<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


すうぃ〜と☆うぉ〜た〜


 水を汲んできて欲しいのだと、城のメイドに頼まれて向かった井戸の淵に腰掛けるのは紛れも無く人魚だった。
「これ、そこの者!斯様なありきたりの水でわらわに茶を飲まそうというのではないな?」
「いや、そんなこといったって、この辺で飲み水があるところってここだろ?」
 水なら何でも善かろうに。
「わらわが口にするのじゃぞ!当然極上の水を所望する」
 形のよい胸を突き出し、緋色のうろこの人魚は言い張る。
「地下神殿の奥のどこかに、極上の水を生み出す石・・・クリスタル・ブルーが眠っておるといわれているせめてそのくらいのものは用意してもらわんとな」

 城の主のある意味善意で催される茶会に、凄まじいぐらいに我侭な姫君であった。
 否応なしに、哀れな冒険者がその極上の水を生むという件の石を探しに行かされた事はいうまでも無い……



「水なんて、飲めればそれで良いと思いますけどね。飲めるだけで幸せだと言う状況もありますし……」
 そう呟いたのは、冒険の先で往く度かの過酷な状況を味わった覚えのあるアイラス・サーリアス(1649)。
 でも何故か女性の我儘には逆らえないのだと苦笑をしながらも、冒険の支度を整えていく。
 お客様でも無茶は程々にするべきですのに……と前置きを入れながら。
「極上という事でしたら海皇玉からの真水はいかがでしょうか?まあ、冗談です、ふふ」
 冗談交じりに、首から下げたペンダント状の宝玉を差し出し場を和ませたのはシルフェ(2994)。水のエレメンタリスということもあって、最も地下神殿の空気になじんでいるように見えた。
「……その居丈高な物言い……絶妙なタイミングでの罵倒……もしやおまえさんが噂のカリスマカカアテンカ!」
 姐御と呼ばしてくだせぇ!とその場に縋り付いてしまいそうな勢いで、オーマ・シュヴァルツ(1953)が緋色の鱗の人魚の傍に駆け寄ろうとする。
「誰がカカア天下じゃ!!」
 すかさず突っ込まれる水激での一撃は容赦がない。
「間違いねぇ!こんな突込みを入れられるお前さんは…ま、まさかあの……伝説の下僕主夫のカリスマ!」
「そんなもの知らぬわ!」
 ビターンっと、オーマの小麦色の頬を張り倒す尾鰭にも手加減の文字は一切ない。
「へへ……いい、一撃だぜマイク……」
「わらわの名を勝手に変えるなというに!!」
 今度はゴチーンっと、遠慮なく三叉矛の一撃がオーマの脳天を張り飛ばした。
「す、凄い世界です、流石は下僕主夫の鏡……腹黒同盟此処にあり!ですね」
 全力を尽くしてのボケと突っ込みに、アイラスが手の汗を握る。
「なんだか良く分からないのですけど……皆楽しそうでよいですわ………ね?」
 傍から見ると不毛なるやり取りに、シルフェは微笑を絶やさなかった。

 井戸の傍の階段から地下に下りた一行。
「え…と?灯にロープ、応急処置用のセット、食料、水、筆記用具…他になにか必要なものはありましたかね?」
 くるりと振り返ったアイラスの視線の先のオーマは、恍惚の表情を浮かべてぴくぴくと痙攣していた。
 よほどご立腹だったのか、人魚の姫君は一頻りオーマをいたぶるとぷりぷりと頭から湯気が出そうな勢いのまま、神殿の大部分を占める水面の中に姿を消した。
「精霊に訊ねてみるのが一番確実でしょうけれど……何方か、他に方法を考え付かれた方はいらっしゃいますか?」
 流石は水のエレメンタリスなだけあって、この場を最も知っているであろう存在に聞いてしまおうということらしい。
「あら?そういえば水の神様がいらっしゃるとか……その宝だったりしたら大変ですけれど大丈夫なのかしら?」
「どうなんでしょう?」
 そもそも、その形や大きさすら分からないのだ。
「こんな事もあろうかと――――!!」
 忘我の境地にあった、オーマががばっと何かを取り出した。
「クリスタル・ブルー…ブルーといえばレッド…等身大マッスル親父型レッドクリスタル探知君ハイグレード!」
 ちゃららら〜♪
 怪しい効果音とともに取り出されたのは、真っ赤な水晶を削られて作られたという、肉体美素晴らしい石像。
「なんですそれ?」
 姿も怪しければ、名前も怪しいことこの上ない物体にアイラスが目を丸くする。
「ふふふ、良くぞ聞いてくれた!これはブルーな物なら何でも、ビビっとゲッチュしちまう。すっげぇしろもんだぜ!!」
 鼻高々に踏ん反りかえるオーマ。これならば、ブルーなクリスタル・ブルーも一発でゲットできるとふんだらしい。
「青いものなら何でも……?」
「そうだ、何でもだ!……ん?」
「キャー!?」
 高い天井に跳ね返ったのはシルフェの悲鳴。
「ちょっと、はなしてください!」
 見た目も暑苦しい筋肉に覆われた、マッチョ親父の像に抱きつかれ青い髪の女性はその拳を精一杯振り上げた。
 何故か石像の鼻息が荒かったように見えたのは……気のせいであろう。
「ぃ……イーヤ―――――!!」
 鈍い音を立てて、シルフェの拳の前に擦り寄り抱きしめていたクリスタル親父は無残にも砕け散った。
「……この案は却下いたしますわ」
 いいですわね。その足元には先ほどのクリスタルマッチョの残骸。
「「…ハイ…」」
 額に青筋を浮かべて微笑んだ、シルフェの言葉に二人は頷くことしかできなかった。

