<PCクエストノベル(2人)>


魂紡ぐ者 〜ムンゲの地下墓地〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2085/ルイ        /ソイルマスター&腹黒同盟ナンバー3(強制】

【助力探求者】
なし

【その他登場人物】
ムンゲ
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 本来は闇しかないその空間に、ほのかに灯りがともっている。
 そこに立つのは二人の男。ぼう、と下から浮かび上がる灯りに照らされ、壁に巨大な影をゆらゆらと投影しながら、その暗さでも分かる青い髪の男がぼそりと呟いた。
ルイ:「埃っぽく、じめじめしていて、その上なにやら奇妙な匂いがいたします。これぞまさしく地下墳墓ですねえ」
オーマ:「……気のせいか、機嫌悪くねえか?」
ルイ:「わたくしが? とんでもありませんよ。ただ、『良いところに連れて行く』との言葉を信じてきたわたくしにこの仕打ちはなんでしょうかと言いたいだけです」
オーマ:「十分機嫌悪いじゃねえかよ……」
 賢者とも、ネクロマンサーとも噂されるムンゲの地下墓地。その最奥にある大きな棺の前で、オーマ・シュヴァルツががっくりと肩を落とす。
 以前も何度か訪れたこの地で、腹黒同盟に誘う度に断られていたが、オーマはめげる事無く勧誘リベンジとばかりに再びやって来ていた。今度は自他共に認める不死・霊魂関係のスペシャリストのルイを引き連れて。
 ――最も。
 ルイ自身はオーマの腹黒同盟の一員として登録されているが、腹からメンバーを増やそうとしているのかどうかは甚だ疑問だったが、オーマ自身はその辺あまり気にしていないらしい。
ルイ:「わたくしがここの雰囲気を心地よいと感じるまでにはまだ暫くの猶予がありそうですからね。――それで、オーマさん。今日は一体何を企んでいるのでしょうか?」
オーマ:「企みなんて人聞きの悪い事を言わなくてもいいじゃねえか。おまえさんも名前くらいは聞いてるんじゃねえか? ここが『ムンゲの地下墓地』だと」
 ルイが返答せずに軽く頷くのを見て、オーマが薄明かりの中にぃっと笑う。
オーマ:「そのオッサンを勧誘しに来たっつうわけだな」
ルイ:「……なるほど。そこでひとつお聞きしたいのですが。オーマさんお一人でも十分用が足りるこの企画に、何故わたくしまで引っ張り出される理由があったのですか?」
オーマ:「そりゃあまあ……」
 そこまで言って、オーマがごにょごにょと口篭もる。
オーマ:「死んだ連中との繋がりが濃いルイとなら、いい友だちになれるんじゃないかと思いついたっつうかその」
ルイ:「――――なるほど」
 きらぁん、と暗い洞窟の中でも何故か光を放つ眼鏡をくい、と持ち上げたルイがにこりと笑い、
ルイ:「それならば最初からわたくしにきちんと説明の上連れてこようと言う努力をしてもらいたかったですねえ?」
 ゆらりと気のせいかどす黒いオーラを放ちながら、そう言った。
 そこへ、
ムンゲ:『ひとの住み処でいつまでごちゃごちゃやっているつもりだ』
 呆れたような、どこから聞こえて来るのか分からない声が、二人の耳に――いや、頭に響き渡った。
オーマ:「おう。今日はおまえさんと気が合いそうな友だちを連れてきたぜ」
ルイ:「……全く。結局ひとの話を聞かないで物事を進めてしまうんですから。困ったものです」
 ふう、と大仰にため息を付くルイ。
ムンゲ:『事情は分からないが。――オーマと言ったな。どうもお主が現れる時には奇妙な事が起こるようだ。何か呼んでいるのではないか』
 そんな二人に、今度は苦い声でムンゲが言う。
オーマ:「奇妙な事?」
 問いただしたオーマと、口をつぐんでムンゲの言葉の続きを促したルイに、ムンゲが静かに語り始めた。
 『それ』が来るようになったのは、オーマがここに来る僅か二、三日前からの事。調べさせてみると、地下墓地の壁が揺らぐ事があり、そこが開く度にソーンのものではない霊魂がいくつも現れるようになったのだと言う。墓地内に限定されているとは言え、開く場所は定まっておらず、お陰で墓地の全域にそうした霊魂がいる状態で。
 意志の疎通も出来ず、それらは何をするでなくただ現れた辺りをふわふわと漂うばかり。今は害が無いように見えるが、異質である事に間違いはないため、どうしたものかと考えていた矢先に二人が訪れたのだとムンゲが言った。
ムンゲ:『過去の例にもあるように、今日お主らがここに来たと言う事は、何かの因縁があるのだろう。前と同じく処理を頼むぞ』
オーマ:「おい、オッサン、そんなあっさりと俺様たちの関係だって決め付けていいのか?」
ムンゲ:『お主が来る度、前兆のように何かが起こるのだからそう考えたとしても間違いではあるまい』
 とにかく、調べるように――その言葉を最後に、ムンゲが沈黙する。
ルイ:「……」
オーマ:「ったく。勝手なオッサンだぜ全く。ほんじゃま、行くか」
ルイ:「そうですね」
 ムンゲの言葉に何か思いついた事でもあるのか、ルイは先程までの嫌そうな態度をがらりと変えて、オーマの後に大人しく付いて行った。

