<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


ソーン全国サイコロの旅・副音声 その3
●あらかじめおことわり(もういいって?)
 さてさて、これより記されるのは、とあるテレビ局のディレクター陣2人による、『ソーン全国サイコロの旅』企画のDVD化にともなう副音声解説収録時の模様である。
 その模様をファンの皆様によりリアルに感じていただくため、ディレクター陣の会話の様子は全て対話形式として記させていただいた。くれぐれもご了承願いたい。
 副音声収録のための部屋には、いつものようにヒゲで眼鏡で小太りなフェアリーテイルの逢魔・不死叢と、黒い翼を持つナイトノワールの逢魔・熟死乃という2人が並んで座っていた。
 そのテーブルを挟んだ向いには、椅子が1つ用意されている。誰かが来るであろうことは明白だが、その者の姿はまだ部屋には見当たらない。
 今回最終夜までの副音声解説もまた、ゲストを交えて行われるようだ。さあさあ、ゲストの登場を待ちながら、嫌っていうほど解説を味わってもらおうじゃないですか――。

●副音声収録風景・第7夜
不死叢:「はい、どうもぉ。始まりました第7夜。不死叢でぇ、ございまぁす」
熟死乃:「ども、熟死乃です」
不死叢:「さすがにまあ、ここまで一度に見てる奴も少ねぇんじゃねぇかって思うんだけども……いや、結構居るか?」
熟死乃:「居るんじゃないかい? あのね、皆さん。疲れたと思ったら休んでいいんですからね。テレビ放送と違って、一時停止出来るんですし」
不死叢:「そうだよぉ。僕らだってこれ、副音声。3度に分けて撮ってんですから」
熟死乃:「だからね、無理しないで。うん」
不死叢:「と一応忠告しておいた所で! 今回からは新しいゲストが! いよいよ!」
熟死乃:「勘のいい人は分かってるんじゃないかな」
不死叢:「では、どうぞ!!」
 不死叢が呼び込むと同時に、けたたましい笛の音とマラカスを激しく振り続ける音が聞こえてきた。バンジョー兄弟の弟、バンジョー英二が部屋に入ってきたのだ。
 しばらく笛を吹いた後、マラカスを振りながら英二がようやく口を開いた。
英二:「はいはいーっ、バンジョー英二でございまぁーす!!」
 そしてまた笛を強く一吹きする英二。
不死叢:「うるせぇって!! 笛やめろ!!」
英二:「お、何だ? のっけからダメ出しか。そもそも、これ用意したの君らだろぉ。僕はだ、勢いつけるためによかれと思ってやったんだぞ?」
不死叢:「勢いも何ももう第7夜。そろそろ佳境ですから」
英二:「知らねーよ。君らがどれくらい喋ってきたかしんないけど、俺はこれが最初だものさ」
不死叢:「だからそれはトークの方で発揮しろって」
英二:「だからそのために勢いをだぁ……」
熟死乃:「どうでもいいけど、そろそろ座ったらどうだい?」
英二:「そうかい、熟死ー? 確かに君らが座ってて僕だけ立ってるってのもおかしな話だねぇ。よし、座るぞ!」
不死叢:「えー、英二魔皇様ようやく座られました。という訳で、本日はどうぞよろしく、とぉ」
英二:「あ、はいはい、こちらこそ。やー、先に向こうが呼ばれて、僕はこのまま呼ばれないのかと心配したよ」
不死叢:「いやいや! 真打ちは後で出てくるもんでしょぉ」
英二:「うん、不死叢くんだっけ、君? よく分かってるじゃないかぁ。満を持して登場ってことでいいね?」
不死叢:「そうですよぉ。だからトークの方、期待してますからねぇ」
英二:「分かりました、皆さん期待しててください」
熟死乃:「あ、入っちゃった」
不死叢:「えっ?」
熟死乃:「不死叢くん、君らが喋ってるうちにもうフェデラに入っちゃったよ」
不死叢:「てことは、『水中呼吸薬』と『ふやけ防止の塗り薬』買い占めた後かい?」
熟死乃:「うん」
英二:「フェデラ? 第7夜はそこからなんだね?」
不死叢:「そうですよぉ。誰かさんが海パン1枚で潜った所ですよぉ」
英二:「いやぁ……まさかあの時、海パン持ってるとは思わなかった」
