<クリスマス・聖なる夜の物語2005>


サンタクロースの贈り物〜大切な色のプレゼント〜

【オープニング】

「Oh。今年もワタシたちがイチバン忙しい時期がやってきたネ!」
 怪しい言葉づかいでるんるんと机に向かうは、赤く暖かそうな服装、赤い帽子――白いひげ。
 サンタクロース……であるらしい。
「そうだネ☆ ボクたちもガンバらなくっちゃ、ダネ!」
 おじいさんサンタの傍らに、小さな子供。こちらも赤い服装に、白いつけひげ。
 見習い孫サンタである。
「ホラ、これをごらんお前。これが今年ワタシたちをお待ちのお客様リストだヨ」
 おじいさんサンタは、束になった紙を孫サンタに見せた。孫サンタは嬉々としてそれをめくっていく。
「いっぱいだネ☆」
「そうとも。今年も忙しくなるネ」
 そしておじいさんサンタは、優しい目をしてそっと孫に言った。
「いいかいお前。ワタシたちが届けるのは――ただの贈り物じゃナイ。心を、届けなくちゃダメだってことを、忘れるんじゃナイぞ?」
 孫サンタは元気な顔で、「ハイっ☆」と大きくうなずいた。

【大切な色のプレゼント】

 クリスマスソングが街に鳴り響く。
 今年もこの日がやってきた。
「さぁ〜て! 今年も下僕主夫ケーキ売りアルバイトの日がやってきたぜ!」
 背中に族よろしくな「下僕主夫上等筋★」の刺繍入り、サンタ姿の大男。
 今日も今日とて親父愛(サンタクロースバージョン)のオーマ・シュヴァルツである。
 街頭でケーキ売りのアルバイトをしている大きなサンタは、
「毎日家計は火の車、かあちゃんは大鎌構えて俺を待つ〜♪ さあさお客さん、よってらっしゃい見てらっしゃい、親父愛たっぷりのクリスマスケーキだー!」
 ――当然ながら、近寄ってくる客はいない。
「むうっ。おかしいぞ、今日は親父愛パワーが足りないのか……?」
 オーマは真剣に考え込んでいた。
 と、そこへ――
 目の前を、何かが通りすぎようとした。
 反射的にオーマはそれをはっしとつかまえた。目の前をちらつかれると、何となくつかまえてしまう。ヒトのサガである。
「いたいよっ。放してよっ」
 子供の声がした。
 そして、
「Oh、No――お前さま、どうか孫の服を放してやってくれませんカ」
「ん?」
 ……オーマが捕まえていたのは、六、七歳ほどの小さな子供の赤い服。
 そして意味不明な言語を使いながら頼んできたのは、白ヒゲのじいさんだった。――赤い服、赤い帽子。肩にかついでいるのは大きな白い袋。あからさまに『サンタクロース』な。
 見れば子供のほうも同じ赤い服装で、白いヒゲがあった。つけヒゲだろう。
「おお……っお前ら!」
 オーマは感激して、彼らに抱きついた。「これぞ聖筋夜君のラブボディはギガマッチョ☆運命遭遇! お前らも下僕主夫バイトだな……!」
 がっしりと二人をその太い腕で抱きしめて、号泣する。
 親近感センサーがビビビと反応し、メーター急上昇。
「むぐ……な、何か勘違……むがむごっ」
「くるし……よう……へるぷみー」
「そうかそうか、下僕主夫仲間同士、仲良くしたいか」
 オーマは勝手にうんうんとうなずき、さらにぎゅうと二人を抱きしめた。二人の顔が白を通り越してどす黒く変わっていっているが、気づかない。
「仲間同士、手伝ってくれるつもりで俺のところに現れてくれたってわけだな……!」
 さらに勝手に決めつけて、オーマはようやく解放した二人に「ほれ、ノルマノルマ」とケーキの山を分けようとした。
 しかし、二人の大小サンタクロースはげほげほと咳き込んでいて話にならない。
「む? 風邪かお前ら。この時期は厄介だからなあ。気をつけたほうがいいぞ?」
「お……お気遣い無用……ども、アリガト」
 じいさんサンタはそれでも、笑顔でオーマに礼を言った。立派な根性であった。
「お、おじさんはー、ケーキ配ってるんだね☆ お手伝い、すればいいのかなっ? おじいちゃん!」
 孫サンタも復活。早速ケーキに興味をしめす。
 人の役に立つこと。それはサンタクロースの命題。
「うむ。お客様へのプレゼント配達にはまだ時間OK、ソウ……ここは手伝うのがベスツッ」
「わーい、配達配達☆」
「待て待て、配達じゃなくて売るんだからな?」
 オーマは慌てておかしな大小サンタクロースに説明する。
「ケーキ、売る? OK、分かったネ」
 そして三人のおかしなケーキ売りが始まった。
 オーマひとりでいるよりも、ずっと客が集まった。孫サンタの愛らしさの勝利である。
「助かったぜ、サンタさんよ」
 バイト最中で彼らがようやく本物のサンタと知ったオーマは、二人に礼を言った。
 じいさんサンタは「当然のことネ」とにこにことしながら、
「そう言えば、オーマさんにもプレゼントがあったネ。ここでギブユー」
「待て待て待て」
 サンタが『贈る』だけってのは腹黒ナンセンスってもんだ。オーマはそう言って、サンタクロースが何かを取り出そうとするのを制した。
「俺からも、お前らにプレゼントしてやるぜ」
 ぱっとどこかへと姿を消し……そしてぱっとすぐに戻ってくる。
 手にしていたのはサンタへの贈り物。
 こうして、親父激ヤバ桃色どりーむプレゼント交換会が始まった。
