<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【砂礫工房】 捻れの塔の大掃除 -2


------<オープニング>--------------------------------------

 先日、冥夜と共に捻れの塔を掃除したレピア・浮桜は掃除をした記憶が曖昧な事に首を傾げる。
 したような気もするし、していないような気もする。
 冥夜が喜んでくれていたのは嬉しかったが、その喜ばれるようなことをした記憶が曖昧でレピアは落ち着かなかったのだ。
 ちらちらと雪が舞うのを眺めていたレピアは、よし、と気合いをいれエルファリアへ手紙を一筆したためる。冥夜の元へ向かい掃除を終わらせたらきっとまた夜が明けてしまうだろう。初めから分かっているなら、先に言っておいたほうがいいに決まっている。
「これでいいわね」
 小さく呟いて、レピアは冥夜の住む砂漠の屋敷へと向かったのだった。

 エルザードの街にこっそりと開いている砂漠への道。
 そこは誰にも知られることなく存在している秘密の道だった。
 たまに迷い込む者と、その存在を知る者に教えられた者しか通る事のない道を通り抜け、レピアは再び砂漠に立っていた。
 ブルっ、と肩を震わせ、レピアは足早に目の前にある屋敷へと向かう。
 そしてドアベルをならすと、パタパタと走ってくる音が聞こえた。
「はい、少々お待ち下さいませ」
 カチリ、と音がし扉が開かれるとそこには金髪のウェーブヘアのメイドが立っていた。見開かれた瞳はレピアを見つめている。そしてそのメイドの頬がバラ色に染まった。
「れ、レピアさん?」
「チェリー、久しぶりね。元気だった?」
「はいっ! 元気ですよ。レピアさんもお元気そうですぅ」
 ニッコリと微笑むチェリーにレピアは軽くキスをして柔らかな笑みを浮かべた。恥ずかしそうにチェリーは頬に手をあてるが、ふと不思議そうに首を傾げる。
「あの……今日は? 冥夜はちょっとお出かけしてて……もう少しで帰ってくると思うんですけどぉ……」
「そうなの。それじゃ、待たせて貰っても良い? チェリーと久々に話したいし」
「はいですぅ。今お茶お持ちしますので、こちらで寛いでてください」
 チェリーはレピアと会えた事がよほど嬉しかったのか、慌ててお茶の用意をしに走る。途中で躓いて転びそうになるのをぐっと堪える姿は、それを見ていたレピアに笑いをもたらした。


------<ティータイム>--------------------------------------

「それじゃぁ、今日は塔のお掃除と宝探しに?」
「そうよ。この間の記憶が曖昧でね。気になっていたから」
「そうなんですかぁ。んー……私その時マスターと一緒にお買い物に出て行けなかったから……残念でした」
 はぅ、とチェリーは肩を落とした。そんなチェリーにレピアは笑って告げる。
「だったら今日は一緒に行きましょう? 時間はある?」
 レピアの提案にチェリーは顔を輝かせる。
「行きたいです。あ、でも……えっ、えっと……お姉さま達に聞いてきますぅ」
「待ってるわ」
 チェリーが外出許可を取りに行っている間に、たっだいまー、と帰宅した冥夜の声が聞こえた。レピアは笑みを浮かべ、通された応接室から顔を覗かせ手を振る。
「冥夜、お邪魔してたわ」
「わーい、レピアだー! ただいまー、そんでもっていらっしゃいー!」
 レピアが来てるならもっと早く帰ってくれば良かった、と冥夜は言いながらレピアに抱きついた。
「今日は遊びに来てくれたの?」
「えぇ。それとこの間の塔の事が気になって。ほら、あたしあの時の記憶が曖昧で。だから今日は宝探しも兼ねてまた行ってみたいと思ったのよ」
「うんうん、そっかー。宝探し楽しいよね。いいよ、行こう!」
 ぐいっ、と手を引く冥夜をレピアは、ちょっと待って、と引き留めた。小首を傾げる冥夜。
「どうしたの?」
「さっきチェリーがあたしを迎えてくれたのよ。それで一緒に行きましょうって誘ったんだけど……」
「あぁ、チェリーってばメイドのおねーさん達に許可取りに行ったの? 黙って抜け出すと恐いんだよ、おねーさん達。美人なのに怒ると悪鬼の形相……って、今の内緒ね」
 えへっ、と冥夜は笑ってレピアと腕を組む。
 そこへチェリーが笑顔で走ってきた。この表情だと外出許可は出たのだろう。
「取れたですぅ。一緒にお掃除してきなさいって」
「一緒に行けるんだ、良かったね☆」
「はいですぅ」
 レピアは両手に花と二人を抱きしめると捻れの塔へと向かったのだった。


