<PCクエストノベル(4人)>
黄昏に踊る〜チルカカ遺跡〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1800/シルヴァ/傭兵】
【1962/ティアリス・ガイラスト/王女兼剣士】
【2068/戒音(かいね)・サインヴォルフ/調律者】
【2829/ノエミ・ファレール/異界職】
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石柱が崩れ落ち、土埃が舞い上がる。
閉ざされた視界に舌打ちする間もなく、シルヴァはたった今振り下ろしたばかりの大剣を手に後ろへと飛び退った。一瞬遅れ、シルヴァの影を貫くように鋭い突きが繰り出される。
かわしたシルヴァは肩に大剣を担ぎ直し、薄く唇を歪めた。
シルヴァ:「流石。速いな」
ティアリス:「そちらこそ」
暗がりでもなお煌めく金糸を揺らし、ティアリス・ガイラストが優美に微笑む。その腰には狭い戦場を考慮しての短剣もあったが、今、彼女の手には華奢な小剣が握られていた。
ノエミ:「はっ!!」
シルヴァの背後で重い斬撃音が鳴り響く。
大気が揺らぎ、瞬きの後にはシルヴァの後ろに戒音・サインヴォルフが立っていた。シルヴァの背に背を向けて土埃の向こうを見据える。シルヴァにはもうもうと立ち上る土煙と黄昏に染まる遺跡しか見えないが、サインヴォルフの目には今しがた刃を揮った相手の姿がはっきりと見えていた。
シルヴァ:「やっぱ壊れるんだな、遺跡」
サインヴォルフ:「そりゃー手加減なしだからな。しっかし、今時の女はおっかねぇなぁ」
ノエミ:「今時の男は軟弱だ……とでも返されたいですか?」
土埃の中から白銀の鎧を身にまとったノエミ・ファレールが現れた。その手には剣と盾が握られ、剣にはまだ魔法光の名残が見える。顔立ちも年齢も四人の中では一番若く少女と娘の境程度でしかなかったが、そんなことはこの場では関係ない。
ノエミの言葉に男ふたりは苦笑した。
シルヴァ:「そりゃきついな」
サインヴォルフ:「遠慮願いたいねぇ……」
ノエミが剣を構えるのに合わせるように、ティアリスが小剣の先端を男たちへと向ける。
――べつに殺し合いをしているわけではない。修行の名目のもと、集った顔触れだ。
ティアリス:「軟弱呼ばわりされるのはわたしたちも御免だわ」
ノエミ:「同感です」
シルヴァ:「――んじゃ、ま」
サインヴォルフ:「再開といこうか」
それぞれが薄く微笑んだ刹那、四人は地を蹴った。
薄く鮮血が散る。
風を裂いて突き出された刃はシルヴァの頬を掠め虚空を貫いた。シルヴァは目を軽く細め、間髪を入れず上体を屈めて相手の足を狙う。
ティアリス:「くっ!?」
綺麗な弧を描く蹴りに足を払われ、ティアリスは体勢を崩した。その隙を逃さず、シルヴァは担ぎ上げた大剣を振り下ろす。ティアリスは横へと転げ、片手をついて跳ね起きた。重い斬撃が深々と大地を抉り破片が飛び散る。
かすかに揺らいだ大気とともにティアリスの背後に現れたサインヴォルフは、剣を構えなおすティアリスの胴目掛けて足を踏み出した。流れるような動作で拳を握り、鳩尾を狙う。
だが、その目論見は白銀の盾によって防がれた。
サインヴォルフの攻撃を外したノエミは、盾の陰で強気に目を輝かせる。かけ声とともに盾を押し出し、その陰から剣を繰り出した。
斜めに突き出された剣に半身を捻り、サインヴォルフは舌打ち交じりに飛び退る。長い黒髪が数本風に散った。
ティアリス:「ありがとう。助かったわ」
ノエミ:「はい、ご無事で何よりです」
体勢を立て直したティアリスはノエミの背に背を合わせるように立ち、男ふたりの出方を探る。ノエミは低く構え、いつでも攻勢に転じられるよう気息を整えた。
埃っぽい風が陰影も濃い遺跡を撫でていく。
大気には冷気が染み渡り、時は黄昏から宵の口へと移ろうとしていた。
張り詰めた沈黙。
糸を断ち切ったのはシルヴァだった。重心を右から左へと移し、そのまま大剣を担いでいるとは思えない速さで肉迫する。
それに合わせるように印を結んだサインヴォルフの姿がかき消えた。一瞬の後、ティアリスの間合いに現れる。
