<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


++   棲家   ++




 きし……

 どこかで大樹の軋む音が響いた。
 ほとんど隙間無く埋め尽くされた緑色の天。
 時折見える青天の向こうからは、真っ白な輝きが白々と足元を照らし出す―――

 人々は此処を、迷いの森と呼んだ。

 チチチ……

 どこからか小鳥の囀り声が響いてくる。
 鬱蒼と生い茂る草木、花、蔓に絡め取られた何かしらの建物の外郭。

「きれいな場所ですね…」
「あぁ、そうだねぇ」

 薄い金色の髪が印象的な少年レイと、ほっそりとした体つきに柔らかな笑みを湛えた青年フィースは、二人顔を見合わせてにっこりと微笑みあった。

「此処なら、いいかも知れないね…楽しそうだし、何となく、建物の痕跡もありますし…」
「レイ、でも此処から棲家を造るのは大変だよ…?」
「はい、でも……皆さんに、心配も、迷惑もお掛けしたくありませんから…このくらいの方が丁度いいと思いますよ?」
「あはは、そうだねぇ…でも、これは早速誰かに手伝って貰わないといけないかな」
「ふふ…早速ご迷惑をお掛けしそうですね」
「そうだねぇ……ま、きっと誰か手伝ってくれるだろうね。此処は、良い人が多いから…ねぇ、レイ。君の友達もたくさん出来るといいねぇ」
「……はい、フィースさん」

 二人は微笑み合うと、再び視線を建物の残骸へと向けた。
 端々は崩れ落ち、至る所に残骸の山を築き上げていた。
 しかしながら、そこから読み取れるこの「建物」の形は―――巨大な迷路そのものだった。




一、木の葉舞うお手伝いさん


 レイとフィースは乱れ靡く木の葉に視線を寄せた。

「今日は……やけに風が強いね」

 ぶわ……嫌な風だった。
 全てのものが吹き飛ばされてしまうかのような、力強い。

 黒い森の影は、風に凪ぎ――容赦無く二人の姿を覆い隠す。
「余り風が強いようですと……危険な気がしますね」
 力仕事では役立たずだと、自ら進んで水場の確認をしていたシルフェが二人に近づいてそう呟く。
「何か少しだけ嫌〜な予感がするんだよな」
 その隣で、ともに歩み寄ってきたユーアが小さく呟いた。
 こう見えて、彼女の「勘」は、結構鋭い。

 かさ かさ と乾いた音を掻き鳴らし、木の葉が宙を舞う。
 突如として、これまでにない突風が吹き荒れ―――そこに立つ、誰もが吹き飛ばされまいとして大地に足をぴたりと張り合わせた。
 今にも風に飛ばされそうになるレイを見て、フィースは彼の体を抱きしめた。

 ずっ………し…ん

 妙に重い音が鳴り響き、それぞれの足下に鈍い振動を響かせる。
 そこに居る、誰もがどきりと心臓を跳ね上がらせたに違いない。
 此処は、まだ知らぬ土地―――その上、迷路。

 恐る恐るユーアが顔を上げ、目の前に広がる光景に思わず息を詰まらせる。

 威風堂々、皆の前に立ち塞がるその姿―――それは、正しく。

「ちょ…ちょっと、待て……この迷路にはこんなのがうじゃうじゃ居るって事……か?」

 思わず口にした一言に、視線すらも凍りついたように動かさなかった皆がユーアを一瞥し、そしてゆっくりと彼女の視線を辿ってゆく―――

 巨大なドラゴンが、徐に頭を上げてぶるぶると翼を震わす―――


  出         た          ………!!!!!!!