*****

オーマ:「ああ、確かに変な揺らぎを感じるな」
 地下墓地のどこからか、奇妙な『波』が感じられる。今は閉じているようだが、その波が大きくなった時に空間がどこかと繋がるのだろう、と言う事は分かった。
オーマ:「そこは見つけ次第繋がりを断ち切ればいいだけだからそんなに難しくは無いと思うが」
ルイ:「――そうですねえ」
 けたけたと、あるいはにんまりと楽しそうな笑みや笑い声を上げながら、地下墓地の中をふわふわと漂っている霊魂たち。
オーマ:「問題はコレだよなあ……おい、おまえさんたち。どっから来たんだ?」
 うふふふふふ。
 くすくすくす。
 けらけら、けらけら。
 オーマたちの声が聞こえているのかどうか、その目からも声からも判断が付かない。
 ただひとつ言えているのは、皆一様に奇妙な程陽気だと言う事だけだった。
オーマ:「やっぱり、ゼノビアのモノみてぇだな。つう事は、ソイルマスターの仕損じか、これは」
ルイ:「……」
 ソイルマスターはゼノビアで魂の浄化作業を行う、一種のシャーマンのような役目を担っており、オーマもヴァンサーと言う職業柄彼らに接する事は良くあった。それ故に、こうしたモノが流れ込む先の想像が付いたらしく、オーマが眉を寄せる。
オーマ:「参っちまったな。そう言う事なら、急いで穴を塞がなきゃならねえ。あっちのモンとこっちのモンと混じって良い事にはならなさそうだしな……」
ルイ:「その通りです。流石はオーマさん、良いところに気付きましたね」
オーマ:「お? そうだろそうだろ。いやー流石俺様。っつう事で俺はここの揺らぎの元を探しに行くが、おまえさんはどうするんだ?」
ルイ:「何をおっしゃいますか。――わたくしはこれでも霊魂のスペシャリストですよ? わたくしが彼らを導かずにどうすると言うのでしょう」
 きらぁん、とにこやかな唇の動きと同時に眼鏡が輝く。
オーマ:「おう。そうだったな……ってそういやおまえさんの同僚じゃねえかよ。尻拭いさせるなんざ酷ぇヤツだな。後でお仕置きしてやれ。それじゃ、俺はあっちに行ってみる」
ルイ:「頑張って下さい。わたくしはわたくしでやらせていただきますので」
 おう、とオーマが手を振りながら急ぎ足で立ち去っていく中、ルイはその場に立ち尽くしていた。――唇に薄く笑みを張り付かせたまま、眼鏡の奥の瞳を氷のように冷たく冴え渡らせて。
ルイ:「ムンゲ様――貴方様が暫く目と耳をを瞑っていて下されば、わたくしはこの墓所に何ら危害を加えようとは致しません。ですが、そうでなければ……『喰らいます』よ?」
ムンゲ:『…………』
 ムンゲが墓所全体を『見る』目を持っているのかどうかは分からない。が、ルイの背にこびり付くように感じていた視線は、そして気配はその言葉と同時にふっと消え去った。
 オーマの読みは一部正しかった。死に通じるものを持っている二人が、お互いの事を分かり合えるだろうと言う事は。
 だが――それ以上の、ルイの持つ能力の一端にムンゲが気付くだろうと、そして畏怖するだろうと言う事までは、気付きようが無かったのかもしれない。
ルイ:「さて――どうしましょうか、ね」
 薄らと笑みを浮かべたルイの瞳は、実に楽しそうに宙を舞う彼らに熱い視線を注いでいた。愛しげに。

