<PCクエストノベル(1人)>


BLOODY KISS 〜不死の王・レイド〜

------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
不死の王・レイド

------------------------------------------------------------
患者:「いてっ、いてててててっ。――せ、医師、もっと優しくしてくださいよう」
オーマ:「いい大人が何泣き言言ってやがる。ほれもっと首を傾けねえと傷口の消毒は出来ねえぞ」
 診察室で喚いている男にオーマ・シュヴァルツが容赦なく消毒液を塗りこみながら、これでいくつめになるのかの傷口を興味深く覗き込んでいた。
 それは首筋に穿たれた二つの小さな穴。小指の第二関節までくらいの幅を空けたところにぽつんぽつんと開けられており、そうした症状は夏を過ぎた辺りから頻繁に起こるようになっていた。
 その他の症状としてはやはり貧血が一番に上げられる。この世界ではどの程度血が抜き取られたのか、正確な所は分からなかったが、患者の口から語られる症状を聞けば身体が軽く感じる程には血が抜かれたと見て間違いないようだった。
 こうした症状を見せる存在を知っている。
 ――それは、吸血鬼そのもの。
 人の血を啜り、自らの眷属を作り上げて増やしていく、ちょっとウイルスか何かのような存在に見えなくも無いが、一般人からはとにかく恐れられている存在だ。
 現に、被害者たちは一様に口を揃えて言った。『あれ』は、不死王にも匹敵する存在のヴァンパイアだった、と。
オーマ:「うし、終わりっと。どうだ? 気分は落ち着いたか?」
患者:「え、ええ、まあ」
 首筋を気味悪そうにさする男に、化膿止めと熱が出た時の熱さましを処方するオーマ。
患者:「……あの」
オーマ:「ん?」
患者:「……俺、大丈夫ですか? このまま変なモノになったりとかは……」
オーマ:「傷口から汚いモンが入ってる可能性があるから、もしかしたら熱を出して寝込むかも知れねえが、そんくらいさ。第一おまえさんだって知ってるんだろ? 吸血鬼が夜しか外を歩けねえっつうことをさ。けどおまえさんは今朝ここに歩いて来たんだし、今も日光が入ってくるこの部屋で平然としてるじゃねえか」
患者:「――あ。そういえば、そうですね」
 もし自分が吸血鬼になってしまったら、と考えていたため日光が自分の顔にかかっている事さえ失念していたらしい。そこでようやくにこりと笑って、礼を言いつつ診察室を出て行く。
オーマ:「っふう」
 ひとつ大きくため息を付いてから、オーマが差し込む日差しを眺める。
 首を噛まれた患者と、噛まれなかった患者。そのどちらもが、襲ってきたのはヴァンパイアだと告げていたが、いざその顔や姿かたちはと聞いてみると、誰ひとり何故か覚えていない。それは周辺でその様子を偶然見てしまった者も同様だった。
オーマ:「被害者は似たような年齢っつう事を除けば男女の差はほとんど無いんだよな……」
 羽ペンでかりこりと頭の天辺を掻きながら、今までに分かった状況を整理する。
 まず、被害者が目立ち始めたのは夏が終わってから。
 被害者に男女の区別は無く、年齢にそれほど差が無い事以外の特徴は無い。
 そして――噛まれた者と噛まれずに済んだ者の違いと言うのも、偶然その場に居合わせた者がいるかいないか、の違いでしかない。
 つまり。
 狙われた若い男女が、夜、ひと気の無い所でかぷりとやられて血を吸われている事以外、犯人に繋がるような情報は浮上して来なかったのだ。
 ここまで被害者が増えていても、尚。
オーマ:「参ったねえ」
 王宮側からもそれとなく調査するよう伝えられている事からしても、向こうも国民の事を考えて走り回り、そして手がかりが無い状況にあるらしい。
オーマ:「それともひとつあるんだよなぁ。……本当に吸血鬼であるなら、何で変身しねえんだ?」
 最初の被害者が出たのはもう一ヶ月以上も前の話。吸血鬼化しているとしたら、とうに町の中にそれらが溢れ、不本意ながらも退治に走り回らなければならない所だっただろうが。
 最も、全てが吸血鬼化するワケではない。血を吸い取られて死に至るだけの者もいる、という話だ。……それさえも、今回は発生していない訳だが。
オーマ:「こう言うのはオッサンの管轄じゃねえのかよ全く。俺様確かにウォズやらイロモノやら変なのを全般に引き受けてるが、これは専門外なんだぞ……」
 ぶつぶつ。
 文句を言いながら、新たな事実は無いか今までのカルテを読み返していると、ふと横に人の気配が立った。それと同時にちょっと気になる紙片とメモを見つけたオーマが、また新たな患者か、とため息を付きつつ椅子を回して顔を上げる。
オーマ:「……」
 夢にも思わなかった人物が目の前に立っていて、オーマはぽかんと開きっぱなしの口を閉じるのも忘れ、ふるふると震える指で目の前の人物を指し示していた。
 それは、夜闇の具現、全ての死したる者の畏れと敬いの対象。
レイド:「邪魔するぞ」
 渋い低い声の、不死の王レイドその人だったのだから。