不死叢:「そういうこともあるだろうと思ってましたから、僕ら」
英二:「で、今こうして村で買い物してる訳だ」
不死叢:「……この時はまだ、海の幸も幸せだったんですよぉ。まさかあんな惨劇になるとは。そうだね、熟死乃くん?」
熟死乃:「うん!」
英二:「何だよ、その力強い返事はぁ! エビチリ、シーフードパスタ、鯛めし! いいの3品作ったろ!」
不死叢:「あれ絶対鯛めしじゃねぇって! 川魚じゃねぇかっ!!」
英二:「僕に『ほらシェフ、作りなさいよぉ』って言ったのはヒゲ! お前だろぉっ!」
不死叢:「誰も食えねぇ物作れなんて言ってねぇって! ほら、この画面よく見てみろって! 明らかにパスタ茹で過ぎなんだって、お前!!」
英二:「あのパスタがやわなんだろぉ」
熟死乃:「エビチリ痛かったねえ……」
不死叢:「ほら、作り方もだけど、味付けからおかしいんだって」
英二:「君はいっつも馬鹿みたく甘い物ばっか食べてるからそう思うんだろ? 本場のエビチリはあんなもんさ?」
熟死乃:「旨味が一切ないのが致命的だよ」
英二:「それは旨味を君が見付けられなかっただけじゃないのかい?」
不死叢:「全員見付けてねぇって。……お前もう料理作んな」
英二:「何ぃ? おい、熟死ーV止めろぉ。これから副音声には、不死叢くん、君を殴る音しか聞こえないぞぉ」
不死叢:「う……うひゃひゃっ、やめろって! うはっ……立ち上がんなって!」
英二:「まあ僕も大人だ。よーし熟死ー、Vそのままぁ」
不死叢:「あー……でもまあ、凄いかもしんないね」
英二:「何がだい?」
不死叢:「画面でさ、面白おかしいことやってんのに、副音声で殴る音しか聞こえねぇっての」
英二:「あはははははははははっ! やぁ……不死叢くん、君凄いわ。僕ねぇ……それ1度見てみたい。やー、かなりシュールだろうなぁ」
不死叢:「おや、そんなこと言ってるうちに、次の目的地決まっちゃいました。次は底無しのヴォー沼です」
英二:「何で1/6を出すかなぁ、彼?」
熟死乃:「出すんだって、そういう人なんだって」
不死叢:「せっかくのチャンスタイムが裏目に出て……ではでは、第8夜へ」

●副音声収録風景・第8夜
 第8夜の映像が終わり、続いて第8夜へ。
不死叢:「はい、不死叢ですよぉ」
熟死乃:「熟死乃です」
不死叢:「さ! 第8夜に入りましたが、引き続きゲストはこのお方!」
 不死叢が言い終わると同時に、英二が笛を高く一吹きした。
英二:「どうも、バンジョー英二です」
不死叢:「吹くなつったろぉ!?」
英二:「いいだろぉ、1回くらい……っと、この前枠は若旦那かい?」
熟死乃:「そう。沼に来たら屋台がいっぱいでびっくりしたよね」
英二:「それは僕も驚いた」
不死叢:「本編でも言ってますけど、底なし沼って聞いたらさぞかし寂しい場所だと皆思ってたんですよぉ。けど、蓋を開けたらこの通り」
英二:「下手な村より賑やかだったという」
不死叢:「まあ何もない所よりは非常に便利なんですけどね。食べ物にも困りませんから」
英二:「うん、串焼き美味しかった。あれだけ屋台あるから、きっと切磋琢磨してるんじゃないですかねぇ」
不死叢:「そうですよぉ。互いに競い合って、味も向上していったんではないかと」
英二:「で、腹ごしらえが済んで……ああ、思い出した! 海パン兄弟だ!!」
不死叢:「はいはい、バンジョー兄弟改め海パン兄弟の登場でしたなぁ。腹ごなしに、ちょっと沼で泳いでいただいた訳でして」
英二:「あれはさぁ、どう見ても沈んだって言うんだぞ?」
不死叢:「いやいや! 危険防止のために、ロープを巻いたじゃないですか! それにフェデラで買い占めた『水中呼吸薬』と『ふやけ防止の塗り薬』も使ってますし! いやまあ……もう1人の方に、ちょっとしたアクシデントもあり……ましたけどもぉ……」
英二:「何後半声小さくなってんだよ。あれはトラブルつーんだよっ! ロープ引っかかっただけだからいいけど、もし切れてたらあのまま沼の底だぞ?」
熟死乃:「いや、底なし沼だし。底ないから」
