<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
An igeal and reality?
王都の北方にある鬱蒼とした森の向こうに遺跡があるのだという話し仕入れてきた虎王丸(こおうまる)は、しばらく停泊にしている安宿に残っていた蒼柳凪(そうりゅう・なぎ)の部屋に入るなり、
「遺跡の探索に行こうぜ!」
と切り出した。
騒がしい足音で虎王丸が現れるのは予想していた凪であったが、部屋に入るなりの大声に顔を顰める。
「どこに行くって?」
片方の耳を押さえながら凪は鹿爪らしい顔をして無言の批判をしたのだが、哀しいかな虎王丸は全く気がついていないようで、
「だーから、イ・セ・キのタ・ン・サ・クだって!」
と、もともと大きな地声を更に張り上げて一言一言を発した。
凪のうんざりしたような顔を気にすることなく虎王丸は先ほど街で見ず知らずの老人に聞いた話を話して聞かせた。
虎王丸のすることなので、老人の話を相当簡略化していたのだが、当然凪はそんなことを知るはずもない。
正直乗り気と言うわけではなかったが結局は虎王丸の勢いに押される形で凪は遺跡の探索に付き合うことになったのである。
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「本当にこっちで合ってるんだろうな」
森の中を歩いてかれこれ、どれくらいの時間がたったのか。
生憎とびっしりと木々に遮られて空の欠片すら見えないのだから、太陽がどの位置に居るかも判る筈がなく時間の経過を割り出すことさえ出来ない。
日中だと言うのに薄暗い森の中を小さなランプで足元を照らしながら進んではいるが、遺跡までどれくらいの距離があるのか、自分達が森の中をどれくらいまで進んだのか全く不明な状況である。
「まぁ、細かいことを気にするなって。森の奥にあるんだから進んでいけばいいんだって」
計画性だとか事前の準備というものの認識がなく、それどころかきっと方向すら全く気にしないで適当に歩いているだろう虎王丸を信用したのがそもそも間違えだったのだと凪は今更になって後悔していた。
「あぁ、でもさすがに腹が減ってきたからそろそろ夜だな、きっと」
時間経過の目安になるのが虎王丸の腹時計だというのだから、凪が数時間前の自分に忠告することが出来るのなら、虎王丸の勢いにだけは騙されるんじゃないと言いたいと思っても無理はない。
「お前に任せたのがそもそも間違いだった」
という凪の嫌味もどこ吹く風、虎王丸は、
「今日はもうここで休むっきゃねぇなぁ」
と言い出した。
野営と言えば聞こえはいいが、何のことない要は野宿のことである。
もともと、樹海の里で暮らしてきた虎王丸にしてみれば森のど真ん中で野宿することなど全く苦ではないのだが、重要な神事を執り行う神々の末裔とも言われる貴族の跡取息子として育てられた凪にしてみれば王都で寝泊りしているあの安宿で寝起きすることすら精神的な苦痛を伴うと言うのに、こんな森で野宿するなんて事は正気の沙汰とは思えない。
しかし、実際、はっきりした時間はわからないが虎王丸だけでなく凪自身も空腹感を感じていたし、どれだけ歩いたのかわからない足は悲鳴をあげる寸前だった。
「何でこんなことに」
埒もあかない愚痴を呟きながらも凪はそこらに落ちている枝をしぶしぶかき集めていた。
凪にそれを指示していった虎王丸の姿がしばらく見えないと思っていたら、両手に何かを抱えて戻ってきた。
「ほら、晩飯とってきたぜ」
そう言って虎王丸は無造作に両脇に抱えていたものを凪に放り投げる。
慌てて抱えた凪の腕には兎が2羽と魚。
「なんだよ、火もついてねぇの?」
呆れたような口調でそういうと虎王丸は凪が持っていたランプであっという間に凪が拾ってきた枯れ枝に火をつけた。
「ほら、ぼやっとしてないで皮を剥いでだな」
「皮剥ぐって」
「皮っつったら、その兎に決まってんだろ」
凪とて兎の肉料理なら食べた事はあった。だが、それはすでに兎としての姿をなくして料理して形になって出てきたものだけであった。
「そんな野蛮なことっ」
「ったく、見た目なんていいんだよ美味けりゃ。だいたい、今までだって散々食べてるくせに今だけ食べられないなんて」
凪はオーバーなんだよと虎王丸は笑ったが、結局凪は断固として拒否をした。
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結局すっかり虎王丸がほとんどを平らげてしまった。
「あー食った食った」
膨れた腹を満足げにぽんぽんと叩きながらひっくり返る虎王丸を凪が呆れた顔で眺めていたそのときだった、突然足音がして周囲をいかつくいかにも粗暴そうな男たちに囲まれていた。
その頭目らしい、一際大きく顔中に不精ったらしい髭をはやした男がじろりと2人を見る。
「ふん。そっちは大したもんは無さそうだが、そっちのボウヤはなかなか上等なもんをイロイロ持って居そうじゃねぇか」
そう言って、凪を顎で指す。
