<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
ヤンハクト洞窟からこんにちわ。
ネイトは不愉快そうに振り返り、そしてビクリと身を引く程に驚いた。そこに今まで気付かなかったのが不思議な程、存在感のある男が立っていたからだ。
「いらっしゃいお客サン、始めまして〜」
アラクランが気にした様子も無く接客に移ると、その客もなにやら嬉しそうに、
「話は聞いたぞ、お嬢さん! この腹黒イロモノゴッド親父、オーマ・シュヴァルツに任せておきな!」
と名乗りを上げた。
「ウチは店長のアラクラン。よろしく〜」
全く気に留めず名乗り返すアラクランに、ネイトは少し驚いたような顔をして、そして「私はネイトです」と名乗った。
「いや〜、あんた、ええ人だね! 弾薬探しに行ってくれるって? いやあ、いい人だ!」
勝手に話を纏めようとするアラクランにネイトは焦るが、オーマの方も乗り気のようで、
「おうよ、その伝説の親父神セクシー大胸筋アルティメット弾☆取ってくるぐらい、下僕主婦朝のお掃除タイム筋前だぜ?」
と、自らの筋肉を見せながら言うほどだ。
「頼もしそうな人だね。ネイトはん、あんた一緒に行ってもらいなよ」
「え」
オーマの気迫にやや呆然としていたネイトは、我に返って問う。
「彼と、一緒に?」
「そうそう。彼も乗り気みたいだし。行って来ぃな」
「そうですね……よろしくお願いします、オーマさん」
「おう、そうと決まったら早い方がいい。さっそくその洞窟へGoだ!」
ヤンハクト洞窟への道中、正直な所「あぁ、これもフェリがくれた不幸の一部なのかしら」と後ろ向きなネイトだったが、オーマと会話をしているうちに、気はほぐれてきた。洞窟につく頃には、ネイトはオーマに好感さえ抱いていた。
「ここです」
洞窟の入り口を指差して、ネイトが言う。鉱山か何かだったようで、入り口は木や石で整えた跡があり、大人の男が2、3人は楽に通れそうな広さだった。
「一応、アラクランから貰った地図には、地下2階に鉱石があるって書いてありますね」
明かりは殆ど無いそうですから、ランプをどうぞ。
ネイトが差し出したランプを受け取って、オーマは洞窟に脚を踏み入れた。
中は比較的広かった。苔むした内部はじめじめとしてやや不快。どこからか水も流れ込み、小さな川さえ作っている。
「昔は坑道だったらしいですけど、今は廃棄されているんです。そうこうしている内に水は流れ込むは、物怪は入り込むはで、ただの洞窟になってしまったとか。だから鉱石を持ち出すのも一苦労なんですよ」
「へぇ、そうなのか。まぁこの俺がついていれば、ナマモノ達の事も安心さ」
「そうですか? 彼らもそれなりに力があるので、油断は禁物ですよ」
ネイトはそう言いながら銃に弾をこめようとする。
「いやいや、お嬢さん。殺すのは良くない事だ。俺は不殺生を肝に銘じていてね」
「えっ。それで、どうするつもりです? この洞窟は、ゴブリンやオーガやらが……」
「まあまあまあ。心配しなさんな。殺さず傷付かず、上手くやれる方法も、世の中には有らあな」
オーマはそう言いながら先へと進む。ネイトは不安そうに「でも、念のために」と十字拳銃に弾を込めた。
しばらくすると、広い場所に出た。不自然に広い空洞は、いくつかの方向に穴が開いている。どうやら元々は広間だったらしい。
「この広間には、トラップが仕掛けてあるらしいですよ」
地図のメモ書きを見ながら、ネイトが言う。
「そうかい。どんなトラップなんだ?」
「主に動体を探知したら、自動で弾丸を打ち出してくる物だとか。石か何かを投げて、慎重に安全地帯を探すのが賢明ですけど……」
「面倒だな」
オーマはニヤリと笑って言った。
「そこら中走り回って、全部弾切れにしちまえば、後の憂いも無いな!」
「え? あ、ちょっと!」
ネイトが止める間も無く、オーマは広間に走りこむ。
