<PCクエストノベル(5人)>
聖なる日のお祭り 〜海人の村フェデラ〜
------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2081/ゼン /ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー 】
【2082/シキョウ /ヴァンサー候補生(正式に非ず) 】
【2083/ユンナ /ヴァンサーソサエティマスター 兼 歌姫 】
【2086/ジュダ /詳細不明 】
【助力探求者】
なし
------------------------------------------------------------
オーマ:「ようし、皆準備はいいか?」
シキョウ:「おー!」
ユンナ:「いつでもいいわよ」
ゼン:「だからなんで俺まで一緒にされるんだよ……こいつもいるし……」
ジュダ:「……」
巨大な荷を背負ったオーマ・シュヴァルツと、同じく下僕仲間として見られているゼン。そしてその二人の半分にも満たないながらやはり大きな荷を背負わされているジュダ。
それは、海人の村フェデラで行われる、聖都よりも一ヶ月以上前に行われる彼ら独自の暦による聖夜のお祭りで、子どもたちや訪れた人々へ幸福の贈り物を贈る年経た男の扮装をする者たちを募集していたアルバイトにオーマが飛び付き、人手が足らないため、何人でもと言われたオーマが、ゼンとジュダまでをも巻き込んで行くことになったのだった。
当然、ゼンは不服――どころか、オーマが今もにこにこと相手をしているのが信じられないようで、シキョウにだけ顔を向けてなるべくジュダの方は見ないようにしている。
許されれば、この場で刃物を生み出して飛び掛っていきたい所、だが、オーマやユンナの古い知り合いらしく、そしてシキョウが……これも腹立たしい一因なのだが、ジュダに非常に懐いているため、ゼンひとり孤立してしまううえに今後おやつ抜きとかユンナにこき使われる可能性が高すぎるために今回は歯噛みしつつも大人しくしているしかなかったのだ。
……バイトが失敗すれば、年末年始の小遣いも無いとオーマに厳重注意を受けている事でもあるし。
ゼン:「つうか、何であいつだけ荷物少ねぇんだよ」
ユンナ:「密度が大きいのよきっとね」
ゼンのぼやきに、すかさず口を挟んで、ゼンの目を見てにこりと笑うユンナ。
――それ以上何かいちゃもんを付けたら承知しない。
そう、ありありと目で語りながら言う彼女にたじろぎながら、ゼンはほんの少しだけしゅんとして、力なくシキョウの隣へと戻って行った。
オーマ:「こらこら、そこの年齢不詳なお姉さん。あんまり若いのを苛めるなよ。当日まで忙しいっつうのに」
ユンナ:「あら? 私は何にもしてないわよ?」
にっこりと、心底そう思っているような笑顔を浮かべたユンナに、オーマとジュダがこっそりとため息を付いていた。
*****
海岸に付くと、早速出迎えてくれた海人たちから薬を貰い、飲んで塗って海へと入って行く。
ユンナ:「……」
むん、と胸を張りつつ、波が押し寄せる海を見てはほんの少したじろぐユンナの隣にはいつの間にかジュダがいて、手を取る事も背中を押す事も無かったが、ユンナはそれで落ち着いたらしく海の中へと入って行った。
ふわふわゆらゆらと揺れる海人の村は、飾り付けの真っ最中。