 心の中で叫び声をあげる者、数名。
 しかしその微かな慄きを感じ取ったのか、腹に「うま」と書き殴られたドラゴンは頭を振う。

『はじめまして、私、ドラゴンの「うま」と申します』

 脳内に響いてくるような「声」―――

「まぁ、礼儀正しいおうまさん……」
 シルフェがにっこりと微笑みながらその壮観な姿をじっと見上げる。

「れ、礼儀正しい……」
「おうま……さん?」

 うまは厚い表皮を滑らかに動かしながら、じっと皆を見詰めた。

「と……とって喰われるかも」

 ぼそり、ユーアがそう呟く。

「まぁ、それは大変ですね」

 微かながら語調も軽快に、シルフェがそう相槌を打つ。
 はたして本当に「大変」等と思っているかどうかは甚だ疑問だ。

『御主人様に引越しの手伝いをと言われてきたのですけど…お荷物などございますか?』

「御主人様って誰ですか?」

 何を相手にしようとも、最早何にも臆さず…といった風のレイが、フィースの腕の中で「うま」にそう問い掛ける。

『………それは』

 言いかけたところへ、大きな声で誰かを呼ぶ者が、一人。

「ぉー、アイラス、お前さんのラブハニーがきなすったぜー??」

 オーマがニヤニヤと笑いながら森から恵んで貰った建材を肩に担いで近づいてくる。

「らぶ?」

 シルフェが首を傾げ…

「はにー??」

 ユーアが逆方向に首を傾げる。

 本日随一の、夢にまで現れそうな素敵な出会いである――――




二、木材求めて徒競走 〜おら、ぜってぇに裏の畑はわたさねぇ〜


「サボってんじゃねぇええッッ覚悟しやがれっっ」

 そんな叫び声と共に丸太がびゅごぉっっという轟音と共に飛んでくる!!

「ぬをおおおっっ!!? ユーア、お前さん素敵に腹黒チックに卑怯だぜっっ」
「光栄だコラァっっ!!!」

 続け様に二本、三本、丸太が飛んでくる。
 何の事はない(ことはない)直ぐ後ろの森から自然の恵みを…有り難い事にユーアが何のトラップですかこれ張りに切り倒しもとい蹴倒してオーマ目掛けて投げつけてくれているのであろう。
 その鮮やかな手捌きはもう【神の領域】だ。うん。食の。関係ないけど食の神だ、食の神。
 一応コレ、立派な分担作業ですから、コレ。うん、そうそう、分担作業コレ。

 いつの間にかユーアの隣に立ったアルミアは、徐に彼女の肩に手を置いた。

「私も手伝おう」

 キラリと彼女の瞳が輝いた事は言うまでもない。
 そして、勿論ぜぇはぁと大きく息をつくユーアの瞳もまた―――今日もまた、悠久迷路にオーマの断末魔が響き渡る。
 たーまやー(違うだろう)


 オーマが圧死した傍らをうまが飛びまわっている。
 フィースの指示に従って瓦礫の撤去作業を行っているのだろうか。
 実質本当に「真面目に」働いているのはうまだけなのかもしれない。
 まぁ…ほのぼのやってくれれば幸い、という訳だが。
『撤去が終わりましたら、建材を運ばなくてはなりませんわね』
 大地に振動を響かせながら着地したうまが、フィースにそう問い掛ける。
「あぁ、そうだね……」
『適当に樹を持ってくればよろしいのでしょうか? 人間の家は、ほとんど木でできていましたものね。御主人様の街は石で出来た家も多いようですけど……』
「んー……あの二人が切り倒した物を運ぶといいと思うよ?」
 フィースは柔らかに微笑んで闘いの場を指差す。
『……そのようですね』
 山と積み重なる木材を目に、うまは動じる事もなくそう呟くように言った。

