<PCクエストノベル(4人)>


ウォズゲイズ 〜落ちた空中都市〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2081/ゼン        /ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー   】
【2083/ユンナ       /ヴァンサーソサエティマスター 兼 歌姫 】
【2085/ルイ        /ソイルマスター&腹黒同盟ナンバー3(強制】

【助力探求者】
なし

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 ――その不気味な振動は、数日前から断続的に起こっていた。
 ある者は空が割れたと言い、ある者は近隣の動物たちが一斉に姿を消したと怯える。
 そんな、前兆とも言える出来事に、警戒を強めていたのは『ひと』だけではない。

 エルザードを、ユニコーン地方を、ソーンを護る為に存在する聖獣もまた、空の一部を常に警戒するように飛び回っていた。

 だが――

 『それ』は、起こってしまった。
 過去何度も行き来して確定された細い道を通り。
 何かに惹かれるかのように、その姿のままで、空に、ぽかりと。

 初めは、糸とも呼べない細い細い道だった。
 その道を初めて通った者は、異界へ渡り戻って来なかった。
 次に開いた時は、最初に道を通った者を知る者が追いかけて行った。
 ――気付けば。
 道はそこに出来ていた。

*****

ルイ:「いやな気配を感じたと思ったのですが。まさか、ここまでのものが来ていたとは思いもよりませんでしたよ」
 滑らかな口調ながら、いつものきらりと眼鏡を光らせる余裕の見えないルイが、空を見上げている。
 ――空には、巨大な雲がいくつも集まっていた。その上のいくつかには、古代に空へ上がり、そして滅んだ空中都市のなれの果てがある筈だった。
 だが、その中に、明らかなひとの息遣いが感じ取れるモノがある。
 今朝早く、空を『割って』落ちてきた島がある――そう報告を受けたルイ、ユンナ、ゼン、そしてオーマ・シュヴァルツの4人が、取るものも取りあえず訪れたのはここ、底に沈んだ空中都市があると言われる湖から程近い山脈の間だった。
 雲に覆われて見えない上空に降りてきたモノ。それは、たくさんのひとの気配と共に、ウォズ、ヴァンサー、そしてその他の異端たちの濃厚な気配を纏っていた。
ユンナ:「困ったわね。取りあえずは上がらないといけないのだけど」
オーマ:「…変身してもいいけどよ。このまま上がると俺様いい的になっちまうぞ」
 そう。
 上の状況が分からない以上、いくら巨大な獣に変化出来るとはいえ、簡単に飛んで近づくわけにもいかない。
 寧ろ、巨大化してしまえば良い標的になる可能性の方が高く、その場合自分だけではなく同乗する3人の面倒は見ていられない、そうオーマは告げたのだ。
ユンナ:「そうね…仕方ないわ。私が衝撃を消すから、なるべく早くしてくれる?」
オーマ:「ああ、それなら前面だけでいいぞ。俺も避けるようにするからよ」
ルイ:「わたくしも及ばずながらお手伝い致しますよ。ですので行きましょう、早く」
