<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【砂礫工房】 捻れの塔の大掃除


------<オープニング>--------------------------------------

「よーし、掃除くらいしないと管理任されてる人間としてダメだよねー‥‥」
 気合いを入れて冥夜が捻れの塔の掃除を決意する。
 相変わらず塔の捻れ具合は変化し続けており、何階まであるのかも分からない。更に、言えば侵入者対策の仕掛けの止め方も未だに解明されてはいない。
 しかし放置すればする程、内部の埃は溜まっていくばかり。
 仕掛けの攻撃を避けつつ掃除を一人で行う事など到底不可能だ。
 ここは一つ協力者を募ろうではないか、と冥夜は思い立った。
 全てを解明された訳ではない捻れの塔は、隠し部屋なども多数有り行く度に違う部屋を見つける事がある。宝探しなどにももってこいだ。これなら冒険者も掃除をしながら楽しんでくれるに違いない、と冥夜は一人頷く。
「一緒に面白楽しく掃除をしませんか‥‥でいいか」
 これでよし、と冥夜は砂礫工房の入り口にぺたりと紙を貼り付けた。


------<砂漠の家>--------------------------------------

 黒山羊亭でジュドーはいつもの場所に座りがっくりと肩を落としていた。先ほど腐れ縁からツケの催促をされたのだ。それも執拗に今まで積もり積もったタダ働き分を支払えと。
 確かに今まで依頼に無理矢理引きずり込んだことはあった。そしてその報酬がゼロだったこともある。タダ働きはしない主義の腐れ縁にすれば、自分を引きずり込んだジュドーからその分を貰うのが当たり前、という結論に達するのは至極当然だ。
 そしてそのおかげでジュドーは今財布の中身が乏しい状況に陥っていた。
 ジュドーの名前で鋼糸代や夕飯代がツケられていたのだ。そちらからももちろん請求される。
「やはりここは一稼ぎしないと辛いか……」
 財布の中身をひっくり返しても、まだまだツケが溜まっている。ジュドーの借金先は一つではなかった。ジュドーは覚悟を決める。
「よし、なんか良い依頼を見つけるか」
 そう呟いた時、ひょっこりと足下から顔を出した少女が居た。
「冥夜! どっから……」
 気配もなく現れた少女にジュドーは声を上げる。しかし冥夜は気にした様子もなくジュドーの隣へと腰掛けた。
「えへへー、お久しぶり〜♪ 依頼探してるんでしょ? 良い依頼あるんだけどな」
「良い依頼?」
 首を傾げるジュドーに冥夜は頷いてみせる。
「そうそう。アタシからの依頼なんだけど、捻れの塔のね、掃除をして貰いたいんだ。あっちこっちに仕掛けあるんだけど、見つけたお宝とかは全部プレゼント。そんでもって、報酬もこのくらい」
 冥夜はジュドーに手を広げて見せた。
「5万?」
「ブッブー。残念でした。500万デース」
 ジュドーは目を丸くした。塔の掃除をするだけで50万。そして見つけた宝も自分のものになるなんて一体どういうことだろう。聞き間違えていないかジュドーはもう一度冥夜に問う。
「本当に塔の掃除をするだけで500万なのか?」
「そうだよ。冥夜ちゃん嘘つかなーい。ただね……」
 そう続いた時、ジュドーはやっぱりな、と思う。そうオイシイ話が転がっている訳がないのだ。一体どんな無理難題を押しつけられるのか、とジュドーは冥夜の言葉を待つ。
 そして、すぅっ、と息を吸った冥夜は告げた。
「塔が生きてるというか、なんというか。行く度に捻れの角度とか微妙で知らない部屋は出てくるわ、死なない程度の仕掛けだけど侵入者対策もしてあって結構面倒なんだよねー。ちなみに壊しても次に来た時には直ってるから平気」
 でも困った困った、と冥夜は腕を組み頷く。その内容に拍子抜けしたジュドーは、なんだ、と言う。
「もっと救いようのない無理難題を言われるのかと思ったらそうでもないんだな」
「やっぱ頼もしいなぁ。ぜひぜひ塔の掃除してやってー」
 もう一人じゃムリなんだよー、と冥夜はジュドーの服の裾を掴む。そしてウルウルと必殺の上目遣い。
 その瞳を直視してしまい、うっ、と声を詰まらせたジュドーは冥夜に言う。
「分かった。その依頼受けよう。日時は……」
「やったぁ! ジュドーの時間空いてる時で良いよ♪」
「それならば早速明日やってしまおう」
「うんっ! それじゃぁ……えっとね……」
 冥夜はジュドーに道を教える為、地図をスラスラと描きジュドーに手渡した。その地図を手にしたジュドーはまたしても首を傾げる。
「ここは行き止まりのようだが……」
「うん、行き止まり。でもダイジョブだからダマされたと思ってそのまま直進して」
「本当に平気なんだな?」
「うん、そこを過ぎると砂漠に出るはずだからさ。そしたら直ぐに分かるよ」
 そんじゃよろしくね!、と冥夜は高い椅子からぴょんと飛び降り、ジュドーに手を振る。
「あぁ、また明日な」
 ジュドーに見送られ、冥夜は黒山羊亭を後にしたのだった。


