<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【砂礫工房】 捻れの塔の大掃除 1


------<オープニング>--------------------------------------

「よーし、掃除くらいしないと管理任されてる人間としてダメだよねー‥‥」
 気合いを入れて冥夜が捻れの塔の掃除を決意する。
 相変わらず塔の捻れ具合は変化し続けており、何階まであるのかも分からない。更に、言えば侵入者対策の仕掛けの止め方も未だに解明されてはいない。
 しかし放置すればする程、内部の埃は溜まっていくばかり。
 仕掛けの攻撃を避けつつ掃除を一人で行う事など到底不可能だ。
 ここは一つ協力者を募ろうではないか、と冥夜は思い立った。
 全てを解明された訳ではない捻れの塔は、隠し部屋なども多数有り行く度に違う部屋を見つける事がある。宝探しなどにももってこいだ。これなら冒険者も掃除をしながら楽しんでくれるに違いない、と冥夜は一人頷く。
「一緒に面白楽しく掃除をしませんか‥‥でいいか」
 これでよし、と冥夜は砂礫工房の入り口にぺたりと紙を貼り付けた。


------<砂漠の家>--------------------------------------

 どうしたものか、とロー・ヴェインは一人ぶらぶらと歩いていた。表情にも態度にも出てはいないが、現在弟に叱られやさぐれ状態で放浪している所だ。行くあてはない。
 事の発端は、ローが客に顔を覚えられないという事にある。
 客に顔が覚えられないから商売にならない、と弟はローに言うのだった。しかしこれはロー本人にもどうにも出来ない事で、弟も十分分かってはいるのだがつい口から出てしまったのだろう。
 商売にも向かないローは居ても邪魔になるだけだと、追加で弟の小言が吐き出される前に隠れ家を出てきたのだった。
 そして今に至るのだが、何も考えずに歩いてきたローはふと見知らぬ場所に居る事に気付いた。
 気付けば足下には砂。風が吹くたびにさらさらと砂が足下から流れていく。
 しかしローにはそれほど遠くに来た感覚はない。今から戻ろうと思えば戻れる位の距離に感じた。しかし振り返ってみても、そこに今来た道はない。
「おかしなものだな……」
 幻術やその類のものではない事はわかるが、どういう原理なのかまでは分からない。
 その時、ローの脳裏に浮かぶのは砂漠の中にある屋敷のことだった。別の空間との狭間に位置するらしい場所。そしてそこにはなんでも屋を営んでいる少女と変人が住んでいるらしい。そんな噂を先日耳にしたのを思い出す。
「……行ってみるか」
 ここで考えあぐねていても仕方がない。
 もしかしたら何か必要があって招かれたのかもしれない、とローは思う。幸い、前方にはオアシスの中に埋もれた屋敷が見える。少女と変人の住む屋敷とはその屋敷の事で間違いがなさそうだ。別の空間との狭間に来てしまったのなら、背後に道がない事も頷ける。
 後ろに道がないのならば、前に進むしかない。
 よし、と覚悟を決め一歩を踏み出したローの背後から、聞き覚えのある声が飛んできた。
「あれ? ひょっとして……ローさんですか?」
 振り返ってみるとそこにいたのは以前依頼で会った事のあるジークフリートだった。何故吟遊詩人のジークフリートがこのような所にいるのだろう、とローは顔にこそ出さないが驚く。
「お久しぶりです。その背の高さはローさんかなって思ったら当たりだったみたいで良かったです。これで間違ってたら恥ずかしいですね」
「あぁ、久しぶりだな。それよりも……後ろ姿で分かるのか……?」
「んー、癖みたいなものですかね? 恥ずかしいんですけど、ローさんの顔を思い出せなくって。声や服装はバッチリだったんですけどね。でも職業柄会った方は記憶にとめておきたいので、顔が思い出せないと後ろ姿で覚えてしまうんです。背格好で結構分かったりしますから」
 なるほど、とローは感心したように頷いた。
 顔が覚えられないなら後ろ姿で覚えればいい、とローは今度弟に会った時に言おうと心の中でこっそりと思う。

「ところで、こんなところでどうしたんですか?」
 仕事中ですか?、と問われローは首を振る。
「いいや。気付いたら此処に出ていた。後ろには戻れないようだから、前へ進もうと思っていた所だ」
 そう言いながらローが目の前の屋敷を指差すと、くすり、とジークフリートが笑った。
「ローさん、呼ばれてしまったみたいですね。実はボクもあの家に住んでるんですよ。それとボクもよく分からないんですけど、黒山羊亭付近を歩いていて波長が会うと、この砂漠に出てしまうみたいです」
「原理がわからんな」
「実はボクもさっぱり。でもきちんと戻れますから安心して下さい」
 せっかくだしお暇だったらお茶でもどうですか?、とジークフリートに誘われローは頷く。実際、暇を持てあましていたのだ。不思議なことに巻き込まれても、迷惑どころか暇つぶしにはもってこいだと思う。
 ローはジークフリートに促され、砂漠の中にある屋敷へと向かったのだった。