「おっし、じゃあ次は畑でも作るか!!」
「ユーア、いきなり畑…?」
「おう、当然だろ? 何度でも言うがとりあえず、そこに住むなら一番大事なのは衣食住! の中の食!! ってな事で森でも少々焼き払って畑を作成しようぜ」
「ぁ〜……間違ってない…気がするけど……」
「だろ? 見通しはよくなって害獣も迂闊に近寄れなくなるし、焼き払った森の灰は畑の肥やしになるしバッチリ☆」
 ユーアは嬉しそうに笑いかけると、恐らく彼女関わるとしたら台所と寝室しかないであろうと思われるだけに、かなりの手際の良さで準備を進めて行く。
 しかしそんなほのぼの(!?)光景を黙って指咥えて見詰めているだけじゃ済ませることが出来ない…生まれたての小鹿にも似て、わなわなと震えたオッサンが居る。
「腹黒コスモ大胸筋パワーとか親父愛エキスナマ絞り注入☆」
「ぎゃぁあっっ俺の大事な畑に何しやがるんだこの天然はてなマーク全開オヤジがッッ!!!」
「俺様を天然なんかに例えるんじゃねぇ!! 果てしなく続く銀河親父友の会☆お色気筋塊星からやってきた期待のマッスルだぜ★!!?」
「うっせぇよ変態がっその暑苦しいツラで俺の神聖な畑に妙な手を加えるんじゃねぇ!! お前なんか全開じゃねぇっ全壊だ!!!!」
 何言ってんのか解りませんよ、ユーアさん。…それは兎も角。
 ユーアの飛び膝蹴りがマッスルの脳天にメガヒットした頃(用法間違い)、うまはフィースと共に順調にわっせわっせと散らされた木の葉を掻き集めていた。
 燃やすのならご一緒に―――と思ったわけだが、協力しても、良いのか……若干の不安を残しつつ、親父の返り血を浴びたユーアが嬉しそうに微笑んでいるので良しとする。
 先日から気付いていた事ではあるが……彼女、ユーアは………本当に食と寝る関係の時以外には余り笑顔を見せた事がないような…と思ったが黙っておこう。
「ところで…火をつけれそうな人を黙らせてしまったけれど、どうするのかな…?」
 フィースの素朴な疑問に、ユーアの視線も自ずと沈黙してしまったオッサンの方へと向く。
「………うまは?」
「ぇ、本当に焼き払うのかい……?」
『大丈夫です、私はこう見えて凍らせる方が得意なのです……』
「「へ……へぇ〜……そうなんだ………」」
『………えぇ、お恥ずかしながら…』
 うまが少し照れた風に見えなくもない感じで多分人型だったら頬を染めたんだろうなぁ、といった恥じらいを見せた時、徐に立ち上がったユーアが手を前に翳し、何事かを呟き始める。
「ユ……ユーア……?」

「炎の剣!!!!」

「『……えぇっ!!!?』」

 どごぉおおおおおんっっ!!!!

 轟音と共に一瞬にして大地にハゲが出来上がった。
 天然禿げじゃない。人口禿げだ。
 ぷすぷすと燻る大地に黒焦げの木の葉。
「………ユーア…」
『ユーアさん………』
「………後は耕すだけだ!!」
「『!!?』」
 まぢでーーーーっっ!!!?
 二人がそんな風に思ったかどうかは定かじゃない。

 ただ、一つだけ解っていることがある…………
『………あとは、何をすればよろしいのでしょうね。
そうだ、御主人様はどうなされたのでしょう?御主人様のお手伝いをして差し上げないと』
 うまは逃げ去るかのようにその場を後にしたとかなんとか。

「よし、此処には芋を植えよう。秋は焼き芋だ。んでもって此処には玉蜀黍!! んでさ、こっちには葡萄とか柿とか植えてな〜っ」
「うん……楽しみだねぇ」
「だろだろっ俺もすっげぇ楽しみだ」
 楽しそうに語るユーアの言葉を聞くものは、既にフィースしか居なかったとか何とか…。




三、ミラクルトラップの種


「な・に・を ……しているのですか? ユーアさん……??」
 いつの間にか背後に忍び寄っていた青い影に、ユーアはぴくりと体を揺らす。
「そこだぁああああああっっ!!?」
「……………!!」
 ユーアの流れ星よりも速い(聴いた感じはとっても微妙)裏拳を、星の瞬きほどの素早さ(何者ですか?)でかわしたその男は、瞬間的に細めた双眸をすぅっと普段の温厚そうな瞳へと変える。
「ぉあ? アイラスか、悪い」
「いえ、大丈夫ですよ……で、何をしていたのですかね?」
「ぇ? ぁ?? 見てわかんねぇ?」
「…………」
 つらっとした表情で飄々とそう語るユーアに、アイラスは心持ちきょとんとしたような顔つきでユーアの手元を覗き込む。

 剥がされた床板。

 赤いコード。

 青いコード。

 黄色いコード。

 その先にはコイル?