------<捻れの塔>--------------------------------------

「レピア、その服で大丈夫? 汚れちゃうかも……」
「平気よ。それにこの間掃除もしたし、そこまで汚れないんじゃないかしら?」
「汚れたら、私がお洗濯するですよ」
 チェリーの頭を撫でてレピアが頷く。
 そして三人は捻れの塔の内部へと入った。
「レピアの言う通りこの間掃除したばっかりだから綺麗だね。レピアのおかげだよ」
「そこがちょっとね……」
 浮かない顔をするレピアに冥夜は笑顔で告げる。
「ちゃんとレピアが掃除してくれたんだよ。アタシが保証するから安心して」
「冥夜は嘘付かないから、きっとそうなんですよぉ」
 ぐっ、と拳を握ったチェリーも冥夜の言葉を後押しする。それにレピアは苦笑した。
「ふふっ。二人ともありがとう。それじゃ、今日は掃除しないといけない所を探しながら宝探ししましょう」
「そうだね。さてと、今日の塔はどんな仕掛けがあるのかなー?」
「ワクワクなのです」
「そうね。二人とも無茶しちゃ駄目よ」
「分かってるよー。レピアも気をつけてね」
 もちろん、とレピアは塔の中央に立ち、ぐるりと辺りを見渡した。
 螺旋階段状になっている塔の頭上から砂が落ちてきていた。あちこちに砂の溜まっている場所がある。
「ねぇ、この砂はこのままで良いの?」
「うーん、毎度来るたびにここの構造違うから難しいんだけど、ゴミじゃないから大丈夫だと思うよ」
「そう。それなら、あれは清掃対象に数えないで……。上に向かいましょう」
「うんっ」
「はいですぅ」
 三人は揃って階段を上り始める。すると上から大きなボールが転がって来るではないか。
「ちょっ…! いきなりー?」
「二人とも退いて」
 レピアは前に出るとそのボールを上へと蹴り返す。そのままボールは飛んでいき、続けて落ちてきていたボールにぶつかり破裂した。その間にレピアは二人を抱えて次の階へと向かう。
 上の階につくた三人が目にしたのは、チェスの目の様になったタイルだった。しかし所々穴が開いていてそこから下の階へと落ちる仕掛けになっているようだ。
「これは……チェスをしろ、という事ではないわよね」
「んー……チェスは交互の編み目だった様な気が……。これはちょっと違うですぅ」
「そうだね、どっちかっていうと謎解きかなぁ。……レピア、アレ!」
 冥夜が背後に石像を見つけ指を指す。レピアはそちらに視線を動かし笑った。
「あぁ、これは何時だったかしら。何処かで見た事があるわ。えぇっと……」
 確かこれをこうするの、とレピアは石像に近寄り腕の部分を下げた。すると目の前の床ががらりと変わる。
「冥夜、そこの白いタイルを歩いていってみて」
「白ー? 乗って大丈夫?」
「大丈夫」
 レピアの言葉を信じた冥夜は笑顔で頷くと、ぴょん、と白いタイルの上に乗った。
「おー、乗れた乗れた」
「そのまま白のタイルの一番先まで進んで。そう、それでいいわ。そこから動いちゃ駄目よ」
「うん。分かったー……って、えぇぇっ!?」
 冥夜が移動したのを確認するとレピアは再び石像の腕を動かす。すると冥夜の乗っていたタイルを残し、全てのタイルが入れ替わった。冥夜が振り返るとそこに白のタイルはなく、穴が拡がっている。そして目の前には白タイルの道。
「さっきみたいに白タイルの先まで進んじゃって」
「うん、凄いね、これ……」
「冥夜、ファイトですぅ」
 ブンブン、とレピアの隣で手を振るチェリー。それに手を振り替えしながら冥夜は進む。
「次行くわよ」
「オッケー!」
 冥夜とレピアはその動作を繰り返し、冥夜は見事反対側の石像まで辿り着いた。
「レピアー、次はどうするの?」
「勘だけど、その石像の左腕動く?」
 軽くその左腕を突いてみる。するとそれはグラグラと揺れた。
「うん、動くみたい。えっと、これを動かせばいいの?」
「えぇ、やってみて」
 冥夜は、ぐいっ、とその腕を引く。するとバタバタと音を立て、中央の床が形を変えていった。風が巻き上がり、チェリーはメイド服を押さえる。
「わわっ。なんか凄い風なのです」
「チェリー、ご覧なさいな」
 レピアがチェリーの舞い上がった髪を梳いてやりながら床を指した。そこには反対側にいる冥夜までまっすぐに道が出来ている。