*****

オーマ:「えーとな。一言いいか」
 ちんまりと診察椅子に座ったレイドへ、オーマがずいと身を乗り出す。
レイド:「うむ」
オーマ:「何でおまえさん、この時間に外をうろついてるんだよ!」
レイド:「必要があったのでな。仕方あるまい――それにしても暑いな」
 全身黒尽くめ、帽子に襟を立てたコートに手袋に、マフラー。その上、分厚いサングラスをかけた不審人物を絵に書いたようなレイドがそう言いつつ、ふうと息を付く。
レイド:「何だ。まさかオーマは私が昼間に外を歩けないとでも思っていたのか?」
オーマ:「まさかも何も、普通そうなんじゃねえのか?」
 ゆるゆると首を振ったレイドが、暑そうな姿をしながら、
レイド:「直射日光は苦手だが、それしきで私の能力が不能になるわけでは、ない。それよりもだ。聞いたぞ――なんだあの体たらくは」
 例の吸血鬼騒ぎの事だと気付いたオーマが、むぅと唇を尖らせる。
オーマ:「つうかそれこそオッサンたちの出番なんじゃねえのか?俺様、首に穴を開けられた患者が急に増えて大変だったんだからな」
 そう言ってずいと身を乗り出すと、何故か身悶えして身体を仰け反らせるレイドに、軽く首を傾げ……そして、自分の後頭部に当たっていた日差しに気付いた。
 オーマが身を屈めれば、それはレイドに直接当たってしまう。それが辛いらしく、少しでも日差しから離れようとごとごと椅子を移動するレイド。
オーマ:「……苦手どころじゃねえじゃねえか。そんなんで良くここまで来れたな」
レイド:「うむ。死ぬかと思った」
オーマ:「……不死王の名が泣くぞ……」
 それはともかく、と診察室ではなく、直射日光の当たらない場所へ行きたがるレイドに、仕方ないと腰を上げたオーマが、病院入り口に『休憩中』の札を下げて、奥の自宅へとレイドを案内した。
 日光が当たる窓際には、ずらりと人面草たちが光合成を行っている。他にもぱたぱたと何か妖精っぽいのが飛び回っているように見えたが、目に入らないふりをしつつ、ソファに腰掛ける二人。
レイド:「吸血症状以上の情報は見つけたか?」
 少しは落ち着いたのだろう。それでも暑そうな格好は取る事無く、レイドが訊ねる。と、オーマは首を振りながら、
オーマ:「丁度ひとつ思い出した事があったんだ。これさ」
 そう言ってテーブルの上に置いたのは、掌の中にすっぽり収まるくらいの四角い羊皮紙。カラフルに染め上げたその紙には、『パーティ会場チケット』と可愛らしい文字が焼印されている。
オーマ:「何人目だったかの患者がパニックを起こして、あそこでちぃっと暴れたんだが、その時に落としたものらしい。無意識に拾ってファイリングしてたんだがすっかり忘れてた」
レイド:「チケット、か。……手がかりだと思うか?」
オーマ:「おうよ。これが何にも関係なかったらその時はその時だ。つうわけで、オッサンはそこで待ってろ。ちょいと聞きに行って来る」
 丁度そのチケットを落とした者が近所に住んでいる事もあり、オーマが身軽に立ち上がって外へ出て行く。
 危惧することは、患者が今後も増える可能性に加えてもうひとつあった。
 レイドのような存在に対し、必要以上に警戒心が高くなったら、とオーマは思っている。それは、過去に異端として似たような人々の反応を見ていただけに、杞憂に終わる問題でないと知っていた。
 だからこそ、今のうちに何とかしてしまわなければ、と思っている。それは別に同情でも何でもない。オーマにとっては、当たり前の行動だった。