明日一日中皆で浮かれ騒ぐために、今もせっせと村中を飾っている村人の中に、早速五人が混じっていったのは言うまでも無かった。
持参した飾りを手に、てきぱきと動くのはオーマとジュダの二人。そして、新参者の筈だがいつの間にか飾り付け部隊のリーダーとなり村中の総指揮を取りはじめたユンナは流石に見た目の美しさに拘るだけはあり、僅かに位置を変えるだけでぐっと見栄えの良くなる飾り方や、色と形の配置によって雰囲気が一変する飾り付けの魔法を見せてまわり、村中の信頼と尊敬を掌中のものとしていた。
そんな中でも、無言で動き回るジュダに、飾りを手に近づいていく女性たちを別の個所へぴしぴしと移動させる事も忘れないのは天晴れと言ってもいいだろう。
シキョウ:「きゃ〜〜〜〜っっ! これきれいだよね、きれいだよね〜〜〜〜っっ!!」
きらきらと輝く太くてふわふわしている紐をマフラーか天女のように肩と首にかけ、海のゆらめきを利用してふわんと海の中をはしゃぎまわるシキョウに、
ゼン:「ばっ、てめ、何持ってんだ! それ探し回ってたんだぞ!?」
小遣いアップのために! といつになく真剣に飾り付けを行っていたゼンが目を剥いて奪い取ろうとして、どこからか突き出て来た一本の足に見事に足を引っ掛けて海面まで飛び上がった。
ゼン:「ぶはぁっ! ちくしょう誰だこんな事しやがったのは! つうか誰だこんな日に聖夜を作った奴は! 俺をここまで引きずり出してきた奴はーーーーッッ!!」
ゆっくりと、日が夕方へ差し掛かっていく。
そんな海に顔をぽかりと出して悪態を付きまくるゼンを、海中からシキョウを除く三人が、生暖かい目で見守っていた。
*****
女たち:「さ、おつかれでしょ? 飲んで下さいな」
女たち:「こちらもどうぞ。フェデラの名産品ですのよ」
ほほほ、という高笑いさえ聞こえてきそうな一群が、ひとりの男の周りを取り囲んでいる。
日も落ちて、海中にいくつも灯りが灯る中での、夕食の時の出来事。
ユンナ:「……むうっ」
五人でテーブルを囲み、夕食を楽しんでいる時に、昼間ジュダへ目を付けていた女たちがわらわらとやって来ては飲み物や食べ物の差し入れをしに来ていたのだった。
……その食べ物は、きらきらきらきらと目を輝かせているシキョウの目の前へ次々と置かれていたのだったが。
そして、ほんのちょっぴり頬を膨らませながら、じろりとジュダの周りにいる女たちと水面下で火花を散らしながら、無言で食事を続けるユンナ。
ジュダ:「……」
それに対して、ジュダはいつものように無言で、シキョウたちへ貰った皿を回していた。
そして。
時間が経つにつれて、オーマが何か考え込むような仕草を見せながら何かぶつぶつと呟き始めた。近寄って聞いてみれば、こんな事を言っているのが分かるだろう。
オーマ:「バイト代が三人であのくらい、で……従業員用じゃなく五人分の宿と食事代……お、おおッ!? おかしい、おかしいぞ、どうして収支がマイナスに入って行くんだ?」
――それはきっと、バイトに関係無い二人を連れ、ユンナの求めに応じて中ランク以上の宿を気前良く取ってしまったからに他ならないのだが、このままでは赤字な上に家に帰ったら制裁決定、更にゼンに約束していたささやかな報酬さえ渡せなくなってしまう、と次第にがくがくぶるぶると震え始めたオーマ。
そんなオーマの耳がアンテナのように、ひとつの情報を捉えたのはごく自然な成り行きだったのかもしれない。