途端にそこら中でトラップが作動し、弾丸が降り注ぎ始めた。ネイトは慌てて物陰に隠れたが、オーマはそこら中を平気で走り、避けまくっている。
「見よ、シュヴァルツ筋奥義☆イロモノ悶絶ブレイクダンシングの力!」
いよいよ全てが動き始めて、辺り一面弾丸のスコール状態になると、オーマは華麗に、そして暑苦しく踊りながら全てを避けた。
「す、すごい」
物陰から恐る恐る顔を出して、ネイトが感嘆の声を漏らす。オーマの速さはもはや人間の域を超えそうな勢いだった。
やがて広間は静寂を取り戻した。辺りにはもうもうと煙が立ちこめ、そして広間の中央には、一人の男が立っている。
「オーマさん! 大丈夫ですか!?」
ネイトが心配そうに声をかけながら、オーマの元に向かった。彼はニヤリと笑って、
「おうよ」
と一言答える。その体にも、ましてや衣服にも、傷一つ無かった。
「オーマさんって……何をしている方?」
これは只者では有るまい、とネイトが尋ねるが、オーマはやはりニヤリと笑って答える。
「一介の下僕主夫さ」
「主夫?」
「おう。そうだ、お嬢さんも食べるか、下僕主夫特製『カカア天下はナウ筋親父の誇り弁当』。もちろん手作り」
「は、はぁ……ありがとうございます」
上手く話題をすり返られた事に困惑しながら、ネイトはオーマが差し出した弁当を見る。やたらに大きな弁当だった。しかも、6段はある。
「す、すごいですね」
「だろ。さあさ、遠慮せず。まだまだあるから」
「まだあるんですか!」
オーマの持参してきた小さな鞄にどれほど入るのか、とネイトは驚きながら、ふと気配に気付いて、洞窟の奥に目をやった。
見れば、洞窟の奥からワラワラと、ゴブリン達が顔を出している。どうやらトラップの轟音を聞きつけたようだ。あの様子では死んだに決まっている、と見切りをつけて来たらしく、ほのかな明かりの中で目が合うと、驚いたようだった。
「仕方ない、始末します」
ネイトが銃を構えようとするが、オーマはそれを引き止めた上に、「おーい、ナマモノども。お前らも食え」と高らかに叫び、弁当を並べる。
「ちょっと、オーマさん!」
ゴブリン達に手招きさえするオーマに、ネイトは怒鳴る。が、オーマはやはり笑って、
「ナマモノだって、腹が膨れりゃあ友達さ。しなくていい殺生は、しないにこした事は無いだろう」
そう言いながら、弁当のフタを次々に空けていく。ネイトは不満だったが、銃を下ろして後ろに下がり、見守ることにした。
ゴブリン達も始めは困惑している様子だったが、そのうちに良い香りのする弁当に近づいて行く。そして最初は恐る恐る、次第に、がっつくように弁当を食べ始めた。
「……」
ネイトは困惑しきった顔で、始終その様子を眺めていた。オーマはそんな彼女を見て言う。
「ナマモノ達だって、今を生きてる大切なイノチだろう。仲良くやっていけるなら、そうしたほうがいいってものよ!」
「……」
そう言うオーマの考え方は、今までのネイトには一切無いものだった。
降りかかる火の粉は払う。そして全てが火の粉だった。「富」という名の幸福を奪われて以来、ネイトは自分以外を敵とばかり見ていたのだ。
それがどうだろう。このオーマという人は、人間どころか、全ての生物が、既に友と言わんばかり。唖然としている間にも、小さなゴブリンがオーマにじゃれつき、オーマが笑いながら抱き上げるほどの状況だ。ネイトは言葉も無い。
「……」
「さ、早いトコ弾薬ってのを探して帰ろうか。ナマモノ達よ。弾薬の鉱石ってのは何処にあるか知ってるかい」
オーマが尋ねると、ゴブリン達は慣れた足取りで、洞窟の奥へと進んで行く。
「案内してくれるみたいだぞ。ついて行ってみよう」
「え? ええ……」
オーマも歩き出すのを、ネイトは慌てて追った。
「これかい?」
ゴブリン達に案内されたのは、階段を下りて、少し狭くなった道を5分程度行った袋小路だった。途中に何度か分かれ道で止まっては、ゴブリン達は慎重に気配を窺っていた。どうやら何か居るらしい。