ティアリス:「っ!?」
危うくサインヴォルフの拳撃をかわし、ティアリスは小剣の柄を握り込んだ。息つく間もないほど続けざまに刃を突き出す。そのうちのいくつかがサインヴォルフを掠めたが、どれも致命傷には足りない。
サインヴォルフはゆらりと右腕を上げ、口の中でなにかを呟いた。耳鳴りのような不協和音に大気が揺らぎ、力が凝縮される。
避けるべきか突撃するべきか、一瞬の迷いがティアリスの行動を遅らせた。
サインヴォルフ:「砕け!」
サインヴォルフが右手を叩きつけるように地に向ける。放たれた力は不可視の刃となって大地を抉り、一直線に衝撃波がティアリスとその背後に立つノエミに襲い掛かった。
シルヴァ:「せいっ!!」
力任せに振り下ろした大剣をノエミが盾で受け止める。耳障りな金属音が鳴り、火花が薄闇に散った。
後ろからは衝撃波が迫っている。ノエミは内心の焦りを抑え、シュヴーアを掴む手に力を込めた。
ノエミ:「やぁあっ!!」
重い斬撃を強引に押し返し、魔法を上乗せして弾きやる。
シルヴァは弾かれたことに一瞬目を細めるも、勢いを殺さず距離を取った。味方の攻撃に巻き込まれては笑えない。
大地を抉りながら迫る不可視の牙を、ティアリスが横跳びにかわす。ノエミは口早に呪文を編み上げ牙へと向き直った。シュヴーアが淡い光に包まれる。
ノエミ:「スペクルム!」
硝子の壁を打ち砕いたような轟音が大気をつん裂いた。ティアリスとシルヴァが思わず耳に手を宛がう。
目も眩む発光とともに牙が打ち砕かれ、その反動が見えない津波となってサインヴォルフへ跳ね返った。
サインヴォルフ:「散れ!!」
一言のもとに力が霧散する。散った力は風を巻き起こし、土埃が天へと舞い上がった。
サインヴォルフ:「あ、危ねぇ〜……」
ノエミ:「それはこっちの台詞です」
どちらも軽く息が上がっている。軽く一刻は過ぎており、それも無理からぬことだった。ほかのふたりとて同じだ。
だが、この程度で根を上げるような軟弱な輩ではない。
ティアリスは呼気を整えると、掛け声も勇ましくサインヴォルフへと突進した。隙を与えてはまたなにが飛んでくるかわからない。相手の行動をひとつひとつ潰すように小剣を繰り出していく。
サインヴォルフは次第に防戦一方に追い込まれていった。
ノエミはそれに加勢しようと剣を構え直し――だが、上から降ってきた斬撃に咄嗟に盾を掲げる。
鈍い金属音が腕を震わせた。
シルヴァ:「邪魔させてもらおうか」
不敵に目を細め、シルヴァが笑った。豪腕にもの言わせ、ほとんど無理やり相手を押さえつける。
ノエミの足が軽く地に沈んだ。
このままではまずい、とノエミは額に冷や汗を流す。まともな腕力勝負ではとうてい敵わない。――流石、その身に竜血を持つというのは伊達ではない。
ノエミ:「……トニトルス、聖なる槍よ、光の欠片となりて我が剣に集え!」
渾身の力を込めて相手を押し返すのと同時に、滑るような口調で呪文を編み上げる。力の収束とともに剣に淡い光が走り、その刀身に光の糸が絡みついた。
シルヴァ:「げ……」
ノエミ:「行きます!!」
盾で勢いよく相手を弾き、無防備に空いた胴目掛けて斬りつける。眩い光が硝子を砕いたような音とともに駆け、シルヴァへと襲い掛かった。
舌打ちし、シルヴァは大剣をその場に突き立てる。自身は地を蹴り後ろへと大きく跳んだ。
ノエミ:「!」
剣から放たれた雷は大剣に集い黒い刀身を伝って地へと抜ける。薄闇を切り裂いた光が残光となって視界に散り、やがて静寂を取り戻した。
無事瓦礫の上に下りたシルヴァは「危ない危ない」と息を吐く。
シルヴァ:「なかなか器用だな、あんた」
ノエミ:「あなたこそ。そう来るとは思いませんでした」
シルヴァ:「落雷死は避けたいんでね」
ノエミ:「……そこまでやりません」
すこし拗ねたように顔をしかめるノエミに、シルヴァは笑う。さて、と足を開いて構え直し――
ティアリス:「きゃあっ!!」
ノエミ:「え?」
サインヴォルフに突き飛ばされたティアリスが、見事にノエミ目掛けて飛んでくる。シルヴァの視界の端に「あ」と瞬くサインヴォルフの姿が見えた。
