<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


ソーン買出し紀行

●アニキinニュアーゼル領事館
 ニュアーゼル地方と言っても、それが何処であるのかわかる者などはほとんどいない。だが、その領事館と銘打たれた屋敷に足を向ける者がいないわけではなかった。それはごくわずかな縁ある者と、屋敷の一角を改装したショップを訪れる者。また領事館の建物は通りに面しており、通りかかって店先に惹かれて立ち寄る者もいた。
 オーマ・シュヴァルツは単に買い物の途中だった。
 ピンクのフリフリエプロンは腹筋の割れた超がっしり系の体に似合っているんだかいないんだかというところで、見る者によってはやや異様な風体ではあるが、本人はまったく気にもしていなかった。
 るんたったってなもんである。
 下僕主夫モード中なので、この店に立ち寄った理由は何か安売りでもないかと思ったからだ。少しでも安く! が主夫の心得である。しかし残念無念、タイムサービスはやっていなかった。
 それでも、ずいぶんといい材質の割には安そうな生地を見つける。エプロンでも新調したら良さそうな丈夫そうで軽い生地だ。
 それを持って、会計に向かったが……
 店の奥では、オーマが店に入ってきたことにも気が付いてないんじゃないかと思うような様子で、店番らしき二人の青年が額をつき合わせてずっと話をしていた。
「……どうする?」
「そんなもの、どこに売ってるんですか」
「でも、ないってわけにも」
「正直に、用意できないならできないと言うしかないでしょう」
 どうも、他の客か誰かに無理難題をふっかけられていると思えるような様子だ。
「何が欲しいってんだい?」
「それは……」
 あ、と、そこで二人はやっとオーマに気付いた。このガタイが隣に立つまで気付かないというのは、重症っぽい。
 買うつもりだったものことも忘れて、オーマがあれやこれや聞きだした結果。どうやら知り合いの女の子に、やっぱり無理難題の品を用意するように命令されたらしい。ここは一つ、力になってやろうとオーマはうなずいた。
「よっしゃ、ちょっくら一緒に、るんたった大胸筋腹黒ダンシングソーン買出し浪漫☆とでもいくかね?」
「は?」
 いきなりのオーマ語は、二人には理解できなかったらしい。が、そんなことはオーマは気にも留めずに二人の腕を取った。
「え?」
「わ」
 るんたった強制連行。
 そんなわけで三人はソーン腹黒商店街へ。

●ようこそ腹黒商店街へ
 ソーンの中にこんなところがあったのかと、オーマの連れてきた二人はショックを受けたようだった。
 二人の名は、道々無理やり聞き出した。黒髪がイリヤで金髪がギリアンだ。
 ムキムキマッチョなオヤジとアニキが闊歩し、街角にはポージングの銅像が建つ。そんな商店街。
 その暑苦しい通行人の中をくぐって、目的のものを二人に差し出す。
「こいつが腹黒マッスル筋印のプロテイン。毎日一匙でムキムキアニキの出来上がりだ」
 オーマの後ろで、店番のブラックアニキがポージングしている。お買い上げありがとうらしい。
「……本当に筋肉をつける薬なんてあるんだな」
 ようやく、ギリアンが驚きから立ち直ったらしい。そう、感想を漏らす。誰が使うのかはわからないが、二人が探していた品の注文は『筋肉のつく薬』だった。
「薬って言うのはちっと違うな。まあ、栄養だ、栄養」
 あんたもいるかい? とオーマがギリアンに問う。
 少し悩んで、ギリアンは首を振った。
「ちょっとほしい気もするが……やめておこう。とにかく、助かったよ。いくらかな」
 筋肉店番に代金を払って、お釣りと福引券を受け取る。
「福引?」
「そいつぁあそこだ、聖都天然記念物人面草が当たるぜい」
「じ、人面草?」
 さぁさぁさぁとオーマはまた二人の腕を引っ張る。
「そいつが終わったら俺のアニキな買出しにも付き合ってくれよ」
 二人がうわぁ、という顔をしたのは、とりあえず無視することにするらしいオーマだった。

●お茶会しマッスル
 お礼にお茶でも飲んでいってくれ、と誘ったのはイリヤだったが、今テーブルを挟んで向かい合っているのはやっぱりイリヤとギリアンだった。
「おっまたせー♪」
 招待されたはずのオーマが、お茶を淹れに行っていたからだった。下僕主夫業中なので、そういうモードらしい。
「俺の故郷、ゼノビアの茶だ。ルベリアの花っちゅう珍しいもんでよ」
 どんどんどん、と豪快に置かれたカップの中には一瞬飲み物には見えない色の液体が入っている。科学の発達した世界の者なら、余計に飲むのは忌避しそうな偏光色だ。
 だがこの二人は、微妙な顔をしつつもカップを手に取った。
「想いを注ぐと色が変わる」
「想いを注ぐ?」
「こうやってな」
 カップを覗き込むように、オーマが手本を示してみる。すると鮮やかに色が変わっていく。
「こうか?」
 ギリアンが真似するようにしてみると。
「すごい色だな」
「へえ?」
 ギリアンの手のカップの中は透明感のある藤色になっていた。オーマはそれを覗き込んで、口笛を吹く。
「意外に中間色だな」
「どういう意味なんだ?」
「意外でもねぇか。綺麗系だもんな……女性的な面もあるんだろーなって」
 オーマの解説に、ギリアンが飲みかけていた茶を吹いた。
「心当たりがあるなら話聞かせてくれよ、え?」
 にまにまとオーマは問う。
「な、なんでもない」
「なんでもないってことはないだろ、なぁ?」
「な、なんでもないって!」
 その後、茶会が終わるまでオーマが追求を続けた結果。ギリアンは以前に手違いで、男性にプロポーズしたことがあるという話を聞くことができた。
 しかし、手違いなら気持ちとは関係があまりないので……
「ってことはよ、これはただ神経質とかそんなんかね」
「……だと思う……」
 追求に負けたギリアンは、持病の胃潰瘍がやや悪化したらしい。


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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【1953/オーマ・シュヴァルツ/男/39歳/医者兼ヴァンサー】

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         ライター通信         
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 大変遅くなりまして、申し訳ありませんでした。