<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
装甲巨人戦記エルダレオーネ――第3章
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――ラグ村
岩山に囲まれた谷を形成した辺境の地にある小さな村である。
村の中心は真ん中に茂る森の中にあり、陽光から身を守り、様々な食料確保に活用されている。谷に流れて来る風は心地良い。
岩山には大きな横穴が開いており、鉱山として機能している。建物は木材を簡単に組んだ物で、素朴な生活をイメージさせるものだ。陽光を遮る樹木の間からは、鳥の囀りが流れ、多少湿気を感じたが、直射日光を浴び続けないだけマシである――――。
暗闇の中で村人が悲鳴をあげ、何名かが鮮血を舞い散らせた。
――そして、響き渡ったのは悲痛な少女の叫び声だ。
「サバラン、助けて!! 戦いを止めてーッ!!」
「冒険者よ、直ぐに武器を捨て抵抗を解くのだ。さもなくば、この娘も殺すぞ!」
魔術師が作り出した大きな球体の中に、一人の少女が映し出された。茶色のセミロングヘアを三つ編みにした娘の震える喉に、アサシンの短刀が翳されている。サバランの友人アルメアだ。
「脅しではないぞ。既に何人かは血祭りにあげた。それでも巨人を護るなら俺を殺しに来るがいい。その代わり、道連れに娘も殺す」
「ヒッ! い、いやだよ‥‥まだ恋だってしていないのに、死にたくないよぉ。サバラン、冒険者を‥‥止めてよ」
遠隔投影された光景で、ポロポロとアルメアは涙を流していた。村人達は俯き、震える拳を握り締めるしかない。
「スマートに行いたかったのだがな‥‥」
集められた冒険者達の前に姿を見せたのは、赤いマスカレードの男だ。
「この村は占領した。私も非道な真似はしたくないのだよ、このまま立ち去るなら命は保証しよう」
既に村長を始めとした村人は村長宅に隔離され、何かあれば危害を加える用意も成されていると言う。
こうしてラグ村はザドス兵によって占領されたのだ――――。
「7人衆の一人が来るだと?」
金の兜と赤いマスカレードで素顔を包む青年は、部下の報告に声を荒げた。報告を告げた騎士は背筋を伸ばして直立不動で応える。
「はい! 巨人の視察と‥‥その、実験体が欲しいと‥‥」
「実験体だと!? 私が卑劣とも思える手で村を占領したというのに‥‥。誰だ、その一人は?」
「‥‥ギミークスキー卿です!」
騎士の告げた名前にディバイトが舌打ちする。
「いつ訪れるのだ!」
「工具の用意があるらしく、数日後には来られるとの話です。いかがなさいますか?」
「7人衆の一人が来るというなら仕方がないだろう。村人をこれ以上苦しめたくはないが‥‥。巨人の輸送準備さえ整えばな。コンファームもやられたというに‥‥」
「何分岩石の塊で、今の送竜の数では‥‥? どうされました?」
ディバイトが不敵な笑みを浮かべた事に、騎士が不安気な声で訊ねた。
「利用させてもらうか‥‥」
――アルマ通り白山羊亭
「おい、ルディアの嬢ちゃん!」
扉を勢い良く開け放った客の男は、店内に顔を見せるなり、ウェイトレスへ叫んだ。何事かと振り向いたルディア・カナーズは額の汗を細腕で拭い、微笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ☆ どうかしたの? そんなに慌てて」
「これが店の前で倒れていたんだよ! ゆらゆらと光って落ちたから拾ったんだが、嬢ちゃんに用があるって!」
両手に包んだ腕をルディアに見せると、彼女は血相を変えて駆け寄る。
「この前のシフールさん! どうしたの?」
瞳に映ったのは、傷だらけのアーメンガードが仰向けに倒れている姿だった。白いレオタードのような衣服の彼方此方が破れており、綺麗な蝶の羽根もボロボロだ。白い柔肌には鞭のようなもので受けた真っ赤な蚯蚓腫れが痛々しく浮き上がっている。シフールの少女はゆっくりと瞳を開く。