 翌日。
 いつものように軽く鍛錬をしたジュドーは、昨夜冥夜が寄越した地図を眺めその通りに進む。すると行き止まりの道に辿り着き、ジュドーはやはり躊躇した。
 目の前はどうみても行き止まりなのだ。背丈よりも高い塀があり、それ以上前へは進めなくなっている。何処に砂漠があると言うのだろう。
 ジュドーは半信半疑でその壁へと向かいあう。暫くそのまま壁を睨んでいたジュドーだったが、疑っていてはキリがない、と一歩前へと進んだ。渋っていても一歩踏み出してしまえば、あとはもうどうにでもなれ、という考えへと変わる。
 壁にぶつかるという瞬間もジュドーは目を閉じる事はなかった。前を見据え、そして冥夜を信じ壁へと向かう。
 しかしジュドーの目に飛び込んできたのはトンネルを抜けた後に感じる感覚と同じだった。高い壁を通り抜けるとそこには冥夜の言ったように本当に砂漠が拡がっている。まさに別世界だった。
 ジュドーは今自分がいる場所を把握する為、辺りを見渡す。すると砂漠には一軒の家があった。オアシスの隣に位置するその豪邸をジュドーはじっと見つめる。それが冥夜の住む家なのだろう。
「直ぐに分かる訳だ」
 苦笑しながらジュドーはそちらへと向かったのだった。


------<捻れの塔>--------------------------------------

「ねぇ、そういえばなんでそんなにお金必要になっちゃったの?」
 冥夜と共に捻れの塔に向かう車の中でジュドーは問いかけられるが、ジュドーはそれどころではない。冥夜の荒い運転で振り落とされないよう、ジュドーは必死に車にしがみついている。口を開けばそのまま舌を噛んでしまいそうだ。
 しかし運転している冥夜は慣れているのか、それとも気にならないのかそのまま話し続ける。
「あ、言いたくない時は良いんだけど。でもジュドーが来てくれて助かっちゃったなー」
 えへへへー、と笑う冥夜は急ハンドルを切る。その力に逆らうことなく、ジュドーの身体は転がる。耐えきれなくなったジュドーは声を上げる。
「っ、その…冥夜。もう少しスピード落として……」
「ん? 何ー?」
 ぐいっと踏み込まれるアクセル。ジュドーの身体は背もたれへと押しつけられた。もう少しだからねー、と言う冥夜の言葉に返答も返せぬまま、ジュドーは捻れの塔へと向かった。


