<PCクエストノベル(3人)>


聖獣の乙女 〜アーリ神殿〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2079/サモン・シュヴァルツ/ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー   】
【2080/シェラ・シュヴァルツ/特務捜査官&地獄の番犬(オーマ談)   】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
ユニコーンの巫女

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 アーリ神殿。
 ユニコーンを祀るその神殿には、毎年幾多もの乙女がユニコーンに仕えるために神殿に迎え入れられているという。
 そして更に、その中でもユニコーンに選ばれた乙女はアーリ神殿で生涯を過ごす事となる。尤も、乙女たちは初めからユニコーンに生涯を仕えるつもりで神殿へ上がるため、外界へ出られなくともそれは最高の名誉として、憧れるものであるらしかった。
 そんな神殿には、あまり知られていないが、もうひとつ職務が行われていた。
 それは、年に一度、ユニコーンに限らず『乙女』と聖獣の守護の契りを交わす、というもの。非常に神聖な儀式なのだが、年に一度の事であり、選ばれるのが2人と言う事もあり、知名度はほとんど無いに等しかった。

*****

シェラ:「あたしと、サモンが?」
巫女:「はい」
 こくこく、と頷いたのは、街に出る買出し部隊に混じってやって来た、アーリ神殿からの使いと名乗る1人の少女だった。
 その巫女に、聖獣の乙女として選ばれたのがシェラ・シュヴァルツと娘のサモンだと聞いて、きょとんとするシェラ。
オーマ:「おう、昼メシ出来たぞ――――ぐはっ!?」
 そこへ暖簾を分けてひょっこりとエプロン姿の大男、オーマが現れ。びくッ、と体を竦ませてソファの後ろへ隠れてしまった巫女を気遣い、シェラが容赦なく客用の石で出来た灰皿をオーマの顎へ向けて手加減無しで投げつける。
シェラ:「ああらすまないね、手が滑ったよ。いいからあんたは下がっといで。あたしが呼ぶまで絶対に顔を出すんじゃないよ」
オーマ:「ふぁい…」
 口と鼻を押さえて、空気の抜けた声で返事をしたオーマがすごすごと下がって行く。それをじろりと見ていたシェラが、にっこりと穏やかな笑みに変えて、
シェラ:「もう大丈夫だよ。怖がらせてすまなかったね」
 おずおずとソファの後ろから顔を出した少女に言う。それから、思い出したように、
シェラ:「ああ、そうだ。サモンも呼ばれていると言ったね?ちょっと待っておいで、呼んで来るから」
 こくん、と落ちつかない様子で頷いた少女にもう一度笑いかけると、シェラが部屋を出て行く。
 しん、とした部屋で、がちがちに硬くなっている少女が、ふと目の隅に何かが映ったのに気付いてそちらへちらと目をやり――そして、硬直した。
 最初からそこにあったのか…いや、あったのなら気付かない筈の位置にちょこんと鉢植えがひとつ置かれており、さり気なく何気なく『顔』を横に背けながら、窓から注ぎ込む日の光を体に浴びていた。…人そっくりの顔を、気持ち良さそうにほころばせつつ。
巫女:「…きゅぅ」
 それがシュヴァルツ病院名物の『人面草』だと気付かないまま、少女は目を回して気を失ってしまった。

