<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
森を枯らす虫
【オープニング】
その不思議な光にまっさきに気づいたのは、踊り子エスメラルダだった。
その光の球は黒山羊亭の窓から入ってきて、蛍のようにふわふわと宙をただよっていた。
「何かしら……」
エスメラルダは光に向かって手を伸ばした。
とたん、ぽんっと光は弾け、中から一枚の折りたたまれた紙片が現れた。
「……新手の手紙配達方法?」
踊り子はつぶやき、紙片を丁寧に開く。
『エルザード城下の皆さんへ
僕は『精霊の森』のクルス・クロスエアと言います。
今、僕の森の隅で木を枯らそうとしている魔物がいます。
どうか退治して頂けないでしょうか。
お金はないので物になりますが、報酬も差し上げます』
そんな文面とともに、ご丁寧にその虫がいるらしき場所と、虫の似せ絵まで添えてあった。
大人ひとり分サイズのカミキリムシの胴体に、クワガタの凶暴な角をはやしたような容貌。木に取り付き、その角で木を削り取っているようだ。
動きは素早いとのこと。
それが、三体。
「角ではさまれたらひとたまりもなさそうね……」
エスメラルダはつぶやき、「でも、森を枯らす……放っておくわけにもいかないわね」
そうして、エスメラルダはいつものごとく店内を見渡した――
【集うつわものたち】
「よっ。エスメラルダ。どうしたよ?」
まっさきに踊り子のきょろきょろとした視線に気づいたのは、常連のオーマ・シュヴァルツだった。
今日も元気に筋肉もりもり、相変わらずの酒豪っぷり。
機嫌がよさそうな彼に、エスメラルダは依頼の紙片を見せる。
「おんや。こりゃクルスからの依頼か」
「知ってるの?」
「知らねえ仲でもないな。こりゃ放っておけねえ。おうおう、聖筋界未知とのナマモノラブナイトメアバトル筋大会★in精霊の森アニキってかね?」
「じゃあ依頼を受けてくれるのね」
オーマの言動には慣れているエスメラルダは、「でもひとりってわけにもいかないわね……」とつぶやいた。
と、
「あの……」
いつの間にか踊り子とオーマの傍らに、ひとりの少女が立っていた。
長い黒髪に、赤い瞳。それだけならばたいそうかわいい十七歳ほどの少女だが、体中に包帯を巻いている。どうやら呪符を織りこんだ包帯のようで、少女の体からは一種異様な雰囲気がかもしだされていた。
「……あの、今……精霊の森って、聞こえた……」
少女は言葉を選ぶようにたどたどしく、「それって……クルスと精霊がいる……森のこと……?」
「おう。お前さんもヤツを知ってるのか?」
オーマはクルスからの手紙を少女に見せた。
「……クルスからの、依頼……? 分かった……私も、手伝う」
あまり表情の出ない顔で、こくりとうなずく。
少女は千獣(せんじゅ)と名乗った。
「これで二人目。あとは……」
「何か依頼でもあるのか?」
近くの席に座っていた少女が、ふと口を開いてエスメラルダたちを見た。
長い美しい銀髪に、青い瞳をした――ある意味千獣と好対照の容貌。たまに黒山羊亭に現れる、アレスディア・ヴォルフリートである。
「ええ、こんな依頼が」
エスメラルダの見せた紙片に、アレスディアは生真面目そうに眉をしかめた。
「クルス殿のことは存じ上げぬが……森を荒らす魔物がいると聞いては、放っておけぬ。微力ながら、協力させていただこう」
「ふふっ、心強いわね」
エスメラルダは少女の真面目な顔に微笑んだ。
「さて、あとひとりぐらいいてもいいからしら……敵は三体、でも万が一伏兵でもいたときを考えて――」
誰か、と踊り子は店内に声をかける。
今すぐ魔物との戦いに動ける人はいる――?