 漸く着いた捻れの塔。
 ジュドーは大分ぐったりとしながらその塔を見上げる。
「随分高いな」
「そうだねー。毎回高さも違うんだよ。もう困っちゃう」
 ぷぅ、と頬を膨らませる冥夜にジュドーは苦笑する。
「それじゃ、始めるか」
「ラジャー! えっと、掃除用具は〜」
 鞄の中から色々と取り出す冥夜から、竹箒を受け取ったジュドーは塔の重い扉を開く。その重さの半分は降り積もった埃のせいに違いない。
「凄いな、これは」
「あはは……仕掛けに手間取って放って置いたらこの有様。ジュドー期待してるね」
「あぁ」
 ジュドーは頷き、一歩中へと足を踏み入れる。埃が下から舞い上がった。それに咳き込みながら、ジュドーは前へと進む。その後に冥夜が続いた。
 冥夜がジュドーへスカーフで口元を覆うようにスカーフを手渡す。埃は容赦なく二人を襲った。ジュドーはスカーフを受取、すぐさま口元を覆う。漸くまともに話せるようになり、ジュドーは思い出したように告げた。
「そういえば、さっき何故お金が必要になったかと聞かれたな。それなんだが……」
「あっ、言いたくないなら良いんだよ、別に」
「別に隠すほどのことでもない。簡単だ。ツケの催促されててな」
 遠くを見つめながらジュドーは続ける。
「この前の依頼でも結局報酬なしだったってことで、鋼糸代やら夕飯代やら全部私のツケにされて……」
 更に遠い目になりながらジュドーは告げ、がっくりと肩を落とす。
「まぁ、いいんだけど……」
「そっかー、そりゃ大変だったね。でも今回の依頼は無償じゃないから大丈夫!」
 ドン、と冥夜が箒の柄で床を叩いた瞬間、ガチリ、と何かが入る音がした。
「えっ……?」
 驚いたのも束の間、二人の立っていた床が抜け、斜めになった床の上を二人は埃と共に何処かへと滑り落ちていく。咄嗟に掴もうとした手は空を掴み、急激な斜面を二人は堪能するハメになった。
「なんだ、これはっ!」
「わかんなーい! 何処まで落ちるんだろう」
 灯りがなく、互いの置かれている状況が分からない。未だに落下する感覚は消えず、どこまでも滑り落ちていっているようだ。
「冥夜、私の手を掴めるか?」
「えっ? 何処何処?」
 ジュドーの声を頼りに冥夜が手を伸ばす。何度目かに漸く冥夜の手がジュドーへと触れる。その機会を逃さず、ジュドーは冥夜の手を掴んだ。
「このまま落ちていっても仕方ない」
 ジュドーは冥夜に自分のベルトを掴ませ、蒼破を抜き壁に突き刺した。急に勢いを止められ、二人の身体に強い衝撃が走る。しかしなんとかその場に留まった。
 蒼い光を放つ蒼破のおかげで、周りを見渡す事が出来る。
「わぉ。地下にこんなものあるとはねぇ」
 巨大な滑り台のような場所の周りに横穴が無数に存在していた。うまくやれば近くの横穴に入れそうだった。
「ねぇ、これさー……入ってみるしかないよね」
「地上に出るにはそれしかなさそうだな」
 自分たちが滑り降りてきた場所を見上げジュドーは言う。
「んじゃ、まずはあの穴の中へ入っちゃえ」
 よっこいしょ、と冥夜は軽く跳躍し一番近くにある横穴へと飛び込んだ。ジュドーもそれに続く。足場がかなり悪かったが、なんなく入る事が出来た。
 横穴に入るとそこからは階段が作られている。ジュドーは躊躇うことなくその道を進む。
「何かあったらその場で対処するまで」
 ジュドーの頼もしい言葉に冥夜は手を叩いて喜んだ。
「なんかいいね、こういうの。冒険みたいで」
 ジュドーの後に冥夜も続いた。トントン、とリズミカルに上がっていく二人の足音。頭上に小さな灯りが見えてきてジュドーは安堵の溜息を吐く。
「もう少しのようだな」
「そうみたいだねー」
 しかし安心したのも束の間、前方から転がってくる弾むボール。
「ボールか?」
 ジュドーが避ければ後ろを歩く冥夜に当たってしまう。一人分の通路しか無い為、横には避ける事が出来ない。
「仕方ない。正面突破か」
 勢いを付けて落ちてくるボールを蒼破で斬りジュドーは前へ進む。次から次へと落ちてくる身の丈程のボールを、ジュドーは全て真っ二つにしていく。鋭い閃光がボールに襲いかかった。
 冥夜はジュドーが半分にしたボールをひょいひょいと避けながら、その後に続く。
「うっわ、ジュドー今度は上だよ、上!」
 ジュドーは冥夜の声で上を振り仰ぎ、そこから迫る真っ黒な物体に剣を向けた。しかしそれらは剣を避け、ジュドーに襲いかかる。
「なにっ!」
 まるで手応えがなかった。そして次の瞬間、バサッ、と音がしてジュドーは真っ黒な煤だらけになってしまう。
「だ、大丈夫?」
 冥夜が慌てて駆け寄り、鞄からはたきを取りだしジュドーの身体を払った。
「なんだ、これは……」
「煤みたいだね。なんで落ちてきたんだろ……」
 ジュドーは訳の分からない塔の攻撃に溜息を吐いた。