*****

オーマ:「……うわ。久々に着たら結構きついな。む。俺様こっちに来てからまたナイスバディになったらしい」
 ぴしりとした黒のスーツに身を包んだオーマが、少しきつさを覚える服に袖を通しつつ呟く。
 向こうの世界では良く着ていた、オーマにとっての正装であり、上背のあるオーマにそれは良く似合った。
 こちらでは普段着として着ている着流し姿は遊び人かチンピラか、という印象だが、今の姿は裏世界の兄貴分と言ったところか。
 ……どちらもまともな職業に見えないのは何とも言えないのだが。
 対するレイドは、と言うと、オーマよりも華麗さに重きを置いたような、ひらひらしたブラウスの胸元や袖が覗く、いかにもな貴族服。
 それを嫌味なく着こなしている所は流石闇の王と言った感じだが、この二人がセットで揃うと、物凄い重圧感があるのはどうしようもなく、オーマはこっそり苦笑を浮かべたりしている。
 まず最初に訊ねた被害者にそのチケットを見せると、それは週に一回、夜に開催されるお見合いパーティの入場チケットだと教えてくれた。友人のつてで彼は手に入れたらしく、飛び入りでも入れるがそのチケットがあればVIP扱いをしてくれるので非常に気分がいいのだとか。
 そして、ようやく襲われた晩がパーティに顔を出した日だったと思い出す。とは言え、一般の若い者がそうそう夜に出歩く筈もないため、偶然パーティに出た帰りに被害に遭ったとも言えなくはない。
 だが――その様相が変わって来たのは、二人目、三人目と訪ね歩き、チケットを見せた後だった。
 驚いた事に、行く先々の患者全てがチケットを買ってパーティに行ったのだと恥ずかしげにオーマに告げてきたのだ。
 これは何かある。
 何か無くても、会場から家に向かう間で襲われた事実に変わりは無い。
 と、言うわけで。
オーマ:「オッサン、不用意に俺様が妻子持ちなんて言うなよ? せっかくチケット取って来たのに、入り口で正体がばれちまったら入れなくなるんだからな」
レイド:「分かっている。が――オーマが中に入るには少々年を取り過ぎてはいないかね?」
オーマ:「なあに。このくらいの独身なら俺様何人も知ってるから無問題だ」
 レイドはレイドで、自分の能力を使い、いつもの威厳ある姿から多少若返らせた姿で立っている。
 そして二人は――レイドは堂々と、オーマはこっそりと外へと出て行ったのだった。

