＜聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記＞
地下遊園地にようこそ！
------＜オープニング＞--------------------------------------
「あら、冥夜久しぶり」
爆音と共に入ってきたのは、黒髪の長いツインテールを揺らした少女だった。店を壊されても、エスメラルダはいつもの事だと気にもとめない。突拍子もない事をやり出す冥夜の登場の仕方に慣れてしまったのだった。
「やっほー！ 今日も黒山羊亭は大繁盛で何より、そして冥夜ちゃんラッキー！」
「またなんかとんでもない依頼持ってきたんじゃないでしょうね」
エスメラルダに訝しげな瞳を向けられ冥夜は、ぶーっ、と頬を膨らませる。
「そんなことないもん。今日はねー、地下にある遊園地に御招待なんだから」
「地下にある遊園地？ いつ出来たの？」
「ん？ さっき」
さらり、と告げる冥夜に向けられたエスメラルダの視線は冷たい。
「さっきって‥‥もしかして実験しようっていうんじゃないでしょうね‥‥」
「実験？ 違うよ。試運転するからそれに付き合ってくれる人探してるの。作ったのは良いけど、まだ全然動かしてないんだよねー」
ニパっ、と笑みを浮かべる冥夜。エスメラルダは眉間を軽く押さえながら溜息を吐く。
「それを実験と言うんじゃないの‥‥。まぁ、いいわ。それで一体どういう遊園地なの？」
「色々。お化け屋敷とか絶叫マシーンとか」
遊園地と言われるところにあるようなものは大抵あるよ、と冥夜は言う。
「それじゃぁ結構まともなのね」
「施設自体は多分。ただ、４つに遊園地内が分かれててそこに一人ずつ案内の人が居るんだ」
「案内する人？ どうしてよ」
あはははー、と明後日の方を見ながら冥夜はとんでもないことを言い出した。
「それがね、うちの師匠ってば茶目っ気たっぷりありすぎて普通の遊園地じゃつまらないって。だからちょっと時空弄って作ってみよう、とか言い出してさー。だから時空案内人が居ないと迷子になっちゃうんだよね」
帰ってこれなくなっちゃうの、と可愛らしく舌を出して笑う。そこは笑う所ではない。さすが変人師匠の弟子だ。
「まぁ、別に問題ないんじゃない？ 戻ってこれるんでしょ？」
「普通の状態ならば」
冥夜の言葉にエスメラルダの動きが止まる。
「ちょっと待って。冥夜‥‥まさか今普通の状態じゃないって言うんじゃ‥‥」
「あったりー！ ４人居る時空管理人が、開店前に情緒不安定なんだよね。だから遊園地楽しみながら、時空管理人と一緒に回って元気にしてくれる人を大募集中〜」
「なんていうか‥‥また面倒な依頼を‥‥」
「誰か居ないかなー」
そう呟きながらテーブルに肘を突いて、にゃはー、と冥夜は笑った。
------＜プレゼント＞--------------------------------------
久しぶりにレピア・浮桜はウィンドウショッピングを楽しんでいた。
夜の街は灯りが灯り、昼間よりも落ち着いた雰囲気を醸し出していた。人々の活気は繁華街へと移ってしまっている。
レピアは鼻歌を歌いながら、まるで踊るように路地を進む。
今回は自分の洋服を選んでいるのではなく、贈り物を探して立ち並ぶ服飾店を回って歩いていたのだ。
レピアは地下遊園地のお化け屋敷ゾーン時空管理人であるセラに、また会いに来ると約束をした。
探していたプレゼントはセラへと渡すものだった。
冥夜と連絡をとり待ち合わせしたのは明日の夜。レピアは明日、再び地下遊園地へと向かう。
その時にセラが見せてくれるだろう笑みを思い浮かべ、レピアはにっこりと微笑んだ。
セラのさらさらの銀髪の髪に映える服を、とレピアは探して回る。可愛いものはあるが、似たり寄ったりに見えイマイチだった。
「もっと他にないかしら……」