祭りのイベントのひとつにある、その名も『恋の掛け橋』と言うストレートな名前のそれは、海面から突き出た岩と岩の間に、海人独特の魔法によってかけられる水で出来た橋の名。
そこに、男女一組のペアが、男性が女性を抱き上げて橋を渡りきれば、そのペアは今年を締めくくるにふさわしい祝福された二人となり、賞金と商品が授与されるのだとか。
ただの水の橋――だが、それは想いの力が強ければ強いほど強固なものとなり、渡りきる事が出来るのだという。ただし、他所に意識が行ってしまえばそれだけで足元が崩れると言う非常に壊れやすい橋のため、どんなラブラブカップルでも毎年渡りきれたものは一組か二組がせいぜいと言う難関なのだった。
そして、その岩場の下は観覧席となっており、落ちてくるペアの見事なまでの落ちっぷりを見物し、それを皆で楽しむと言う事も行われていた。――実は裏審査として、この落ち方具合によっても表彰されるペアがいたりするのだが、そちらは投票制によって選ばれるため、こっち側も人気の高いイベントであった。
オーマ:「つうわけで、頼む!」
宿屋に取った部屋の中で、オーマがこれこれこういう事情で、と話をした後で、是非ペアとなってそのイベントに参加して欲しいと、四人に深々と頭を下げていた。
ゼン:「ってちょっと待てよ。俺がシキョウを抱き上げて渡れってのか!? そ、そんなの無理に決まってんだろ!?」
シキョウ:「わあ……」
ほんのりと上気した顔で、お姫様抱っこされている自分を想像しているらしいシキョウに目をやって、うっ、とそれ以上の拒絶の言葉が舌先から出て来なくなったゼン。
ユンナ:「……そう、ねえ……」
オーマ:「なんなら芸術的な落ち方でぶっちぎり指示を浴びてそっちの賞を取るつもりでも構わねえ。実際どれだけの稼ぎになるか今の所微妙なんだが、良くてとんとん……悪くて、地獄が待ってるんだ」
ユンナ:「オーマにはね」
ジュダ:「そうだな」
うんうんと頷くユンナとジュダ。その二人へ恨めしげな目を向けてから、
オーマ:「頼む。俺様が一人で出るわけにゃいかねえんだ」
至極尤もな言葉を吐いて、二組の男女をじいいっと懇願するように見詰めた。
*****
――そして、翌日。
結局説得された形で出場する事になった四人は、ゼンとジュダが赤地と白の服装に着替え、帽子と大きな白いヒゲを付けて、プレゼントの入った袋を背にユンナとシキョウそれぞれを脇に従えて、活気溢れた村の中を歩き回り始めた。
その他にも、海人や他のバイトらしい男性が同じような格好をして歩き回っているのが見える。
そして、オーマは、と言うと。
オーマ:「聖なる日に、夜に、同盟への契りを結んで見ないか? 今ならなんと俺様のサイン入りメンバー服が手に入る特典付き! ああ、こりゃどうも。はいはい、プレゼントね」
通常サイズよりも遥かに小さい獅子姿になり、そこにもこもこの服と白ヒゲを付けて陽気に踊りまわりながら、何時の間に連れてきていたのか、水中仕様の衣装を着けた人面草たちと一緒に、プレゼントと勧誘ビラを配りまわっていた。
ユンナ:「……呆れた。オーマ一人で何をあれだけ持ってるのかと思ったら、そう言うことだったのね」
ジュダ:「あいつらしい」
ジュダを見つけて途端に猛烈ラブラブ波動を発しつつざわざわとにじり寄って来る人面草はユンナがひょいひょいとオーマの元へ投げ返して、
ユンナ:「駄目よ、お仕事の邪魔をしちゃ。ね?」
何者をも従わせてしまう蕩けそうな笑みで悩殺した隙に、ジュダを連れてさっさと別の場所へと移動してしまう。
