<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


一緒に遊ぼう

「暇、だ〜〜〜〜!!」
 ヴ・クティス教養寺院に響き渡る甲高い声と共に、院生達の間を小さな影が駆け抜ける。
 しかし、其の騒音に値する大音量にも、周りの者達は何処か暖かな眼差しを向けるばかりで。
「誰か、俺と遊んでくれよ!良いだろ其れ位?!俺は此処から、一歩だって外に出られないんだぞ〜〜!!」
 寺院恒例の、ヴァ・クルによる長い駄々っ児が、今日も又始まった……――。

 * * *

「よしっ、せいれ〜つ!!」
 寺院の大広間に掛けられた号令に、ヴァ・クルに捕捉され遭えなく捕えられた面々が各々の面持ちを以って列を作る。
 この小隊の首謀者であるヴァ・クルに始まり、時折に寺院の書庫を調べる為顔を出して居た、アレスディア・ヴォルフリート(あれすでぃあ・う゛ぉるふりーと)。そして、足繁く腹黒同盟勧誘に訪れたオーマ・シュヴァルツ(おーま・しゅう゛ぁるつ)。
 更には其のオーマ率いる人面草、人面藻、霊魂軍団……――。
 纏まりの無い人種とは裏腹に、一列にと綺麗に並んだ小隊の中。アレスディアは、了承の上とは言え今置かれた幼稚染みた自身の状況に、些か疲労の色を隠せずに居た。
「この整列に、何か意味はあるのか……?」
「其処!死語は厳禁!!はいっ号令〜!……いちっ!!」
 勇ましく号令を掛けるヴァ・クルに、アレスディアの心底諦めを帯びた吐息が漏れ、其の背後ではオーマの豪快な笑い声が響き渡る。
「要は、こん中でハジけられれば良いんだろうが?――此処は一丁、ヴ・クティス横断ウルトラマニア筋桃色大胸筋イリュージョン★お初お目見え大舞台……行け!野郎共!!」
 オーマの号令と共に、今迄彼の後ろに続いて居た人面草達が勢い良く跳ね回り乍ら辺りへと散開し、突如として辺りの空間が重苦しく歪み始めた。
「うおお〜〜っ?!スゲーー!!」
「な、何だ……っ?」
 急激な寺院の変貌に興奮するヴァ・クルと、自身の愛用する漆黒の突撃槍に手を掛けるアレスディアを初めとする寺院の面々の中に、オーマの姿は忽然と消え失せて。
 見る見る内に寺院には異様な陰が掛かり、生温い風の流れる其の様はまるでお化け屋敷の其れと成れ果てた。
 そして、唖然と辺りを見回すアレスディアの瞳の先に……。見慣れぬ小さな翼を持つ獅子が、ちょこんと居座って居る事に気付き彼女は眉を潜める。
「……ヴァ・クル、ではないな……?形状が少し違う様に……――」
 背後で軽やかに浮遊するヴァ・クルを横目で確認し乍らも、足下の獅子にアレスディアが手を伸ばし――ふと。妙な違和感を覚え、其の手の届く直前に動きを留める。
 感じる違和感を拭えぬ儘に硬直し、内心小首を傾げるアレスディアの後ろで、ヴァ・クルが徐に口を開いた。
「おおっ、おっちゃん仲間だったのかあ?カッコイイ身体してんな〜〜」
『お、やっぱ分かる奴には、何になってもこの筋肉の素晴らしさっつうもんが分かっちまうのかねえ?』
 え……――と。アレスディアの差し出された手が更に引き戻され、手元へ帰る。
 目の前の小さな獅子から漏れた声らしき声の、持ち主と思しき其れは、確かについ先程まで此処に居た豪快な男の物であろう。
「……何を、しているんですか……?」
『目には目を、童心には童心をって言うだろうが?――さあ、ナイトメア筋空間★ヴ・クティス寺院腹黒ミステリー、桃色青色おぴんく七不思議に迫るぜ……!!』
 アレスディアの問いに一言、軽くそう答えるとオーマは小さな尾を振り乱し、すっかり様変わりした寺院の中を勢い良く駆け出した。
「……君は仮にも、この寺院の守護者だろう?今直ぐにでも、これを如何にか……――」
 残されたアレスディアが幾度目かの小さな吐息を漏らし、ヴァ・クルに向け放った言葉と共に振り返れば、其処には只どんよりとした壁が一面に広がるばかりで。
 再び前方へと視線を戻せば、小さな獅子と化したオーマの背中を嬉々として追い掛ける、ヴァ・クルの後ろ姿が瞬く間に遠ざかって行った……――。