シェラ:「――で、この子が娘のサモン」
サモン:「……僕が、どうしたの…?」
 戻って来たシェラに息を吹き返してもらった少女の前で、すらりとした少年と見まごうばかりの少女が、無表情で母親に訊ねる。
 人面草は、少しずれた日の光を追いかけてちょっとずつ室内を移動している。それには慣れないため思い切り顔を背けている少女に、シェラが苦笑して「すまないね、あれは放って置いていいから」と言い、表情を元に戻した。
シェラ:「あんたからもう一度説明してくれるかい?二度手間になってすまないけど」
巫女:「い、いいえ」
 ふるふると首を横に振って、少女がまた最初から説明する。
 先日、アーリ神殿に年に一度のお告げが降って来た事を。それは今年選ばれた2名の『乙女』の名であり、その2人を神殿にて聖獣との守護の契りを結ばせるように、と言う話だったのだと少女がつっかえつっかえ言う。
サモン:「……僕が?人違いじゃ…ないの?」
 それを聞いたサモンの第一声がそれだった。
巫女:「い、いいえ、違います。母娘と言う話も聞いていますし、エルザードに住まう方で、同じ名前の母娘はおりませんでしたので間違いありません。…それで…その、来ていただけませんか?『ユニコーンの乙女』の選定と違って、突然のお願いですので、戸惑われるかと思いますけれど…」
サモン:「……そういう…ことじゃ、ないけど…」
シェラ:「いいじゃないかサモン。せっかく向こう様が選んでくれたんだし、そういうお出かけも悪くないだろう?」
サモン:「……う…ん」
 『仕事』以外では滅多に外に出ないサモンを外へ連れ出すいい機会だと、シェラがサモンの肩を抱いて微笑みかける。
巫女:「あの、それでは、もう一度午後にお伺いします。仲間の作業が済み次第神殿へ戻りますので…ありがとうございました」
 シェラとサモンの様子で了承と受け取ったか、少女が嬉しそうににっこりと笑ってぺこりと頭を下げ、きりっと表情を引き締めて外へ出て行った。
シェラ:「さ、用意しようかね。おっとその前に、しっかり食べていかないとね」
サモン:「………」
 こくん、と無言で頷くサモン。
 だが、その表情はあまり晴れ晴れとしていない。
 ――彼女の身体は、通常と違い、基本的に性別というものが存在しない。その事をサモン自身が意識した事はほとんど無く、過去に便宜上少年の姿を取っていた時でさえ便利とも不便とも思っていなかった。
 それが、この世界へ来て女の子という姿で定着しつつある今、今まで思いもしなかった『戸惑い』というものが少しずつ大きくなって来ていた。
 そして今日のこの誘いは、明らかにサモンを『女性』と見なしていると言う事。

 ――それで、いいのだろうか。

 家族と再会し、そして知人が増えていくに従い、今まで無駄と切り捨てて来た感情が成長していく。
 それは……今のサモンには、とても重く感じられていた。

*****

オーマ:「くぅぅぅぅぅっ」
 何処から取り出したか、ハンカチを噛んで悔しがるオーマ。
 昼食がすっかり冷えていた事を怒られ、言い訳しようとして反撃に会い、そして、
シェラ:『付いて来るんじゃないよ?』
 殺意の篭った笑顔で言われて、2人が行ってしまった後の事。
オーマ:「お、俺だって、俺様だってなぁ…っ」
 ユニコーンに恩を売った事だってあるんだぞおおおっ、と叫んでみても虚しくその声が散って行くばかり。
 やはり男という壁は崩せないのか、男子禁制のその場所に潜り込んで家族が受ける儀式と言うモノを見ることは叶わないのか――そんな思いで歯噛みを繰り返しているオーマ。
 その背から何気なく浮かび上がっているイフリートもまた、行き先がアーリ神殿と言う事でいじいじとオーマの背中にのの字を書いている。

 同じ部屋にいなかったオーマが、何故2人の行き先も、儀式の事も知っているか、と言うと、それは足元で高級肥料をマイ鉢に入れてもらって大満足な顔をしている人面草に、盗聴器の役割を果たしてもらったからだった。
 つまり、自分の身体をマイク代わりにし、伸ばした蔦の先にオーマがいて、キッチンでしゃがみながら聞いているという状態だったわけで。
 ――そんなのがバレたら半殺しでは済まないだろうに。
オーマ:「…決めた。行く。行ってやる。絶対に」
 ひとつひとつ言葉を区切りながら、オーマが立ち上がった。その目の中には炎が激しく燃え盛っている。
オーマ:「俺様――乙女になってでも神殿に入ってやる!」
 ぐ、と拳を握り締めながら、オーマはひたすら間違った方向へ闘志を燃やしていた。