 そしてその少し手前にぐるぐる巻きにした――――

「……サバイバル?」
「トラップ」
 平然と彼女はそう語る。

「誰を引っ掛けるつもりなのですか?」
「あ? そんなもん敵に決まってるだろ?」
「敵?」
「そう、不審人物」
「……不審人物?」
「そう、要注意人物」
「………あの……今、僕の中で一般的な警戒すべき人物よりも他に、別の方の顔が浮かんだのですが……」
「あ? 何だそれ」
 ユーアはいい笑顔でアイラスを一瞥すると、黙々と作業を続けていく。
 もうこれが彼女の常識。
 憂いは断つ。そう…全力で……!!
 ユーアはクックと怪しい笑いを悠久迷路どころか迷いの森中に響かせながら、作業に没頭した。




四、レッツバトル? 〜 昼下がりの迷子さんたち 〜


「ぬをおおおおおおおっっ!!!?」
「おっしゃかかったぁあああっっ!!!!」

 今日も悠久迷路に断末魔が響く。
 延々と、反響しては、何処までも 何処までも……(違うだろ)

「この要注意の不審人物がぁっ!!」

 ユーアが勢いよく振り翳した先ほど入手した新アイテム・その辺で拾った木の棒の先を相手に向ける。
 全力で首をぐらんぐらんと左右に振う男――がっしりとした身体つきに、黒い髪、サングラス――ん? どっかで見たことあるな。
「気のせいじゃねぇの?」
 ユーアはアナウンスにいちゃもんをつけながらも体半分床に埋れた大男に、にやりと口の端を引き上げて笑った。
「観念しろ、要警戒人物め……俺のテリトリーであるこの家に押し入るとはふてぇ野郎だぜ……」

「……ユーアさん、キャラ違いませんか? 大丈夫ですか?」
 さすがアイラス、ナイス突っ込みだ。
「気のせいだ」
 気のせいなのか。
 そんなボケはさて置き、俺のテリトリーという響きにも若干の疑問符が浮かぶ今日この頃―――

 ユーアの足下に、一人の成人男性が「埋まっていた」。
 それはもう見事に、大胸筋の辺りまで洩れなく隠しマッスルだ。




 夢は木造平屋建て―――夢も大詰めである。
 ユーアとアルミアが切り出した(?)建材を使い、景観を崩さぬように素朴で温かな雰囲気に建築をしていく。
 はめ込む型を作り、四角く切り取った穴に杭として同様の形に切り出した木材を押し込む―――
 ゆっくりと、ゆっくりと。それでも着実に「レイ達の家」は完成に近づいていた。

 それと同時進行で、二人の宿怨のバトル(いつからだ)も続いていた。
 ちゃんと働いている。
 オーマは肉体労働、ユーアは焼畑農業(間違ってる)。二人ともちゃんと相応しい場所で黙々と作業を―――それでも物は飛ぶ。


「………そこだぁああああああああああああああっっ!!!!」

 どっごぉおおおおおっっ!!!!

「ぅぎゃあああああああああああああああっっ!!!!?」

 ……間違いではない、決して間違いではない。……そう思う。

 悠久迷路の傍らからレイとシルフェ、そしてアイラスが顔を覗かせた。
「レイ……大丈夫だったかい?」
 フィースがそう問い掛けると、レイはこくりと頷いた。
「迷っていたのか」
 アルミアの言葉にレイは小さく頷いた。
「まぁ……掃除なら済ませた後だったから…良かったが」
「……掃除、ですか?」
 アルミアの言葉に首を傾げるレイ。