ゼン:「そういうこった。急ごうぜオッサン」
 おう、と呟いたオーマが、3人から少し離れた場所まで駆けて行って宙に舞う。
 巨大な獅子――その姿へと変身したオーマが乗りやすいように少し体を傾け、その上に3人が乗るのを待って、一気に空へと駆け上った。
 雲の中に入らぬよう、隙間を縫いつつ。
ユンナ:「――あっちね」
ルイ:「そのようですね」
 上へ上がれば上がる程、ぴりぴりとした空気が肌に伝わって来る。
 上では一体何が起こっているのか、そんな事を思いつつ雲の端からすっと姿を表した獅子に乗る3人の目に、思いもよらない光景が飛び込んできた。
 それは――他の空中都市よりも巨大な、空飛ぶ島のひとつ。
 嘗て自らが居た世界において、凶獣と名づけられ恐れられていたウォズの名を何故か冠していた『ウォズゲイズ』。
 それがまるごと、エルザード近くの上空に浮かんでいた。
ゼン:「…良くもこんなでけぇのが来たな…しかも、こんな場所に来ても戦ってんのかよあいつらは」
 オーマの心配は、今のところ杞憂に終わりそうだった。
 と言うのも、大陸のあちこちで、今まで見た事も無い程大群のウォズが飛び回り、島の上を蹂躙しており、それらを抑えるので精一杯という様相を呈していたからだ。
 つまり、雲の隙間からこっそりと覗いている巨大な獅子に構う暇など無いという訳で。
ユンナ:「まずいわ」
ルイ:「…少々、危険かもしれませんね」
ゼン:「何でだよ」
 もうひとつの異常事態、いや、本来は異常事態ではなかったのだが、この世界においては異常事態となるある事に気付いたユンナとルイがそれぞれに呟き、ゼンが不思議そうに訊ねる。
ユンナ:「ヴァレキュライズの気配がするの」
ルイ:「わたくし以外のソイルマスターもいるようです」
ゼン:「…ルイ以外にもいたんだったな、そういや。そっちが拙いのは分かるけどよ」
 ゼンの言葉に、ユンナが大きくため息を付き、
ユンナ:「オーマ、慎重に空いている場所に下りて即元に戻って頂戴。――いい、ゼン。あなたもヴァンサーだから言うのだけれども、ヴァレキュライズはこの世界に居ても何もいい事はないの。…『絶対法律』を使わせてはいけない。何があっても…それがこの世界での不文律なのよ。覚えておきなさい」
 ユンナの言葉に、再び移動を開始したオーマの背で、ユンナがゼンへ真っ直ぐ視線を向けて言う。それは、普段のにこやかな彼女に似合わない、『長』としてのもうひとつの顔だった。
ゼン:「…りょーかい」
 それ以上の質問をしようにも、口を挟む事が出来ない状況に気付いたゼンが口をつぐみ、ウォズとヴァンサーたちの戦闘の中を突っ切って島の上に上陸する4人。
 …異質なモノに気付いたそれらが4人に意識を向けるのを、止める術は無い。
オーマ:「どこに行くかだが」
ユンナ:「…激戦区へ。私たちは逃げ回るために来たわけじゃないのよ」
オーマ:「それもそうだな。じゃあ行きますか…久々だが、今回は封印がメインだろうな」
ユンナ:「出来る事ならね」
 あっさりとユンナの提案に頷いたオーマが、ゼンたちを引き連れて駆け抜けていく。
 空さえも赤く染まりそうな、島の一部に向かって。

