<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


コブリンのお宅拝見

●コブリンってなぁに?
「知ってるか、森の奥にコブリンの家があるんだぜ?」
 レードンは教室の片隅で、自分の後をついて回る子分どもに対して得意げに言った。
 聖薔薇十字架教会に併設された教室は、昼前の明るい太陽に照らされている。中庭の向こう側ではシスター・リナフィールが給食代わりのランチを作っているのが見えた。
さも、自分で見たようないい振りだったので、奥にいたバチルダ・レミントンはゲラゲラ笑っている。じろっと睨むとバチルダはフフンっ♪といった感じに笑った。
「それって聞いた話でしょ? レードン……じゃあ聞くけど、前にいなくなったセシカ・フェーデルマンと妹のマリン・フェーデルマンは居たの?」
 フェーデルマン姉妹は学校でもわりあい有名な美人姉妹だったが、コブリンがいるのではと噂される森に出かけると言ったまま帰ってこなかったのだ。それから一週間は経っている。彼女らがコブリンに捕まったとは言わないが、バチルダはレードンにカマをかけた。どうせ、さも見たようにでっち上げるのを楽しんで聞いてあげましょうという魂胆である。
「あ〜〜〜〜……いたさ。いた……物凄い食われ方だったぜ。制服と持ち物でセシカ・フェーデルマンだって分かったけどさ」
「ふうん……あのね、どうやってセシカ・フェーデルマンだって分かったのよ。マリンじゃなかったの? セシカの持ち物見たことあるんだあ」
「何だとッ!」
 レードンは耳まで真っ赤にして怒る。
 セシカとマリンは双子なのだ。他の姉妹も歳が近く、三人ほどいるが、誰もがこの学校に入学している。いずれも美人なのだが、そんなみんなの憧れの人の持ち物をレードンが知っているわけが無い。それを指摘されてレードンの顔は夕焼けのように真っ赤に染まる。
「じゃあ、お前も見たのかよ!」
「見てませんけども、それが? 見てないのに、見たような口きくよりマシだと思うわよ〜だ」
「くそお!」
「くだらないこといってないで、今度の試験の勉強でもしたら?」
「……」
 さすがにクラスで一番の勉強家、バチルダ・レミントンには敵う筈もなく、レードンはギリギリと奥歯を噛む。その姿に失笑をかったレードンは教室を飛び出していった。いつもの癇癪だろうと皆は思い、寮に帰るために皆は片付けを始めた。
 そうこうしていると、隣のクラスの生徒が教室に飛び込んできた。
「ちょっと、大変だよ!」
「えー、何?」
「レードンがあの森に向かって走っていったわよ」
「うっそぉ!」
「何か、腹立ててたみたいだけど。誰か、彼のことからかったの?」
「はーい、私なの……」
 バチルダはそっと手を上げた。
「げぇ……バチルダかぁ。仕方ないなあ、誰か一緒に連れ戻しに行こうよ。あの森はまずいって」
「そうね」
 バチルダは肩を竦めると溜息を付いて立ち上がった。