声をかけると、すぐに反応した人物がいた。
「依頼か、受けさせてもらうぜ」
黒髪に黒い瞳、正義感が強そうな青年だった。彼、世渡正和 (よわたり・まさかず)は、話を聞いて二つ返事で引き受けた。
「よっしゃ、これくらいの人数でいいだろうよ」
オーマがどんとジョッキをテーブルに置いて、残りの三人に「来い来い」と手招きをする。
「いい作戦があんだ。ちょっと乗ってくれや」
オーマが立てた作戦は以下のようなものだった。
カミキリムシは用心深く、人目を気にする習性がある。ゆえに――大胸筋セクシーラブ全開マッチョ樹木親父コスプレ姿でGO。
要は木に変装して行こうというのである。
さらに、たいていの虫は深夜に現れ、明かりに集まる習性がある。だからなるべく暗くなってから森に入り、明かりでカミキリムシ型魔物を集めようと言うのだ。
「変装は俺ひとりで充分だからな。任せとけ」
どんと胸を叩きながら言って、
「さて、明るいうちにとりあえずクルスに会いに行くかね?」
オーマは立ち上がった。
傍らで、正和が「虫型の化け物が森林破壊か。俺の追っている悪の組織の仕業かもしれん、急がねば」とひとりぶつぶつ言っていた。
【精霊の森で】
「やあ、まさか顔見知りが来てくれるとは思わなかったよ」
『精霊の森』につくなり、長身に眼鏡をかけた青年が笑顔で出迎えた。
彼がこの森に住む唯一の人間、クルス・クロスエアである。
「久しぶりだなークルス。精霊たちは元気か」
「おかげさまで。ただ……」
クルスはふと千獣を見て、「魔物が木に喰らいつくもんだからね。樹の精霊のファードだけが、少し元気がないな」
「ファードが……」
千獣の赤い瞳に何かがともる。
彼女はかつて、この森の精霊ファードと心を交わしたことがある。この森に愛着があるのも、ひとえにそのファードのためだ。
「許さない……」
千獣がつぶやく横で、アレスディアが、「あなたが依頼人のクルス殿か。初めまして、私はアレスディア・ヴォルフリート」と自己紹介をした。
「ああ、挨拶が遅れたね。僕がこの森の守護者、クルス・クロスエア……今回の依頼人だ」
「俺は世渡正和だ」
正和はクルスと握手を交わし、「正義のヒーローに任せろ♪」と言った。
「ははは。何だか面白いメンツが集まったんだねえ」
「ははは。何となく聞き捨てならねえなあクルス★」
オーマががっちりクルスの首に腕をかけて、にこにこ笑う。
クルスはそれでも笑顔を絶やさずに、
「ぐえ……そ、それじゃとにかく、魔物退治よろしく、みんな」
とオーマの太い腕にしめられながら言った。
■□■□■
虫は、オーマの予想どおり夜に現れるらしい。
オーマがいそいそとひとりコスプレ――もとい変装に向かう。
さしあたっては彼ひとりが森に入りスタンバイして、目標を見つけたら合図をよこすことになった。
その間に、残りの三名は戦いの相談をしていた。
「戦うのは、虫だっけ……?……食いでがない」
「せ、千獣殿? 今何か――」
「というのは、さておき……」
千獣のぼそりとしたつぶやきに、アレスディアが引きつるのをよそに、
「カミキリムシ、みたいなので……身軽な、魔物……虫って、確か、足とか……細かったよね……身軽っていうなら、まず、足を封じる……もちろん、魔物だから、普通の虫、ほど、細い足はしていないと思うし……特定の、部分を狙うと……、却って、手間だったり、するけど……基本、まずは、足を封じる」
彼女の言葉を選ぶしゃべり方は、ひどく時間がかかった。
しかし、アレスディアも正和も、真剣に彼女の話に聞き入り、うなずいた。
「あとは、角だな。俺は変身後の装甲で耐えられるかもしれんが……」
正和が腕を組んで考え込む。アレスディアが続いた。
「私も鎧ならば角にも耐え切れるかも知れぬが、角に挟まれれば中身たる私のほうがもたない。捕まったときどうしようもないが……できるだけ捕まらぬよう、戦闘は身軽な装束で挑もう」
アレスディアの持つルーンアームは使いようによって鎧にもなるが、今回は使わずに身軽な今の黒装束で戦う、と彼女は言った。そして、
「足を狙うのならば、関節を狙おう」
と千獣を見る。