ゼン:「だからっ! 仕事が終わったら買うっつってんだろうがあああっ!」
シキョウ:「だっておなかすいたの〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
指を咥えて、祭りの中そこここで開いている露店に並べられている食べ物をじぃぃぃと見詰めるシキョウ。それを無理やり引きずって行こうとするゼン。
男:「兄ちゃん、そりゃあまりにかわいそうなんじゃないのか? ほら、おじさんが買ってあげような」
シキョウ:「ほんとっ!?」
ゼンを軽く睨んで、シキョウへにこにこと笑顔を見せた男――の目の前に、ゼンがすっと立ち塞がって、
ゼン:「気持ちはありがたいが、構わねぇでくれ。……こいつ、これでも朝飯は俺の分まで平らげておいて言ってるんだ。俺の分まで奢ってくれるってんなら、別だけどよ」
シキョウ:「だって、いつもならオーマがおかわりさせてくれるのに〜〜」
ゼン:「そう言うことだ。悪いな。別に無理やり食わせてねえってわけじゃねえんだから」
ほら行くぞ、とゼンにもう一度言われて、今度は渋々ながらその場を立ち去るシキョウ。
最初は苛めているのでは、と思っていた男も、そんな二人の様子にこういう仲なのか、と納得したらしく、後を追う事も無く別の場所へと移動していった。
*****
祭りが佳境に差し掛かった頃、とうとうオーマが心待ちにしていたイベントが開始された。
やはり相当難しいらしく、足を何歩か踏み出しただけでも上等、あっさり一歩目から落ちる者が続出で、下から笑ってみている分にはいいが、落ちたペアはそれぞれ複雑な笑みを見せながら、後ろに回って責任の擦り付け合いをしたりとほんの少し殺伐としていた。
オーマ:「あいつらは、まだか」
相変わらずミニ獅子の格好で跳ね回ったり、子どもを乗せて村一周などと言う事をしてすっかり大人気になったオーマ……もとい獅子が海面を見上げる。
落ちるなよ、と強く願いながら。
上では、ユンナとジュダがシキョウたちよりも先に進む事になっており、ジュダが海中を見下ろした後で、隣で言葉少なになったユンナに目をやった。
ジュダ:「大丈夫か」
ユンナ:「……平気よ」
今回は海中で呼吸が出来るとは言え、海が怖いと言う感情を捨てきる事は出来るわけもなく、小さくそう答えたユンナが、こくっと頷いてジュダに身を委ねた時には、ユンナはぎゅっと目を閉じてジュダの腕の中で身体を硬くしていた。
おお〜〜。
海中から、どよめきが聞こえてくる。
危なげなく水橋を渡っていくジュダが、この日初めて橋半分を超したからだ。
そのまま行くか……と、思われたのだが。
ユンナ:「あ……ああああああっっ!?」
非常にキレイなソプラノボイスの悲鳴と共に、ゆらりと揺れたジュダが、ユンナをその体の中にぎゅっと抱きかかえたまま、ひとかたまりとなって海中へ波飛沫もほとんど上げずに飛び込んで来た。
オーマ:「……あ〜あ。あいつは全く」
苦笑いをしながら、落ちてくる様子を見ていたオーマが小さく呟く。
それがわざとだと知る者は、何人いただろう。
ジュダなら渡りきる事は可能だっただろうに、落ちる寸前でユンナへ何か囁きかけ、そこで橋を解体したジュダは、恐らく……残る二人に花を持たせたいというのがひとつ、もう一つは、ユンナと自分との心の絆を他者に悟られないようにするためだろう。
だが――それが墓穴を掘った事に、ジュダは気付いたのだろうか?
