<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


地下室の聖歌

教会の扉はこんなにも小さいものであったろうか・・・。
ロゼは一瞬ドアの付け替えを本気で考えた。
がっしりとした逞しい肉体に、白虎模様の鎧がよく似合う。
何より目を引くのが、その種族特有の四本腕。
その存在感の強さは強烈で、教会に来客したその男が至極大きく見えた。

彼の名はシグルマ。
ロゼはたどたどしく彼の元へ擦り寄り、睡眠不足解消を依頼した。


「俺は酒しかのまねーぞ。」


ロゼの手にしたコーヒーを横目に見ながら、そういい残し地下室とやらへ続く扉へ足早に向かっていった。


◆◆◆◆◆


地下室は、上とは比べ物にならない程埃が積んでいた。もはやこれは雪と呼ぶに相応しい。床を踏みしめると、ざくっと音がする。シグルマはあらゆる場所へ神経を張りつつも、豪快に地下室へ踏み入れた。
ざっと地下室全体を見渡してみる。暗がりが何処までも続いているようで、果てがわからない。
とりあえず、壁にかかったランプに火を灯し、地下室へ数十年ぶりの光を与えた。



うおおおおっおおぉお!!!!!!!!!



刹那、呻くような声が地上に響く程の大音量で起こった。光を好まない何かが地下室に蔓延るのか、それはけたたましく成る。地上でコーヒーの準備をしていたロゼは当然カップを引っ繰り返し、モップを再びとらなければならなかった。しかし、シグルマに別段驚いた気配は無い。


「何かとんでもねぇもんがいやがんのか・・・。」


警戒を強めつつ、慎重に進んでいく。
初めて踏み入れる場所での警戒は足りないより余る方がいい。

地下室は、ずっと直線に続いている。
これはもはや地下室というより地下道と呼んだ方が適当かもしれない。
何処かに繋がっているのか、あるいはそう思わせる仕掛けなのかわからないが、とりあえず果てを探るしかない。シグルマはずっしりとした鎧を鳴らしながらずんずん進んだ。

地下室の壁はほとんど本棚で埋まっていた。そして床には無造作に積み重ねられた本であったり、机であったり・・・。ベッドさえも見受けられるので、ロゼも知らない遥か昔には地下で生活する者があったのだろう。今では埃と蜘蛛に蝕まれてしまっているが・・・。


「ん?こりゃあ・・・。」


ふいに本棚が途切れ、その間に大き目の樽がどんと構えていた。
樽は水で溢れていて、後から後から零れている。
しかし不思議とその水は地面に落ちると、ものすごい勢いで大地に吸われていく。

浸透性が強い水なのであろうか。

いや、この水はただの水ではない。その証拠にこの独特の香り・・・。


「これは酒か・・・?」


シグルマは軽く手にすくって口に運ぶ。
やはり酒だ。

しかし何故このような場所に酒がわくのか。
全く不可思議な場所だ。






ふいに、今度は遠くで鐘が鳴る音がした。
教会の鐘。
おそらく、深夜12時をまわったということなのだろう。



―――― 天使 唄え 眠る フェレット 我は 永久に 生きて・・・



細い、女の声だろうか。突如聞こえ始めた聖歌。ロゼが言う通り、真夜中に始まった。
しかし、それは恐怖を与えるといっても脅威ではなく、どこか物悲しい心持がする声だ。


「誰かいんのか!!!」


シグルマが声を上げる。その声は直線の部屋に深く木霊したが返事はない。
聖歌は相変わらずオルゴールのように繰り返し、歌う。

シグルマはその歌声を頼りに、更に奥へ進むことにした。
とりあえず気になるその酒は落ちていた酒筒に入れ、持って行くことに。

歩くたびに歌は近くなる。
それと同時に、奥の方が明るくなっていくようだ。
どうやら最奥は小さな個室のようになっているらしい。
シグルマは堂々その場所へ踏み入れた。