 ――その背に、いくつもの殺気を感じながら。

*****

 それは、最早戦闘でなはく、戦争と化していた。
 何よりも、敵――ウォズの数が多すぎる。そして、その敵はウォズに留まらず、何故かウォズ側に付いているVRS…大量の戦闘兵器や、ごく少数ながらもHRSらしき存在までが目に映った。
 その中で飛び回り、自ら具現化した武器で渡り合っていたヴァンサーたちは、自らの職務に忠実な、勇敢な者たちと言わなければならないだろう。
 その体が具現に侵される一歩手前で何とか自分の体を保ち続けている彼らの目には、絶望の二文字は存在しない。
 そしてその瞳に、希望の文字が浮かび上がったのは、突如現れた謎の4人組の存在があってからだった。
 長年その職務についていた彼らと同等の動きをしているのはひとり。後の2人はそれ以上どころか、どこを探しても見つからないだろうと思われるような的確な動きでめざましい働きを見せている。
 自分の身の丈よりも巨大な銃を構えた、どこかで聞いたような姿で――。
 その男と組んでいる様子の若々しい女性は、自分も具現武器を出すものの主に封印と統制を取るための指揮に動き回っている様子で、次第次第に自分たちの動きから無駄が消えていくのを、驚嘆の目で眺めていると、
ルイ:「手が止まっていますよ?」
 不可思議な技で容赦なく、そして殺す一歩手前まで切り裂いていく眼鏡姿の男が、にこりと笑って囁いていく。
 VRSの弱点はひとつ、兵器化されているために攻撃の威力は格段に上がっているが、それ故に自由に行動出来ないと言う事。だから、その隙を狙って無力化させてしまえば問題は無い。
 HRSのような、人の姿を模した戦闘兵器には誰もがてこずっていたようだったが…これは、新たに現れた4人が囲んでどうにかしてしまったらしい。少なくとも、島に現れたウォズを退治するために駆けつけたヴァンサーたちには、何も分からないままだった。
オーマ:「…取りあえず…これで、半分、か?」
ユンナ:「そんなところね。やだわ。喋りっぱなしで喉を痛めてしまいそう」
 こほん、と軽く咳をしたユンナに、まだ興奮さめやらぬと言った様子のゼンが、
ゼン:「次はどこだ?」
 と、詰め寄っていく。
 普段は穏やかな世界に生きている筈のゼンも、本来はこうした世界に身を置いていたのだと思わせるもので、ユンナがほんの少し寂しそうに目を逸らした。
 こうした者たちを作り上げたのは、そういうシステムを作ったのは、結局は自分なのだと思い出したのだろうか。
オーマ:「――ま。一休みしたらまた行くさ。つう事でユンナ、おまえさんは少し休んだらどうだ?」
 オーマの気遣いは嬉しい。嬉しいが、ユンナはゆっくりと首を振って、
ユンナ:「そうは行かないわよ。…まだ、終わっていないもの」
 そう言って、にこりと微笑んだ。