ノエミが受け止めようとするが一歩間に合わず、派手な音を立ててふたりが激突する。
シルヴァ:「おいおいおい……」
サインヴォルフ:「うわ痛そ……大丈夫か?」
シルヴァ:「大丈夫そうに見えるのか?」
サインヴォルフ:「……いんや。スマン」
ノエミ:「そんなこと言ってないで手を貸してくださいよ!?」
ティアリス:「痛っ……ノエミさん、ごめんなさい、大丈夫?」
ノエミ:「私は大丈夫です。……いえ、それよりも!」
ティアリスの下敷きになったノエミが、慌てたように上体を起こす。あまりの慌てように不審を抱いた三人が口を開きかけると、
ぐら
大地が揺れた。
シルヴァ:「まさか……」
ノエミ:「その”まさか”です! ティア様、早く逃げてください!」
ティアリス:「えっ? でも――きゃっ!?」
再び振動が走る。
咄嗟にシルヴァが駆け出し、サインヴォルフも印を結ぶ。だが――
ノエミ:「――ッ!」
ティアリス:「きゃぁあっ!」
大地が崩れる音とともに、大剣とふたりの姿がかき消えた。
シルヴァ:「……まぁ、遺跡の一部なんだろうな」
ぽっかりと空けた穴の中へと入り、シルヴァはしげしげと周りを見回した。片手に掲げた松明が朽ちた廊下を照らしている。
あの後、ふたりの無事を確認してからシルヴァとサインヴォルフも穴の中に下りてきたのだった。
それほど深くなかったのは不幸中の幸いだろう。
大剣は回収できたものの、この狭さではとても振り回せそうにない。
ティアリス:「奥はけっこう深そうね。……といっても、遺跡探索に来たわけではないのだけど」
小剣を腰に収めたティアリスの肌には浅く擦過傷ができている。怪我があまりないのは、ノエミが身を挺して庇ったからだった。
軽装のティアリスより鎧を着込んだノエミのほうが堅いのは当然ともいえる。
ノエミ:「もう陽も落ちましたしね。なにもないようなら、上に上がったほうがいいと思います」
シルヴァ:「だな」
サインヴォルフ:『おーい』
それぞれの耳元に届いた声に、三人は一瞬顔を強張らせた。
感じ取ったのか、サインヴォルフの声が不満げに揺れる。
サインヴォルフ:『なんだよ』
シルヴァ:「……便利なんだが、慣れるまでは心臓に悪そうだな」
サインヴォルフ:『そー言われてもなー』
声の主は視界の外にいる。
ちょっと様子を見てくる、と言ってひとり先行したのが十分ほど前のことだ。
本人がいないのに声だけが飛んでくる、というのはなにか妙な感覚だった。大声を上げている、というのとは全く違う。空間を歪めて、声だけがこの場に戻ってきたような感じだった。
ノエミ:「あの、それで……どうですか?」
気を取り直したようにノエミが問いかける。この場合、どこに向かって話せばいいのかわからないのも困りものだ。
サインヴォルフ:『あー、うん、それでさ。今どうしようかと思ってたんだよなー』
ティアリス:「? どういう意味?」
サインヴォルフ:『ちょっと引っかかっちゃって』
ノエミ:「……なににですか?」
三人の胸に嫌な予感が過ぎる。
サインヴォルフ:『小鬼の群れ♪』
シルヴァ:「……ほぉ?」
ティアリス:「あらまぁ」
ノエミ:「はぁ……」
サインヴォルフ:『つーわけでこれから帰るから。覚悟よろしくなー』
通話が途切れる。
数秒後、奥からなにかが大挙して押し寄せてくる音が響いてきた。殺気立っているのがここからでもわかる。
シルヴァ:「小鬼っていったら雑魚じゃねぇか」
ノエミ:「数が多いと厄介ですよ。幸い狭い通路ですから、囲まれる心配はないと思いますけど」
ティアリス:「上に上がってる時間はなさそうだものね」
ティアリスの言うことはもっともだ。ひとりは上がれても、ふたり目が上がる間に押し寄せてくるだろう。
三者三様の表情を作り、三人はそれぞれ気息を整え身構える。なったものは文句を言っても仕方ない。
向かってくる殺気とともに、闇にいくつもの妖しい光が浮かび上がる。黄味を帯びた魔性の眼。耳障りな声を上げ、獲物の気配目掛けて突進してくる。
サインヴォルフ:「ただいま〜、っと」
三人の前に音もなくサインヴォルフが現れた。さすがに申し訳なさそうな顔をしているが、どちらかといえば面白そうな表情のほうが勝っている。