「‥‥ルディアさ、ん、冒険者を、雇い、たいん、です、の」
「分かったわ! 誰か、冒険者の方ッ!」
「アーメンガードクンッ!!」
悲痛な声を響かせ、小さな身体が酒場を駆け抜けた。ボリュームのある艶やかな緑の短髪を揺らし、頭の後ろで結った二本の髪が尾を引いてゆく。不安に彩られた大きな赤い瞳に映るのは、ウェイトレスの両手に包まれた傷だらけのシフールだ。息を弾ませ、早春の雛菊 未亜は辿り着くと、ぐったりとしたアーメンガードに、しなやかな両手を翳す。刹那、未だ幼さを醸し出す少女の手は暖かそうな白い光を放った。治癒の魔法――命の水により、次第にシフールの少女から傷が癒えてゆく。
「大丈夫だよ、未亜が治してあげるからね」
美しく繊細な風貌に微笑みを浮かべるものの、未だ不安は拭い切れていない。直ぐに表情は引き締り、精神を集中させて魔法行使に専念した。酒場を訪れた者達が息を呑んで見守る中、柔らかそうな頬を汗が伝う。静寂に包まれた酒場で治癒の魔法は続き、未亜の手から光が消えた頃には、アーメンガードの身体に刻まれた傷は癒えていた。酒場に大きな歓声が響き渡る。
「よかった、よ‥‥」
ふわりと柔らかく微笑むと、緑の髪が宙を舞い、ガクンと少女が崩れた。刹那、華奢な腰を大きな両手が支える。疲労し切った未亜の背中に硬いモノが当った。赤い瞳が背後を追う。
「オーマ、さん‥‥」
瞳に映し出されたのは、オーマ・シュヴァルツの精悍な小麦色の顔だった。豪快な性格を物語るような黒い短髪の男は、眼鏡の奥に浮かぶ赤い瞳をウインクさせ、微笑んで見せる。
「上出来だ、俺の大胸筋もズッキュンラブリーに震えたぜ★」
「ありがとう。お医者さんに褒められるなんて、未亜、うれしい、よ‥‥」
「さあ、俺の腹黒マッスルボディで先ずは眠りな。話はアーメンガードが目覚めてからだ」
壮年の男は腰を落とした姿勢のまま、寝息を漏らし始めた未亜の背中に筋肉を預けた。
再び少女が赤い瞳を開いた時、視界に映ったのは元気に蝶の羽根を羽ばたかせるシフールの笑顔だ。
「未亜ちゃん、ありがとうですの♪」
「よかったよ、元気になったんだね。‥‥そうだよ、ねぇ何があったの!?」
柔らかな微笑みから一転、未亜はアーメンガードに状況を促がした。シフールの少女が報告を続ける中、あどけない風貌が戦慄に染まり、居ても立ってもいられず、ドアへと駆け出す。
「おい、未亜!」
「未亜、先に行くよ!」
制止する声を聞かず、少女は白山羊亭を飛び出して行った。オーマは鈴が鳴り続ける軋むドアを睨み、舌打ちする。今なら小柄な少女に追い着くが、馴染みのある穏やかな声が飛び込んだ。
「大丈夫ですよ。我々が走れば十分に間に合います」
薄青色の髪を首の後ろで束ねた少年は、大きめの眼鏡の奥で、濃青色の瞳を和らげる。
「奪還には少々早いかもしれませんね。援軍が来るとなれば‥‥それを倒すのが先でしょうか。騎士隊長さんはそれなりに信用できそうですからね」
アイラス・サーリアスのいう騎士隊長とは、ザドス軍のディバイトの事だ。しかし、腹黒ラブフレンドのオーマは、訝しげに肩眉を跳ね上げる。
「それだがよ、監視下の中でアーメンガードが逃げ出せたってのは疑問だぜ。わざと逃がし冒険者を誘い込む策略罠の可能性もあるじゃねーか」
アーメンガードの話では、シフールを隔離している民家で兵達が突然援軍の話をしたかと思うと、彼女だけ解放し、鞭を打ったり、鞘で叩いたりして追い掛け回したらしい。暇潰しの捕虜虐待とも考えられるが、洗礼を続ける中で、開けられた窓から逃げ出せたという状況は些か不自然である。
「考えたって仕方ないじゃなぁい?」
落ち着いた女の声が響き渡った。