オーマ:「これで確信だな。ったく一言俺様に言ってくれればエルザードと言わず世界中に二人の事を触れ回ってやったものを」
だから言わなかったんだというジュダの突っ込みが聞こえて来そうなオーマの呟きは、それでもどこか嬉しそうな響きを伴っていた。
シキョウ:「……ゼン、ゼンってば」
ゼン:「っ。な、なんだよ」
シキョウ:「シキョウたちのばんだってー」
岩の上に登ってきてから、半ば上の空だったゼンが、シキョウのこの言葉ではっと我に返る。
ゼン:「分かった。ほらシキョウ、持ち上げるぞ」
シキョウ:「はーいッ!」
にこにこと嬉しそうに、ゼンにされるままになって抱き上げられたシキョウが、本当に嬉しそうに微笑みながらゼンを見上げ、じっと身体を硬くする。
ゼン:「ったくよう。こうなりゃ、根性で行ってやらぁ!」
自分たちの前にいた二人はあっさりと落ちた。そうなれば、優勝しないと只働きで終わってしまう。
そう考えたゼンが、シキョウをじっと見て、
ゼン:「よし、行くぞ」
そう言って彼女の重みと暖かさを腕の中に感じながら、ゼンは一歩を踏み出した。
*****
オーマ:「いやあ、ご苦労さんご苦労さん」
帰り道。満面の笑みで、オーマが四人に告げる。
オーマ:「土産に海産物もいっぱい貰ったし、ジュダも少し持って帰れよ。つうか、おまえ年明けとか、春になるまで来ねえか? いくらなんでも外は寒ぃだろ」
ジュダ:「……心配には及ばん。なんとかなっている」
オーマ:「おまえさんの場合、かなりぎりぎりでも『なんとか』なんだろうからなぁ」
それ以上は言わず、オーマは苦笑いを浮かべるだけに留めた。
バイト代が思っていたよりも出たと言う事と、今回出場した中での最年少ペアの二人、シキョウとゼンが水橋を渡りきった事、そして今も話に出たように、オーマたちの働きや、個人的にジュダへと土産が大量に手に入ったため、想像以上の黒字具合にオーマはほくほくなのだった。これなら宿泊代を差っぴいても痛手にはならず、これから待っている本格的な聖夜のパーティの準備も余裕で整える事が出来る。
計算違いで、あやうく色々な意味で年を越せないところだったのが一転して、懐が潤った事で気が大きくなっているようだった。
ゼン:「まさか本当に渡れるとは思ってなかったからなぁ。走ったのが良かったのか?」
オーマ:「わはは。確かにな、おまえさんくらいだよ。あんな不安定な場所を走っちまえと思うのは」
シキョウ:「あっというまだったから、なんだかちょっとつまんない」
ゼン:「いいじゃねえかよ。てめぇだって楽しんでたくせに」
きゃあきゃあ楽しそうな声は海中にも聞こえており、若いペアと言う事もあって、皆が二人が渡りきるのを大歓声と共に祝っていた事を思い出して、オーマが笑い――そして、先程からずっと黙ったままのユンナに目を向けた。
ユンナ:「……」
ぽうっと、どこか遠くを見たままでいるユンナに、オーマが目の前でひらひらと手を振る。
ユンナ:「……え? どうしたのオーマ、妙な顔しちゃって」
その動きで我に返ったユンナが、ぱちぱちと目を瞬かせた。
オーマ:「いや、何でもないならいいんだ。さっさと帰るか」
オーマの言葉に、
シキョウ:「かえったらおさかなのひものやいてたべようね〜〜っ」
にこにことオーマの荷物を眺めてシキョウが笑顔を浮かべる。
オーマ:「おう、そうだな。それに晩飯にも使うか、この辺」
シキョウ:「やったーーーーーー!」
嬉しそうに駆け回るシキョウ。そんな彼女をどことなく柔らかな表情で見るジュダ。
……昨夜、皆が寝静まった時に、毛布を蹴飛ばしていたシキョウの布団を整えてやり、誰も見ていないのを確認しつつ、その額へそっと口付けを落とした事――それは、誰にも言えないジュダのささやかな秘密。
それが今回の何よりの贈り物だと、オーマの病院で行われるパーティに出席するなどとても考えられないジュダが内心で呟く。知ってか知らずか、今回の企画を立てたオーマにも、気付かれないように感謝の意を送りつつ。
そんなジュダを、我に返ったユンナがそっと見守っていた。
――この祭りの中で、彼が何を手に入れたのかは知らない。が、来る前と今とでは雰囲気が微かに変わっている。
それで、だろうか。
あの、わざと水橋を壊して海中へ落ちる前に、ジュダがユンナへ囁いたのは。
ジュダ:『目を閉じて、掴まっていろ。――大丈夫だ、俺が護るから』
今回限りの言葉なのか、それとも……と、あまり期待する事はよそうと思いながらも、思いがけない贈り物を貰った気分のユンナは、意識して嬉しさ一杯の表情を表に出すまいと、ほんの少し力を込めていた。
-END-
|
|