鉱石と思わしき石が、壁から崩れ落ちて山を作っている場所が有った。しゃがみこんで手に取ると、ただの石にしてはズッシリと重い。
「叩くと紫色に光る石だそうです」
地図のメモを読みながらネイトが言うと、オーマは石同士を叩き付けた。確かに、僅かだが紫に光る。
「取り出す事は出来ないんだよな?」
「そうですね。アラクランじゃないと、成分を取り出せないと思います」
「なら、ありったけ持って帰ろうかね」
「え……でも、どうやってです? オーマさんがいくら力持ちでも、そんなに持てないと思いますけど……」
「なあに、ちゃんと道具は用意したし」
「?」
不思議がるネイトをよそに、オーマは件の鞄から、今度は箱を取り出した。30cm四方の箱で、蓋にはなにやら男性の笑顔が描かれている。
「そ、その箱は?」
「もちろん、具現能力とゆー奴を応用して作った、マッチョな桃色親父愛一撃ズキュンBOXだ! 秘密の腹黒使用で、いくらでも物は入るし、重くもならない。さらに物を入れるごとにアニキウィンクが発射されて、二度お得」
そう言いながら箱に石を入れるオーマ。すると、本当に蓋の男性の顔がウィンクしてきた。その破壊力はゴブリンでさえ思わず後ずさる程だ。
「さぁ、ありったけ入れるんだナマモノ達」
オーマはゴブリン達に命じて、箱に鉱石を入れさせる。その度に、ウィンクがそこら中に放たれた。
ゴブリン達の協力で、鉱石はあっという間に箱に入って、一つも残っていない。蓋の顔も少し疲れた様子に見える。
「まぁ、これだけあればいいだろう」
「そうですね、しばらく困らなくてすみそうです」
「……あ、そうだ。他に誰かが取りに来た時に、ガッカリしてもいかん。とりあえず、土産を置いて行こう」
「? 土産、ですか?」
「うむ。よいせ」
オーマはまた鞄から何かを取り出した。見れば、何かのパンフレットのようだ。
「何です?」
「我等が腹黒同盟の勧誘用パンフレットだ。冒険者もさるものながら、ナマモノ達が寂しくなった時にでも、開いて見るだろう」
「……でも、こう暗いと読めないんじゃ……それ以前に、ゴブリンって文字が読めるんでしょうか……?」
「心配は無用。ちゃんと自然に還るエコロジー仕様のパンフレットだしな」
「いえ、心配なのはそこでは無いんですけど……」
「む? 何か来たな」
ネイトの呟きをよそに、オーマは顔を上げる。見ると、ゴブリン達が洞窟の奥の方を見て怯えているようだ。
「……地下深くには、オーガとか居るらしいですけど」
「む。そいつは話が通じるか?」
「それは無理だと思います。かなり攻撃的で、ゴブリンも食べるそうですよ」
「うーん。弁当も品切れか……仲良く出来ないとあれば、仕方ないな」
「殺すの?」
「まさか」
オーマはニヤリと笑って、更に鞄から銃器を引っ張り出した。明らかに鞄に対して大きすぎる銃器だった。少し驚いた顔のネイトをよそに、オーマは洞窟の奥に銃口を向ける。ゴブリン達もオーマの背中に隠れた。
ヒタ、と小さな音がした。ランプがうっすらと照らし出す暗黒に、わずかな輪郭が浮かび上がる。
巨体だった。
両手をダラリと垂れた、細身のオーガのようだ。人の2倍はあろうかという大きさ。狭い洞窟をかがんで徘徊しているようだ。
ランプの光と、怯えるゴブリンの気配に、オーガが小さく唸った時だった。
オーマが銃を放つ。爆音と共に飛び出したのは、弾丸ではなかった。蛍光ピンクのビームで、ついでに同色のハートが無数に飛び出ている。
明るい場所なら冗談のような攻撃だったが、長い間暗黒に居たオーガにはかなり効いたらしく、もんどりうって暴れている。
「今だ、逃げろ〜!」
オーマの叫びに、ネイトもゴブリン達も大急ぎで洞窟を駆けた。オーマもしんがりで尚ビームを乱射しながら、洞窟を走って行った。
「はぁ、はぁ……あ、出口よ、オーマさん」
狭い洞窟内を走り、階段を駆け上り。出口に着く頃には、ネイトもゴブリン達もクタクタだった。ようやく明るい光を見つけてネイトが振り返ると、オーマは少しも疲れていない様子で笑っている。