*****

巫女:「――よくいらしてくださいました。聖獣の乙女たちよ」
 神殿の中は、儀式に備えてか、清浄な空気に満ち溢れていた。その中を流れる上品な香の匂いが、室内を清めるのに役立っている。
シェラ:「わざわざ選んで招いてくれたんだから。聖獣にも申し訳ないしね」
 シェラが、来る時から無言のままでいるサモンを横に並ばせて、にこりと年のいった女性へ笑いかける。
 その女性もまた、穏やかに微笑みを返し、そして儀式の場へと2人を案内した。
 遺跡を使用した神殿の中でも、特に静謐に満ち溢れた室内。
 よく見れば床の石畳からは小さな緑が顔を出し、抜け落ちた天井からは日の光がまっすぐに差し込んで来ているけれど、ここは巫女たちが丁寧に掃除をするためか、とても綺麗な部屋だった。
巫女:「さあ…中央の祭壇へ」
 そう言って2人を誘うと、2人分の小さな石造りの椅子へ座らせる。
巫女:「只今から、聖獣の乙女の儀式を執り行います。…皆様、儀式の間はお静かに」
 その言葉から、しん…、と静まり返った室内に、女性の祝詞が低くゆっくりと響き渡って行く。
 その声が次第に高まるに続き、中央の祭壇に座った2人の周りを、異なる光が取り囲んだ。シェラは赤、サモンは銀――そして、2人の姿が見えない程光が強く室内に広がって行く。
巫女:「………?」
 その時。その儀式を見守っていた1人の巫女の隣に、ずい、と新たな巫女が並んだ。
 この大事な儀式に遅れるなんて、と思いながらも、儀式の間乙女たちの意識を掻き乱さないように声を立てる事なく隣に非難めいた視線を向け――ようとして、ぴきりと固まる。
 居並ぶ女性たちの中でも頭がゆうに2つ分は高く、ひだが非常に多いドレスをぴっちりと肌に纏った長い黒髪の『乙女』が、すまし顔でその場に佇んでいた。
 乙女と呼ぶには、とてもとても抵抗があったけれど。
 顎の下までドレープをたっぷりと付け、まるでカツラのように少々手入れの荒い長い黒髪で顔を覆ったその『女性』が、あまりにも当たり前のようにその場に立っていたため、一瞬『彼女』に気付いた者は皆驚いたけれど、次第にとても珍しい大きな女性がそこに立っているのだと思い込んで、それ以上の追求はしない事に決めたようだった。

 いまや、光は激しく2人の『乙女』を包んで輝いている。ようやく2人がそれぞれ目を閉じていることに気付くくらい、その姿も表情も読み取れなくなっていた。
巫女:「さあ、乙女よ、聖獣の守護を受け入れなさい。心を楽にして」
 重々しい言葉だけが室内に響く。それに応じるように、ふわりと音も無く2つの聖獣がその威容を現した。
 シェラの上には、地獄の門を守ると言われる三つ首の猛獣、ケルベロスが。
 サモンの上には――ほんの少し姿が揺らいでいるようにも見えるが、その長い銀色の姿をくねらせながら乙女を見下ろしている龍の姿が。
 やがて、2つの姿がそれぞれの身体へと降りて行く。

 その時。

 ――ぱしぃんっ!

