<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【砂礫工房】 捻れの塔の大掃除


------<オープニング>--------------------------------------

「よーし、掃除くらいしないと管理任されてる人間としてダメだよねー‥‥」
 気合いを入れて冥夜が捻れの塔の掃除を決意する。
 相変わらず塔の捻れ具合は変化し続けており、何階まであるのかも分からない。更に、言えば侵入者対策の仕掛けの止め方も未だに解明されてはいない。
 しかし放置すればする程、内部の埃は溜まっていくばかり。
 仕掛けの攻撃を避けつつ掃除を一人で行う事など到底不可能だ。
 ここは一つ協力者を募ろうではないか、と冥夜は思い立った。
 全てを解明された訳ではない捻れの塔は、隠し部屋なども多数有り行く度に違う部屋を見つける事がある。宝探しなどにももってこいだ。これなら冒険者も掃除をしながら楽しんでくれるに違いない、と冥夜は一人頷く。
「一緒に面白楽しく掃除をしませんか‥‥でいいか」
 これでよし、と冥夜は砂礫工房の入り口にぺたりと紙を貼り付けた。


------<砂漠の家>--------------------------------------

「これでいいわね」
 出かける準備をし、レピア・浮桜は空にかかる月を眺める。
 とても美しい月夜だった。遊びに行くのには丁度良い。
 今日はいつも遊びに来て貰うばかりだから、とレピアはこっそりと冥夜の家へ遊びに行こうと企んでいたのだ。それに捻れの塔の掃除もしなくては行けないと嘆いていたのを聞いていた。その手伝いも出来ればいいと思う。
 以前、お酒を飲みながら冥夜に家の場所は聞き出してあった。
 突然訪ねていったら迷惑かもしれないが、冥夜の驚いた表情を見てみたい。そうレピアは思っていた。
 もっとたくさん冥夜の表情が見たい、もっとよく知りたいと気になる子の事を思うのは普通だろう。
「冥夜、驚くかしら」
 ふふっ、とレピアは足取りも軽く冥夜の住む館へと向かったのだった。

「ここで間違いないはずだけれど……」
 冥夜の告げた場所に行ってみたのは良いが、行き止まりになっている。首を傾げつつ、それでもレピアは冥夜の言葉を信じ前へと進んだ。すると次の瞬間には、レピアは砂漠の真ん中に立っておりエルザードの街並みはどこにも見あたらなかった。
「此処は………」
 レピアはぐるりと辺りを見渡す。レピアの後ろには砂漠が続いており、目の前にはオアシスの中に一軒の家が見えた。
「もしかしてあそこかしら……」
 冥夜の言ったのが本当ならば、あの屋敷が冥夜の住んでいる場所なのだろう。
 夜の砂漠は極限の寒さをもたらし、レピアは凍えそうになりながらその家へと向かったのだった。
 扉の前に、ぺたり、と貼られたちらしが一枚。それは見覚えのある冥夜の字だった。
 扉を叩くと騒々しい音と共にその扉が開かれる。
「いらっしゃ……って、レピア!? うわっ、ちょっとどうしよう。髪の毛くしゃくしゃだし、えっとえっと……とりあえず寒いから中入って」
 レピアを見て驚く冥夜。その表情をしっかりと焼き付け、レピアは笑う。
「こんばんは。急にごめんなさい。冥夜のお手伝いしたくて」
「わーっ! 本当? アリガトウ! すっごく嬉しい。レピア、ちょっと待ってて。今お茶淹れてくるね」
 パタパタと走っていく冥夜の髪は下ろされており、雫が滴っていた。風呂にでも入っていたのかもしれない。
 タイミング悪かったかもしれないわね、とレピアは思いつつも、そんな冥夜の姿を見れた事に微笑んだ。

