<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


地下室の聖歌

快晴の空に鮮やかな朱が映えた。
ある小さな町の中に、古びた教会が眠っていることに気が付いたのは、ついに朱雀だけ。
朱雀はぐるりと高い位置を舞って、再び舞い降りると、ソルに伝えた。

意思疎通。


教会には、なんとなく足を踏み入れた。
招かれたような気持ちがした。
誰かに必要とされる感じは、嫌ではないだろう?


教会に入ると、小さな神父に飛びつかれた。
何やら一大事らしいが、泣きながらベラベラしゃべるので良くわからない。
兎に角、地下室から聖歌が聞こえて怖くて眠れないとか。
まだ睡眠不足でクマがどうとか言っているが、ソルは調べてやることにした。


◆◆◆◆


「うわ・・・埃の多い場所だな、ここは。」


地下室は、上とは比べ物にならない程埃が積んでいた。もはやこれは雪と呼ぶに相応しい。靴で床を踏みしめると、ざくっと音がする。ざっと地下室全体を見渡すと、暗がりが何処までも続いているようで、果てがわからない。
とりあえず、壁にかかったランプに火を灯し、地下室へ数十年ぶりの光を与えた。



うおおおおっおおぉお!!!!!!!!!



刹那、呻くような声が地上に響く程の大音量で起こった。光を好まない何かが地下室に蔓延るのか、それはけたたましく成る。地上でコーヒーの準備をしていたロゼは当然カップを引っ繰り返し、モップを再びとらなければならなかった。


ランプが生み出す光によってある程度地下室を一望できるようになった。やはり果てはわからないが、明らかに地下の方が地上よりも広いのは確かだ。あの小さな教会のどこにこんな地下があると想像できようか、埃の雪上の長い道のりをソルはゆったりと歩いていく。
地下室の壁はほとんど本棚で埋まっていた。そして床には無造作に積み重ねられた本であったり、机であったり・・・。ベッドさえも見受けられるので、ロゼも知らない遥か昔には地下で生活する者があったのだろう。今では埃と蜘蛛に蝕まれてしまっているが・・・。


先ほどの大きなうなり声は明らかに深い場所である。
ソルは慎重に進みつつ、辺りへの注意を怠らない。


ふいに、今度は遠くで鐘が鳴る音がした。
教会の鐘。
おそらく、深夜12時をまわったということなのだろう。



―――― 天使 唄え 眠る フェレット 我は 永久に 生きて・・・



細い、男の声だろうか。突如聞こえ始めた聖歌。ロゼが言う通り、真夜中に始まった。
しかし、それは恐怖を与えるといっても脅威ではなく、どこか物悲しい心持がする声だ。

ソルはその歌声を頼りに奥へ奥へと進んでいった。





「「「誰ダ、我ガ眠リヲ妨ゲルノハ・・・。」」」


大きな声が地下室を占め、はっとした時には酷い土煙を立てながら目前に魔物が現れた。
さっと煙が流れると、ギラギラした大きな牙が光る。赤黒いドラゴンのような姿をしているが、その肌はぶくぶくと太っていて、ドラゴンと呼ぶにはあまりに醜い。そしてその腹の中からは、聖歌が聞こえている。


「眠り?お前はここで生きているのか・・・?」


ソルが問う。魔物はにたりと笑い、ソウダとした。


「「「我ハ魂を主食トシテ生キル。ココハ彷徨エル魂ノ宝庫ダ。死ニタクナイトイツマデモ彷徨ッテイタ
フェレット族ハ皆食ッテヤッタサ。」」」


何も言わず陽炎を構えた。ある程度の間合いをとって静止する。


「「「何ダ、我ヲ殺ソウトイウノカ。丁度イイ、冬眠シ始メルトコロダッタガ腹ガ減ッテ適ワナイノダ。オ前ヲ殺シ、魂ヲ食ラオウカ!ツイデニ上二居ル生キ残リトヤラモナ!!」」」

