<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
手を繋いで
聖都エルザード。
初めて訪れる地をイクスはぐるっと見回した。様々な露店が並び、人々の楽しげな声が聞こえてくる。
さて、まずは―――
「宿を探しに行かねえとな」
「お店を見てまわろうよ」
自分の声にもう一つ声が重なる。視線を斜め下に向けると無邪気に微笑む小さな少年。
イクスは視線を正面に戻し、何事もなかったかのように続けた。
「これだけ広いと宿探すのも大変そうだよな」
「ねえ、イクス。あれっ!あれ何かな?」
「は?わ・・・っこら!引っ張るなっ」
羽のはえた少年―ルルフェに引かれ、一つの露店の前に立つ。その店には手作りのおもちゃがいくつも置かれていた。
一つ一つ手に取ってはしゃぐルルフェをうんざりと見つめるイクス。
――って、何素直に付き合ってんだよ、俺
「俺、行くからな」
「あ。待ってよ〜、イクス」
踵を返したイクスをルルフェの間延びした声が追いかける。
彼は色々な物に興味を引かれるようで、「あ!あれ面白そ〜」「綺麗な石があるよ〜」「人!人が火吹いてる〜」と途切れることなく騒ぎ続けた。
うるさい。
いい加減うざったくなってきて振り返る。するとそこにルルフェの姿はなかった。
「は・・・?」
慌てて周囲を見回す。
――あいつ・・・・・・あんな所に・・・っ
ルルフェは「チェリーパイ」と看板に書かれた店の前に居た。
「ねえ、これおいしそうじゃない?ボク、お腹空いちゃってさ〜」
「・・・そーかよ」
「一緒に食べようよ」
「勝手に一人で食ってろ。俺は行くぜ」
すたすたと歩き出す。
「あ、イクス、待ってってば〜。一人で行っちゃうなんて酷いよぉ」
まったく、いつもいつも。
鬱陶しい。
イクスは歩調を速めた。
「イクスってばあ」
「だぁっ!このチビっ!俺に付いてくんじゃねぇーっ!!」
「あははっ」
何がおかしいのかルルフェは声をあげて笑う。
イクスティナ・エジェンとルュ・ルフェ・メグ・メール。
二人はだいたいいつもこんな感じだ。
イクスがどんなに突き放そうとしても、ルルフェはしつこく付き纏ってくる。
まったく自分なんかといて何が楽しいんだか。
一人だったのが急に賑やかになって、最初は本気で鬱陶しかった。でも最近はすっかり日常茶飯事になってしまっていて・・・・・・
「色んな髪の人がいるけど、イクスの髪が一番綺麗だよね〜」
「・・・褒めても何も出ねえぞ」
「イクスって照れ屋さん?」
「照れてねえっ!」
だんだんと隣にルルフェがいるのが当たり前になっていた。
最後に一人になったのがいつだったのか思い出せないくらいに。
「にしても凄い人だな・・・・・・」
この通りはいつもこんな感じなのだろうか。人の間を縫って歩くのがやっとだ。通行人の会話に聞き耳を立てると、どうやらこの先で何かのイベントをやっているようだった。
「おい、ルルフェ。おまえ―――」
振り向いてみて、気付いた。
ルルフェがいない。
先程のように露店で足を止めているのかと思ったが、どこにも見つけられなかった。
――おいおい、冗談だろ?
イクスは舌打ちし、元来た道を戻り始めた。
いない。
いない。
ここにもいない。
めちゃくちゃに走りまわりながら、イクスは確実に焦りを感じ始めていた。
――何で俺はこんなに必死になってあいつを探してるんだ・・・・・・?
元々一人だった。
突然現れた彼が勝手に付き纏ってきているだけで。
正直、鬱陶しくて。
なのに何故、彼がそばにいないことがこんなに不安で堪らないのだろう。
『イクス〜』
彼が名を呼ぶ。
鬱陶しかっただけのそれに、何となく心地よさを感じ始めたのはいつのことだったか。
それはもうすっかり日常茶飯事で。
だんだんと隣にルルフェがいることが当たり前になっていて。
今では多分―――
「おまえ・・・・・・何してんの?」
「あ。イクス」
ルルフェは通りの入り口、一番端にある露店の前にいた。息を切らしているイクスに対し、ケロリとしているルルフェに頭に血が上る。
自分はこんなに必死になって探していたというのに。
「”あ。イクス”じゃねえっ!俺がどれだけ心配したと―――」
言ってしまってから口をつぐんだ。ルルフェが嬉しそうに微笑んだのだ。
「心配してくれたんだ〜?」
「う・・・・・・」
ルルフェから視線を外し、泳がせる。
「ボクのこと探してくれたんだね」
「おまえは遊んでたみたいだけどな」
「違うよ〜。酷いなあ」
ルルフェは唇を尖らせた。
「無闇に動きまわるよりはどこかでじっとしてた方がいいかなあって。ボク、イクスならちゃんと探してくれるって思ってたもん」
「・・・」
「で、さ」
黙りこむイクスにルルフェが手を差し出してきた。彼の手には赤い石が埋め込まれたブレスレット。
「・・・何だ、これ」
「イクスの髪の色と同じ色だったから、似合うと思ったんだ〜」
「俺に?」
「うん」
ルルフェからブレスレットを受け取り、じっと見つめる。
自分の髪はこんなに綺麗な赤紫色をしていただろうか。
ルルフェには・・・・・・そう見えているのかもしれない。
「・・・こんなの貰っても、しねーからな」
「いいよ〜。持ってくれてさえいればさ」
「変な奴」
「へへっ」
本当に嬉しそうに笑うから・・・いつしかイクスの頬も自然に緩んでいた。
まったく、自分なんかといて何が嬉しいんだか。
――俺も・・・何でこんなに嬉しいんだろうな
ルルフェに右手を差し出す。
「ふえ?なあに?」
「手」
「へ?」
「・・・繋いでたら、はぐれないんじゃねーの?」
照れ臭さで逃げ出したくなるのを何とか抑え、そっぽを向きながら言った。
ルルフェはしばらくぽかんとしていたようだったが―――
「うんっ!」
満面の笑みで頷くと、イクスの手に自分の小さな手を重ねた。
「で?おまえはいつまで俺に着いてくるつもりなんだ?」
「イクスがボクを嫌いになるまでかなあ?」
「もう嫌いだっつったらどーすんだよ」
「それは大丈夫だよ〜」
「何で?」
「だってイクス、実は結構ボクのこと好きでしょ?」
「な・・・っ」
「ほーら、照れてる〜」
「うるせえっ!」
そばにいるのが当たり前過ぎて
今では多分、彼がいないと駄目になっている。
・・・・・・素直に、認めたくはないけれど。
fin
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初めまして、ライターのひろちという者です。
この度は発注ありがとうございました!
納品が遅れてしまい申し訳ありませんでした・・・。
実はシチュエーションノベルのツインを書かせて頂くのは初めてのことでして、何だか新鮮な感じでした。
イクス視点で二人の日常をほのぼのーっと書かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
個人的には書いていてこの二人の関係ってとっても素敵だなあと思いました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
また機会がありましたらその時はよろしくお願いしますね。
ではでは、ありがとうございました!
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