*****

オーマ:「むぅぅ」
 ひんやりとした石壁に手を付いて、オーマが難しい顔をする。
 と言うのも、墓所内を散々走り回って、『波』がある地点を特定できたのだが、それがなんと墓所の中心……壁の内部の深い位置にある事に気付いたからだった。
 そこから放射状に揺らぎが発生すれば、確かにムンゲが言うように墓所のあちこちの壁に揺らぎの空間が開いたように見えるだろう。
オーマ:「ここで具現空間を作って中央まで行っちまうっつうのもアリだが……ったく。肝心な所で役に立たねえんだもんな、あのオッサンも」
 走り回るうちに、墓所内にいたらしい霊魂の数が減っているのに気付き、おおルイは頑張ってるなーと満足そうな気持ちでいたのだが、墓所内に詳しい筈のムンゲはオーマが何度か訪れて今までに開いた揺らぎの場所を聞き出そうとしても、何も言葉を返さないどころか、どこかに行ってしまったかのように気配も感じられないでいる。
 お陰で発生源を特定するのに時間が掛かってしまったと、オーマは軽く口を尖らせ、さてどうしたものかとそこで考え込んだ。
 その背後に、静かな足音が響いて聞こえて来る。
オーマ:「うん? そっちは終わったのか、ルイ」
ルイ:「足音だけでわたくしと分かるのですか。動物のように鋭い感覚を持っていますね」
オーマ:「はっはっは、任せろ」
ルイ:「そのせいなのですね。人間的思考能力が少々足らないように見受けられるのは」
オーマ:「わははは、その通り――って馬鹿言ってんじゃねえ! 俺様賢いんだぞ? 偉いんだぞ? 腹黒同盟総帥なんだからな!?」
ルイ:「ああ、そうでしたね」
 強制で入れられているとはいえ同盟員の一人である以上、ルイはオーマの『同類』と言う事になる。それに内心でため息を付きながらもその事はおくびにも出さず、
ルイ:「どうでした? 探索の結果は。何か困っているようですが」
 と、にこりと笑って言った。
 それから、オーマの探索結果を聞いて、ルイが鋭い視線を壁の向こうに向け、
ルイ:「なるほど、確かに」
 小さく呟く。
 それから二人で少し相談をした後、取った行動は、ソイルマスター繋がりでルイが中心点をこちら側に引きずり出し、オーマが具現波動によって作り出された揺らぎの中心を断ち切ると言うものだった。
 ある意味、この二人がいなければ成しえなかった技であり、全てが済んですっきりした墓所の中でオーマが微苦笑を浮かべながら、
オーマ:「ムンゲも言ってたが、まさに俺様たちが来る事で起こったみてえだな、これは」
 そう言った言葉に、ルイは黙したまま答えなかった。