------<大掃除>--------------------------------------

 屋敷の前に辿り着くとジークフリートが首を傾げ、扉に貼られたチラシを眺める。
 そこには『捻れの塔の大掃除。一緒に面白楽しく掃除をしませんか?』との文字があった。
「これは冥夜だと思いますけど……」
 気にせずどうぞ、とジークフリートが中へと案内する。ローが足を踏み入れた瞬間、奥から黒髪のツインテールを揺らし猛ダッシュをしてきた少女が居た。
「いらーっしゃーい! アタシと一緒に掃除……て、あれ? ジーク?」
 隣にジークフリートが居る事に気づき、冥夜がきょとんとローとジークフリートの顔を見比べる。
「もしかして冥夜、外の張り紙……呼びましたか?」
「あ、うん。暇してて、力がありそうな人が来ればいいなーって」
 にゃはー、と笑う冥夜にジークフリートが頭を抱える。
「ローさんがここに迷い込んだのは冥夜の仕業だったようです。スミマセン」
「いや、それはいいが……人手がいるのか?」
 ローは冥夜に向き合い尋ねる。すると冥夜は目を輝かせながら頷いた。
「そうなの! 暇だったら捻れの塔の掃除を手伝って貰えたら嬉しい。なんていうか、仕掛けが一杯で隠し部屋もあちこちあって、なんだか分からないけど何処かにお風呂も付いてたりして吃驚ドッキリな塔なんだけど。これがまた汚くて……一応塔の管理人のアタシが掃除しないといけないかなーと思ってるんだけど、一人じゃ無理だから……」
 お願い出来ないかな、と冥夜がローを見上げる。
「分かった。手伝おう」
「ホント? やったぁ!」
 ぴょん、と飛び上がり喜ぶ冥夜は、ジークもよろしく、と告げたのだった。


 かくして、ローと冥夜とジークフリートの三人で捻れの塔へと向かう事になった。掃除道具は冥夜が準備しているらしい。外に停めてあった車を指差し、冥夜が乗るように告げる。
「これで行くのか?」
「そうだよ」
 その言葉を聞いてジークフリートの顔がみるみる青ざめていく。ローはそれを横目で不思議そうに眺め、どうした?、と片眉を上げた。ジークフリートが恐る恐る声を上げる。
「あの……まさかまた冥夜が運転を?」
「あったりまえじゃん。だってジーク運転出来るの?」
「できません……けど……あの、ローさんは?」
「船なら大丈夫だが……これは分からない」
 ローに期待を寄せていたのだろうが、ジークフリートはがっくりと肩を落とした。そしてローに涙目で告げる。
「しっかりと掴まっていて下さいね。冥夜の運転は本当に凄いんです。もうボク、毎回恐くて恐くて……」
 あぁ、とジークフリートに頷いてみせながら車へと乗り込む。その隣にジークも収まった。
「それじゃ、出発進行〜! いっけぇー」
 ぐいっ、とアクセルが踏まれシートに身体が押さえつけられる感覚。タイヤをきゅるきゅると鳴らしながら、冥夜は目的地まで爆走したのだった。

 着いた時にはジークフリートはぐったりとしており、ふらふらと足下が覚束ない。道が悪い所を高速で走るものだからかなり車は揺れる。それに加え冥夜は極度のスピード狂らしく直線では思い切り速度を上げ突っ切っていく。その運転にジークフリートは精神的にも疲れたのだろう。確かに毎回これでは大変だろう、とローはジークフリートを憐れんだ。
 ローはよろけるジークフリートを支えてやりながら、目の前にそびえ立つ塔を見上げる。捻れの塔というだけあって、本当にぐるぐると頂上の方まで捻れていた。
「これね、捻れを止めると崩れちゃうんだって。そのせいで毎回入る度に階数が違うし困っちゃうんだけどね」
 冥夜はそう言いながら塔の入り口を開ける。よっこらせ、と冥夜が扉をあけると床に降り積もった埃がその分だけ移動した。見れば数センチ程埃が積もっている。
「これは……やりがいがあるな」
「あははは。冥夜ちゃんも吃驚。でもローって掃除とかするの?」
 あんまりやりそうに見えない、と冥夜は言うがローは苦笑気味に告げた。
「船という限りある空間では、掃除や整理整頓は至極当たり前の事だ。船長である私からやらなければ、他のものに示しがつかないからな……」
「そっか、そういうもんなんだね」
 軽く頷き、ローは低い部分を冥夜とジークフリートに頼み、自分は上の方を受け持つ事を伝える。
「ありがとうっ! アタシ、小さいからさー。ホント、ローって背が高いから良いよね」
「不便な事もあるが……」
「皆、無い物ねだりなんですよ」
 漸く復活したジークフリートがくすくすと微笑んだ。