 街にでるや、バチルダは冒険者が集まる場所として有名なギルドへと向かい、扉を開く。いなくなったレードンのことを考えると内心焦り、時間も惜しいと慌てて中にいる人間に言った。「……というわけなの。誰か一緒に来てくれる人いないかな?」
 バチルダは困ったように小さく肩を竦めて見せる。偉丈夫たる男性が歩いてきた。
 バチルダは驚き、声を失う。
 巨躯というに相応しい肉体と、その肉体を包む服の派手さも人目を引く要因になろう。
 太い腕は武器など持たずとも相手の頭をぶち抜くこともできそうだとバチルダは思った。その上、整った容貌はどちらかと言えば強面という方が正しいゆえ、この人物は怖い人ではないのかと彼女は警戒した。
「こんなところに子供が出入りだぁ〜、感心しねーな。ワル筋な大人になっちゃいけねーぜ」
 オーマ・シュヴァルツは言った。
 この界隈では知らぬものとて居らぬ男。腹黒同盟&ソサエティは王室公認で、彼はそのナンバーワンなのだ。
 ちょうど、ギルドマスターに呼ばれてこの場所に来ていたのだった。
「ひ、ひいっ!」
 だがしかし。
 なーんにも知らないバチルダにとっては、ただの怖い人である。バチルダは表に出ようと一歩引き下がる。
「おいおい」
「やっぱり、怖い人しかギルドには来ないんだ……」
 強気な態度でやって来たバチルダは、オーマが近づいてくるや怖くなって逃げ出そうとする始末。
「大丈夫だって言ってるだろうに」
「子供捕まえて悪いことしたり、売り飛ばしたり、あーんなことや、こんなこととか……」
「するか」
 オーマはきっぱりと言い切った。
「巨体ド派手強面筋肉桃色言動怪しくも、俺はそんなに面倒見は悪くねーんだぜ、お嬢ちゃん。そんなことはするか。そんなんバレたら後で殺されるってーか、その前に俺はそんなクズなことはせん」
「誰に殺されるの?」
「それは…………秘密」
 明確に誰に殺されるのかと言えるのだが、その姿を思い出してオーマはブルリと震えた。想像するだけで恐ろしいらしい。
「ま、なんだ……俺は医者だしな。そういう不名誉なことはワル筋になりマッスル」
「ぎゃー! やっぱり、変態っ! お医者さんごっこなんてー!」
 バチルダはぎゃーぎゃー騒いで顔を隠す。顔を真っ赤にして右往左往し、足をばたばたと踏み鳴らしていた。
「想像力逞しすぎなお嬢ちゃんは、スウィートパラダイスGOGOな彼氏ができねーぞ」
「白衣姿なんて信じられなーい、きゃぁ〜〜〜〜ぁ☆」
 嫌がってるのだか喜んでるのだかわからない相手の様子に、さすがのゴッド親父も年頃ってこんなものかと見つめるしかなかった。
 オーマのラヴリーなハートは、白衣が信じられないという一言に、ちょっぴりきゅん☆っと傷付いていたのだが、自分は大人だからと黙っていた。
 その気持ちは、娘から「パパって、変」と言われるのに似ている。寂しい親父であった。
「で、その噂ってーのは真実か?」
「わかんないわよぅ。あたしだって見たこと無いもん」
「うーむ」
 見たことが無いと言われれば、さすがに悩みどころだ。
 そこに一人の一瞬青年とも見紛う凛々しい女性が現れた。
「あら?」
 バチルダは顔を上げ、その女性を見つめる。
 彼女はドルク・レックスデクステラ。その姿からすると一介の騎士のようにも見える。
「いきなり失礼、お嬢さん」
「あたし、バチルダよ。バチルダ・レミントン」
「そうですか。では、バチルダ様――私はドルク・レックスデクステラと申します。以後お見知りおきを。しかし、コブリンとは……僕の居た世界ではその様な名は耳にしませんでしたが、どの様な生物なのでしょう?」
「んー、ちっちゃくって、顎がしゃくれてて、耳がとんがってるの。すっごく卑怯で卑屈でね」
「ほうほう……お聞きした限りでは、見かけただけで威張り散らせる程の価値のある生き物には思えないのですけどね。どうして彼は――レードン様は威張るのですかね」
「だって、レードンだもん」
「は?」
「あいつね、何でも威張るのよ。実際、あたしたちもユリウス先生にあんまり危険な場所にいっちゃいけないって言われてるし、街中に住んでるからそういうのって見かけたことないしね。だから、そういう滅多に見ないものとかの話を聞くと、何でも見てきたって言って威張るのよ」
「なるほど。虚勢を張るのは感心しませんし、自業自得という気もしますけど、その方が帰ってこられませんでしたらバチルダ様も後味が悪いでしょうから…微力ながら僕もご協力致しますよ」
「ありがとう♪ あー、一人で森に入らなきゃいけないのかと思って焦っちゃった」
「害を為す生き物であるならば、処分する必要もありますしね」
「ようっし! では突撃☆ 森のコブ筋アニキのおぴんくスウィートマッスルお宅拝見だな★」
 未来のナウヤング腹黒下僕主夫の原石たるレードンを救出に行こうと歩き出す。
「意味わかんないわよー」
 バチルダが渋面作って言った。
「まあ、助けに行ってやるってことだな」
「じゃぁ、行きましょ」
 そして三人は森へと向かった。
 