「少し休憩しませんか?」

 シルフェがお茶を注いだカップを、手作りの木製机の上にことりと音をさせて置いた。
 アルミアは既に傍らでお茶を啜っている。
「お、いいね。俺も戴こうかな」
 ひょっこりと顔を出したユーアが、お手製の椅子を傍らにどっかりと置いて其れに腰を下ろす。
「ん。なかなかの座り心地だな」
 満足げに頷くと、お茶を口元に運ぶ――ところでひょいとカップを奪われる。
「ん〜、うめぇ!」
 一気にカップの中身を飲み干し、机の上にどかっとそれを置いた大男は、これ見よがしに口元を拭ってユーアに挑戦的な視線を向ける。
「お……俺の 茶 を ………!!!!」

 何度でも説明しよう。
 ユーア氏から食べ物を奪うと、彼女はその怒りによって平静を失い、「嘗めとんのかいゴルァ」くらいに人格が変わってしまうのである。
 復讐の鬼・ユーア
 巷ではそう呼ばれているらしい(巷ってどこだ)
 因みに彼女の通り名は「食残所の岡引」。何処で通っているのかは仔細不明である……と、解釈ついでに土下座しておこう。

 まぁそんな戯言は兎も角だ、彼女の信条は「良く食って寝て遊ぶ」。
 その通りで正に本能と直結した考えを時々……というか最近殆どだとか何とか。誰のせいだというのですか。兎に角そんな本能的な考え方をしているようなので、この恨みは 【至極】 恐 ろ し い !!!

「てめぇ 嘗めてんのかっ俺の茶ァ返せコラァーっっ」
 ユーアの攻撃:秘技・卓袱台返し!!
 アルミア:アルミアは攻撃をかわした。
 シルフェ:シルフェは木陰でお茶を啜っている!
 アイラス:アイラスは木陰でお茶を啜っている!
 うま:うまは首を掻いている!!

「へっ…んなもんはもう俺様の桃色胃袋ん中で今朝の悶絶決死愛妻弁当とごっちゃ混ぜになっちまってるぜ」
 オーマのカウンター:卓袱台が脳天クリティカルヒットしつつもカップでスネを攻撃!! これまたクリティカルヒット!!
 アルミア:アルミアは攻撃をかわした。
 シルフェ:シルフェは木陰でお茶を啜っている!
 アイラス:アイラスは小鳥の囀り声に心を和ませた!
 うま:うまはアイラスに見とれている!!
 
「くっ……この野郎っっ!!!」
 ユーアの攻撃:何故かスライティング!!
 アルミア:アルミアは攻撃をかわした。
 シルフェ:シルフェは森の妖精と戯れ始めた!
 アイラス:アイラスは甘い物が欲しいなとか思っている!!
 うま:うまはアイラスに熱視線を送っている!!

「………無駄に元気ですねぇ」
 アイラスの攻撃:凍える微笑!!
 アルミア:アルミアは攻撃をかわした。
 うま:うまは甘い溜息をついた!!

「「 ぅ ぐ は ぁ゛ 」」
 ユーアとオーマに444のダメージ!!
 ユーアの攻撃:倒れがけにオーマの桃色腹部目掛けて肱打ち!!
 ユーアは倒れた!!
 アルミア:アルミアは攻撃をかわした。
 オーマは思わず拳を地面に打ちつけた!!
 大地に亀裂が入る!!
 オーマは倒れた!!
 アルミア:アルミアは攻撃をかわした。

「………まぁ…折角水の確保のために引いておりましたのに」
 シルフェは少し悲しそうにそう口にすると、妙な物音を耳にして立ち上がった。
 アイラスは彼女の指示に従って作成した机や椅子類を少し端の方へと避けてやる。