「だ、誰だ!!」


個室には、太った醜い王か?
見苦しい図体をしていても、その王の象徴を頭に申し訳程度に乗せている男。

ボロボロの白い髭をだらしなく伸ばし、表情は卑しい。
不潔故か、身体中に何かざらざらした砂のようなものが纏わり付いている。
その隣には石化している若い男の姿が。


「てめぇこそ、こんな場所で何してやがる。」


王はあからさまに何かを後ろへ隠した。
ははん、それが理由ってこった。

王の後ろからは、隠れきれなかった少女の服がちらりと見えた。

少女は必死に抵抗し、身を乗り出す。


「助けて下さい!私この人に無理やり歌わされて、恋人の彼も魔法で石化されてしまったんです!」


掠れながらもしっかりとした声。体力的には彼女は大丈夫のようだ。


「下がってろ。」


シグルマは少女に言うと、彼女は頷いてすぐさま石化したという彼氏の裏へ回った。

剣、斧、鉄球、金槌。
どれで料理してやろうか迷うところだ。
それだけの余裕がある程、この王というのはあまりに無防備である。

とりあえずといった風にシグルマは剣を振り翳し、王へ切りかかった。剣を振るう風圧で辺りの空気が一掃される。刃は難なく王へ入った。王も多大なダメージを被ったようで、激しく絶叫しその場へへたり込む。たわい無いことだ。シグルマは剣を持ち直し、王に向き直る。と、どうだろう。王には確かに致命傷とまではいかないが、動けなくするには十分な攻撃を与えた。しかしどういうわけか、王はメキメキと回復し、先ほどと変わらない姿をしているではないか。傷がどこにもない。ざらざらと砂のこすれる音がした。


「はは、そんなものが効くか。わしは不死の身体をもつ、偉大な者だ。」


得意げに王が言う。今度は斧を振る、再生する。再度、再度・・・。
これではラチがあかない。


「闇の灰、王は闇の灰の力を使っているのです。早く聖水を!」


石の影から少女が叫ぶ。王はあからさまに焦って、少女を叱咤した。シグルマは慌ててその間に入り、斧をくらわせた。闇の灰とは、先ほどからまどろっこしく王へ纏わりついている砂だろう。しかし・・・


「聖水って何処にあんだよ・・・。あ?そういえばさっきの・・・。」


酒筒は、蓋を開けるとその水面をキラキラと光らせた。シグルマは酒筒を驕れる王の頭上へ放り、勢い良く剣を下ろす。真っ二つになった酒筒は王へ酒の雨を降らせ、闇の灰を浄化していく。悶え苦しむ王へ最期の一振りを。王は滅した。それと同時に石にされていた少女の恋人は元の姿に戻ったという。


◆◆◆◆◆◆


少女の話によると、王は少女の歌声をいたく気に入り、一度は側室として側へ侍らせ、一生歌を歌わせるつもりだったそうだ。しかし恋人がいた少女はそれを固く拒否したため、結果少女の恋人は王によって石化の呪いをかけられた。それは少女が歌っている時だけ石化が回復されるという残忍なもの。少女は城の地下へ幽閉、毎晩王がいる前で歌わされ、つかの間の彼との再会を味わっていたそうな。

それに加えあの王。
不死なのをいいことにいつまでも王の座へしがみつき、城下の人々もえらく迷惑していたのだそうな。


「この教会は先代が作ったのでよくわかりませんが、我々は何分警戒心の強い種族なので、逃げ場として奥まで繋げておいたのでしょう。それが良くか悪くかお城の地下にまで繋がっちゃってたんですね・・・。」


ロゼはごろごろと樽を転がしながら独り言のように言った。


「それは地下にわいてた聖水ってやつか?」


問題解決をやってのけたシグルマはロゼの中の英雄である。その英雄が酒しか飲まないといえば湧かせてでもお出ししましょう!


「これは教会の地下から沸いてるんですよ。昔先祖が細工して某酒蔵から流れてくるようにしてるんです。フェレリアンはお酒は神聖なものとして聖水って呼ぶくらい大切にしてるんですよ!水道の赤い方をひねると出てきます。」


赤はお湯じゃないのかよ。
しかもそれって犯罪では・・・。
一応近年は酒蔵と契約を結んでおり、水道代と同じく酒道代を払っているらしいのでまあよしとしよう。

ということで、樽いっぱいの酒を楽しむことに。
外見年齢は14歳程度であるロゼを見てシグルマは大丈夫なのか心配したが

「僕はこう見えて25歳なんです!お酒だって結構いけますよ!」

とのこと。
真夜中から朝にかけて大酒盛り。
実は酒は人並み以下なロゼはすぐに酔い潰れ、シグルマの酔い潰し記録更新に貢献する結果となった。

聖なる水が樽を滑って床に落ち、すぐに地へ還っていった。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC

【0812/シグルマ(しぐるま)/男/29歳(実年齢35歳)/戦士】

NPC

【ロゼ(ろぜ)/男/25歳/神父】


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■         ライター通信          ■
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初めまして、今日和。ライターの峰村慎一郎です。
納品が遅くなってしまって申し訳ありません・・・;;

お酒ネタをばどうしても出したくて色々と奮闘した結果がこちらでございます・・・。
如何でしたでしょうか・・・?
シグルマさんの逞しい身体つきが素敵だっ、と思いつつ書いてましたvv

有難う御座いました、また機会がありましたら
宜しくお願いします。

峰村慎一郎