 冥夜が温かいお茶を淹れ、レピアの元へと戻ってきた。
「寒かったでしょ? ごめんね、さっきお風呂入ってて丁度上がった所だったから」
 レピアの前にお茶を出して冥夜は苦笑する。髪の毛がぼさぼさだったのが恥ずかしかったようだ。
「事前に言っておけば良かったのだけれど、冥夜の驚いた顔が見たかったの」
 もう、と膨れた表情をしながらも冥夜の瞳は笑っている。そして先ほど袋に入れて持ってきていたものをレピアに渡した。
「そうそう。これメイド服なんだ。掃除手伝ってくれるってとっても嬉しいんだけど、レピアの綺麗な衣装が汚れちゃったら大変だから、もしよかったら着替えてみて。レピア似合うと思うんだー」
「ありがとう、冥夜。せっかくだから借りるわね」
 レピアは笑顔でそれを受け取った。着慣れないものだが、掃除するの分には問題ないだろう。
 そしてお茶を口にしてレピアは冥夜につげる。
「美味しい。これは何のお茶?」
「えっとねー、師匠がこの間おみやげって持ってきたものでアタシもよく分からないんだ。でも美味しいでしょ? レピアに飲ませたいと思ってたから、来てくれて丁度良かった」
 改めてアリガト、と冥夜はレピアに抱きついた。
「どういたしまして。それじゃ、早速お掃除に行かないとね」
 メイド服を手にしてレピアは着替え始める。
 レピアが以前助けたこの館のメイドであるチェリーが着ていたものと同じタイプのメイド服は、とてもオーソドックスなものだった。
 袖を通し始めたレピアは後ろ手でジッパーを上まであげ、エプロンを付ける。カチューシャまで付けてしまうとこの館のメイドと変わらないように見えた。
「おぉー! やっぱりレピア似合うね」
 さっ、行こう、と冥夜がレピアの手を取るとレピアは小さく頭を振った。
「えっ? レピア?」
 拒絶され冥夜は愕然となった。
「どうしたの? 掃除一緒に行ってくれるんじゃないの?」
 その言葉に、すっ、と軽く頭を下げ告げるレピア。
「ご主人様の仰る通りに」
「ご主人様ぁぁぁぁ? ちょっとレピア熱あるんじゃない?」
 大丈夫?、と冥夜は慌てて冥夜の額に手を翳す。しかし熱は無い。
「えぇっ、ちょっと……レピア冗談よしてよ」
「冗談? 冗談など一言も言っておりません」
 さぁ掃除に向かいましょう、ご主人様、とレピアは冥夜に言う。冥夜は頭を抱えた。
「うわぁぁぁぁん。レピアが違うよー。……でももうなんだか分かんないけど、よし、掃除に行こう。あっちについたらいつものレピアに戻るかもしれないし」
 冥夜はよく分からないままに、ご主人様、と冥夜を呼ぶレピアと共に捻れの塔へと向かったのだった。


------<掃除大作戦>--------------------------------------

「よっしゃー、ついたー」
 冥夜はレピアに、ご主人様、と言われるがくすぐったくてたまらないのか言われるたびに首の後ろを掻いていた。
 捻れの塔に着いてもレピアの様子は変わらず、主人に従うメイドそのものだった。
「レピアー。そろそろ元に戻ってよー」
 そう言った所でレピアは元には戻らない。仕方なく、冥夜はレピアに捻れの塔の説明をする。
「此処は来る度に階数も違うし、捻れの回数も違うんだ。あと、死なない程度の仕掛けもあるから気をつけてね。……ねぇ、レピア。その格好で動ける?」
「問題ありません」
「ううっ……いつものレピアならその言葉は信じられるんだけど……大丈夫なのかなぁ」
 ぶつぶつと冥夜はレピアの様子を窺いながら塔へと入る。
 厚く積もった埃が、扉の開いた通りに跡を残した。それを見たレピアは軽く袖を引き上げながら告げる。
「掃除のしがいがありますね」
「そ、そうかな。あはははは。……はぁ。一緒に頑張ろうねー」
「はい、ご主人様」
 レピアはそう言うと、持ってきたはたきで手際よく埃を払い始めた。冥夜も、よっこらせ、と階段の手すりに昇り高い部分を払う。
「ご主人様、足下気をつけて下さいね」
「うわっ、っと。あ、アリガト」
 未だに『ご主人様』と呼ばれるとびくつく冥夜。よほど慣れない言葉なのだろう。
 埃を払うまでは塔に妨害されることなく仕事は完了した。次は拭き掃除だ。
 レピアは此処でも手際よく仕事をこなしていく。
「レピアってさー、こういうの得意なの?」
 冥夜が一緒に雑巾掛けをしながら訪ねるとレピアは言う。
「得意も何もお仕事ですから」
「うっ……まぁ、そうなんだろうけど。メイド服着てこんなことになっちゃうってことは、メイド服を着てた時の記憶があるってことだよね、多分。その時の記憶がごっちゃになってるのかなぁ」
 ぶつぶつと冥夜は一人呟きながら雑巾掛けに精を出す。
 その時、ガツっ、と冥夜は何かに躓き転倒した。
「ご主人様っ!」
 危ない、とレピアが冥夜に覆い被さる。メイド服の長いスカートだというのに、それをものともしない素晴らしい動きだった。
 冥夜を床に押し倒し覆い被さったレピアの上を、巨大な振り子が通過していく。遠くにいる間にレピアは冥夜を連れて、その振り子の届かない所へと向かう。
「ご無事で良かった」
 ほっ、とした表情を浮かべたレピアの顔を冥夜は何度も見た事がある。
 記憶が混ざってしまっていても、レピアはレピアだった。言葉遣い等でレピアが遠くに行ってしまったような気になっていた自分を冥夜は恥ずかしく思った。いつものレピアも、今のレピアも冥夜を大切に思ってくれている事にはかわりがない。
「アリガトウ。やっぱり大好き!」
 ぎゅっ、とレピアに抱きつき冥夜はレピアの頬にキスをする。
「ご主人様……」
「やっぱりアタシの知らないレピアはたくさん居るんだなー」
 でも今日は一つレピアのもう一つの顔知ったけどね、と冥夜はにこりと微笑む。
 ご主人様、と呼ばれる事には慣れなくても、冥夜の前でレピアはレピアだった。
 冥夜から軽くレピアに啄むようなキスをし、冥夜は抱きついていたレピアから離れる。
「さ、お掃除お掃除。でもその前に……」
 バイバイ、とにこやかな笑みを浮かべた冥夜は先ほどの振り子に向かって攻撃しようとした。それをレピアが止める。
「お待ち下さい」
 冥夜を制止したレピアは、はぁっ、と一声あげその振り子に向かって気合いの入った一蹴りを喰らわした。重い衝撃音と共に、振り子は根本から折れ壁に激突する。しかし壊れたかに思えた壁は自動修復し、何事もなかったかのような姿をさらしていた。
「うん、やっぱりレピアはレピアだ」
 アタシの大好きなレピアだ、と冥夜は満足そうにそのレピアの姿を見つめた。