冒険者達が視線を流すと、金髪のシャギーロングヘアを胸元に流した大人の色香漂わす若い女が、頬杖を突いて微笑んでいた。縁無しの小さめの眼鏡を掛けたレニス・フェルミオンは、女豹のような青い瞳を細める。
「何もしないまま引き下がるのも癪だし、借りはキッチリと返さないとね。何はともあれ、巨人を持っていかれたらアウトだし、サバランクンが狙われでもしたら事だし。罠だろうと、あたしは行くよ。ま、キミも行くつもりなんでしょ♪」
「おうよ! 今回はハイレベルな腹黒親父愛でやらせて貰うぜ!!」
オーマが太い腕を掲げて意気込む中、小柄な黒髪の少年が口を開く。
「それにしても‥‥ザドスは何故ここまで岩巨人ゴリアテに拘るのでしょう? この世界にやってくる別世界の人間たちの力を借りれば、ゴリアテ位の兵器は簡単に作る事が出来そうなものですが」
ゾロ・アーは疑問を抱いていた。確かに岩巨人は戦力にはなるが、拘る程とは思えない。
「‥‥簡単な事だ」
静かに動向を窺っていたサクリファイスが応えた。艶やかな青いロングヘアの戦乙女は、漆黒の鎧に包まれた豊かな胸元を抱くように腕を組み、続ける。
「ザドスのような辺境の国では、異世界の兵器を簡単に作れる者が現れなかったのだろう。否、もしかすると、あの岩巨人は異世界の技術を凌駕するのかもしれない。私達はあの巨人が敗北した姿を見ていないのだからな」
「まさか、俺にはそれ程の代物とは思えませんでしたが‥‥。そうですね、まだ俺の知らない事があると思った方が面白いかもしれない。さて、以前同行した冒険者はこれで全員ですか」
周囲に緑色の瞳を流し、ゾロは再確認を促がす。人数と行動が把握できれば、不足の事態を補う事が出来る。早速打ち合わせを行おうとした時だ。
「成る程、ただでさえ不利な状況だ。これ以上不安要素を抱えるわけにもいかんようだな‥‥」
「私達もご一緒させて頂きますでございます。人質がいる以上、こちらは不利な状況です。また彼ら首筋に刃を突きつけられる訳にはまいりませんから」
傍に歩いて来たのは、二人の若い女だった。一人は背が高く長い黒髪の若い娘で、少女らしさを残した風貌ながら、凛々しさすら感じさせる。もう一人は、長い黒髪を束ね、稍垂れた円らな瞳が愛らしい少女だ。対照的に黒い鎧と金色の鎧に細い身体を包んでいるが、胸元に輝くペンダントは同じものか。
「アルミアじゃねーか!?」
「エルシアさん達、エルミナール姉妹も来てくれるのですか。心強いですね」
オーマが素っ頓狂な声をあげ、アイラスがニッコリと微笑む。どうやら、アルミア・エルミナールとエルシア・エルミナールは腹黒ラブフレンドらしい。
パタパタと羽根を羽ばたかせ、アーメンガードが二人の前で滞空する。
「ありがとうですの☆ これで8人の勇者様が揃ったんですね♪」
「アーメンガードさん、9人の冒険者ですよ☆」
その頃『うま』は騎乗獣よろしく、毎度の如く白山羊亭の前で主人が戻るのを待ちながら、静かに草を食べていた――――。
●南からの潜入――岩巨人奪還と‥‥
既に通い慣れたラグ村へと続く道を駆け、冒険者達は南側の出入り口に辿り着いた。
やはり侵入者を警戒するように、数名の騎士が村へと通ずる道を固めている。身を潜めながらレニスが小声で呟く。
「未亜クンだっけ? あの娘、いないわね」
単身先行した緑髪の少女は道中でも見当たらなかった。戦闘能力を持たない小柄な娘だから直ぐに追い着くと想定していたが、彼女は飛翔の魔法技術を修得していたのだ。共に冒険を続けた仲間だとしても、その能力を見せない限り、全てを知る術はない。
「先に潜入を果たしたか、捕えられたか‥‥。ある意味、地形の制約はさほど受けないから、見つかり難ければ村の出入り口以外からでも入るのは容易だ」
「確かにサクリファイスさんの仰る通りです。さて、どうしますか?」
ゾロが同じく南側から潜入する仲間達に視線を流す。本人を含めて3名。漆黒の鎧纏う戦乙女は言動から察するに、出入り口から潜入するつもりは無いようだ。金髪の女は眼鏡の奥に浮かぶ青い瞳を研ぎ澄ます。