 ざわっ、と一瞬空気がざわめいた。弾かれたのは――サモンの上にいた聖獣。

 不満気にぐるぐると身をくねらせるその様子に、儀式の失敗が…という囁きが漏れ。ざわめきはゆっくりと大きくなって行く。
 その中でも、サモンの様子は明らかに変化していた。目を閉じたままきゅっと眉を寄せ、口を引き結んでふるふると小刻みに震える様子は、普段無表情なだけに、その苦しそうな様子は尋常ではなく感じられ。
 どうする事も出来ずにおろおろとその様子を見守っている巫女たちの間から、1人の女性がすっとサモンへ歩み寄る者がいた。
巫女:「儀式の途中ですよ――戻りなさい」
女性:「……いいえ」
 どこか作ったような、中途半端な高さと太さを併せ持つ声の女性が、静止の声を静かに、だがきっぱりと拒否してサモンのすぐ近くにまで歩み寄る。
 そこまで来てから、触れる事はせずに頭上でどうにかサモンへ降りようとしているナーガへと顔を上げ…女性にしては酷く逞しい横顔をちらと見せつつ、黙って聖獣に目と目を合わせる。
 無言で、睨みあうようにしている聖獣と女性。
 ――その僅かな時間の間に、何かが行われたのだろうか。ナーガはゆるやかな動きへと変化し、そして、目を閉じたままのサモンの表情がふぅっと穏やかになった。
女性:「すみません。儀式の続きを」
 そう言って再び巫女たちの間に入る女性を黙って見ていた年かさの女性が、こくりと頷いて再び祝詞を呟き始めた。
 そして。
 もう一度降り始めたナーガ…龍の姿を取った聖獣は、今度は成功したらしくゆっくりとその姿を消して行く。
 それを見て、ざわめきがまた上がり、
巫女:「落ち着きなさい。静かに、と言った筈ですよ」
 祝詞を唱え続けていた女性が、不意に起こったその出来事にも動じた様子は無く、穏やかに告げた。その言葉で巫女たちがはっと顔を上げ、そして再び室内に静寂が戻る。
 やがて――光が、消えた。
シェラ:「…ふう…」
 深い息を漏らした2人がぱちりと目を開けて、そして何かに気付いたように自分の手のひらと腕を見る。
 そこにあるのは、1つずつの装具のようなもの。
 シェラには、どこか可愛らしささえ感じられる、三つ首の犬が彫られた手首よりも細い金属製の輪。その大きさに首を傾げていたシェラが、何かを思いついたように突如その手に巨大な鎌を取り出して、輪を近づけた。途端、手に持つ輪が輝いて、次の瞬間鎌の柄にぴたりと輪が収まっているのが見えた。
シェラ:「…ふうん」
 鎌を振って見ても重さやバランスに変化は無いらしい。そんな犬の輪ににこりとシェラが笑いかけて、そして鎌はまたどこかへと仕舞われて行った。
サモン:「…………」
 サモンは、自分の左腕をじっと見詰めている。
 そこにあるのは、自分の側に頭を向けて幾重にも巻きついた銀の腕輪。腕に絡みつき登って来る龍の姿を模したもので、その瞳には透き通った緑色の石が嵌められていた。

*****

オーマ:「たーだいま、っておう、もう戻ってたのか」
シェラ:「戻ってたさ。あんたはどこで何をしてたんだい」
オーマ:「いやぁ。ちょいと人生の経験者に呼び止められて説教を食らっちまってな。相手は年寄りだから無下に扱う事も出来ねえし、参っちまったよ。…んで、どうだった、出かけた感想は」
シェラ:「まあ、良かったんじゃないかい?いい土産も貰ったしね。ねえサモン?」
サモン:「……………」
 シェラとサモンの2人が戻って後、暫くしてからオーマがようやく帰って来ると、装具を貰ってご満悦のシェラが遅く帰って来たオーマを責める事も無く、にこやかに迎え入れる。
 そんなオーマを、サモンがじっと見詰めていた。ほんのちょっぴり、何か疑念が浮かんだような表情で。
オーマ:「どうした、サモン?」
 その表情に気付いたオーマが問い掛けるも、ゆるゆると首を振って何でも無い、と答えるサモン。
シェラ:「それでね。あたしたちが貰った物って言うのはね…」
 嬉しそうにシェラが、今日のお出かけの内容や乙女の儀式を受けた事、そして聖獣と守護の契りを結び、2人がそれぞれ装具を貰ってきたと話す。
 帰って来る途中で2人がそれぞれ装具の使い方を試したところ、シェラの場合は鎌に取りつけたケルベロスが、炎を使用者の任意の箇所に宿らせる事が出来る、というもの。サモンの場合は、腕の銀色に輝く龍が攻撃を受けそうな箇所へ移動し、盾になったり額当てになったり脛当てになったりと変化するものだった。
 もちろん、使用者であるサモンの意思で、最初から防具として作り出す事も出来る。
 しかも、これは2人に共通した話だったが、2人の装具は金属のようでありながら非常に軽く、そして金属であるとすれば在り得ないくらい硬い物で出来ていた。
オーマ:「いいよなぁぁ。俺様もそう言うの欲しいぜ」
 俺様も乙女になろうかね、そう呟くオーマにシェラの容赦ない突っ込み…肘打ちが飛ぶ。
シェラ:「馬鹿言ってないでさっさとご飯の支度するんだよ」
オーマ:「へいへぇい」
 痛そうに当たった箇所へ手を当てながらキッチンへ消えて行くオーマ。
 その後姿を、サモンがじぃっと眺めていた。