「どこに仕掛けがあるかよく分からないから、皆気をつけてね。この間は突然上からボールが降ってきたりして大変だったんだ」
「……分かった」
「それじゃ、大掃除開始!」
 皆よろしく〜、と冥夜は告げいそいそと床の降り積もった埃を集め始めた。
 ジークフリートも冥夜から遠い場所ではたきをかけ始める。その更に上の方をローは掃除し始めた。

 今のところ何も不思議な事は起こらない。仕掛けがあるのは嘘なのではないかと思い始めていた時、冥夜が声を上げた。その声に被さるように聞こえる、ぜんまい仕掛けの音。
「ちょっ……皆伏せてっ!」
 冥夜の声にローとジークフリートがその場に身を屈める。その上を巨大なボールが通り過ぎていった。振り子のようになっているらしく、今度は角度を変えてやってくる。
「冥夜、これって……」
「多分、どこか触った時にスイッチ入ったんだと思う」
「壊しても?」
「大丈夫。アタシも毎回壊してるから」
 それはどうなんだ、と思いつつもローはカットラスを取り出し、その振り子の速度に合わせて高さを調節すると腕を振るった。振り子の軸部分は木で出来ていたのか、一度の攻撃で粉砕され、ボール部分は振り下ろしたついでにローによって割られている。割られたボールが床の上に落ち埃を盛大に舞わせた。
「すごーい! 一撃で粉砕しちゃった……武器持って掃除してたんだ」
 埃まみれになりながら、冥夜が楽しそうに手を叩く。その埃を払ってやりながらローがほんの少しだけ笑みを浮かべ、困ったように告げた。
「これか? 癖のようなものでな……」
 ぽん、と自分の愛用の武器を軽く叩くロー。機能性重視のその武器は、日常生活の上で動きの妨げになる事はない。
「でもそのおかげで助かっちゃった。気をつけて掃除しないとね。次はどんなの来るか分からないんだけど」
 可愛らしく舌をぺろっと出した冥夜は、払ってくれてアリガト、と告げてボールの破片を片付け始める。上の方まで舞い上がった埃をはたきで取るジークフリートも必死だ。
 しかしこの勢いならば、埃まみれのこの塔も案外早く片づくかもしれない、とローは思い、自らも掃除に精を出したのだった。


