<PCクエストノベル(2人)>
沼地での再戦 〜THE ふんどし〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1070 / 虎王丸 / 炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術士】
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凪:「それはちょっと」
虎王丸:「何言ってんだよ! じゃあどうするっていうんだ! ま、おまえがどうのこうの言ったところで、俺はこうするんだけどな!」
二人の声が喧しく飛び交う。(とはいっても喧しいのは虎王丸一人だが)
沼地に足を浸からせた虎王丸は褌一丁と、なかなか面白い格好だ。抜き身の刀を手ぬぐいを使って頭に縛り付けている。
凪は困ったと、眉をひそめて虎王丸を見ている。そもそもここに来たのも、無理に彼に引きずり込まれてしまったせいであって、自分の意思ではない。
彼から大蜘蛛の話を聞いた時は、確かに少しは探求心がくすぐられたのだが。
虎王丸:「汚れると思うから、さぁ、脱げ」
凪:「んー、無理」
虎王丸:「脱がなきゃ先に進むことはできないんだよ!」
凪:「と、大声で怒鳴られても」
虎王丸:「あああ! おまえ、わかってんのか! ここは沼だぞ! 沼地だぞ!? んな格好してたら汚れるっつーの!」
凪:「……遠回りとか?」
虎王丸:「ばっか、おまえわかってねぇなぁ! もし他に獲物を狙っているヤツがいて、俺たちより先に獲物をかっさらわれたらどうするんだよ! ああ、考えてたら心配になってきたぁ!」
虎王丸は後頭部をがしがしと乱暴にかきむしる。
凪:「……杞憂だよ」
虎王丸:「ばっか、おまえわかってねぇよ!」
凪:「でもねぇ、その格好は」
凪は虎王丸を一瞥した。褌一丁で頭上には刀(しかも抜き身)。一歩間違えれば変質者だ。いや、もう手遅れか。
凪:「そういえば、トラはストリーキング云々の噂が流れていたよね」
虎王丸:「そのことは言うなぁあああ!」
凪:「やっぱりそういう趣味が?」
虎王丸:「ちがわぁぁッ!」
凪は嘆息した。確かに彼の言う通り、ここで躊躇っていても仕方がない。意を決して裾を捲り上げる。ゆっくりと沼に足を浸からせる。
虎王丸:「あれ? 全部脱がないのか?」
凪:「いや、さすがにそれは無理。……ってか全部って」
虎王丸:「丸裸」
凪:「トラよりたちが悪いじゃないか。無理だよ、それは」
虎王丸:「そーれ」
虎王丸は泥を手ですくうと、投げるようにして凪にかける。泥は凪の裾辺りに命中した。微かに眉根を寄せた凪。不機嫌になりつつある凪に、虎王丸は気付かない。むしろ沈黙した凪に鬼を良くしたのか、再び泥を投げかけた。
虎王丸:「予行練習、予行練習。んな格好してたらぜってぇ、泥まみれになるって。だから危険を最初に知らせてやろうとな」
凪:「……それで?」
穏やかであるも、僅かに低い凪の声音。虎王丸は気付かない。
虎王丸:「だから、こうして俺が危険をだな、そーれ」
ばしゃり。凪の髪の毛に泥が命中する。
どろりと前髪から泥が垂れていく様を、凪は冷静に眺めていた。
虎王丸:「ほら、歩いたりするともっと泥を浴びるかもしれねぇしよ。戦闘となると尚更だ。ここは全裸! 全裸!」
凪:「うん、それで?」
虎王丸:「いや、だからよ」
凪:「あのね」
虎王丸:「ん? なんだ」
凪:「俺はさすがにストリーキングの二の舞は嫌だな」
虎王丸:「そ、それを」
虎王丸は息を飲み込んだようだった。額から汗が吹き出ている。両手で頭を抱えた。
虎王丸:「それを言うなぁぁぁッ!」
どうやら彼のトラウマを刺激してしまったらしい。慌てふためく彼の姿を見ながら、凪は哀れみの視線を送る。何を言われたところで、第二のストリーキングにはなりたくなかった。
***
前回大蜘蛛のいた場所まで来る。虎王丸が言うには、目印があるらしい。目の前で妙な生え方をしている草がそうだという。
空気が張り詰めているのは敵が近いからだろうか。
どこから敵が出現するかわからない。ここからは気を引き締めなければならないと、凪は唾を飲み込む。視界の隅で虎王丸の褌姿がちらちら映るが、それはあえて無視した。気が抜けてしまう。
虎王丸:「おっかしいなぁ。この辺にいるはずなんだが」
そうしている内に、虎王丸は泥をかき分けながら更に先へ進もうとしていた。