*****

 お見合いパーティは、年頃の男女で賑わっていた。
 ほんの少し危惧した年齢も、オーマ程度であれば問題無しと見たのか、それとも事前に手に入れたチケットが効を奏したのか、レイドとオーマの二人は何の問題も無く中に入り――そして、話に聞いた以上のVIP待遇を受けていた。
 少々不自然過ぎるくらい不自然なもてはやされっぷりに、浮かれているのは同じくチケットを手に入れた男女たち。さりげなく話を持って行くと、チケットを手に入れたのは皆友人を通してのもので、辿っていくとどうやら根っこは同じ、このパーティを開催している人物から毎回数枚ずつ出されているようだった。
オーマ:「どうだ?」
レイド:「……薬が入っているようだな」
オーマ:「おまえさんでも分かるか。これはあれだ、麻酔薬の一種だ。酒に少量入れるとハジけるらしい」
 そしていい感じに記憶も飛ぶ――と、オーマがぼそり呟く。
 お見合い、と言う所でいい相手を探そうとしている一般参加の男女に比べ、出された料理やこの地では珍しい綺麗な模様のグラスを手に、どこかぼうっとしているのは、チケットを手に入って来た者たちだった。
 そして――ねばつくような視線が、会場に入り、特別席に移動してからずっとオーマたちを見詰めている。
オーマ:「解毒剤は、いるか?」
レイド:「不要だ」
 飲むふりをしているオーマと、飲みながらも全く薬が効いていないらしいレイドが周囲に合わせてぼうっとしたふりをする。
 未だ見詰めている視線に不審を抱かせたら、解決がまた長引くだろうと思っての事だが、時々しなだれかかるうら若い女性を撥ね退ける訳にもいかず、それだけが少し困る。
レイド:「……ふむ……粒ぞろいだな」
 こっそりと呟いているレイドの言葉にも別な意味で危機感を感じながら。
 そうして、二人は――特にオーマはお開きになるまでじりじりしながら待ち続けた。
 その頃になると、視線はひとりの人物に焦点を当てたようで、オーマたちにはほとんど視線が来なくなる。
黒服:「そろそろ今晩はお開きになります。足元に気をつけて帰られますよう」
 会場の中を取り仕切っていた、あまり見かけない顔つきの男たちが声をかけてきたのを皮切りに、特別席に居た男女も一般参加に紛れて、足取りも覚束ないまま帰ろうとする。
黒服:「お待ちくださいませ、お客様。今回お目当ての方が見付からなかった場合は、また次回に来て頂ければと思いますので……特別に用意致しましたこちらのチケットをお持ちになって下さい」
 そこに、黒服の一人がすっと音も無く現れ、特別席に居た者だけに今日手に入れた者とは少し違う色のチケットを配る。
オーマ:「……悪い、な」
黒服:「いいえ。当日参加の方よりも高額なチケットをお買いいただいた方へのサービスですので」
 少し酔った声でオーマが言い、男はにこりともせずにそう言って皆を会場から外へ導いた。

