に、カルンははしゃぎながら、ミュウは感心しながら駆け寄る。
 そんな二人の反応に、より満足した紅瑠斗は上機嫌な様子で言った。
「まあな。じゃ、行こーぜ?あっちに扉が出来たみてーだし」
「あ!いつの間に!?」
 奥のほうにいつの間にか大きな扉が出現していたのを見て、カルンは驚いて目をまるくした。
「そうやな。おっちゃんたち待っとるかもしれへんしなぁ」
 カルンの反応に笑みをうかべながらミュウは紅瑠斗の意見に頷いた。
「それにしてもカルンはん、ようわかったなぁ。助かったで」
「カルンの案がなかったら危なかったな」
「わわ!そんなことないですよ!わたしは何もしてないですし!」
 二人の発言にカルンは手を振って否定するが……紅瑠斗もミュウも十分、といった様子でカルンの頭をポンポンと撫でた。
 扉の前に着いた三人は、早速扉を押し開けた。すると……そこには先程分かれたオーマたちの姿が見えた。

【4】
「これで全員揃いましたね」
「待たせちまって悪かったな」
「そんなのいいってことよ。じゃ、あの扉を開けてみようかねぇ?」
 ようやく合流できた六人は、オーマの意見に頷いた。
 前方にある扉の前まで行くと、オーマがその扉を押した。先程は押しても引いてもびくともしなかった扉だが……。
「あ!開いた!」
「六人揃ってないと開かへんようになってるんやね」
「随分凝った仕掛けね」
 扉が開いたのを見て、カルンが歓声をあげ、ミュウがなるほどな、と納得し、ユンナはふーん……と感心した様子で扉が開ききるのを見ていた。
 扉が開ききったところで、六人は一斉に歓声をあげた。なぜなら、扉を開けたそこに広がっていたのは……
「すっごいっ!すっごく綺麗っ!!!」
「見事ですね」
「洞窟の奥にこんな所があるなんてねぇ」
「姉貴が喜びそうなところだネェ」
「こないな花見たことないで!綺麗やなぁ」
「これだけの種類をよく集めたものね」
花々が我よ我よと咲き誇り、緑の葉が伸び伸びと育っている、花と緑の溢れる大庭園であった。
「ようこそ、試練を乗り越えた勇者様たち」
「あ!」
 見事な光景に目を奪われていた六人の頭上から、軽やかな声が降ってきた。
 六人は声に反応して上を見ると、そこには真っ白な天使の羽を持った女性が、長い金髪を風に流して降りてきた。
 ふわっと六人の前に舞い降りると、女性は微笑んで言う。
「ここはある賢者が作り出した、魔法の庭園です。ここにある物は全て幻影魔法によって構築されています。植物も、そしてわたしも」
 女性の言葉に六人は驚いて女性を見返した。
「幻影魔法?ここにあるもの、あなたを含めた全てがですか?」
「どう見たって本物にしか見えないんだけどよ」
 アイラスとオーマの言葉に、女性は答えた。
「はい、ここにある物全て。先程あなた達が通られてきた、光と闇の鏡の迷宮も幻影魔法です。この庭園に使われている幻影魔法とは違い、鏡の迷宮に使われている幻影魔法は心の強さを見るために構築されたものです」
「心の強さを見るためっつーのがここが作られた目的ってことかネェ?」
 女性の説明を聞いていた紅瑠斗はふと思ったことを訊いてみる。
 すると女性はそれもあります、と答えた。
「ですがこの鏡の迷宮は本来、強い志を育てるための場所です。自分を見つめ直し、自分の弱いところを知り、それを克服する……そして自分のこれからを考えること……それがこの場所が作られた目的です」
「じゃあこの庭園も何か意味があって作られているのね?」
「はい」
 ユンナの質問に女性は頷いた。
「この庭園は来る人によってその姿を変えます。その大きさも」
「? どういうことや?姿も大きさも変わるなんて」
 女性の言葉の意味がわからず、ミュウは首を傾げた。
「この庭園に生きる植物は、来た人のこれからの可能性を表わします。人数により大きさが変わり、人によって花の種類、咲く数が異なります」
「可能性を表わす庭園……」
 カルンは目に映る花々、草木を見ながら呟いた。六人のこれからの可能性がこの広い庭園に溢れているということは……。
「今までこの庭園がこれほど賑わったことはありません。皆様の未来は可能性に満ち溢れているようですね」
 女性は満面の笑みをうかべると、ふわっと羽を広げた。
「わたしは役目を果たしましたのでこれで。皆様はごゆっくりどうぞ」
 丁寧にお辞儀をした天使は上空に舞い上がるとその姿を風と共に消した。

「確かに持って帰れない宝物でしたね」
 鏡の迷宮から出てきた六人は満足したような表情をうかべていた。
 アイラスの言葉に、四人は肯定した。
「すごかったな。俺たちの可能性があんなにあるとはネェ」
「すっごく綺麗でしたね!また来たいなぁ」
「そうね。今度はオーマ抜きで来たいわ」
「そいつぁ俺のせいじゃないと思うんだがなぁ」
 にっと笑みをうかべる紅瑠斗、あまりの綺麗さに感動したカルン、オーマから視線をそらしつつ溜息をつくユンナと、そんな総帥の様子に苦笑をうかべるオーマ。
「ほな帰ろうか。ロッドはんに報告もせなあかんし。黒山羊亭帰ったらお疲れさんパーティーしような」
 漫才を繰り広げているオーマとユンナの姿に四人は笑っていたが、ミュウの提案を聞いた六人は、誰からともなく顔を見合わせると、元気の良い賛成の声を山へと響かせた。
 意気揚揚と山を降りていく六人を見て安心したのか、太陽は月にその座を明渡すように山の間に沈んでいくのであった。
 


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2647 / ミュウ・テティス / 女性 / 18歳 / 船付き楽師】
【1649 / アイラス・サーリアス / 男性 / 19歳 / フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男性 / 39歳 / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2083 / ユンナ / 女性 / 18歳 / ヴァンサーソサエティマスター 兼 歌姫】
【2238 / 月杜・紅瑠斗 / 男性 / 24歳 / 月詠】
【1948 / カルン・タラーニ / 女性 / 18歳 / 旅人】

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■         ライター通信          ■
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  いつもありがとうございます、月波龍です。
  納品が遅れてしまいすみませんでした。その分楽しんでいただけるように頑張りました。
  もし至らない点がありましたらご連絡ください。次回執筆時に参考にさせていただきたいと思います。
  楽しんでいただけたようでしたら光栄です。
  また機会がありましたらよろしくお願いします。