「これ……」
「一人あちらに渡せば、こっちにいる全員が渡れるって訳よ」
「すごいですぅ……」
 ほぅ、と感嘆の溜息を吐いたチェリーの手を引き、レピアは冥夜までの道を歩く。そして辿り着くと冥夜がレピアへと抱きついた。
「すっごーい! なんか面白かった。ねぇねぇ、次早く行こう」
「今日はお宝見つけられるかしらね」
「ありそうですよ〜。だって、こんな大掛かりな仕掛けがあるんですからぁ」
「そうね」
 くすり、と笑いレピアは冥夜とチェリーの頬に軽くキスをする。するとお返しとばかりに、二人も伸び上がりレピアの頬にキスをした。
 そして目の前に続く螺旋階段を上る。
 カツカツ、と三人の足音だけが響く。しかしいつまで経っても次の階に辿り着かない。どこまで昇っていけばいいのだろう、と流石にレピアも不安になる。そしてその不安を増加させるかのようにその音に不可思議な音が混ざり始めた。
「ねぇ……ゼンマイ仕掛けの音が聞こえる……」
「凄く大きいですぅ……私の心音よりも大きい……」
 ぶるっ、と肩を震わせるチェリーの肩を抱き、安心させるようにレピアが言う。
「何かの仕掛けかもしれないけど、注意していけば平気よ」
「はいですぅ」
 三人はそのまま昇り続け、最上階へと辿り着いた。
 そして目の前に現れる大きな時計。見上げる程に大きいそれは、ただ静かに動き続けているだけだった。
「時計……のようね。危険はなさそうだけど……」
「この時計可笑しいよ。なんか時間多いもん」
「んー……普通のとずれてる時間……塔の時間を刻んでるのですか?」
「それ、結構近いのかもね。でもこの時計は害なさそうだから、お宝探ししようっ」
 そう言って冥夜がレピアの手を引く。そして目の前にあった扉に手をかけた。扉をくぐるが、中に入ったと思った瞬間、三人は隣の扉から出てきてしまった。
「あれ?……繋がってる?」
 冥夜は何度か試してみるが、同じ結果に終わり首を捻る。
「んー……私……時間がずれてるから、空間もずれてるんじゃないのかなぁと思ったですよ」
「多分、それ当たりね。この時計を止めないとこの部屋の空間ずれたままね」
「ぇー、そうなの? んじゃ、手っ取り早く壊しちゃうとか」
「駄目よ。ちゃんと順序よく止めないときっと止まらないわ」
 レピアは時計の前に立ち、美しい彫刻の施されているのを眺める。そしてそこに鍵穴のようなものを見つけた。
「ねぇ、これなんだと思う?」
「鍵穴……えっともしくは止めるスイッチ?」
「その両方かもしれないわ」
 どこかにあるはず、とレピアはその鍵を探し始める。冥夜とチェリーもレピアと一緒になって部屋の中を捜索し始めた。
「ないなー……レピアー、そっちはー?」
「ないわね……どこかに隙間に落ちてたりしないかしらね」
「こっちも駄目ですぅ……」
 三人の溜息が重なる。しかしレピアは石と石の隙間に挟まったその鍵らしきものを見つけた。狭い場所に入っているそれを爪で引き、なんとか引きずり出す事に成功する。
「あったわ。これであの時計を止めれば……」
 レピアが時計に近づくと、冥夜とチェリーも興味深そうにレピアの手元を眺めた。そしてレピアがゆっくりとその鍵を差し込む。
 すると、ボーン、と時計が一回鳴った。そしてゼンマイ仕掛けの音が消える。
「消えた!!!」
 冥夜が一目散に先ほどの扉に飛びつき開ける。するとそこは大きなクローゼットになっていた。色とりどりのドレスなどがかかっている。
「すっごーい! ねぇねぇ、レピア! 凄いよ!」
「本当……」
「あ、これレピアさんに似合うと思うです」
 はい、とチェリーがレピアに一着の踊り子の衣装を手渡す。それはレピアの着ている衣装にも似ていたが、白を基調としたデザインになっておりレピアの美しい青色の髪を引き立たせる。
「うん、それレピアに似合うと思うよー」
「本当?」
「うんっ! 見つけたものは貰っていって良いんだって。だからレピアそれ今度着てみせてよ」
「えぇ、喜んで。それじゃ、あたしにも二人に衣装を選ばせてくれる?」
「うんっ。でもあるかなぁ……アタシ達のサイズ」
「はい。こちらにあるですよー」
 奥の方でチェリーが手を振り叫んでいる。
 冥夜とレピアは顔を見合わせ微笑むとそちらへと向かったのだった。