「じゃぁ…後はこいつかな」
 前例を考え、オーマが何か取り出そうとする仕草にシルフェは油断なく構えた。
 その警戒は杞憂だったのか、筋張ったオーマの手にあるのは可憐な一輪の………
「花……ですか?」
「おぅ、これは俺のいた世界のルベリアっつう花でな」
 持ち主の想いを映し見ると言う花らしい。
「想い人に贈ると永久の絆で結ばれる伝承があって……俺も昔カミさんに贈ったもんよ」
 しんみりと無骨な手に不釣合いな花を見下ろし、懐かしそうに目を細める。
「そのお花に何かあるんですの?」
「こいつはクリスタルが近くにあると、青く光るのさ」
「そうか、それを頼りに探すんですね!」
 とは、いったもののオーマの手の中の花は何の反応も見せない。
「ん〜近くには無いって言うことなのか?」
「それでは、わたくしが大体の場所を聞いてみますわ」
 周囲にはシルフェに馴染みの深い水の精霊特有のしっとりとした柔らかい気配に満ち満ちている。
 オーマとアイラスの耳には『ルー』とも『ラー』とも付かない、耳に心地よい歌声のような言葉でシルフェは辺りの精霊たちに語りかける。
 ふわりとその毛先の透き通った髪が、浮びあがり神がかり的な神々しさが、シルフェを一層精霊に近い種族であることを物語っていた。
 暫しの交流。淡い光に包まれていたシルフェが精霊たちと語り合っていたのはそれ程長くはなかった。
「分かりました」
 この先の通路の分岐点を右に進んでいくそうです。
 シルフェの指差す先には暗闇と水に沈む迷宮への入り口があった。
「多少ぬれることは覚悟しておかないとダメみたいですね」
「なぁに、んなもん俺の親父愛で乾かしてやるよ!」
 水に沈んでいるといっても、場所によって深いところと浅い場所があるらしい。
「魔法的な仕掛けが無いと良いのですが…」
 踝ほどまで水につかりながら、パシャパシャと水を跳ね上げ用意しておいたランタンを手に慎重にアイラスが歩みを進める。
「冷たくて気持ちがいいですわね」
 サンダルで水の中を軽快に歩きながら、シルフェの顔は明るい。
 進むべき方向が分からなくなったら、シルフェが周囲の精霊たちに導きを求め。用意周到なアイラスは分岐点ごとに、壁にしるしを付けていった。
「ん〜そろそろじゃねぇのか?」
 オーマの手にしていた小さな花はほんのりと青白い光を放ちはじめていた。
 ぽっかりと空洞のような室内に出た一行の前に閃光が降り注ぐ。
「眩しい!」
 暗闇になれた瞳を射抜かれ、思わず全員が目を覆った。
「……と、天井が崩れてるのか?」
「綺麗ですわね」
 まるでカーテンの様に降り注ぐ光の下にそれはあった。
 滾々と透明な清水が湧き出す岩肌の上。一滴、一滴と水を生み出している透明な氷柱の様な石があった。
「あれですね」
「通常のクリスタルとは違うみたいだな?」
 手にした花の輝きにオーマが首を捻る。
「石が水を生み出してるんですね〜」
 珍しいものを目にして三人が思わず足を止めた。
「一本あれば大丈夫でしょうか?」
「水の神様を祭っているようですし、あまり荒さない方がいいかもしれませんわね」
「よっしゃ、とくりゃとっとと取って帰るまでよ」
 滑りそうな、ぬれた石壁をよじ登りオーマは手近な一本を折取った。

「これがクリスタル・ブルーですか……」
 その石の放つ水の波動の優しさにシルフェが目を細める。
「氷みたいに溶けて消えたりしませんよね…?」
 興味深々でアイラスもオーマの手の中のクリスタルを覗き込む。
「これをカリスマカカアにとどければ終わりだな♪」
「誰がカカアじゃ―――!」
「場所を知っているなら自分で取りきてくれればよかったのに……」
「……わらわでは…あの高さまで届かんのじゃ―――!!」


「あらあら、やっぱり皆さんたのしそうですわ」
 仲の良いことは良いことですわ。
 何時の間に近くに潜んでいたのか、盛大に激流で男二人を吹き飛ばす人魚の様子を、シルフェだけが何時までも微笑ましそうに見守っていた。



【 Fin 】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【1649 / アイラス・サーリアス / 男 / 19歳(実年齢19歳) / フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】

【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【2994 / シルフェ / 女 / 17歳(実年齢17歳) / 水操師】


【NPC / エーダイン】



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■         ライター通信          ■
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まず最初に…この度は……私事でお届けが大変に遅くなってしまい申し訳ありませんでした。ライターのはるでございます。
『すうぃ〜と☆うぉ〜た〜』をやっとのことでお届けさせて頂きます。
我儘なNPCのお願いを聞いてくださってありがとうございました。
クリスタル・ブルーの生み出す水が、本当に甘いのかどうか……お楽しみということで、今回はご参加ありがとうございました。

イメージと違う!というようなことが御座いましたら、次回のご参考にさせて頂きますので遠慮なくお申し付けくださいませ。