<PCクエストノベル(2人)>


外される枷 〜ムンゲの地下墓地〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2086/ジュダ       /詳細不明                】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
ムンゲ

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 ムンゲの地下墓地。
 賢者とも死者を冒涜するネクロマンサーとも言われているムンゲが眠っていると噂の巨大な地下墓地には、普通なら滅多に人は訪れる事が無い。
 それでも、ここでなくては手に入らない苔や珍しい生き物、光を必要としない植物などがあるため、時折学者たちが冒険者を伴って訪れるのだと言う。
 護衛を雇わなければ、地下墓地に生息していると言うアンデッドたちから身を守る事が出来ないからだ。……だが。そんな目的とはかけ離れた目的を持ち合わせている男が居た。
オーマ:「今日こそは、引導を渡してやるぜ」
 言葉の使い方が激しく間違っているようだが、オーマ的にはこれでも良いのかもしれない。力いっぱい拳を握り締めながら、鼻息荒くオーマは地下墓地へ向かう方向へと足を進めていた。
 だが、
ムンゲ:『そのようなものには興味が無い』
 相変わらずの無愛想な声が、オーマの耳に届いた。
オーマ:「そこをなんとかっ!」
ムンゲ:『……お主、しつこいといわれた事はないか?』
オーマ:「そんなもん日常茶飯事に決まってるじゃねえか。だから入ってくれれば平穏な生活に戻れるぜ?」
ムンゲ:『面白い。脅迫するつもりか』
 一瞬、棺から怒りに似た気配が噴出して来る。が――それがぴたりと止んだ。
ムンゲ:『ひとつ気になる事がある。それを解決すれば考えない事もない』
オーマ:「ほんとかっ!」
 満面の笑みを浮かべて身を乗り出すオーマに、ムンゲが語りだした内容は、最初笑顔で聞いていたオーマの表情を次第に凍らせていった。
 それは、ある不思議な生き物の話。
 この地下墓地に、自分の配下とは違うモノがいるらしい。それが、生きながらにして命を与えられたような……アンデッドのような不自然な命とも違うそれを持つ妙な生き物は、この地下墓地のどこかを徘徊しているのだと言う。
 そして、そのモノの側には、いつだったか人間らしい生き物がいたのだと、ムンゲは調べさせていた配下から告げられていた。ただ、最近は全くその姿を見なくなったらしく、奇妙な生き物のみがふらふらと歩いている姿だけが目撃されている。
ムンゲ:『それをどうにかしてもらいたい。徘徊しているだけなら目も瞑ろうが、やつは目に付く配下を殺しているのだ。おう、そうそう。今はいなくなったもう一人の事だがな。ソレが仕えているような仕草をしていたとも聞いている』
オーマ:「……仕えるような?」
 ムンゲの言葉から、どこか引っ掛かりを覚えつつ、地下墓地に入った時に感じたウォズの気配に、恐らくはそれの事だろうと思いながら、それだけではないような気がして口をへの字に結んだ。
 生きながら命を与えられたような、と言う表現がひとつ。何やらそこにいたらしい人物に仕えていたようだ、と言うのがもうひとつ。
オーマ:「ま、考えていても仕方ねえや。ひとつ行くか」
 入会の件、よーっく考えてろよー、と言いながらオーマがすっくと立ち上がった。
 その、途端。
オーマ:「っ!?」
 弾かれたように顔を上げるオーマ。
 周辺は七色の、油の浮いた水のような色をしており、今まであった地下墓地の様相はあっさりと塗り替えられていた。
 ムンゲ棺もそこにはない。
 ただ――目の前には、虚ろな目をしたウォズが立っていた。

*****

 ウォズに間違いない。
 そう思いながらも、オーマは幾度も不審を感じずにはいられなかった。
 広いのか狭いのか分からない空間は、濃い具現波動――それも異質なものを混ぜ込んだようで、大抵の具現世界でも問題なく動けるオーマでさえ、勝手が分からず戸惑うばかり。
 しかも、目の前のウォズには、封印が全く効かなかった。
 オーマを敵と認識したらしいウォズの動きやその気配は全く問題が無いと言うのに。
 目の前の存在は具現を駆使して武器防具を易々と生み出しながらオーマへ飛び掛って来る。その目はどこも見ていないが、オーマの動きは確実に捉えている。
オーマ:「ずりぃなぁ。何かこう、こういう時に効くような必殺技はねえのかよ」
 普段よりも幾分小さくなった銃を相手に突きつけて打ち込みながら、オーマは何度も内心で叫んでいた。これはウォズに違いない、違いない、と。
 もしかしたら、最初に見た時には気付いていたのかもしれない。
 だからこそ、何度も心の中で確認していたのだろう。
 ――目の前の存在が、本当にウォズなのだろうか――と。
オーマ:「うらぁっ! 大人しく封印されるかさっさとここから出しやがれ!」
 弾はことごとく外れ、あるいはウォズの作り出した盾らしきものに弾かれた。
???:「焦るな、良く見ろ。そして、下がれるだけ下がるんだ」
 何故ここに、とは思わなかった。
オーマ:「分かった分かった。っつうか最初から出て来いっつうんだてめえわよ」
 素早く後ろへ飛び退った、その直後。
 ウォズが発した封印の波動が、たった今までオーマがいた場所を焼いた。
ジュダ:「手の焼ける」
 ジュダが呟く。呟いて、手を向ける。
 ただ、それだけなのに――それだけで、空間がばかりと音を立てて割れた。