 * * *

「全く、落ち着きの無い……」
 あれから小一時間程であろうか、未だに紫煙の掛かる寺院内を、アレスディアは手掛かりも無い二匹の姿を追い求め只延々と彷徨って居た。
「……これでは、まるで隠れん坊だな」
 寺院の守護者で在るが故に募る寂しさや暇を払う為に集った自身等に、結果、正しくヴァ・クルの望みは満たされて居る様に思うが……。周囲から時折聴こえて来る悲鳴や騒音に、この後に待つ騒動の始末についてを思い、アレスディアの頭が軽く痛んだ。
 何処からか生温く吹き付ける風――もとい、人面草らの懸命に吹き掛ける息。
 独りでに鳴り出す――否、霊魂軍団等の掻き鳴す黒板の甲高い摩擦音。
 ……特に工夫も無く地面へと落とされた、茶色く変色したバナナの皮……――。
 其れ等を器用に槍で払い、払っては腹で叩き伏せ……。何と無く、この異形の者達にも正座付きで延々と説教を垂れたい気分に落ち込んで来た処に、久方振りに追い求めて居た二匹の姿を確認し。アレスディアは、袋小路の扉の前に佇む其の姿に漸くと歩を緩めた。

 * * *

「うっひゃ〜〜!!」
『おらぁっ!何の此れ式……!!』
 二匹が寺院の広間を駆け抜け、アレスディアと逸れてから既に小一時間。
 図書室で本の隙間から大量発生した霊魂軍団に始まり、突然顔に貼り付いて来た人面藻。人面草に因って頭に落とされた薬草の根付いた植木鉢……――。
 休む間も無く襲い来る彼等の襲撃に、彼方此方から聞こえる悲鳴とは裏腹に、二匹は只可笑し気に笑いを漏らして。
「おっちゃ〜ん!!七不思議って、七つ在るから七不思議って言うんだろ〜〜っ?!」
『おうよっ!其れでもって、残る一つで桃色青色おぴんく七不思議も完全網羅だなぁ!?』
「――二人共無事……の様だな?」
 白熱した問答を続けるヴァ・クルとオーマの背後で、久しく見なかったアレスディアの姿に漸く気付いた二匹は、きょとんとした面持ちで彼女へと視線を定める。
「ねぇちゃん、何してたんだ〜〜?俺達、もう七不思議って奴は此処で最後だぜ……??」
『よっしゃ!感動の対面の後には、華麗なるフィナーレと行こうかねえ?』
 そして、オーマがアレスディアの応答を待たず、勢い良く開け放った扉の先には……。
 ――人面草、人面藻、霊魂軍団の塊が、眼前に隙間も無く立ち塞がって居た。
「おおお…………っ?!?!」
 其の完成されたパズルの様な巨体に、一人と二匹はまるで為す術も無く。
 遂には、鈍い音と同時に……。
 倒れ掛かる異形の山に、呆気なく呑み込まれて行った……――。

 * * *

「おっちゃ〜ん!!ねえちゃんも、又遊びに来てくれよな〜〜っ?!」
「おおっ。今度はもっと、特大のブツを連れて来てやるからよ!」
「――私は……考えておこう……」
 人面草らの所業と相乗して、オーマとヴァ・クルによって更に害を増した激しい破壊活動に、オーマは勿論の事、アレスディアも寺院内の掃除、修繕を言い渡され……。
 ヴァ・クルは、院長、師長共々に説教を食らったばかりだと言うのに、二人の遥か上空より満足気に二人の姿を眺めて居る。

 心身に掛かる疲労は濃くも、そんな小さな守護者の姿も瞳へ映れば、自然二人の頬も朗らかに緩むのであった……――。


【完】

■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■

【1953 / オーマ・シュヴァルツ (おーま・しゅう゛ぁるつ) / 男性 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2919 / アレスディア・ヴォルフリート (あれすでぃあ・う゛ぉるふりーと) / 女性 / 18歳(実年齢18歳) / ルーンアームナイト】

■ライター通信■

オーマ・シュヴァルツ様
アレスディア・ヴォルフリート様

こんにちは、ライターのちろです。
この度はノベルへ再度のご参加を頂き有り難うございました。^^

オーマ様の七不思議と、アレスディア様のかくれんぼを併せ様と試みた所この様な結果と相成りましたが、如何でしたでしょうか?
ヴァ・クル、オーマ様がとてもノリの良い印象の為、アレスディア様には自然ツッコミの様な、ストッパーの様な役割をとノベルを手掛けさせて頂きました。

又機会がありましたら、其の時には再びお相手を頂ければ幸いです。