*****

 そうして、二人が外に出る頃には、地下墓地とあまり変化の無い夜の闇が外を一面覆っていて、ただ違うのは空に満点の星が煌いている事だけ。
オーマ:「おう、外に出たんだかまだ中に入ってるんだか一瞬分からねえな」
ルイ:「空気の匂いや広がり具合はまるで違いますけれどもね」
 ルイがゆっくりと外の空気を楽しむように呼吸する隣で、オーマが残念そうに首を振った。
オーマ:「しかしなぁ……何でムンゲのオッサン、すっかり済んだ後もほとんど何も言わなかったんだろうな」
ルイ:「何度もオーマさんが面倒ごとを持ち込むから、呆れてしまったのではないですか?」
 くすっとルイが笑い、
オーマ:「お、俺が持ち込んだわけじゃねえだろ?」
 その言葉に自信はあまり無いらしく、ちょっとおろおろしながらルイに確かめるように語尾を上げるオーマ。ルイはその言葉に、ただちょっと笑っただけで何も答えなかった。
オーマ:「ち、違うよな? 違うって言ってくれよ?」
 そしてそれが更なる不安を煽ったのか、オーマが困った顔になりながらルイにずいと詰め寄る。
ルイ:「はいはい。違うと言う事でオーマさんが安心するのでしたら、何度でも言いましょう。けれど、今度わたくしを連れ出す時にはいい加減な言葉や誤魔化しがあっては困りますよ?」
オーマ:「お、おう」
ルイ:「ちゃんと言わないと……そうですね。家の事も仕事も捨て置いて腹黒同盟勧誘に勤しんでいる事、皆に伝えさせて貰いますから」
オーマ:「分かったちゃんと言うから頼むからそれだけは勘弁して下さい」
 本気で嫌なら、こそこそとやらなければ良いのに――そう思ったが口に出さず、わかりました、とにっこりと笑ってルイが頷いた。
 そして、ほっとし、次の瞬間嫌なことは何もかも忘れたように上機嫌になって次はどこに行って誰を誘おうかと画策し始めたオーマをちらと見つつ、ルイは先程の出来事に思いを馳せていた。
 ――『アレ』が、ゼノビアではなく、ゼノヴィスから流れ込んだモノだと言う事には気付かれなかったらしく、その点では安心している。
 だが、どうしてゼノヴィスがソーンとの接点を見出したのか、それがルイには少々気がかりだった。ゼノビアとゼノヴィスとが融合しかかっているとは言え、ゼノビアからやって来たオーマたちがこの地にいると言う事だけで、やって来られるようなものなのだろうか、と。
 もしかして。
 彼らも、『彼女』の存在に気付いたか。いや、あれはまだ未完成だから、例え気付かれたとしても時期尚早。今はまだ、どちらのためにも成らず――もし彼女を求めてやって来たのだとしたら、今回のように接点を消滅させるために動くのみ。
 それが『正しい』事だと、自分は知っているのだから。
ルイ:「それにしても、少々……少なかったですかね」
オーマ:「うん? どうした?」
ルイ:「いえ。何でもありませんよ。さあ、早く戻りましょう。そうしないと何処へ行っていたのかのフォローも利かなくなってしまいます」
オーマ:「っとと、それもそうだな。それじゃあ今日も魚のフルコースと行くか」
ルイ:「魚のみでなく、貝なども入れた煮込みが食べたいですねえ」
オーマ:「ああ、そのくらいはお安い御用だ。そうだな。今日も冷えるしブイヤベースをメインにおいてだな」
 家族の機嫌を取るための夕食をああだこうだと言うオーマとルイ。そうして話しながらも、ルイの心は全く別の方向へと飛んでいた。
 一旦、ゼノヴィスから彷徨い出た霊魂は、元に戻す事が不可能である、とされている。そのための処理方法としては、ソイルテイラー自らが喰らう他無い。
 今回もそうして、全てを『処理』したのだが……正直なところ、少し物足りなかった。
 ――もう暫く待って、増やしてからでも良かったかもしれない。
 オーマに気付かれないようそんな事を考えて、ルイは薄らと、楽しげな笑みを浮かべたのだった。


-END-