レピアが首を傾げ、ふと路地裏を眺めると小さな灯りが一つ見えた。なんとなく興味を惹かれ近寄ってみると、そこは小さな服飾店だった。路地に面していない店は何処か寂しげだ。しかしその店のウィンドウに飾ってある服にレピアは目を奪われた。先ほど見てきたどの服よりもその服はセラに似合うように思えた。
深い青色のドレスはきっと銀色の髪に合うだろう、とレピアは思う。その青はレピアの深い瞳の色によく似ていた。
軽い音を鳴らし、レピアは店の中へと入る。
「おや、いらっしゃい。こんな時間に客とは珍しいな」
のんびりとした動作で奥にいた老人がレピアを見つめる。レピアはウィンドウを指差し、これを見せて貰える？、と尋ねた。老人は、頷きマネキンが着ている服を丁寧に脱がせ、レピアの手に渡す。
滑らかな生地はさらさらとレピアの指の上を滑った。
「とても素敵ね」
「あぁ、うちの婆さんの最期の作品だからな」
「……亡くなったの？」
「あぁ、半年前に」
「そう……これは売り物？ 最期の作品ということは形見ではないの？」
そうレピアが尋ねると老人はにこやかに微笑んだ。
「大切にして貰えるなら、着て貰った方が嬉しい。婆さんもきっとそれを望んでるだろうよ。それに婆さんからは目に見えないたくさんのものを貰ったから、わしはもういいんだ」
「良いわね、そういうの。あたし、これを大切な子にプレゼントしようと思ってるの。きっとその子も大切に着てくれると思うわ」
「そうか、そうか。それなら安心してこの服を手放せる」
レピアはその服を老人に手渡す。老人は笑顔でその服を包み、レピアに持たせてくれた。
「喜んで貰えると良いな」
「えぇ、本当に。素敵な服をありがとう」
代金を支払い、レピアは老人に別れを告げる。カラン、と扉のベルがなるが、それは先ほどよりも幾分柔らかい音を響かせた。
レピアは明日の事を思いながら、エルファリアにあてがわれた自分の部屋へと急ぐ。走るとレピアのつけた装飾品がしゃらんと軽やかな音を立てた。
------＜お化け屋敷へレッツゴー！＞--------------------------------------
待ち合わせはいちもの黒山羊亭。
「やっほー！ レピア！」
抱きついてきた冥夜を抱きしめてキスをしながら、レピアは笑う。
「こんばんは。冥夜、今日も元気ね」
「あったりまえ！ 冥夜ちゃんはいつでも元気いっぱいなのでしたー」
えへっ、と笑う冥夜と手を繋ぎ、レピアは地下遊園地へと向かう。手にはしっかりと先日買った服を持っていた。
「セラがね、今日遊びに行くって言ったらすごく楽しみにしてたよ」
「本当？ 良かった」
「今日も、門の前で待ってるって……あっ！」
セラー！、と冥夜が手を振ると、セラが小さく手を振り返しているのが見えた。レピアも微笑みながら手を振る。
「やっほー！ 遊びに来たよ」
「二人ともまた遊びに来てくれてありがとうございます」
控えめに微笑むセラにレピアは持ってきたプレゼントを渡す。
「これセラへプレゼント。この間の御礼も兼ねてね」
「えっ？ プレゼント？ ……嬉しいです」
「開けてみて」
レピアに促され、セラは丁寧に包装を解き、中に入っていた服を取りだした。
美しい色合いに冥夜が、おぉ、と声をあげる。
「凄く、凄く素敵です。ありがとうございます。こんなに素敵なものを頂いてしまって本当に良いんでしょうか……」
「もちろんよ。この間はとっても楽しかったから」
「でも……私がレピアさんを喜ばせた訳では……」
「セラのおかげで楽しかったんだけど……それで納得出来ないの？」
そうねぇ、と暫く考えていたレピアはセラに告げる。
「それなら、あたしのことを『お姉さま』って呼んでくれる？ そうしたらとても嬉しいわ」
「それだけですか？」
「えぇ、それだけよ。でも本当にセラがそう呼んでくれたら嬉しいわよ」
チュッ、と軽く音を立ててセラの頬にキスをしたレピアに、セラは頬を赤らめ頷いた。
「分かりました。お姉さま、素敵なプレゼントありがとうございました」
「どういたしまして」
レピアは上機嫌でセラにその服を着るように指示する。冥夜も一緒になってそれを促した。