「取り敢えず、巨人を抑えておこうかね」
「工房ですか。俺も同じ事を考えていました。‥‥あなたは?」
「私は送竜を倒す。私では救出どころではなくなるから‥‥それと、共に戦う者がいれば、頼みがある」
端整な風貌に憂いを浮かべながら淡々と話した若い女は、円らな黒い瞳を向ける。
「万が一、村人がそばにいて、私が村人に対して刃を向けてしまったら‥‥。そのときは、私を倒してほしい。ただし、中途半端な攻撃ではダメだ。一撃で。そうでなければ、私は、止まらない」
「一撃って、サクリファイスクン‥‥キミねぇ」
突然『自分を殺してくれ』と頼まれ、レニスは困惑しながら苦笑した。姐気質の彼女にとって、この手のタイプは放って置けない。しかし、外見的には最年少のゾロは、落ち着いた響きで承諾する。
「承知しました。俺の造りし生物では役不足かもしれませんが、警戒させましょう」
「‥‥助かる」
覚悟は完了し、それぞれが動き出した――――。
●巨人VS巨人
「工房前に見張りがいないなんて無用心なこと」
「きっと中で待機している可能性はありますね」
レニスとゾロが村に潜入を果たし、工房に辿り着いた時には見張りがいなかった。彼等が知る由は無いが、見張りは未亜を連行して村長宅へ移動していたのだ。
「俺は窓から潜入します」
「分かったわ、村人が働かされていたら転送させるのね? あたしが乗り込むタイミングは直ぐで構わないのかしら?」
眼鏡に黒髪の少年を映し、金髪の女は魅惑的な風貌に微笑みを浮かべた。対するゾロは無表情のまま、淡々と口を運ぶ。
「そうですね、俺が様子を見た後、再び入った窓から姿を見せます。小さいですから見逃さないで下さい」
「小さい?」
金髪をサラリと揺らして首を傾げるレニスに、少年は悪戯っぽく微笑むと、パンッと弾けて光の粒子と化した。次の瞬間、女の青い瞳に映ったのは羽音を鳴らす一匹の蝿だ。
「‥‥ゾロ、クン?」
返事が出来ないのか、一匹の蝿は舞い上がり、工房の窓へと向かった。どうやら、少年の変化した姿のようだ。暫らくレニスが見上げると、小さな昆虫が窓から現れ、滞空して見せた。女豹の如き青い瞳を研ぎ澄ませ、不敵な笑みを浮かべて見せる。
「さてと、お仕事お仕事♪」
大きなトランクを持ったまま、白衣を靡かせ、女は一気に駆け出す。工房のドアが近付く中、走りながら指でトランクのロックを解除し、開け放たれた中から慣れた手付きで取り出したのは、大型のハンドガンだ。彼女がしなやかな足でドアを蹴り開けると、ゴリアテを動かす赤いマスカレードの男と、腕部に乗っているサバランの姿が瞳に映った。
「あなたは!?」
「ちぃ! やはり冒険者が来ていたか!」
呆然とする褐色の少女と舌打ちするディバイト。刹那、変身を解いたゾロがサバランの元で少年の姿を現す。流石にマスカレードの男が動揺の声を洩らす。
「何ぃ! 何時の間に!」
「サバランさんは貰って行きますよ」
腕部を振り、抵抗するものの、二人は一瞬にして掻き消えた。次に姿を見せたのは、横倒しになった岩巨人の胸部だ。ゴリアテは現在3体確認されており、恐らくギミークスキー卿の視察の為に工房内に揃えられていたのだろう。
「レニスさん、急いで下さい!」
「させるか! ゴリアテ、眼下の敵を踏み潰せ!」
マスカレードの男に従い、岩巨人がレニスに向けて巨大な足を動かす。だが、走り回る人間を踏み潰すのは困難だ。
「あんよが上手ってかい? だがね、こんな足取りであたしはヤラれないわよ」
白衣の女は胸部へ向けて銃声を響かせ、牽制しながら岩巨人へ向かう。
「ちぃ! これでは動く砦意外の何物でもないな」
そう。岩巨人が兵器として運用されるには決定的に欠けているものがあった。武器が無いのだ。多くの敵兵や障害物を蹴散らす事は可能でも、小さな対象には不向きな代物である。