 それから、日が落ちてもまだ、果てる事無く戦闘は続いていた。
 この地に住む者は少なくない筈で、家どころか村、町のような集落も多く見えるのだが、そこに住んでいる者たちは息を殺している様子で、外に出ている者はおろか窓から外を眺める者もいない。
 それでも、気配だけは感じ取っていた。
 それは、恐怖と、畏れ――自分たちの知らない力を使い、島を蹂躙している者たちへの怒りとも取れる感情。
 ウォズだけではなく、ウォズと戦い続けているヴァンサーたちにもその感情は向けられている。
 だが、それが分かったからと言って何になる?
 自分たちを拒絶する者は護らないなどと言ってはいられない。…これこそが、こうした敵に対する力を付ける事こそが、自分たちが生き延びるための方法だったのだから。
 それでも――。
ルイ:「駄目ですね。残念ながら、もう、とうに事切れているようです」
オーマ:「そう、か」
 最初にウォズが襲来して来た時に逃げ切れなかった、もう物を言う事さえ出来なくなっている村人を、そっとルイが布に包んで、なるべく戦闘の現場から離れた位置へ安置する。
 …これで、探し回って見つかった遺体はいくつ目になるだろうか。
 村人だけではない。
 新人のヴァンサーもこの度の戦闘には狩り出されていたらしく、そうしたまだ幼い顔立ちの残る、全身傷だらけのヴァンサーの遺体もまた、いくつも島のあちこちで見付かっていた。
ゼン:「参ったぜ。ウォズを片付けたのはいいが…」
 ゼンが、額から血を滲ませながら戻ってくると、けっ、と悪態を付いた。
ゼン:「あいつら、ウォズがいなくなった途端俺に石を投げやがった」
ユンナ:「――そう。仕方ないわね。ちょっとこっちにおいでなさいな。手当てしてあげるから」
ゼン:「いらねえよ、これくらいかすり傷だ。っつうか…なんだよあれは。何で助けてやった俺まで攻撃受けなきゃならねえワケ?ふざけんなってんだ」
オーマ:「ふざけてなんかねえよ」
 静かなオーマの声に、一瞬、しん、となる。
オーマ:「ヴァンサーっつうのはそういうモンだ。寧ろ、喜んで受け入れてくれる方が不思議なんだよ。…経験の足らなさが裏目に出たな」
ゼン:「ンだと」
オーマ:「そうだなー。おまえさん、ちぃと想像してみろ?おまえさんよりずっとずっと強いと分かっている存在がいる。そいつらが急に俺の病院を襲ったとする」
ゼン:「…変な前提だな。まあいい、続けろ」
オーマ:「そしたらもうひとつ、また強い存在が来て、最初に病院を襲ったやつを倒したとする。――おまえさん、そいつを家に喜んで入れられるか?」
ゼン:「そりゃ…」
 言いかけて、何かに気付いたゼンが口を噤んだ。
オーマ:「問題はな。自分と同じ存在じゃねえ連中が、自分の家を攻撃したヤツを倒したとしても、味方とは限らねえって事なのさ」
 本当に意思の疎通が可能なのか、それとも全く異質な考え方をする存在なのか、それすら分からない。
 自分たちに持っていない力を持つ『強い存在』が、例え今は良いひとだったとしても、それがいつ、自分たちに牙を剥くか分からない――。
オーマ:「ルイ、確かこの島はそんなにウォズ襲来は無かった筈だったな?」
ルイ:「ええ。確かその筈ですよ。ですので驚いたのです。まさかこの島が狙われるような事があるとは」
ユンナ:「…単に、今まで運が良かっただけよ。いつもは偵察していたウォズを巡回していたヴァンサーたちが倒し続けていたから」
 …ソサエティのトップは、何を考えているのか――そうユンナが思いながら軽く眉を寄せた。
 こうした、比較的安全と言われている土地にまで、ウォズの蹂躙を許してしまった事は、ヴァンサーの存在意義を疑われても仕方ない、という流れに直結しかねないと言うのに。
オーマ:「まあ…残りは雑魚だ。朝までにゃ何とかなるだろう。その前に、ユンナ」
ユンナ:「分かってるわ。政治的根回しと言うわけよね、ああもう馬鹿らしい」
 ユンナが更に顔を顰め、そして後ろで丁寧に死者を安置し続けているルイを呼んだ。
ユンナ:「単刀直入に言うわ。誰を『代表者』にする?」
ルイ:「…なるほど。そうでしたね」
 『大人の会話』をしている3人に、大きく首を傾げるゼン。それに気付いたオーマが、にやりと笑うとゼンに手招きする。
オーマ:「よーく見ておけ。真似をする事はねえが、これもひとつの社会勉強だ」
ゼン:「何だよそりゃ。俺はもうくたくたなんだ」
 先ほどの石を投げられた事がまだ尾を引いている上に、オーマたちが一緒になって憤ってくれなかった事に拗ねているゼンの頭をわしわしと撫でるオーマ。
オーマ:「…おまえさんは、正しい。正しいからこそ、汚ぇ部分も見なきゃならねえ。――だが、染まるなよ。染まるのは楽だけどな」
ルイ:「ここはやはり、わたくしたち以外が適任ですね。ヴァレキュライズではなく、ヴァンサーのトップがひとり、それから補佐にわたくしと同じソイルマスターを付けましょう。ヴァレキュライズは申し訳ないですがこの世界では役に立ってはいけませんので」
ユンナ:「そうよね。それから、これも面倒なのだけれどオーマ。あなた自分の立場を全開にしていいから相手の首根っこ押さえて来て頂戴。私は流石に顔を出せないわ。今のところはね」
オーマ:「しゃあねえな。あんまり偉そうなヤツにゃなりたくねえが。これも仕事か」
ルイ:「そうそう。これからの関係を円滑にするための大切なお仕事ですよ。わたくしもソイルマスターを『説得』するのに付き添わせていただきます」
オーマ:「ユンナはそこで休んででくれ。ゼン、こっち来い」
 先ほどから目まぐるしく会話が変わっていくため、何がどうなったのか分からずにいるゼンへ、オーマがにまりと笑う。
オーマ:「大人の世界へようこそ、だぜ?」
 そう言って。