------<お風呂でゆったり>--------------------------------------

 三人は冒険を終え、のんびりと風呂に入っていた。冥夜とチェリーはレピアの髪を洗い、身体を洗ってはしゃいでいる。
「あのね、レピアの髪がすっごい綺麗でねー。アタシのも青色だったらこんな風だったかなぁ」
「あら、あたしは冥夜の黒髪が良いと思うけど? チェリーもふわふわの髪で可愛いわ」
 チュッ、と軽くキスをしてレピアは二人に微笑みかける。
「やっぱ無い物ねだりなのかな」
「そうかもしれないわね」
 ふふっ、と笑うレピアの横で、あっ、と小さな声を上げるチェリー。
「忘れてました。お洗濯しないと!!」
 お先に失礼しますですー、とチェリーが風呂場を後にする。そして、そうだ、と冥夜も何かを思いついたのか浴室から出てレピアに告げる。
「レピアの服用意してくるね。先に上がるから」
「えぇ。ありがとう」
 レピアは暖まるまで入ってて、と言い残すと冥夜も扉の向こうへと消えた。

 冥夜はメイド服を一着借りてくると、それをレピアの着替えにと用意する。レピアも気にしている様だったが、前回のレピアの変貌ぶりはやはり、メイド服を着てからだったように思う。
 メイド服というアイテムが何かの洗脳のスイッチのようになっていて、それでメイド服を着るとレピアが変わってしまうのではないかと冥夜は思ったのだ。
 たくさんの国を旅してきたレピアが、どこでどのように暮らしてきたか冥夜は知らない。その中でたくさんの経験をしてきたであろうレピアの苦悩も知らない。
「レピアの……自分自身でも分からない秘密……」
 暴いてしまうのはどうなのだろう、と冥夜は悩む。しかし一つでも悩みが消えれば良いのではないかと思ったのだ。
「よしっ。冥夜ちゃん、実行に移せ!」
 ぐっ、と拳を握りレピアに告げる。
「あのね、衣装乾くまで着る服おいておくねー」
「えぇ、今上がるわ」
 レピアは豊かな胸を隠しもせず上がってくると、身体を拭き用意されたメイド服を着る。
 そしてレピアが顔を上げた瞬間口にしたのは、以前と同じものだった。
「ご主人様、なんなりとお申し付け下さい」
「ぁ……やっぱり………」
 冥夜の思った通りだった。メイド服を着るとレピアのスイッチが入れ替わるのだ。やはり洗脳なのだと思う。
「ねぇ、いつからメイドとして働きだしたの?」
 冥夜はレピアへと問いかける。するとレピアはすらすらと話し出した。
「はい。傾国の踊り子と呼ばれて間もない頃、感情を失った貴族令嬢を踊りで感動させられるか勝負し、そこで負けた時から貴族令嬢のメイドとなりました。ですから、ご主人様なんなりとお申し付け下さい」
 傅くレピアに冥夜は首を左右に振る。
「アタシはレピアの思うご主人様じゃないから。だから顔を上げて。ね?」
 ぎゅっ、と冥夜はレピアを抱きしめる。
「次、目が覚めた時はいつものレピアに戻ってね。メイド服はもう着せないから……さっき見つけた衣装を三人で着ようね」
「はい、ご主人様……」
 その声は途中で消えていく。
 レピアの身体は石へと変わり動かなくなった。
「わーっと、レピアさん?」
 戻ってきたチェリーが石になったレピアとポロポロと泣いている冥夜を見比べる。
「どうしたですか?」
「ううん、なんでもない」
 ゴミ入ったみたい、と冥夜は笑う。するとチェリーも安心したように笑みを浮かべた。
 冥夜は、レピアのメイドとなる洗脳だけでも解けないものか、と思案するのだった。



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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】


●1926/レピア・浮桜/女性/23歳/傾国の踊り子


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■□■ライター通信■□■
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こんにちは。 夕凪沙久夜です。
お待たせ致しました。
冥夜とチェリーと共に宝探しアリガトウございました。
500年近く経っても消えない洗脳。
うちの冥夜は随分と気になっているようです。
とりあえず衣装を発見出来たようです。気に入って頂ければ良いのですが。

ご依頼頂きありがとうございました。
またお会いできますことを祈って。