サインヴォルフ:「半分は引き受けるぜ」
シルヴァ:「どこからどこまでが半分なんだ?」
ティアリス:「終わりが見えないんだけど……」
ノエミ:「きりがありませんよ?」
サインヴォルフ:「まぁまぁまぁまぁ、これでも反省してんだって。っと、来た来た」
瓦礫の山を乗り越え、雄叫びとともに小鬼が襲い掛かってきた。一丁前に武器など掲げているが、どれも不恰好で出来はよろしくない。
シルヴァ:「ちっ」
先陣を切って突入してきた勇気ある小鬼にシルヴァの蹴りが飛ぶ。薄い鉄板のようなもので覆った腹に当たり、蛙が潰れたような声を上げた。
仲間を数匹巻き込んで来た道へと吹き飛んでいく。
ティアリス:「ちょっと可哀想ね」
シルヴァ:「襲ってくるのが悪い」
言葉を交わしながら、ティアリスは短剣を片手に次々と小鬼を切りつけていく。もともと速さには自信がある。一度の軌跡で数匹を切り伏せ、返す刃でさらに数匹を巻き込んだ。
サインヴォルフも術を交えての攻勢を続け、ノエミも剣を繰り出していく。
瞬く間に瓦礫は浅黒い血に汚れ、小鬼の死体が積み上がっていった。
どちらが優勢かは明らかで、小鬼の軍勢はすこしずつ押されていく。
だが、数が多すぎる。
ただでさえ疲労の溜まっていた体に、さらに疲労が重なる。攻撃の粗が目立つようになり、相手の刃の何回かに一度、受けるようになる。
個々の力が弱くとも、数があれば力を覆す――
さすがのサインヴォルフも苦く舌打ちした。
サインヴォルフ:「しっつけぇ連中だな!」
シルヴァ:「ティアリス、ノエミ、大丈夫か!」
ティアリス:「え、ええ……」
ノエミ:「……」
刃を操りながらなにか黙考していたノエミが、ふいにサインヴォルフを振り返る。
ノエミ:「サインヴォルフさん!」
サインヴォルフ:「あぁ?」
ノエミ:「余波を防いでくれますか? この距離だと、自信がなくて――」
シルヴァ:「? なにをする気だ?」
ノエミ:「一掃します、きりがありませんから」
ティアリス:「近すぎない?」
ノエミ:「ですから、サインヴォルフさんにお願いしようかと」
サインヴォルフ:「よくわからねーが、そういうことならいいぜ」
小鬼を片手でいなしながら、サインヴォルフが力を収束させていく。耳鳴りのような微音に大気が震えた。
シルヴァとティアリスは攻勢に転じ、ノエミの周りに群がる小鬼を薙ぎ払っていく。
ノエミは呼気を整え、意識を澄み渡らせるように深く息を吸い込んだ。剣を構え、四肢と剣に力を浸透させる。
脳裏に呪文の構成を編み上げると同時に口早に詠唱した。
ノエミ:「――これで終わらせます!」
瞼を開き剣を掲げる。刀身に雷光が走り、鮮烈な光が弾けた。
シルヴァとティアリスが示し合わせたように左右に下がり、サインヴォルフが自分たちを護るように音を広げる。
ノエミ:「シャイニング・ディザスターッ!!!」
光が爆発し、轟音が遺跡を揺らした。
断末魔を上げることもできず、光に飲み込まれた軍勢が一瞬でその形を崩す。朽ちてなお形をとどめていた通路も瓦解し、眩い光に溶け消えた。
暴れまわった光が去ってなお、力の名残が大気を怯えさせている。
サインヴォルフが力を展開させたおかげでほかの三人はほぼ余波から免れたが、そうでなければこの近距離、無傷では済まなかっただろう。
天井があったはずの通路は綺麗に空に晒され、土混じりの風が肌を撫でていく。
シルヴァ:「……『切り札』ってのはこれか」
シルヴァが感嘆まじりに呟いた。その胸中では対峙した際にどう対応するか、さまざまな型が吟味されていたが表情には出さない。傭兵としての性分というものだ。
ノエミ:「普段は連携に組み込むんですけど……状況が状況でしたしね。みなさん、ご無事ですか?」
ティアリス:「大丈夫よ」
サインヴォルフ:「おれがばっちり護ったから安心しろ」
シルヴァ:「もとはといえばあんたが連れてきたんだぞ。威張るな」
サインヴォルフ:「う。スマン」
ティアリス:「みんな助かったんだからいいわ。勝負の行方はわからなくなったけど……」