英二:「そんなのどっちでもいいだろぉっ! もしあの時何かあったら、僕はだぁ、君らと会社を相手取って訴えていたぞぉ。謝罪会見も開いてもらってだぁ」
不死叢:「ま、ま、何事もなくて何よりでした、ええ、そりゃもう」
熟死乃:「そうだねぇ」
不死叢:「で、第8の選択です。ここはねぇ……まさか出してくれるとは正直思わなかった。でも出すもんだねぇ」
熟死乃:「そういう所が、あの人の強さなのかもね」
不死叢:「でしょうなぁ。ともかく、次は楽器の名産地であるクレモナーラ村に行くことになった訳です、ええ。その模様は……第9夜で」

●副音声収録風景・第9夜
 第8夜も終わり、続いて第9夜が始まる。
熟死乃:「はいっ、熟死乃です」
不死叢:「そして不死叢ですよぉ。引き続きゲストはこのお方!」
英二:「バンジョー英二です」
熟死乃:「今度はすぐに挨拶だったね」
不死叢:「うん、笛来るかと思ったけど、ちょっと意外でした、僕」
熟死乃:「ここの前枠はとっちゃん坊やと記者だね」
不死叢:「これはねぇ……俺おかしかった。だってさ、のっけから激しく回転してんだもん。それで凄いのはさ、止められてすぐの時に足がふらついてねぇんだ!」
熟死乃:「あ、ほんとだ」
不死叢:「でしょぉ。で、神妙な顔して質問に答えてたかと思うと、また高速回転すんだよ。おかしくて仕方ねぇって、こんなの」
熟死乃:「奥へ向かうから、どんどん小さくなってくしねえ」
不死叢:「そ、そ。それがまたツボ入っちゃって。それに、前枠と本編とのギャップが凄くてさ」
熟死乃:「そうだよ、不死叢くん。今回は色々と新事実が明るみに出てくるんだ」
不死叢:「だよねえ。クレモナーラ村に着いたはいいけど、俺たち黄金の楽器がどんなのか知らなかったもん。見付けたとして、演奏出来るかも分からない。そもそもバンジョー持ってんのだって、本名からきてんだもの」
熟死乃:「駄洒落なんだよね」
不死叢:「です。これがことの外似合ってて。『うむ、いいディレクションだぁ』なんて自画自賛ですよ、僕」
熟死乃:「うん、カメラで撮っててそう思う」
不死叢:「でしょぉ? ……って、お前も何か言えって!」
 不死叢が画面に見入っていた英二の頭を叩いた。
英二:「痛ぇっ! 何殴ってんだよぉ!」
不死叢:「お前もちゃんと解説しろって言ってんだ!」
英二:「だって俺見てないんだもん! ゆっくり見させろよ!!」
不死叢:「家でテレビ見てんじゃねぇって! ビシッと解説しなさいよ、あんた」
英二:「そのためにこう、ぐっと気合い入れて見てんだろぉ? つべこべ言わずゆっくり見せろ、ヒゲ」
不死叢:「お、何だスズムシ? 仕事しねぇってか」
英二:「誰もそんなこと言ってねぇよ! ビシッと名言を口に出す、そんないい仕事するために、こっちはゆっくり見せてくれって……そう言ってんだ!」
不死叢:「よーし、よーし。スズムシ、お前の気持ちはよーく分かった」
英二:「分かったかい、不死叢くん?」
不死叢:「よーく分かったから、とっとと喋れこの野郎!」
英二:「お、何だぁ? よーし熟死ー、V止めろぉ!」
熟死乃:「やめなさいよ、君ら」
英二:「全く……ここにろくろあったら、お前の親ろくろで回しててっかてかにしてやってるとこだぞ?」
不死叢:「うひゃひゃひゃっ! よーし、じゃあこっちは、お前がパイ生地持ってきたら、その場で菊練りしてやるぞ」
英二:「あっはははははははっ!」
不死叢:「1200度で焼いてやる」
英二:「……やー、恐いなあ不死叢くんは。1200度なんか、一瞬でパイ黒焦げだぞ?」
不死叢:「おや? そんなこと言ってるうちに、もうサイコロ振っちゃってますねぇ……」
英二:「4だから、また『強王の迷宮』に戻るんだね?」
不死叢:「そうです、舞い戻ります。いよいよ最終夜、黄金の楽器は見付かるのか……この後すぐです」

●副音声収録風景・最終夜
 ついにいよいよ最終夜――。
不死叢:「はい、挨拶もこれで最後、不死叢ですよぉ」
熟死乃:「同じく、熟死乃です」
不死叢:「そして最終夜のゲストもこの方」