●森の洞窟
 バチルダが教われないよう、森の動物を刺激しないようにしてオーマたちは森に入っていった。ドルクは白毛の犬に変身し、オーマはバチルダが乗れるぐらいの銀色の獅子に変化する。
 その上にバチルダが乗り、下僕主夫腹黒原石レードン君を、オーマはマッスル毒電波で少年のいじめ筋オーラをビビビっと親父愛でキャッチしていった。
 草の足跡や薙ぎ具合を調べ、動物の臭いとは違う匂いを発見しつつ進み、いかにもな洞窟を発見すると三人はその前に立つ。
「ここだな」
 オーマは確信をもって言った。
 己の親父センサーがきゅぴーん☆と心の奥で鳴り響く。
「よくわかりますね?」
 ドルクは言った。
「当然だ。レードンは我が腹黒同盟の未来を担う下僕主夫の輝ける原石とみた。メラマッチョ親父愛を注いで養育すべしだな。俺の手にかかればオールオッケー」
「言葉の意味はわからないが、とにかくたいした自信ですね」
 鼻歌一つ口ずさんで奥に進めば餌やら死骸やらの痕跡でここがコブリン生息地帯だとわかる。
 奥に進んでちょっとしたところで、バチルダが小さな悲鳴をあげた。
「どうした?」
「こ、これっ……セシカの鞄よ」
 近くにセシカと同じ色の金髪がいくつも散らばり、その近くには子供の頭蓋骨と思しきものが2個転がっていた。
「これって、マリンかしら?」
 バチルダは泣きそうになりながら頭蓋骨に手を伸ばそうとした瞬間、後方から「キーッ」といったような音が聞こえた。鼠の鳴き声にも良く似ている。
 そこには見るからに人間とは思えないような、子鬼っぽい生き物がいた。とがった耳にしゃくれた顎――コブリンだ。
「キッ! キイッ!」
 なにやら怒っているようで、手に持った三叉戟を突き上げて威嚇していた。
 オーマは変身を解いた。
「ぬぅ、やってきたな」
 オーマはニャッと笑うと、コブリンたちは恐れおののいて辺りを見回す。やって来た仲間達も一様にオーマを見てビビっていた。
 親父姿に戻ったオーマは軽やかに地面を蹴ると、獅子もかくやと思うような素晴らしい走りでコブリンに突撃し、大胸筋親父愛ホールドアタックをぶちかました。あまりの速さにドルクも何が起こったかわからない。
 そして……
「キイャァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 コブリンの悲鳴、絶叫その他諸々。
 熱き兄貴魂に歓喜にも似た表情を浮かべ、コブリンは右往左往する。
「今、日筋の力を借りて、必殺の大胸筋スペシャル、漢魂(おとこだま)トルネードホールディング太陽アタッーク!」
 熱い胸にこもる親父の想いと、聖筋界の平和願う魂の叫びが洞窟に響いた。
 オーマの後ろに熱球が現れた――かのようにバチルダにもドルクにも見えた。本当のところはただの逆光なのだが、この際そんなことはどーでもよろしい。
 ダンサーのやうにくるくると回り、コブリンを片っ端からハグしてゆく。その度に「めきょめきょ」とか「ぼきぼきっ」とか音がしたのだが、あまりの速さに静止することは出来なかった。
「ふ〜〜〜〜っ、お仕事完了」
 汗を拭い、キュッとケツ筋締めてレッツポージング。仕事の後に流れる汗が気持ぇ〜♪
 気絶させたオーマはコブリン一匹一匹に腹黒同盟勧誘パンフを置き土産として額に貼っていった。
「……だ、誰かいるの?」
「おや?」
 遠くから聞こえてきた女の子の声に、ドルクは辺りを見回し、奥へと進んでいった。洞窟の最奥に少女二人が震えている。
 金色の長い髪に白い肌の美少女。たぶん、セシカとマリンだろう。
「おやおや……」
 隣で転がってる少年を発見し、ドルクは苦笑した。気絶しているらしい。
「お願いです、ここから出してください」
「助けてっ、化け物に食べられちゃう!」
「大丈夫ですよ、コブリンとやらは倒しましたから」
 彼女の必死の叫びにニッコリと笑うと、ドルクは鍵を探し出して牢屋状になった部屋のドアを開ける。まあ、急ごしらえとしか思えないような牢屋なので、鍵を開けずとも自分には簡単に開けられそうではあったのだが。
「あれって、コブリンって言うのね……」
 双子のうちの一人が言った。
「う〜ん……」
 セシカたちが外に出ようとした瞬間、少年が目を覚まして身じろいだ。そして、ドルクを発見すると、最初は怯え、人間の大人とわかるや泣き始めた。
「わァ〜〜〜〜〜ん! 怖かったよー」
「まぁ、レードンったら」
「意気地なしね」
 その泣き声に無事にレードンを発見できたとわかった。
「今後、このような事を起こさない様に」
 よくよく言い聞かせておくべきと、ドルクはレードンに言った。
「ごめんなさい〜」
「おう、見つかったか。友や家族を心配させるは腹黒ナンセンス。ワル筋大人になりマッスル」
 向こうからひょっこりと顔を出したオーマは、しっかりと三角巾を被りった上に割烹着を着ていた。手にはハタキを持ち、下僕主夫性質で向こうの洞窟をお掃除むっふん完了したらしい。
 潔癖なドルクはオーマの格好を見てこの洞窟の惨状が酷いことをなんとなく悟った。あたりを見回せば、ゴブリンの家は許しがたいほどに汚い。
「むぅ……汚い」
 一言言うと、こめかみをピクリと動かし、おもむろにオーマの掃除道具を借りると徹底的に掃除をし始めた。

 セシカとマリンは本来の姿に戻ったドルクの背中にのり、バチルダとレードンはオーマが親父愛全開守護筋しつつ背中に乗せた。
 疲れと安心から居眠りし始めた子供達を落とさないように気をつけつつ、遊覧飛行で家まで送った。

■ END ■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

1953 /オーマ・シュヴァルツ/男/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り

2671 /ドルク・レックスデクステラ/女/17歳(実年齢999歳)/<王の右>

                         (整理番号順)

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、朧月幻尉です。

>オーマ様
 オーマ様は二度目ましてですね(笑)
 こちちらもギャグ度が低めですみません。もっと、はっちゃけたかったんですけど抑え目になってます。
 もっと熱くしたかったんですけど、上手くいかなくてごめんなさいね。
 こんな感じで如何でしょうか?

>ドルク様
 ドルク様、はじめまして(礼)
 ソーンは今まで活動を中止しておりまして、最近になってやっと復活いたしまして、こんな感じかしらと悩みつつ書かせて頂きました。

 これからも、のんびりとギャグものを中心に書いていきたいと思います。
 ご参加有難う御座いました。