 間一髪――水が、噴出した。

「……これで水には困りませんわね」
「ふむ。水源をたどる事もなくなったというわけか」
「や、これは便利になってよかったよ。ね、レイ」
「うん」
 そういう問題でもない。……というかアルミアはまだ優雅にお茶を啜っている。何だその回避率は!! 恐るべきはアルミアか!!
「少し離れていますが…裏庭に泉なんて、風流で良いではありませんか」
 アイラスがそういって微笑むと、何故か絡まずに黙ってお茶を飲んでいたレイがにっこりと微笑む。
「うん。フィースさんもきっと喜ぶと思うな」
「……………だと良いのですが」
「…そうですね……きっと喜んで下さいます」
「あぁ、あの男なら喜ぶだろう」
 泉に浮かぶユーアとオーマを眺めながら鳥の囀りをきく―――なかなか優雅なひと時を堪能したのであった。




五、この日を胸に


 山並みの向こうに、微かに光の輪が広がる。
 夜明けは近かった。

 瓦礫に塗れた悠久迷路にも、仄かに光が差し――皆と共に創り上げた、木造の暖かな平屋が浮かび上がる。
 迷路の構造を利用し、広大な迷路の片隅で一休み―――とでもいった風か。

 光に溢れた平屋の窓の縁に、レイの手から零れ落ちたルベリアの花が揺れる。

「………おし。完璧だな」

 かなりの背丈の男が、一人額を拭い、レイの頭を遠慮なく掻き回す。
 汲んだばかりの美しい水を吸い上げ、ルベリアはより一層輝きを増したかのようだ。

「レイ、忘れないうちにこれも渡しておくぜ」
「……? オーマさん、これ何?」

 レイはオーマから手渡された包みを指し、首を傾げてみせる。

「ルベリアの種だ」
「ルベリアって……この、花?」
「あぁ、そうだ。俺はお前らならきっと咲かせられると思うぜ?」
「………わぁ、ありがとう、オーマさん」

 レイは嬉しそうな微笑みを浮かべると、ルベリアの種の入った包みをフィースの方に翳してみせる。
 その仕草に、フィースはくすりと微笑んだ。

「ありがとう、オーマ」

 オーマは口の端を引き上げると、何でも無いさ、とでも言う風に首を振るった。

 そこから、遥か南方に木の家が垣間見え、木漏れ日に揺れる清閑な姿が見る者の心を躍らせる。
 窓から見た外の風景は、程好く木を落としたようで、不慮の事故で出来た「庭」も中々の出来だ。
 家の地下に地底ナウヤング筋魔境世界(オーマ宅地底と繋がる)建造されていたり、異様な仕掛けが散々に張り巡らされている事はユーアとオーマの二人だけの秘密だ。公の。

「さて、と……では、やるか……」
 アルミアがそう切り出すと、オーマはにやりと嬉しそうに笑った。
 シルフェ、アイラス、ユーアも立ち上がり、フィースとレイを伴って、うまの居る庭の隅へと向かった。

「……これは?」
 レイの問い掛けに、アイラスが微笑む。
「木の切り株ですよ」
「敢えて残しておいたんだぜ。きっかり人数分な」
「若い木を選んだから…軟らかいだろう」
 オーマ、アルミアが其れに続き、シルフェは少し首を傾げる
「椅子にでもするのですか?」
『いいえ、先ほど御主人様たちがお話していた様子ですと……』
「オブジェ…とか?」

「この切り株で、作るの?」
「おうよ、それっぽくなりゃオッケーだぜ?」
「ま、やってみなよ、レイ。楽しいと思うよ?」
「何を言っているのですか、フィースさんも作るんですよ」
 アイラスがフィースの肩を叩く。
「ぇ、俺も?」
「当ったり前だろ? 俺ら全員で作るんだよ。じゃなきゃ意味ねーだろ?」
 フィースは指先で米神の辺りを掻くと、加減、照れた様に笑いながら、小さく頷いた。

 悠久迷路に明るい笑い声が響き渡る。




――――――――僕らは この日と想い、絆を永久のものに。そして、それらを忘れぬ為に 刻もう。








――――FIN.


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 【2994/シルフェ/女性/17歳/水操師 】
 【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
 【2693/うま/女性/156歳/どらごん? 】
 【2542/ユーア/女性/18歳/旅人】
 【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
 【2524/アルミア・エルミナール/女性/24歳/ゴーストナイト 】