前回衣装を変えた部屋でセラはその服に着替える。丈も丁度良く、レピアの見立ては完璧だった。
「やっぱり似合うわ」
「本当。レピアよくサイズ分かったね」
「あら、当然よ」
ウィンクをしたレピアはセラの髪を撫でてやる。そして髪にキスを一つ落とした。
「今日はそのままで居てね」
「はい、お姉さま」
「よし、セラの着替えも終わったし！ お化け屋敷にレッツゴー！」
「あ、今日は裏口から行きましょう。お姉さまは食事処に用事があるんでしたよね？」
「全部見て回ってたら時間無くなるもんね」
忘れてた、と冥夜はぺろりと舌を出して笑う。
「えぇ、今日は食事処の大改造をやりましょう」
頑張りましょ、とレピアが告げると、セラと冥夜は力強く頷いた。
裏口から食事処まで直通の道を行く。
「冥夜さんから聞いて、お姉さまから指示されたものは全部用意しておきました。大丈夫だと思います」
「本当？ 良かった。今日は料理に掃除にと皆で頑張らないと」
「レピアの手料理食べれるの？」
にゃはー、と緩んだ笑みの冥夜にレピアは優しく微笑む。
「えぇ、このアトラクションにあった料理を考えてきたの」
「とても楽しみです」
セラも笑い、穏やかな雰囲気が流れる。お化け屋敷だというのに、三人の周りにはほのぼのとした雰囲気が漂っていた。
食事処はアトラクション同様おどろおどろしい雰囲気が漂っていた。
「まずはこの雰囲気から改善しましょう。アトラクションには沿ってるけれど、やっぱり食事をするなら清潔感が大切よね。それと静かな落ち着いた雰囲気」
この妖しげな木は不要ね、と告げるレピアにセラは頷き、その木に手を翳した。するとその木は瞬時に消えてしまう。
「凄いわね」
「時空を操れるので、要らないものはとりあえずこの更に地下に仕舞っておくんです」
「便利だよねー。重いものも軽々なんだよ」
よっこらせ、と言いながら冥夜はテーブルを動かしていた。それをレピアも手伝ってやる。アリガト、と冥夜がレピアに礼を言った。
「それなら、あのトーテムポールも位置を変えて貰える？ どうせだったら分かりやすいようにそれを看板にしてしまえばいいと思わない？ そうそう、入り口に置いて、下の看板をもっと上に……」
セラは軽々と位置を変えてみせ、看板を上の方に掲げる。すると先ほどよりも食事処の場所が分かりやすくなった。
「そうですね、やはり分かりやすくしないといけませんよね」
「こういう休憩所のようなところは親切な設計の方が喜ばれるわ。それに今まで恐い思いをしてきたのだから余計にね」
「はい、お姉さまに言われなければずっとこのままにしてました、私」
やっぱりお姉さま達に来て貰って良かった、とセラは言う。
「そう言って貰うとやりがいがあるわね。それじゃ、料理の方にもいってみようかしら」
レピアは材料を眺め、いくつかの食材を台に並べる。セラと冥夜も手伝って頂戴ね」
「もっちろん！」
冥夜がレピアの元に駆け寄り、セラもその後に続く。
「あたしが考えてきたのは、ゾンビ丼とメデューサパスタにメデューサラーメン、ゴーストフローズンとかなんだけど。名前をそれらしくすると気になって皆食べてみたくなるでしょ？ あとインスピレーションが湧いた方が売れると思うわ」
「凄いです。えっと、パスタとラーメンがメデューサの蛇の部分を麺に例えてて、ゴーストフローズンが冷たい飲み物っていうのは分かったんですけど、ゾンビ丼ってどんなものなんでしょう？」
セラの眉間に皺が寄っている。どうやら恐ろしい食べ物を想像しているようだ。隣の冥夜も複雑な表情を浮かべている。それをレピアは笑い飛ばした。
「きっと二人の思ってるものとは別物よ。ゾンビ丼は腐ってるものを食べさせる訳でもなんでもないわよ。好きな具が選べる丼物なの」
「そうなんだ、よかった」
ほっとした二人の表情にレピアは微笑む。
「いくらなんだってそんなものお客様に食べさせられないでしょ」