凪:「ちょっと待って。これ以上進むのならざっと戦略を立てたほうがいい。例えば僕が後衛にいくとか」
虎王丸:「なるほど、俺が凪の安全を確保してから、ヤツとやりあうってことか! うおおお、ぞくぞくしてきたぜ! よっしゃ、先に進むぞ!」
凪:「いや、だからちょっと」
凪の制止する声も聞こえていないのか。虎王丸は速度を上げて更に先へと歩を進ませた。
凪:「……ッ、だから!」
刹那。凪の前方で泥が弾ける。いや、違う。影が素早く疾走するのを、凪は視界の隅で捕えた。 敵だ。
虎王丸:「よっしゃあああ! いくぜぇッ!」
虎王丸は剣に炎を纏わせる。熱気で空気がぶるりと震えた。それが戦いの合図。
見かけに反して動きは素早い。乱雑な動きで大蜘蛛は二人を翻弄する。二人、という人数に警戒しているのか、確実に距離をとって様子をうかがっていた。
知能がある。その事実に凪は僅かに身を震わせた。下手をすると戦闘が長引く可能性がある。
――それに、それだけ動き回れば服が汚れる。
凪は自嘲した。そんなことを考えられるということは、余裕があるということ。
虎王丸:「くそ、動きがはぇぇッ」
凪:「トラ、一つ聴いていいかい?」
虎王丸:「なんだよ! こんな忙しいときによ!」
凪:「蜘蛛に攻撃をあてる自信はある?」
虎王丸:「おうよ! 任せとけ!」
凪:「……嘘ばっかし」
凪は軽く溜息をついた。だが、そうした彼の勢いは嫌いではない。
後方へと跳躍する。蜘蛛と十分と距離を取った。まだこれだけの距離ならば、大丈夫だと。
凪:「トラ、避けて」
虎王丸:「え? うぉお!」
虎王丸の頬をかすめ、拳銃型神機(エネルギー弾)の銃弾が大蜘蛛の足に傷を負わせた。大蜘蛛の体面積が大きかったのが、ここで有利に働いた。目に見えて、大蜘蛛の動きが鈍くなる。
凪:「今だ! トラ、頼んだよ」
虎王丸:「お、おう! 言われるまでもねぇ!」
一瞬の躊躇後、虎王丸は大蜘蛛へと駆け寄った。足に絡む泥をものともせず、一直線に突き進む。大蜘蛛は声を鳴らし威嚇したが、虎王丸は気にもとめていないようだった。今度は躊躇しない。虎王丸は大きく剣を空へ掲げる。
熱気が空気を振動させた。強く勢いをもった炎は大蜘蛛を――
凪は気付く。そういえば、自分たちはどうして大蜘蛛と戦っているのか。彼は何を求めているのか。
虎王丸は戦の熱に酔いしれ、すっかり目的を失念しているようだった。凪は慌てて声を張り上げた。強く、彼に向かって手を伸ばす。
凪:「ダメだ! ちょっと待って! 目的が……ッ」
虎王丸:「ああん? 何が?」
虎王丸は不機嫌そうに首を捻じ曲げて凪を見た。手の先には炎を纏った剣が、その先には大蜘蛛が。めらめらと燃えている真っ最中だった。
凪:「あーあ」
凪は額に手を当てて、深く息を吐き出した。今日は嘆息してばかりだと感じながら。
***
虎王丸:「おおい、何で言わなかったぁッ!」
凪:「言おうとしたけど間に合わなかったんだよ」
虎王丸:「糸を結界魔法陣として服や鎧に埋め込みたかったんだよ、俺は!」
凪:「そう言われても」
凪はすっかり黒焦げになり縮まった大蜘蛛の体に近づいた。棒きれでつつく。
凪:「あ」
虎王丸:「何だよ! あああ、くそう」
凪:「燃えてない部分があるよ、ほら」
虎王丸:「ん? だから何だと……っておい!」
虎王丸は嬉しそうに頬を緩めた。
虎王丸:「見てくれ! 焼け残っていない部分に目的のブツが、やったあああああ!」
両腕を大きく降り回し、大喜びしてはしゃぎまわる。
虎王丸:「ありがてぇ、助かったぜ!」
凪:「うん、良かったねぇ」
にこにこと凪は微笑む。どう考えても服に縫い込むには量が足りないのだが、それはあえて黙っておいた。
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【ライター通信】
こんにちは、初めまして。酉月夜です。
受注どうもありがとうございます。
同時に遅くなりまして申し訳ありません。(汗)
デコボココンビということで
デコボコさ加減を前面に押し出してみたのですが如何でしょうか?
二人ともキャラが魅力的でしたので書いていてとても楽しかったです。
今回は本当に有難うございました。
またの機会がありましたらよろしくお願いします。
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