 オーマはまずじいさんサンタへ、「下僕主夫同士、絆の証に」と自分と同じ――『下僕主夫上等筋★』と刺繍されたサンタ衣装をプレゼントした。
 孫サンタへは、おピンクラメラメ入り人面草ソリ(スマイリーアニキペイント付き)。
 どちらもオーマとしては満足な出来の贈り物だ。うんうんうなずいていると、「Oh!」とじいさんサンタが声をあげた。
「グレイトな衣装ネ! これでワタシも正式にあなたの仲間ネ!」
「そうともそうとも」
「わーい☆ 僕、おじいちゃん以外にプレゼントもらったの初めてー☆」
「うんうん」
 人面草ソリに乗ってはしゃぐ孫サンタが、とてもいとおしい。自分の娘もああやって喜んでくれるといいのだが、とふと思い、オーマはしんみりとした。
 あまり感情を表に出さない娘……
 しかし気を取り直し、「そのソリはな」と取り扱い説明を始める。
「人面草の『ラブボディゲッチュし隊パワー』充満につき、贈り物を見せるだけで目的地までたどりつけるっつーオプションつきだ。プレゼント配りに役立ててくれよ」
「ほんと!? すごいね☆」
 孫サンタが純粋に喜び、じいさんサンタが「助かるネ、さすが同志」と白ヒゲをなでた。
「んで、最後にだ――」
 オーマは懐から、大切に大切に持ってきたものを取り出す。
「――俺の故郷、ゼノビアに咲く花だ。人の想いを映し見て、贈った者と永久の絆で結ばれると言われてんだ」
 偏光に輝く希少なルベリアの花……
 その不可思議な美しさに、二人のサンタが我を忘れて見とれている。見たことのない花だったに違いない。
「実は俺も、かあちゃんからプロポーズされたときにこれ贈られたっつー、ナイショの話つきだぜ」
 そしてそれこそが、この花の効果を証明すると言っていい。
 贈った者と贈られた者と、永久の絆が結ばれる。そして、結ばれた絆の証となる……
「ワンダフル! 素晴らしい花ネ……」
 じいさんサンタは、孫にそれを受け取るようにうながした。
 孫サンタが壊れ物を扱うかのような手つきで、おそるおそる受け取る。
「美しい……」
 じいさんサンタが、愛でるようにそっと花びらをなでる。
 孫サンタが瞳をきらきらさせながら手の中の花を見つめる。
「あとついでになあじいさん」
 オーマは頭に手をやりながら、にかっと笑ってぱっと書類を取り出した。
「ついでに俺らの本当の仲間として、加盟サインしてくれんかね?」
 ――腹黒同盟、加盟証明書。
「OKOK。それでアナタが喜ぶなら、ワタシも本望ネ」
 じいさんサンタは快諾し、さらさらと書類にサインをする。
 ――『サンタクロース』。
 僕も、僕も☆ と孫サンタが花を手にしたまま騒ぐので、祖父は花をいったん受け取ってからペンを孫に渡した。
 ――『まごさんたくろーす』
「うし。子供よ、おっきくなったらいい下僕主夫になれよ?」
 孫サンタの頭をわしわし撫でてやりながら、オーマは豪快に笑った。
「うん☆ 僕リッパなゲボクシュフになるよ☆」
 少年は、素直にこくりとうなずいた。
 おそらく言葉の意味などさっぱり分かっていなかっただろうが。
「それでは、今度はこちらからの贈り物ネ」
 じいさんサンタは、孫サンタに「出しなさい」と穏やかな声で言う。
 孫サンタはじいさんサンタの荷物の奥から、よいしょよいしょと何かを取り出した。
 それは、三つの箱だった。
 赤と緑のクリスマス色包装紙に、金色のリボンで綺麗にラッピングされた箱が、大・中・小と。
 大でもオーマのてのひらに乗るサイズだ。「それがお前さま用ネ」とじいさんサンタが言った。
「あけてもいいのか?」
 オーマは好奇心にかられて尋ねる。うなずきが返ってくるのをたしかめてから、いそいそとリボンをとき、包装紙を開いた。家計火の車下僕主夫の本能で、包装紙を破くなどもったいなくてできない。
 中には、まるで指環を入れるかのような青い箱。
 ――開くと、入っていたのは指輪ではなく……腕輪だった。
 金細工に、赤い宝石をいくつかあしらった――とても美しい腕輪。ちょうど、オーマの手首にはめられそうなサイズの。
「………」
 オーマはがらにもなく、その美しさに見とれた。
 いや――その赤と金の色合いに見とれた、と言ったほうが正しいかもしれない。
「それが、お前さま用のブレスレッド、ネ」
 じいさんサンタがにっこりと笑う。
「それでねっ、こっちのふたつは、“さいずちがい”のおそろい、なの☆」
 中・小を両手に持って飛び跳ねながら、孫サンタが楽しそうに笑った。
「おそろい、おそろい☆」
 ――誰とのお揃いなのか、訊くまでもない。
「赤と……金か。俺ら一家にゃぴったりだ……」
 妻と、娘と……自分。三人を表現するのに必要不可欠な、強く、鮮やかで、美しい色。
 それが、赤と金。
「きっと似合うネ。家族でつけてほしいヨ」
 じいさんサンタが静かに微笑む。
 ああ、とオーマは強くうなずいた。
「うちの娘の気性があるから、ひょっとするとたった一日で終わっちまうかもしんねえけど……でも絶対に、三人でつけるぜ」
「それがいい。この花ほどじゃないかもしれないが……絆の証になるヨ」
「そうだな」
 一家でお揃いの腕輪をつけているところを想像して、オーマは少しだけ照れた。
 そんなオーマが握っていた腕輪に……ちらりと、白いわたのような光が降り立つ。
「……お?」
 三人は空を見上げた。