シルヴァ:「そうだな……明日仕切りなおし、ってのはどうだ? 俺はこのまま続けてもいいんだが、陽も暮れたしな」
なにより消耗が激しい。
口には出さないが、特にノエミの体力が危ういのをほかの三人は察していた。今同じように襲撃されたら今度はどうなるかわからない。
ティアリス:「とりあえず上に上がって……天井吹き飛じゃったけれど。開けた場所で野営でもいいんじゃないかしら。星でも数えながら」
サインヴォルフ:「腹も減ったしな〜」
シルヴァ:「……星数えてなにが楽しいんだ? 腹が減ったのには賛成だが」
ティアリス:「あら、そんなこと言ってるともてないわよ?」
シルヴァ:「余計なお世話だ」
シルヴァが壁の一部を蹴り壊すと瓦礫が斜めに流れ込んだ。登りやすくなったその場所を、足場を堅めながら上に上がっていく。
次いでティアリスが登り、ノエミが続く。最後にサインヴォルフが瓦礫を跨いだ。
翌日、再び刃を交えた四人は思う存分力を揮い――それによってさらに遺跡の半分が瓦解したのだが――持久戦へと雪崩れ込んだのち、シルヴァとサインヴォルフが勝利を収めた。
ティアリスの速さに苦戦しながらも、ノエミに「切り札」を使わせなかったのが功を奏したのだ。
とはいえどちらも強者ばかり。ようやく勝負がついた頃には、四人が四人とも立っているのがやっと、という状態だった。
サインヴォルフ:「……ちっと休もうぜ」
シルヴァ:「おう……」
ティアリス:「賛成だわ……」
ノエミ:「そうですね……」
秋も深まり、冷気を帯びた風が肌を撫でていく。火照った体を冷ましてくれるようで心地よかった。
ティアリス:「あら、鳥だわ。なんて名前かしら」
サインヴォルフ:「鳥ねぇ……鳥の丸焼きもいいよなー」
ノエミ:「サインヴォルフさん、嫌われますよ」
シルヴァ:「ちっせぇ鳥なんか、腹の足しにもなりゃしねぇ」
サインヴォルフ:「それもそーか」
ノエミ:「おふたりとも……」
ティアリス:「ふふ、いいのよ。――風が気持ちいいわねー」
目を細める。
体はすっかり疲れて、おまけにそこかしこに土汚れや浅い傷があったがあまり気にならない。
汗を流すのはこんなに気分がいいものだったのだと改めて思う。
シルヴァ:「そういえばあんた、いつもどんな鍛練してんだ?」
ノエミ:「私ですか? そうですね、ええと……」
ティアリス:「基本はやっぱり日々の特訓よね。地味なことだけど、さぼるとすぐに返ってくるもの」
サインヴォルフ:「たしかに地味だぁな。日陰の努力、ってか」
話は鍛練の中身から技や術へと移っていく。過去に対峙した相手や悪条件での戦闘の話なども交じって、すこし体力が回復すると軽く型の確認などもし始めた。
互いに得手不得手があるので、それぞれに助言や疑問も飛ぶ。
ノエミ:「足が遅いので、いつも鎧や盾に頼ってしまうんですが……」
シルヴァ:「そのための鎧と盾だろ? 俺なんかは足使うけど」
ティアリス:「相手が人ならまだいいけど、魔物だと次に思わぬ一手が来ることだってあるわ。避けられるものなら避けたほうがいいんじゃないかしら」
サインヴォルフ:「反射魔法がけっこう強いだろ? キミ。それで防げそうじゃねーか。詠唱も驚く速さだし。……どういう舌してんだぃ?」
能力の向上を目指す者同士、自然と話も弾む。
気づけば昼も過ぎ――そろそろ戻ろうか、と腰を上げる。軽く腹ごしらえを済ませ、湖を後にした。
そのさらに数日後、なかば瓦解した遺跡がもとの姿を取り戻したというが――それはまた別の話である。
fin.
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●ライター通信
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参加PL様へ
大変お待たせしました。
戦闘描写に手間取り、こうも遅い納品となったことを申し訳なく思います。
ご期待に副えていれば良いのですが……。
発注ありがとうございました。
これからも精進致します。
雪野泰葉
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