言い終わらないうちに魔物は飛びついてきた。しかしその巨体故に上手く動けないらしい。ソルは身軽に飛びのき、攻撃を食らうことはない。
陽炎を再び構え、今度はソルから仕掛ける。薄暗い闇が視野を極端に狭めるが、そこを補うのが修行の成果。軽やかに魔物を見定め、剣を降ろす。


「「「サセルカッ!!!!」」」


魔物は身体を大きく左に振って、尾をその波に乗って向けてきた。半ば鞭のようなその攻撃に、一旦下がる。それを勝機と見たのか、得意げな魔物は再び同じ攻撃を仕掛ける。

この魔物の欠点は、太っていることに加えてバカな所か。
同じ攻撃が二度もソルに通用するはずもない。

ソルは鞭のような尾にひょいと飛び乗り、大胆不敵に陽炎を構えてやった。
尾が再び定位置に戻る前に、尾から背へと飛び移り、そのまま頭まで来た。

魔物の話が本当ならば、腹には魂がたまっているのだろう。
魂をきったらどうなるのかは良くわからないが、とりあえず触れないにこしたことはない。

ソルはひらりと頭上に出ると、ソルが見えていない魔物に悠々と陽炎を振り下ろした。


ウォオオオッォオォオッッ!!!!!!!!


光を灯した時のような大音声を上げ、ビリビリと地下室が悲鳴をあげた。
やがて、その呻き声は止み、思い出したように魔物はぐらりと揺れ、大地を揺るがす音を立てて倒れた。
魔物は尾から灰のような粉になり、さらさらと崩れていく。

と、その中から薄いエメラルドのような光がひとつ、またひとつと高く昇っていく。
これが、魂というものなのだろう。

魂は、迷わずすべて天へと昇っていくが、ある少し大きめの魂が、ふらりとソルの手のひらへふわり。
ソルが慌てて手を出すと、魂は一人の男の形になり、長い前髪の隙間から微かな微笑みを見せた。

『我が息子を、ひとりこの教会に残して逝くことが多大な未練であったが、あなたのような方が居てくれればもう心配もあるまい。有難う、御座います。』


言い終えると、再び光となって天へ昇った。
それはどこか誰かに面影があるような、銀髪と赤い瞳の青年だった・・・。


◆◆◆◆

地上に帰ると、それなりに時間が経っていたようで、朝が近い事を小鳥たちの声が証明していた。地下での出来事を詳しく話すと、ロゼは安心したようであった。

先ほどから準備していたティータイムセットでしばしの休憩。
賞味期限は気になるが、何故か異常に美味いコーヒー。


「ここにはロゼ一人しかいないのか?」

コーヒーを口にしていたロゼは突然の質問に些かふいたが、口を拭いながらフェレリアンの歴史について語った。歴史といっても、この尻尾は高いらしいという話だけれども。

「盗賊が襲来したという日、僕は幼稚園に行ってたんですよ。それが帰ったら地獄絵図ですよ、幼稚園児に悪影響だとは思いませんか?」

冗談っぽく話してはいるものの、その笑には少し寂しげな点があった。
元気付けようと思ったわけでは無いけれど、あの青年の魂の話をしようと思った。
しかし、ロゼの元気な声にさえぎられる。

「とはいえ、一人になっても一人では無いような。ここにいれば、みんな見守っていてくれる気がするんですよ。」

コーヒーを飲んだ。

意思疎通。


離れていても、これだけ心が繋がっていれば良いものかもしれない。
そう思って朱雀を見ると、嬉しそうに高い声を上げた。

どこからともなく、暖かな、安心に満ちたような聖歌が
聞こえてくるような気がした。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC

【2517/ソル・K・レオンハート(そる・こう・れおんはーと)/男/12歳(実年齢14歳)/元殺し屋】

NPC

【ロゼ(ろぜ)/男/25歳/神父】


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■         ライター通信          ■
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初めまして、今日和。ライターの峰村慎一郎です。
この度は有難う御座いました。

戦闘モノは頭の中でかなり色々想像しながら書くのですが
スピーディーなゲームをやってる時みたいに身体がぐらぐらしてました(危なっ;
楽しんで書かせて頂きました。

有難う御座いました、また機会がありましたら
宜しくお願いします。

峰村慎一郎