それで作り方だけど、とレピアは丁寧に二人に作り方を教えていく。飲み込みの早い二人はレピアに指示をされるとすぐさまそれをやってみせた。
「二人とも上手ね。そうそう、それで良いわ」
一通り作り上げ、セラがゴーストフローズンを作っている時だった。チョコレートスプレーのついた手で頬を拭った為、それが頬にくっつく。しかしそれにセラは気付いていない。レピアが、くすり、と悪戯な笑みでセラの頬についたチョコレートスプレーを舐めた。
「ひゃっ……おねえさま？」
「セラって甘いわ。頬にチョコレートスプレーがついてたわよ」
「えっ？ 恥ずかしい」
そう言ってまだチョコレートスプレーのついた手で頬を拭うセラ。あちこちにそれらがくっつき大変な事になっている。
「ほら、動かないの」
それを丁寧にねめ取るレピア。おまけとばかりに深いキスを贈る。レピアの舐め取ったチョコレートの甘さがセラの口の中にも拡がった。
「……お姉さまも……甘いです……」
うっとりとした表情のセラの横で冥夜が不満そうに声を上げる。
「二人の世界作っちゃつまんないー」
「冥夜、ごめんなさいね。でも別に冥夜を仲間はずれにしている訳じゃないのよ。だって、冥夜と一緒だからこうしてゆっくりと此処にいられることが出来るんだもの。冥夜だから石になってしまった間も任せられるのよ」
「……そうなの？」
「そうよ」
他の人だったらこうはいかない、とレピアは冥夜にもキスを贈る。
そのキスで冥夜も機嫌を直したようだった。
「それじゃ、試食会といきましょう」
テーブルの上に乗せられたレピア直伝の料理。
それはどれも美味しそうで、この間食べたプレートの食事より数倍も良くなっていた。
------＜またね＞--------------------------------------
「お姉さま、この料理とっても美味しい」
「プレート料理なんてちょっともう食べれないよね」
「考えてきて良かった」
三人での試食会は和やかな雰囲気のままに過ぎていく。
ぺろり、と作り上げた料理を食べた三人の顔には笑顔が浮かんでいる。
「今日も二人のおかげで助かりました。これでかなりこのお化け屋敷も改善されたと思います」
アリガトウございました、と深々と頭を下げるセラの頭をレピアは優しく撫でた。
「また何かあったら呼んでね。いいえ、何もなくても呼んで頂戴。すぐに飛んでくるから」
「そうだよー。アタシも手伝っちゃうんだから」
一人で溜め込んでは駄目、とレピアが告げるとセラは頷く。
「はい。お姉さまと冥夜さんにたくさん頼ってしまうかもしれませんけど。頑張ります」
「その意気よ」
レピアは軽く触れるキスをセラに贈った。
その時、レピアの石化が始まる。朝が訪れたのだ。
「お姉さま、またきっと遊びに来てくださいね」
「えぇ、またね」
「おやすみ、レピア」
「おやすみなさい、お姉さま」
そう言って、二人の少女が石化していくレピアの両頬に口付けを落とした。
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■登場人物（この物語に登場した人物の一覧）■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
●1926／レピア・浮桜／女性／23歳／傾国の踊り子
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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。 夕凪沙久夜です。
お化け屋敷に二回目の挑戦ありがとうございました！
レピアさんの考えてくださった料理に思わず唸ってしまいました。
目の付け所が素敵ですｖ
とても素敵なプレイングありがとうございました。
またお会いできますことを祈って。
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