------<掃除の後で>--------------------------------------

 レピアの手際の良さもあり、あっという間にあれほど埃にまみれ汚れていた塔の掃除が完了した。
 冥夜は塔の内部を見渡し、拍手喝采である。
「すごーい! こんなに綺麗になっちゃうのって、凄いよね。アリガトー!」
「ご主人様と一緒でしたから」
「ううん、ほとんどレピアのお手柄。今日は本当に助かっちゃった。アリガト」
 その時、何かを言おうとしたレピアの口の動きが止まる。
 冥夜が、あっ、と思った時には遅かった。レピアは石化していき、途切れた言葉はレピアの中へと消えていく。
「時間か……。よし、レピアには今日の御礼も兼ねてゆっくりしていって貰おうっと」
 エルファリアの方には連絡入れておいてー、と冥夜は忙しく動き始める。
 そして全ての準備を整えると、砂漠の館へとレピアを連れて戻ったのだった。


 レピアが目覚めると、レピアはメイド服を着ておらず湯船の中にいた。
「此処は……冥夜? 掃除をした記憶はあるけれど少し曖昧ね」
「はいは〜い。おっはよー。あ、いつものレピアだ」
「え?」
 どういうこと?、とレピアが尋ねると冥夜は、えへっ、と笑い誤魔化し告げた。
「お掃除手伝って貰っちゃったから、今日はレピアにアタシの手料理を食べて貰おうと思って。あ、エルファリアの方にはちゃんと昨日のうちに連絡済み。心配させちゃ悪いからね」
「ありがとう。それで、あたしはなんでここに?」
「埃まみれになったでしょ? だから、ご飯の前にサービス♪」
 アタシが髪の毛洗ってあげる、と冥夜がレピアに微笑む。
「あら、本当? それじゃお願いしようかしら」
「まっかせて!」
 鼻歌交じりにレピアの指通りの良い髪の毛に泡を立てる。良い香りがバスルームへ漂った。
「なんかあたし、女主人みたいね」
「昨日はアタシがそうだったから、今日はレピアがご主人様で良いの」
 ふふん、と冥夜は笑いレピアと甘いキスをした。



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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】


●1926/レピア・浮桜/女性/23歳/傾国の踊り子


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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。 夕凪沙久夜です。
今回との掃除は如何でしたでしょうか。
お手伝い頂きアリガトウございました。
レピアさんのメイド姿は素敵なんだろうなぁと想像しつつ、楽しく書かせて頂きました。。
ご依頼頂きありがとうございました。
またお会いできますことを祈って。