 ちらちら、降りてくるのは白い天使たち。
 ホワイトクリスマスだ――

「どーりで冷えると思ったぜ」
 オーマは笑った。
 腕輪は、雪に飾られていっそう美しく輝いた。
「よっしゃ!」
 がしっとじいさんと孫、ふたりのサンタの肩をつかみ、「ケーキのノルマももう少し――その後、お前らの配達も終わったら、うちに来いや。クリスマスパーティの用意してくれてんだ、怖くて美人な奥さんとかわいいかわいい俺の娘が」
「パーティ☆」
 行きたいよう、と孫サンタが瞳を輝かす。
 ――こいつの瞳のほうが、雪よりよっぽど綺麗にクリスマスを飾るかもしれねえな。
 そんなことを考えながら――
「さーあ! よってらっしゃい見てらっしゃいっ! 本物のサンタクロースが売る本物のクリスマスケーキがここにあるぜ――」

 オーマの手の中で、金の腕輪がきらりと光る。
 はめるのは、家族揃ってからにしよう。その瞬間を思って心をおどらせながら、オーマはケーキ売りの声を張り上げた。

 今日はホワイトクリスマス。白は神聖。純粋無垢な色。
 けれど本当に大切な色は、あなたの心の中だけに――


【END】


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(腹黒副業あり)】

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■         ライター通信          ■
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オーマ・シュヴァルツ様
いつもありがとうございます、ライターの笠城夢斗です。
今回も、クリスマス企画にご参加くださりとても嬉しく思いますv
よもやオーマさんからプレゼントを頂けるとは……! 爺も孫も本当に喜んでおります。ありがとうございました。
こちらからのプレゼントも喜んで頂けるといいのですが……
毎回、楽しく書かせて頂けてとても嬉しいです。
またお会いできる日を願って……