*****

 ゆらゆらと、一人の男性が歩いている。
 ぼうっとした表情は、会場で散々口にした食べ物や酒の中に含まれていた薬が良く効いている事の現われだろう。
 そんな彼の前に、闇を纏ったような姿の者がふっ、と現れた。
???:「待ちかねたぞ。……一週間ぶりの獲物か」
 レイドを真似ているようで、雰囲気は良く似ている。不死の王と同等と表面上は思われても仕方ないのではないかと一瞬思ったオーマだったが、闇色の存在が男へと腕を伸ばそうとする所で、正装姿の二人がざっと黒尽くめの前後に立った。
???:「――な」
オーマ:「とーうとう捕まえたぞ。おまえさんのお陰で俺様この所仕事が増えて大変だったんだぞ?」
レイド:「うむ。そして、私の名も汚してくれたようだな」
???:「罠か!? どこかで見たようなと思っていたが!」
 言うなり、男を突き飛ばして横っ飛びに逃げようとする『それ』。
オーマ:「甘い、甘いねえ。俺たち二人がタッグ組んで逃げられると思うところがな」
 レイドのような存在なら、そう簡単には行かなかっただろうが、不思議な事にその男の身体能力はそれほど高くなく、あっさりと前後の道を塞がれる。
???:「くぅっ…」
 そして――オーマが近寄るまでもなく、レイドが後ろからわしりと相手の頭を鷲掴みにした。
レイド:「……ほう?」
 そこにいたのは、オーマの前で友好的な態度を取っていたあのレイドではない。
 まさしく、不死の王――全ての死したる者の頂点に立つ者の、凄まじいばかりの気配だった。
レイド:「オーマ。『一つ』はそちらにやろう。もう一つは……こちらで始末を付ける」
???:「ひ……、お、お許しを……ッ」
レイド:「それは何に対してかね?」
 優しげな、そして身体の芯まで凍りつきそうな声が聞こえた直後、
???:「あァァ―――――ッッッ!?」
 魂が引き裂かれた時の叫びは、こんなだろうかと思われる悲鳴が、辺り一帯に広がって行った。……そして、手放されたところからくたくたと地面に倒れ伏す人影。
オーマ:「何やったんだ?」
 倒れてしまえば、オーマにとって目の前のそれは自分の患者でしかない。近寄って抱き起こしながら、「あれ」と首を傾げつつ呟く。
レイド:「私の眷属がソレに取り付いていたようだ。これは私としても管理不足と言う所だろう、すまなかった」
オーマ:「いや……いいんだけども、よ。つうか、これ……いや、こいつは」
 相手に触れた時に感じたのは、オーマにとってお馴染みの気配。そして、最初に見た時よりもずっと小さくなったのに気付いてマントを取り外すと、そこから現れたのはウォズの一種――アメーバのような不定形で、他の生き物の姿を模して獲物を取るタイプの存在と気付く。
レイド:「先に取り込んだのがどちらかは分からないが、共存していたらしいな」
 自分の眷属……人の血を好んで啜る不死の存在を引きずり出したレイドが静かに呟いて、くるりと踵を返す。
オーマ:「意志はどっちかっつうとそっちの方に引きずられてた感はあるがな。自分好みの相手を探すために場所を用意したり、黒服を操って次の獲物の手配をしたりと好き勝手やってくれてたみてえだなぁ」
 無理やり引き剥がされたためか、アメーバ状のウォズからは意志らしきものは感じ取れない。かろうじて今は『生きて』いる状態だろうが、このまま放置すればどう転ぶかは想像も付かず、
オーマ:「仕方ねえ」
 それに手を当てると、久しぶりに封印を施した。これも治療だ、と呟きながら。
オーマ:「って、オッサン待て待て。例の約束はどうしたよ? 俺様と同盟組んでランデブーするっつってたじゃねえか」
 ぴたり、とその言葉に夜闇に消えようとしたレイドの足がぴたりと止まる。
レイド:「……麻薬の効きすぎだろう。早めに寝る事だ」
 やはり、腹黒同盟に入会する意志はないらしい。ちぇー、と残念そうに呟くオーマの方を振り返る事無く、レイドが去っていく。
オーマ:「ま、いいさ。次回があるってもんだ。――さってっと。おい、大丈夫か?家どこだ?」
 今回危うく襲われる所だった男を抱き起こし、呂律の回らない言葉で大体の住所に当たりを付けると、送り届けていく。
 ――こうして、謎の吸血鬼騒動は幕を閉じた。
 麻薬で朦朧とした者から見れば、大きな人型を取ったウォズの存在は、強大な吸血鬼に見えたのだろう、とオーマは分かるが、レイドとオーマでそれぞれの存在を『処分』したため、王宮側は最初から最後まで分からないままとなってしまう。
 とは言え、オーマが弁明するわけには行かない。何せ、結果的に解決したとは言っても、不死の存在とウォズがいた事は間違いないのだし――万一にも、自分が独身と偽って調査のためにお見合いパーティに出かけた事など知れた日には、何が起こるか分かったものではない。
 だから、オーマは誰にも何も言わないまま、この件では口を閉ざし続けた。

 パーティに行くために暫くぶりに袖を通したスーツの胸ポケットから、お見合いパーティのチケットがとある者の手によって発見された事など、知る由も無く。


-END-