千獣はこくりとうなずいた。
それから彼女は、暗くなりつつある森を見上げ、そっとつぶやいた。
「戦うとき……弾みで、森を傷つけないように……」
魔物を倒しても……戦いに森を巻き込んだら、意味ないから……
「千獣殿は、この森に思いいれがあるのだな」
アレスディアが微笑んで言う。
千獣が少しだけ笑む。
「大丈夫だっ。森のこともこの正義のヒーローに任せておけっ!」
正和が、どんと胸を叩いた。
理由は分からないが、何となく力強く思える正和の自信満々な笑顔だった。
■□■□■
待って、待って、待ち続けて数時間後――
森の一部から、突然まぶしい明かりが放たれた。
「―――っ!」
「合図だ!」
三人は光に向かって走った。
奇妙で大きな木――もちろんオーマだが――に集まるように、三体の、依頼書にあった絵のままの角を持ったカミキリムシがそこにいた。
見つけるなり、正和が「ブレイクアップッ!」と叫び変身した。
顔まで隠す、白の不可思議な形をした装甲。
「勧善懲悪ブレイカーッ!!」
名乗りをあげ、その手に聖獣装具『ソウルスティール』を構える。
アレスディアが突撃槍『ルーンアーム』を構え、千獣はするりと呪符を織り込んだ包帯を右手からはずした。
とたん、千獣の手が変貌する。
大きく鋭い爪を持った――獣の手へと。
カミキリムシの注意が、三人に移った。
三人は散開した。
「オーマ殿はそのまま照らしていてくれ!」
アレスディアが叫んだ。「あとは一人一体を担当する……!」
「あ? おい、ちょっと待てお前ら――」
オーマの慌てた声をよそに、戦闘は開始された。
ソウルスティールが、ルーンアームが、そして千獣の爪が一体ずつそれぞれの体をかすめるように攻撃し、自分に注意を向かせるよう挑発する。
それは成功したようだった。三体は、正和へ、アレスディアへ、千獣へと各々注意を向けた。
オーマのライトで照らし出されたバトルフィールド――
「足、だったな……!」
作戦どおり、正和は鑓の形をしたソウルスティールでモンスターの後ろ足を狙った。
前足を狙うと角が危険だ。背後に回ろうとするが、情報どおり敵は素早く、背後はなかなか取れない。
角が正和に向かって突き出されてきた。
「ぬう……っ」
ソウルスティールで受け止め、弾き返す。
そして正和は気づいた。――自分のソウルスティールの硬度は、どうやら敵の角とそれほど差がないらしい。
ならば……
「――っとりゃあ!」
上空へ飛び上がり、角の動きを慎重にはかりながら――思い切り鑓を上から突き下ろした。
ばきっ
重い音を立てて、二本の角のうち一本が根元から折れる。
「よし、これで攻撃力は半減――!」
角がなくなった方の側面に回りこみやすくなった。正和は後ろ足へと、思い切り鑓を突き出す。
めきっ。
関節の折れる音がして、カミキリムシの足が一本なくなった。
「よし、これで一本目――」
それぞれのカミキリムシの足が、三人の戦士によってちょうど一本ずつ失われたころ――
「待て待て待て、待てってのお前らーー!」
突然の大音声に、戦っていた三人の動きがとまった。
音に驚き、魔物が一斉に逃げ出そうとする。それに気づき、オーマは「下僕主夫は一日にしてならず★」と延々と書かれた腹黒リボンを具現した。そして新体操よろしく華麗に怪しく悩ましくひらめかせながらそのリボンで魔物たちを捕まえて、木のコスプレのまま仲間三人に怒鳴った。
「人の話を聞けっつの!」
言っている最中にもオーマはリボンで魔物の角をからみとって封じる。さらに『腹黒同盟』勧誘用パンフレットをカミキリムシたちに押しつけ、
「ほらほらお前らも腹黒同盟に加盟な。加盟だ。加盟っつってんだろ!」
と魔物を攻めたて、悶絶気絶させてしまった。
見事な腹黒アニキパワーであった。
「よし」
三体ともが完全に気絶したことをたしかめ、リボンでしばりあげてから、オーマは木のコスプレを解く。
そして、呆然としている正和、アレスディア、千獣に向き直った。
「いいか、あのな。人が肉やら魚やらを食うみたいにな、それは生態上仕方ねえことだろ? こいつらを殺すのは人間のエゴだ」