 そして漸く二人は先ほどの塔の1階部分へと辿り着く。
「やったー! 漸く戻って来れた」
 冥夜は喜んだが、辺りを見渡し首を傾げた。
「あれ……? 床の埃消えちゃってる……」
「さっき私達と共に落ちたみたいだな。履く手間が省けた」
「確かに」
 そう言って上を見上げる冥夜は更に言う。
「なんか天井も低くなってるみたい。掃除するのこれで楽ちん?」
「そうだな」
 冥夜の顔が輝く。
「やったぁ! これは今の内にやっちゃわないと。それじゃアタシ、床の拭き掃除するね。ジュドーはかべの方お願い」
「分かった」
 ジュドーは冥夜に言われた通り、壁を吹き始める。あちこちに不思議な文様が描かれているが、それがどういう意味なのかジュドーには皆目見当も付かない。どうやらソーンにはもない独特のもののようだ。ここら辺に進化し続ける塔の謎があるに違いない。
「しかし面白いな、この塔は。修行にも使えそうだ」
「あー、昔使ってた人が居たってうちの師匠が言ってた様な気がする。ほら、仕掛けが毎回違うでしょ? だから新鮮さが失われないんだって。それに壊しても次に来た時には元通りだし」
「そうなのか。それはいいな」
 拭いている最中にスイッチを入れてしまい壁から攻撃を受ける。しかしジュドーはそれを軽く避け、その仕掛けを斬ってしまった。仕掛けは壊れるが、それらが床に落ちる事はなかった。落ちる前に消えていく。
 それを見ていた冥夜は、そうだ!、と大声を上げた。何事か、とジュドーは冥夜を振り返る。ふふーん、と得意げな冥夜の表情。
「修行用にここ解放したら掃除もして貰えてラッキー?」
「あ、あぁ。ここを解放して貰えたら借り賃に掃除もするだろうな」
「よっしゃー! そうしたらこの複雑難解な塔の掃除に悩まされる事も少なくなるよね」
 人の悪い笑みを浮かべた冥夜にジュドーは腐れ縁と同じものを感じる。
「冥夜……その、そういうことは……」
 とりあえず止めておこうとジュドーが声をかけるが、冥夜はにっこりと微笑みジュドーに言う。
「ジュドーにはもちろん無料で貸し出ししちゃうからね。いつでも遊びに来て。そんでもって、見つけたお宝は全てプレゼントー!」
「それは有り難い……じゃなくて」
 ふふーん、と鼻歌交じりの冥夜は掃除に戻る。ジュドーはそれ以上冥夜に何も言えずに、黙々と相似に専念したのだった。


------<終了>--------------------------------------

「おっつかれさまー!」
 冥夜ちゃん特製料理をたんと召し上がれ、と冥夜が次々に料理を運んでくる。
 冥夜に促されるままにジュドーは砂漠の屋敷で疲れた身体を休めていた。先ほど湯浴みも済ませている。
「今日は助かっちゃった。ありがとー!」
 冥夜がジュドーの更にパスタを取り分けながら告げる。
「あぁ、しかし本当に無料で開放するのか? あの塔」
「んー、それも良いかなって。あの塔、今は何にも使われてないから誰かの役に立てばそれはそれで嬉しいし」
「そうか……ただ修行にはもう少し難易度高めの方が有り難いな」
 そうだよねぇ、と冥夜は唸る。
「こっちで難易度調節出来たら良いんだけどね。ただ、今回のはかなり楽な方だったんだよ。普段はもっとボールが飛び交ってたり、見えない壁に阻まれて向こう側に行けなかったりと色々と大変だったりするし」
「そうか。でも本当に調節が出来たなら、人は集まるだろうな」
「そうだよね。ちょっと師匠にも相談してみようっと」
 ほら温かい内に食べて、と冥夜はジュドーに料理を勧める。
「あぁ、いただきます」
 ジュドーは目の前に置かれた料理に口を付ける。
 本当に修行出来る場が出来たらよいのに、と思いながら。




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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】


●1149/ジュドー・リュヴァイン/女性/19歳/武士

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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。 夕凪沙久夜です。
お待たせ致しました。
塔では力業で掃除をして頂きました。
身体を張っての挑戦、アリガトウございます。
またお会いできますことを祈って。