------<それから?>--------------------------------------

 それからも何度かスイッチを入れてしまい、階段の上から流れてくる大量のボールや、階段を上っていると横から飛び出してくる木の棒などに邪魔をされたりと妨害を受けたが、なんとか無事に掃除を終える事が出来た。
 しかしそれは見た目だけだ。目に見える部分は綺麗になったものの、まだこの塔には未発見の部屋が多数あるらしい。
「結局お風呂とか他の部屋見つけられなかったね〜。どこにあるんだろ」
「そんなにこの塔の部屋の位置は変わるんですか?」
「変わるらしいよ。えーい、って押したら他に続く部屋が現れたりしてね」
 ケラケラと笑いながら冥夜が、足下のくぼみを押す。ジークフリートが止めようとした時にはもう遅かった。
 軽く押しただけなのにそのくぼみは下へと動き、塔内部に不気味な音が響き渡る。
「冥夜……! せっかく掃除し終わったのに……仕掛けが現れたらまた壊滅しますよ」
「ゴメンっ! うわー、今度は何が……って、アレ? ……扉……」
 次なる攻撃に備えローは構えていたが、その緊張を解く。冥夜が指差した場所には扉が続いていた。
「地下室への扉? やったー!」
 この塔には地下もあるのか、とローは小さく呟き何処までも高い塔を見上げる。
 上から下までこの塔は未だ謎に包まれている。それを少しずつ紐解いてみるのも面白いかもしれない。
 ローは冥夜に尋ねた。
「もしよければだが……この塔を少し探索させて貰えないか?」
「え? いいけど……此処結構遠いよ?」
「あぁ、ここに暫く泊まらせて貰えたらと思う」
「ちょっ……ローさん本気ですか? 死なない程度の仕掛けといっても、一気に発動させてしまったら命の危険がないわけじゃ……」
 分かっている、とローは告げる。
「なかなか面白そうだ。それに、食べ物はそこら辺の森で取れるだろうし問題ないだろう……」
「うーん、ローが大丈夫っていうなら多分平気なんだよね。いいよ、ここの鍵貸してあげる。ただし、たまーに連絡くれなきゃ駄目だよ。心配だから」
 よっこらせ、と冥夜は持参していた鞄の中から防寒用の毛布やら何やらを引っ張り出して、最後に鏡を取り出しローに手渡す。
「これね、うちの師匠の発明品。この鏡で冥夜ちゃんとお話が出来まーす」
 ここが発信器になってるの、と鏡の裏側にある突起を押すと冥夜が映る。本物の冥夜を見れば、ローと同じタイプの鏡を手にしていた。
「分かった。定期的に連絡はいれよう……」
「お願いね。あ、そうそう。他の人に連絡とかは?」
 ちらりと脳裏に弟や部下の顔が浮かんだが、今は内緒にしておいて雲隠れする事に決める。
「今は問題ない……」
「そう? ならいいんだけど。ま、そういう時の連絡にもこれを使ってね」
「相変わらずなんでも出てくるんですね……」
 冥夜がずるずると毛布を引きずり出した鞄の大きさは、毛布が入っていたようには全く見えない。冥夜の鞄は質量法則を無視し、欲しいものがなんでも出てくる鞄だった。
「まあね〜」
 さてと、と冥夜は時計を見て慌て始める。
「わわっ! 師匠が帰って来ちゃう。今度こそ捕まえないと!!!」
 でも扉が気になるー!、と冥夜は地団駄を踏む。
 ローはその様子を小さく笑い、この探索をする時はこれを使って行う事にしよう、と冥夜から渡された鏡を見せた。
「ホント? アリガトウ! ロー、優しい!」
 ぎゅっ、とローに抱きついてから冥夜はジークフリートを引っ張り、車へと向かう。
「えっ……ボクも一緒に帰るんですか?」
「当たり前でしょ。ジークには師匠を捕まえる手伝いして貰うんだから」
「えっ……あの、車じゃなくて他の手段で……」
 聞こえない、とジークフリートは冥夜に車に無理矢理乗せられる。
 助けを求めるようにローへと向けられる潤んだジークフリートの瞳。
 ローは、曖昧な表情でジークフリートの肩を軽く叩いた。頑張れ、との意味を込めて。
 こればかりはどうしようもない。
「それじゃ、暫く塔の管理はローにお任せするね。よろしく〜!」
「あぁ……」
「ローさん、ボク頑張ります……」
 走り出す前から半泣きのジークフリートに頷くロー。
「じゃーねー」
 冥夜の明るい別れの言葉は、勢いよく走り出した車から聞こえてくる。それに被さるように、ジークフリートの悲鳴が響いた。

 暫くいった所で冥夜が首を傾げる。
「あれ? おっかしいなぁ……ローの顔が思い出せない」
「やっぱり? ボクが前に会った時も同じで……何かあるのかもしれませんね、ローさんの事情が」
「背の高い格好良い人だってのはバッチリ覚えてるんだけど、その格好良い部分が思い出せない」
 なんか凄く悔しいんだけど、と冥夜は頬を膨らませる。
「ボクなんて、この間から後ろ姿ばかり思い出してしまいます。」
 それを冥夜は笑う。
「でもさ、覚えられないならまた会えば良いだけだし、関係ないよね。だって、何度だって会いたくなるじゃない?」
「まぁ、そうですね。一緒にいた事は確かですし、本当にいい人ですから」
「そうそう。早くまたローに会えるように、アタシもお仕事お仕事!」
 ふふーん、とご機嫌な様子で鼻歌交じりに冥夜は急ハンドルをきる。一気に横から重力がかかり、振り落とされそうになったジークフリートは必死に車体にしがみつき、さめざめと泣きつつではあったが事なきを得たのだった。


===========================
■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
===========================

【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】


●2190/ロー・ヴェイン/男性/32歳/海賊

===========================
■□■ライター通信■□■
===========================

こんにちは。 夕凪沙久夜です。
遅くなってしまい申し訳ありません。
再びローさんにお会いする事が出来てとても嬉しいです。

今回、連作希望との事でしたので塔のさわりの部分をご案内致しました。
まだまだ塔は謎に包まれておりますので、またの挑戦をお待ちしております。
これからローさんがどんな部屋や仕掛けを見つけてくれるのか楽しみです。

ありがとうございました。
またお会いできますことを祈って。