オーマ:「どうした」
サモン:「…どうして、分かった」
 とんとんとリズミカルに材料を刻んで料理をしていたオーマが、振り向きもせずにサモンへ話し掛ける。
オーマ:「分かるさ。そういうのは、例え気配を消していたって分かるもんだ」
サモン:「……変」
オーマ:「ぐ」
 静かながらびしりと突っ込みを入れられたオーマが、引きつった笑みを浮かべ、
オーマ:「で?何か言いたい事があるんじゃないのか」
 どうにか自分のペースを取り戻して、サモンへ聞いた。その言葉に、サモンがこくりと頷く。
サモン:「……来て、なかった?」
オーマ:「うん?俺様が?行けねえだろ、あそこは男子禁制の聖域だぞ」
 サモンの質問に、軽く返すオーマ。
サモン:「…でも。いた、でしょ」
 だが、サモンはそんな常識的な答えを欲しがっていた訳ではないようだった。というより確信を持って聞いていた。オーマはそんなサモンに、アクを掬い取った鍋に蓋をしてから向き直る。
オーマ:「……我が子の晴れ舞台を見に行きたいと思わねえ父親がいると思うか?」
 そう言って、照れたように笑い、
オーマ:「どこで気付いた?」
 俺が行ったのは儀式が始まってからだったのに、と不思議そうに訊ね返した。げんに、シェラはオーマが付いて行ったとは気付いていない様子だったし、と思いながら言うと、
サモン:「僕が…抵抗、したのを、…抑えに来た、から」
 サモンは、きっぱりと、そう言った。
オーマ:「あー。やっぱ、そこか。気付かれるかもなぁとは思ってたんだがなー」
サモン:「それに。…シェラも、知ってる」
 帰り際に、装具の様子を試しながら、オーマの事を苦笑交じりに話していたとサモンは言い、オーマの笑みがそこで引きつった。
オーマ:「聖獣が出てる状態で近づいたのは拙かったか…考えて見りゃあケルベロスもイフリートも炎っつう共通事項があるから、同調しやすいんだったな」
サモン:「…でも。怒って、ない。――僕を放っておいたら…殺してた、かもね」
 そうか?と最初の台詞でほっとしたのもつかの間、危なかったんだなとたらたら冷や汗を流すオーマに、
サモン:「…僕は…女なの?」
 少し、真剣さを増した表情で、サモンが問うた。その言葉に、オーマがちょっと考えてから微笑み、料理の匂いのする手でぽんとサモンの頭に手を置く。
オーマ:「サモンは、サモン、だよ。男か女か、それは俺にとっちゃ正直どうでもいい事だ。シェラもな、そんなのは当然って言うに決まってる」
サモン:「…でも…」
オーマ:「ただな、俺はこうも思うよ。――今のサモンは、とても良く似合ってる、ってな」
サモン:「似合う…?」
オーマ:「何となくなんだがな…サモンにゃ性が無いっつうより、どちらも存在するような気がするんだ。最終的な決定権はおまえさんにあるがな。…例えば、こころを大きく動かされる存在が、サモンにとっての『異性』になるとかしてな。――あーいやいや、今はまだそんな事考えるなよ?考えなくていいんだからな?つうか今そういうのがいるっつうんだったら俺に言ってくれ。一晩で始末付けて来るから」
サモン:「……………言わない」
オーマ:「おおおおぅ!?」
 せっかく良い事を言っていたのに台無しなオーマへ、かくんと首を傾けるサモン。
 それは冷ややかな目付きではなく、困った親を見る、ごく普通の子どもの視線だった事に、サモンはまだ気付いていなかった。


-END-