「あのナマモノもあれだけ眩しい思いをしたら、諦めたみたいだ。良かったな、ナマモノ達!」
さあ一緒に街に帰ろう、とオーマは言うが、ゴブリン達は困ったような顔をする。
「どうした、ナマモノ達」
オーマが問うと、代わりにネイトが答えた。
「この辺りのモンスター達は、退治もされませんが、受け入れられてもいないんです。人里に出れば、駆除されてしまいます。ゴブリン達も基本的に人間は好きじゃないでしょうし……事実上、ここから出れないんです」
「そうか……あいつと一緒の洞窟で、お前らも大変だなあ。……そうだ、これをやろう」
オーマはまた鞄を漁ると、なにやら金属の棒を取り出して、一匹のゴブリンに渡した。
「超強力小型ライト充電機能付きだ。それさえあれば、あのナマモノだって怖くないぞ」
ゴブリンはスイッチの点け方を教えてもらうと、嬉しそうに跳ね廻りながら、そこかしこを照らして遊んでいる。そんな彼らに別れを告げようとすると、お礼なのか、ブレスレッドや貴金属など数点を差し出してきた。オーマはそれを笑って辞退する。
「いいって事よ。その代わり、お前ら言葉の勉強でもして、人間と上手く付き合っていけよ」
そう言い残すと、オーマ達はよろず屋に向かった。
よろず屋に帰ると、アラクランはギョッとした顔で二人を見た。一見すると、手ぶらだったからだ。
何の収穫も無かったのか、と聞こうとすると、オーマはニヤリと笑って鞄から箱を取り出して、中身を一つ一つ出し始める。途中なにやら余計な物も出たようで、慌てて戻していた。
しばらくして全部出し終わると、物置いっぱいの鉱石箱が新たに出来あがっていた。
「うわー、こんなに拾って来たの!? すごいなあ。これだけあれば、一年ぐらいは困らないよ〜」
「それは良かった。今度は在庫切れなんて起こさないで下さいよ」
「OKOK、任しといて! ……あ、ネイトはん。ちゃんとそん人にお礼しとかんと」
「あ、そうね。お世話になりました」
ネイトはペコリと頭を下げ「何かお礼を」と呟いたが、オーマはやはり首を振る。
「いいって事よ。久しぶりにナマモノと触れ合えたしな」
「でも……」
「いや……どうしてもって言うなら、はい」
オーマがそう言って差し出したのは、件のパンフレットだった。
「我等が腹黒同盟に、二人とも、是非!!」
「は、はぁ……」
「面白そうやね、考えとくわ」
二人がパンフレットを見ながら言うのを聞くと、オーマはニヤリと笑い、
「じゃあ、また機会があれば」
と言うと、颯爽と店から去って行った。
「面白い人やったねえ」
「えぇ……そうね」
色んな事を教えてもらった気がするわ……と、ネイトは珍しく楽しそうに呟いた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
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■ ライター通信 ■
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オーマ・シュヴァルツ様
はじめまして。ライターの石室 悠と申します。当シナリオへの参加、ありがとうございました。
納品が遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。
ライターにとっては、初めてのゲームノベルでの仕事でした。とても楽しいプレイングを頂き、こちらも楽しく書かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。
ネイトもネガティブな人生に光を見れたようです。
ご意見、ご感想及び苦情等ございましたら、お寄せ頂けると嬉しいです。
今回は本当にありがとうございました。
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