*****

 次の日の朝。
 ルイやユンナが危惧していた通りの事が起きた。

 ――異世界への扉が、完全に閉ざされ安定してしまったのだ。

 そしてそのため、この浮遊した島は他の空中都市と同様、雲に乗り、ソーン上空をゆっくりと巡るルート上に乗ってしまった。
 ある意味では、これは天の助けとも言える出来事だったかもしれない。
 向こうの世界では、具現と擬似科学が融合した物が大陸や島々を浮かせ、固定していたのだが、その技術はここでは使えない。自然、ソーンの理に応じた対処を成され、空中都市のシステムに組み込まれなければ、ウォズゲイズはその浮力を失い、大地に叩きつけられていたであろうからだ。
 そんな緊急事態にも関わらず、島の朝はごく静かに明け、そして――人々は驚くほど性急に現状を飲み込み、順応して行った。…取りあえずは。
 人間とヴァンサーたち異端との橋渡しを努めたのは、異端からはヴァンサーの代表者とソウルマスターの2人。人間側からは、各集落のトップ、村長、町長クラスの10人近い人数だった。
 流石に、そうしたトップともなれば、ヴァンサーやウォズの存在を認識している。そして、その重要性に加え、今こうして異世界へ島ごと来てしまったという現状を見て、手を結ぶのが有効であると気付いた様子だった。
 お陰で、無駄な騒動はほとんど起きないまま、今回のウォズの襲来による犠牲者の合同葬儀が行われ――そして、ソーンに、エルザードに悪影響を与えない事を条件に、エルザード支部のヴァンサーソサエティと関係を結ばせたオーマが再び獣の姿を取ってエルザードへ戻っていくのを、どこか不安げな表情を浮かべた人々が見送っていった。
ゼン:「大人って汚ぇなー。根回しと保身ばっかりじゃねえか」
オーマ:『わはは。でもそれで円滑に人生が回るならいいじゃねえか。これでゼンも少しは大人に近づいたな?』
ルイ:「…何よりの社会勉強になった事でしょうね。ですからわたくしがいつも言うように、ゼンはもっともっとわたくしたち大人を敬わなければならないのですよ」
 きらーん、と眼鏡を輝かせつつルイが言うのを、ぶんぶんと大きく首を横に振ったゼンが、
ゼン:「やめろてめぇ、そういう言い方をして俺を包囲するんじゃねえっ」
 じりじりとルイから離れていく。
ユンナ:「…一応、自治権を認めるような事を言ってしまって良かったのかしら」
ルイ:「今は、ですよ。そのうち必ず下へ降りたがる方が出てくるでしょうし、エルザードとの交流も始まるでしょう。その時に、わたくしたちが手放せば良い事です。後は彼らとこの国との問題ですから」
ユンナ:「そうね。…それまでは、無駄に交流を深める事も無いわね」
 ユンナがそう言って、軽くため息を付き、そして――ゆっくりと欠伸をした。
ユンナ:「もう。徹夜はお肌の大敵なのよ?それなのに昨日の朝からずーっとだもの。ねえオーマ、帰ったら美容に良いお料理を作って頂戴ね。私は寝るわ」
オーマ:『任せとけ、と言いたいところだが、俺もそろそろ限界だ。年かねえ』
ルイ:「おや。オーマさんはもうリタイアするようなお年なのですか」
 これはメモしておかなければなりませんね、とルイが微笑む。
 そんな会話を聞きながら、ゼンも大きく欠伸と伸びをしていた。
 体も――そして心も、今回は特に疲れていたからだ。
 何より、こうした異端者への人々の対応を間近に見たのは初めてだったために、改めて、今いる世界の柔軟さに驚いていた。
 そして、あの島の対応こそ『当たり前』と言ったオーマの、いつも見る笑顔の裏をも初めて目にした気がして――そんな事を考えている間に、いつの間にかオーマの背で眠りに付いていた。
 きっとオーマは気付くだろう。そして、速度を緩める事だろう。
ゼン:「けっ、余計な事、すんじゃねぇぞ…」
 意識が落ちる寸前に呟いた言葉は、そのまま、柔らかく自分を包む空気の中へと溶けて消えて行った。


-END-