「お前ら、命が惜しけりゃ荷物と有り金全部置いてきな。もちろん、その上等そうな服も全部な」
そう言った男は品位の欠片も感じられない下種な表情をしている。
「ちっ、メンドクセー」
小さく舌打ちをした虎王丸がそう呟いてゆっくりと立ち上がった。
「そうそう。大人しく言うこと聞けば何も命まで置いてけなんて言わねぇから―――」
言い終わる前に虎王丸の拳が男の尖った鼻を潰した。
「ぅがぁっっ!!」
ひしゃげた鼻に悲鳴を上げた男の叫び声を合図に盗賊達が一斉に2人に襲い掛かってきた。
虎王丸はここぞとばかりに嬉々として盗賊たちを次々と殴りたおしていく。
「凪っ、お前っ、銃使えば…いいだろう!」
「でも」
「でもじゃねぇって、…それじゃっ、得意の舞術、を使えばいいじゃないか」
「ばかだなっ、アレをやるには…時間が足りない!」
盗賊の攻撃から身を交わしながら会話していた2人だったが、多勢に無勢で息が乱れる。
結局ろくすっぽ攻撃しない凪をかばいなが虎王丸は戦っていた。
だが、いい加減に痺れを切らし、刀を抜く。
飛び掛ってきた数人の前にすばやく刀の切っ先を向けて振り下ろそうとした虎王丸の腕を凪がとっさに掴んだ。
盗賊の拳がとっさに虎王丸の脇を掠めるのと掴んで手刀を振り下ろすと、鈍い音がして男の腕が不自然な方向に曲がった。
「凪、あぶねぇだろ!」
「駄目だ。極力傷つけるな!」
「そんなこと言ってる場合かっ」
「トラ! 傷つけるな!」
禁句である呼び名を使われてトラは忌々しげに眉間の皺を深めつつ大きくため息をついた。そして、仕方なしに刀の刃の向きをくるりと返して峰打ちで戦ったが、やはり多勢に無勢倒しても倒してもきりがない。
「こうなったら、奥の手だ」
そういうと、虎王丸は自分達と盗賊の前に炎の壁を作り出した。
盗賊が怯んだ隙に凪の腕を引いてその場を駆け出した。
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三十六計逃げるに如かずという言葉を知っていたはずもないだろうが、こういう多勢に無勢の時には逃げた方がいいというのはいつの時代もどんなときでもお約束のようだ。
足場の悪い道ではあったが樹海育ちの虎王丸は慣れた様子で走り抜けたが、凪は木の根に引っかかり、躓きそうになりながらも必死で虎王丸の後に続いたが徐々に差が広がる。。
「トラっ、虎王丸、ちょっと―――」
先行していた虎王丸が不意に立ち止まって振り向いた。
後ろから折ってきた凪が追いついた所で虎王丸は振りかぶった手を凪の頬に打ちつけた。
不意打ちをくらった凪の目の前には星が光った。
「なにするんだ!」
「うるせぇ、自分1人じゃ何にもできないくせに注文ばっかりつけるんじゃねぇよ! ヤルかヤラれるか、殺したくないだとか傷つけたくないとか……お前のは甘っちょろい理想だけだ!」
そう叫んだ次の瞬間には言い過ぎたと思った虎王丸だが、一度口にした言葉はとり消す事が出来るはずもないし、全て間違った事だとは思ってはいない。
ただ、わかってはいるのだ。
その甘さが凪の悪い所でありいいところでもあるということを。
「凪……あの、な――」
沈黙と硬化した雰囲気の気まずさに何か言おうとした虎王丸の声を遮るように向こうから、
「おぉい、いたぞ! こっちだ!!」
と辺りに声が響いた。
どうやら、追いつかれてしまったらしい。
「しつこい奴らだな!」
「……任せておけ」
顔をしかめる虎王丸を腕で制して、凪は懐から霊扇を取り出し、舞いをはじめた。
追いついた盗賊達は、
「なんだ、コイツ。恐怖でとうとういかれちまったか?」
先ほどの乱闘でも虎王丸に庇われていたのは怯え竦んでいたためだと思い込んでいたこともあり雅やかな舞を続ける凪を哂う。
しかし、哂っていられたのは最初のうちだけで、凪が舞を終えた次の瞬間には自ら服を脱ぎ始めて先ほどの凪の舞とは逆に、下劣な踊りを踊りだした―――その場にいた凪以外の全員が。
「って、凪! 何でオレまで!!」
凪以外の全員――つまり、その中には当然虎王丸も含まれていた。
「さっきのお返しだ」
そういって凪は笑みを浮かべると、虎王丸をそのままにしてその場を去っていった。
「おい、凪! なーぎー!! テメェ、覚えていやがれっ!!」
森中に虎王丸の叫び声がこだました。
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なんとか宿に戻ると、腹立たしい事に凪はとっくの昔に床についたらしく寝息も正しく眠っていた。
翌日も凪は何食わぬ顔をしており、それがまた一層腹立たしく―――だが、プライドの高い凪が謝るはずもなく、意地っ張りの虎王丸とて少しはいい過ぎたと思ったもののそれを撤回するはずもないので暫くはお互いギクシャクした日々が続く事となった。
だが、何となく。
本当に何となくだが、その一件以降、凪の理想主義な甘ったれた部分が少しは改善されたような気がした。
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