「お待たせ★ サバランクン、無事で良かったわ。ゾロクン、何か仕掛けられていなかったかい?」
「彼等の中世的発想から考慮しても、爆発物は無いでしょう。魔法も考えられますが‥‥『トラップ魔法は発動しない』と、偶然を引き起こして相殺しますよ」
クスリとゾロが笑った。どうやら対応策はあるようだ。レニスは微笑むと、サバランに瞳を向ける。
「サバランクン、ゴリアテを動かして! あたしは背中に乗るからさ」
「は、はい。ゴリアテ、起き上がっ‥‥きゃあッ!」
激しい振動と共に、胸部に黒い塊が叩き込まれた。ディバイトの駆る岩巨人が踏みつけたのだ。剥き出しの制御胞に幾つもの石ころが降り注ぐ。
「仕方ありませんね! サバランさん、操縦を続けて下さい」
少年が掌を外へ向けた刹那、岩巨人の踏みつけがピタリと止まった。サバランの指示で半身がゆっくりと起き上がる中、ゾロの瞳が研ぎ澄まされ、掌から放たれる不可視の念動力が巨大な岩足を退けてゆく。ディバイトが何度目かの驚愕の声を洩らす。
「ぬぅッ! 撥ね退けているだとッ!? ゴリアテ、倒れないように体勢を戻せ! ‥‥これでは勝てんな。どうする!」
マスカレードの男が困惑する中、視界でサバランの駆るゴリアテがゆっくりと立ち上がった。対峙する2体の巨人。胸部で褐色の少女がゾロに視線を流す。
「あの‥‥工房を壊したくないの。どうしたら‥‥」
「サバランクン、背中を向けるように指示してあげて! あたしが最小限の被害で止めるわ」
響き渡ったのは背部に搭乗しているレニスの声だ。何か考えがあるのだろう。屈んだ姿勢で胸部にいる少年は、褐色の少女に頷いて見せた。
「はい! ゴリアテ、後ろを向いて!」
ゆっくりと岩巨人が足を運び、背中を向ける。勝機と見たのか、ディバイトは口元を緩めた。
「何か始める気だな。今の内に1体でも貰っておこう! ゴリアテ、出口へ向かえ! ‥‥ちぃッ! 生物ではなかったな。右を向いて走れ!」
「捉えたよ! マスカレードの隊長クン♪」
背中に搭乗しているレニスが構えているのは物々しい形状に組み上げられた銃器だ。狙いを岩巨人の脚部へ向け、テンペストのトリガーを絞る。トランク内の武器全てを組み合わせて作る大型迫撃砲は轟音と共に弾丸を吐き出し、鉄槌を叩き込んだ。刹那、強大な爆発音と共に幾つもの岩塊が吹き飛ぶ。テンペストは一発で城壁に大穴を明けられる威力があるのだ。
「ディメンジョン・テリトリー!! ジャッジメントAモード!!」
白衣の女は空間を歪めながら襲いかかる岩塊から巨人を護り、手にした銃から青い閃光を薙ぎ放ち、破片をレーザーで消滅させた。破壊力と範囲を設定できるレーザーは、約束通り、工房内の被害を最小限に抑えたのだ。白煙が吹き上がる中で、抉れた脚部で佇む岩巨人が浮かび上がる。
「やってくれるな。これが異世界の力か! キミ達は分かっているのか! 村人は我が手中に」
「隊長!」
工房内に慌てた声をあげて騎士が駆け込んで来た。
「村人が奪還されました! 北の援軍も恐らくは‥‥。現在、尚も送竜が攻撃を受けており、騎士達も負傷者多数! 撤退を勧告しています!」
「‥‥撤退だと? 逃がすというのか?」
ディバイトは奥歯を噛み締めた。これ以上の屈辱はない。しかし、兵を危険に晒す訳にもいかないのも事実。マスカレードの男は口元を緩める。
「私の負けのようだな」
●奪還の後
エルシアの撤退勧告を受けたディバイトの部隊は、北へと通ずる前で冒険者等と対峙していた。
「撤退の件は甘んじて受けよう。だが、キミ達は甘いな。私が手を出さずとも、いずれ後悔する事になるぞ」
絶命した騎士の亡骸を騎士に運ばせ、ザドス軍隊長は背中を向ける。
「‥‥まぁ、北の援軍を止めた事は褒めてやろう。嫌いなタイプというものは私にもあるのでね」
赤いマスカレードの男が肩越しに振り向き、口元を緩ませた。
――アーメンガードが逃げ出せたのは仕組まれた事?