英二:「はいー、バンジョー英二でございます。いやあ、最終夜も呼んでもらえるなんてありがたいです」
不死叢:「いえいえ、こちらこそお忙しい所来ていただいて。最終夜はビシッと解説の方、よろしくお願いしますよ?」
英二:「君ねえ、不死叢くん。そういう言い方すると、まるで俺がビシッと解説出来てないみたいじゃないの」
不死叢:「出来てないから言ってるんです」
英二:「いやいや、僕ぁここまで頑張ったつもりだよ? 笛吹いたり何なり、よかれと思ってやったんじゃないかぁ」
不死叢:「それはこっちもよーく分かってる。面白かった。でも解説じゃねぇだろ、それ!」
英二:「何だよ、どうせこの収録風景も撮ってんだろ? 特典映像で入れればいいじゃないの」
不死叢:「それはまあ、こちらも考えてますよぉ。シークレット映像として、隠しますから」
英二:「表に出せよ! 隠す必要ないだろ、別にぃ」
不死叢:「いやいや、探した末に見るからいいんですよぉ。こういう物はね」
英二:「……確かに一理はある」
不死叢:「でしょぉ?」
英二:「けどねぇ、忙しい中こうして足を運んだ訳だから、それなりに使ってもらわないと困るよ?」
不死叢:「おや、お忙しい?」
英二:「しらじらしいなぁ、君。なまら忙しいって。今は今度の芝居の稽古中だ、僕は。そんな中、無理矢理スケジュール切ったろ? これ終わったら、俺また稽古だよ。俺の出るシーン、待たせてるんだ」
不死叢:「おやおや、それは大変ですなぁ」
英二:「大変にしたのはお前だろ」
不死叢:「けど、忙しいのはいいことですよぉ」
英二:「うん、まあ、その通り」
不死叢:「ただ僕らは、しっかりスケジュールもらいますけどね」
英二:「そういや前に、数カ月先のスケジュール押さえてたろ? 事務所で見た時、何でもう押さえられてんのかなって思ったら、君らだ。全く油断も隙もない」
不死叢:「押さえられる時に押さえておかないと、ほら。こっちにも都合ってのがありますから」
英二:「都合あるのは俺もだ。何だい、この番組はディレクターの都合でタレントのスケジュール押さえられるのかい?」
不死叢:「たまたまですよぉ。ただ、僕らがその時は動きやすいってだけで」
英二:「それを今言ってんだ、僕ぁ! 見てみろぉ、こんな関係ない話してる間に、迷宮での1夜が終わってるぞ」
不死叢:「おや、終わりましたなぁ」
熟死乃:「結局、黄金の楽器は詰め所の人が見付けて保管してたんだよね」
不死叢:「まさに『灯台下暗し』でしたなぁ」
英二:「最初来た時に聞いてりゃよかったんだ」
不死叢:「それは結果論。後だからそう言えるんです」
英二:「そうかぁ?」
不死叢:「ともあれ黄金の楽器もマラカスと分かり、無事にこの旅も完結したという訳ですよ」
英二:「ま、ここにあるのは普通のマラカスですけども」
 英二がそう言ってシャカシャカとマラカスを振った。
不死叢:「さて、英二魔皇様。振り返ってみていかがでしたか?」
 そろそろ副音声の収録も終わりに近付き、締めとばかりに不死叢が英二に旅の感想を尋ねる。
英二:「そうだねぇ……全て終わってみれば、苦しくも楽しかったのかもしれないけれども。1つだけ足らない物があるんじゃないかなって気はするねぇ」
熟死乃:「あるかい?」
英二:「あるよぉ」
不死叢:「足らないと仰るのは何ですかな?」
英二:「……荒々しさ。僕のだ、そうだねえ、荒々しい一面を引き出してもらいたかったかなぁ。僕の仔猫ちゃんたちもきっと期待してるよ? いやあ、もっと荒々しいことをやりたかったねぇ」
不死叢:「ほうほう、そうですか、そうですか」
熟死乃:「なるほどねえ」
 得意げな表情で話す英二に対し、不死叢と熟死乃のディレクター陣2人は意味ありげな視線を交わした。英二はその怪し気な視線に全く気付いていなかった……。
不死叢:「貴重なご意見ありがとうございました」
英二:「うんうん、分かってもらえればいいの」
不死叢:「では長々と続いてきました副音声もこの辺でお開きと。はい、それでは不死叢でした」
熟死乃:「熟死乃でした」
英二:「バンジョー英二でございましたぁ!」

【おしまい】