*****

 封印は、ジュダが行った。
 オーマが出来なかったのに、何故かジュダなら問題なく封印出来た事に、オーマは不公平だとぶちぶち呟き。
 そして二人は、ムンゲのいる棺の前で座っていた。
オーマ:「んで? 説明してもらおうか?」
ジュダ:「……何を説明しろと」
オーマ:「そうだなぁ。おまえさんの秘密からかな。さーさー、お兄ちゃんが暴いてやるぜ」
ジュダ:「冗談は顔だけにしてくれ」
オーマ:「か、顔!? 俺様の顔は冗談なのか!?」
ジュダ:「……時々な。そんな事はいい、何を話せばいいんだ?」
 さらりとオーマが悶えるのを流し、ジュダがオーマへ顔を向ける。
オーマ:「さっきのは、ありゃあ何だったんだ?」
ジュダ:「ウォズだ」
 即答したジュダに、オーマが首を振る。
オーマ:「違う。そういう答えが聞きたいんじゃねえよ」
 ジュダは、オーマの目を見てから軽く首を傾げる。
ジュダ:「……そうだな。おまえが考えている答えのうち、一番最悪なものだ」
 そして――珍しい事に、ほんの少し躊躇いを見せてから呟くように言った。オーマがその答えに驚いた表情を見せなかったのは、やはり気付いていたからだろうか。
オーマ:「もうひとつ、答えてくれ。アレが封印出来なかったっつうのは、『そう言うこと』の特性なのか?」
ジュダ:「これも、どう答えて良いか迷うのだが……正確に言えば、違う。だが、原因のひとつではある」
 まるでなぞなぞのような問答に、ムンゲも口を挟まずにただ静かに聞いていた。
オーマ:「うーん……」
 オーマが腕組みをして考え込むと、額のしわが深くなる。そのまま暫く動かずにいるオーマへ、ジュダが皮肉とも取れる笑みをふっと浮かべ、
ジュダ:「一番聞きたかった事は、聞かずとも良いのか?」
 オーマの表情が一瞬引きつるような言葉を囁いた。
オーマ:「ジュダ」
ジュダ:「なんだ?」
オーマ:「正直に言おう。――俺は、その答えを聞くのが怖い」
 一瞬の、だが深い深い沈黙。
 そして――ジュダは、薄らと笑みを浮かべた。
ジュダ:「だが、おまえは聞かずにはいられないだろう。おまえの持つ業は、こんな事を躊躇うようなこころを持っていないのだからな」
オーマ:「ちっ」
 舌打ちをするオーマ……だが、その直後に苦笑からいつものにやりとした笑いに代わり、
オーマ:「ほんっとうに可愛くなくなったな、おまえさんは。おまけに何でもお見通しと来てやがる。見てろよジュダ。いつかおまえさんの身体の中までも見通してやるからな」
 そう言って、ふんっと胸を張り、
オーマ:「まずだ。今回仕掛けたのは、ウォズが仕えてたっつうやつだな」
ジュダ:「ああ」
 ジュダが頷くのを見てから、もう一度にやりと笑う。
オーマ:「そして、あのウォズは……元ヴァンサーだった。しかも、ごく最近までだ」
ジュダ:「そのようなものだ」
 ほんの少し、歯に挟まったような物言いをするジュダ。だがそれをオーマはちらと見ただけで何も言わず、
オーマ:「ヴァンサーがウォズになるだけの『理由』がそこにある。良く言われる説の、具現に取り込まれたっつうのとは違うだろうな。いくらなんでも俺様がそれに気付かないわけがねえ」
ジュダ:「……」
 そして、オーマは真っ直ぐジュダを見詰め、
オーマ:「おまえは知っているな?」
 質問ではなく、確認として言葉をかけた。
ジュダ:「知っている。……俺も、おまえをウォズにする事が出来る。それで答えは十分だろう」
 言葉は平坦な音で発せられているのに、それが意味する所はどこかとても冷たい響きを伴っていた。
 そして、ジュダが静かに立ち上がる。
ジュダ:「……長居し過ぎたようだ」
 ぼそりと呟く声は、苦笑と共に紡がれ、
オーマ:「そりゃそうだ。俺とおまえの仲だからな」
 送ろう、とオーマも立ち上がった。
オーマ:「ムンゲのオッサン。またな。解決はしたんだから考えておいてくれよ?」
ムンゲ:『オーマが解決したわけではなかろうに』
 ぼそりといきなり突っ込みを入れられたオーマがうぐ、と声を漏らし、ジュダにも冷たい視線を受けてぐは、と胸の上に手を置いた。

*****

オーマ:「ふう〜。やっぱ外の空気は美味いな」
ジュダ:「それが分かっていながら、地下に潜るのだから……おまえはいつまで経っても読めないな」
オーマ:「ふっふっふっ、ミステリアスさも魅力のうちだからに決まってるじゃねえか」
 よほどの理由がなければ、これ以上ジュダを引き止めておけないと分かっているオーマが笑いながらぽんと肩を叩き、
オーマ:「冗談半分で聞けよ。……おまえさんになら、それも悪くねえかもしれねえ」
 誰も聞く者などいないだろうに、そっと耳元で囁いた。ジュダが、目を僅かに見開いて横に立つ大男を見る。
オーマ:「まっ。おまえさんにそんな事は出来ねえと俺様分かってるけどよ。わははは」
 本当に――読めない男だ。
 ジュダが消える間際に呟いた言葉を反芻しながら、一人になったオーマが空を見上げる。
オーマ:「だがな。俺だけだぞ。他の者には、何があっても手は出させねえ」
 その言葉は、秋晴れの青空の中に染みるように溶けていった。


-END-