しかし、冒険者の中に、問い掛けを口にする者はいなかった。
静寂に包まれた北へと続く道をゆっくりと歩いてゆくザドス軍を見送るのみだ。
この事実に村人は戸惑う。
「なぜ? どうして? 敵じゃない! あたしは殺されそうになったのよ! 村人にだって怪我をした人もいる! どうして逃がすのよ!」
悲痛な叫びを冒険者達に向けたのはアルメアだ。傍でサバランが落ち着かせるものの、三つ編みの少女は怒りを湛える瞳で戦士達を睨みつける。
「‥‥お金が欲しいのね?」
違う! と冒険者の中で声が響いた。尚もヒステリックに少女は叫ぶ。
「知ってるわよ! 冒険者は依頼でお金を貰って戦うんでしょ? 村の敵を倒してしまえば平和になるもんね!」
――違う!
今まで死亡者を出さない事を誇りにしていると告げた者もいた。敵を容赦無く葬った者は、ただ沈黙する。それに泥沼の戦いとなった場合、村人や村事体の被害も大きくなる可能性もあった。
敢えてもう一つの理由を付け足せば、ディバイト意外の部隊が侵攻して来た時の事を危惧していたのかもしれない。
奴は占領時に言った――――。
私が占領せねば、もっと酷い事になったやもしれんのだ。
赤いマスカレードの男がいる限り、他の部隊が来る事はない。
そんな予感があったのかもしれない。
結果的にラグ村の奪還は成功した。
しかし、未だ脅威が村から消え去った訳ではないのだ。
今回の働きに村長を始めとする村人は素直に感謝を述べてくれたが、中にはアルメアのように疑惑の視線を流す者もいる。
何が正しく、何が間違っているのか、今の冒険者達に明確な答えは見つからない‥‥。
静かにラグ村を後にする彼等の背中を、一体のシフールは滞空しながら見送っていた――――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【1055/早春の雛菊 未亜/女性/12歳/癒し手】
【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2470/サクリファイス/女性/22歳/狂騎士】
【2524/アルミア・エルミナール/女性/24歳/ゴーストナイト】
【2557/エルシア・エルミナール/女性/18歳/パラディン】
【2598/ゾロ・アー/男性/12歳/生き物つくりの神】
【2693/うま/女性/156歳/騎乗獣】
【2896/レニス・フェルミオン/女性/26歳/異界職】
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■ ライター通信 ■
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この度は御参加ありがとうございました☆
いかがお過ごしですか? 切磋巧実です。
今回は北の援軍を抑えてくれた為、奪還成功しました。おめでとうございます☆
‥‥と喜べる状況的なエピローグではありませんでしたか?(汗)。撤退させた代償は伴います。この辺は明確な行動理由が明記されていなかった為、個人に絞っての描写は敢えて致しませんでした。
この物語は行動一つで大きく動きます。結果的にどうするかを明記して頂けると助かります。真っ二つに意見が分かれても困りますが(苦笑)。この辺は継続参加PCの意見か? またはダイスロールとさせて頂きます事を御了承下さい。選択肢制の方が楽かな?
継続参加ありがとうございます。
設定に沿った行動がナイスです☆ ちょっと他の場所に生物をサポートに出させていますが、作戦ルートが重視される場合、本人がいない場所での行動は成功率を低めにしますのでお忘れなく(そうしなければ使役系一人いれば全てフォローできるという結果になっちゃいますので、ご理解お願いしますね☆ サドスにも攻略のチャンスを!(笑))。因みにゾロさんはサバランと接触しておりませんので、ゴリアテの操縦は知りません事を御了承下さい。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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