そっちのお前――と呆然としたままのアレスディアを指し、
「お前、どっかためらいながら戦ってたな。何でだ?」
「あ――」
アレスディアは我に返った。そしてオーマの微笑を見て、ぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。
「私――は、魔物に、お前たちは度がすぎてしまったから倒すと――。しかし、そういう私自身は度がすぎていないと言えるのかどうか……と……」
オーマはうんうんとうなずいた。
「そうだ。相手も生きていることを忘れずに」
「なるほど。正義のヒーローたるもの、そういう考え方も忘れてはいかんな」
正和が変身を解き、深く納得したように、気絶している魔物三体を真顔で見つめる。
「……でも……」
千獣だけが、その赤い瞳に殺意をともしたままオーマに言った。
「こいつらは……私の、大切な友達を……害した……」
「……ああ、樹の精霊が友達なんだっけか?」
オーマは困ったように頭をかく。「そりゃ、怒るわなあ……樹の精霊は元気なくしてるとかってクルスも言ってやがったし……でもよ、千獣」
ここはひとつ――と心底申し訳なさそうに腰を低くしながら、
「こいつら、俺が引き取って共存できるようになるまで……お前も納得できるくらい、優しくなるまで育てるからよ。今は勘弁してやってくれないか?」
「………」
千獣の瞳から、ふっと殺意が消え――代わりに、今までと違うかげりが落ちた。
「相手の……命を奪う、のは……エゴ、なの……?」
「――納得できねえか?」
「……私は、なら、私は――」
ずっと、獣どもを喰らって生きてきた私は――
「千獣」
ふと、仲間たちではない方向から声をかけられて、千獣は振り向いた。
そこに、いつの間にいたのか、クルスが立っていた。微笑みを浮かべて。
「ファードが、『千獣に怪我はないか』って心配していたよ」
「………」
千獣の顔が、泣きそうにゆがんだ。
「私……私は……」
「……俺も、言いすぎたかな」
オーマが頭をかき、「お前さんがどう生きてきたか……まだ知らねえけどよ。決して、お前さんの生き方を否定しようとしたわけじゃねえんだ。……悪かった」
「千獣殿。私も」
アレスディアが真顔で千獣の手をそっと取る。
「ずっと……魔物を殺し続けて今まできた。生を殺してきた。今回はオーマ殿のおかげで……葛藤を抱えずに済むかもしれぬ。しかし……私は、あなたの心を殺したくはない」
「ヒーローは人を護るためにいる」
正和が、にかっと笑って千獣の肩をぽんと叩いた。「でもそれ以前に俺は、あんたが好きだぜ。何となく」
すべてを愛する、それがヒーローってもんだ――
千獣がうつむく。視線が泳いでいる。
涙を流したくても、流し方を忘れてしまったような顔をしていた。
「千獣。そう言えばファードが『できることなら会いたい』って言っていたよ」
クルスの言葉に、はっと千獣は顔をあげ、まわりの三人の顔を一度うかがってからどこかへ向かって走っていった。おそらく『ファード』とやらに会いに行ったのだろう。
「ファードってのは、樹の精霊だったか?」
オーマがクルスに尋ねる。
「そう。今回一番被害を受けたかな」
「……となると、俺も謝りに行ったほうがいいかねえ」
「私も」「俺も」
と次々と声をあげる彼らに、クルスは笑った。
「ファードはいいんだよ。彼女は、自分が傷ついても許せる精霊だから。さっきのオーマの意見にも、賛成するだろうね」
「慈愛……と言うのだろうか?」
アレスディアがつぶやく。「そう」とクルスはそれを肯定し、ふと眼鏡の奥の瞳を鋭くした。
「でも。……僕はこの森を害するものを許さない」
一瞬の憎悪。
けれど広がったかに思えたそれらは、すぐに霧散した。
「と言っても。結果的に森が護られるなら、害してた存在が生きていようが死んでいようが関係ないんだ、僕は」
「……お前、意外にそういう性格だったんだな……」
オーマが驚いたようにクルスを見てつぶやいた。
クルスは微笑んだ。
「僕は薄情なんだよ。護りたいものとそれ以外を、はっきり線引きしているから」
ああ……
だから彼の決断には、一切の迷いがないのだろう。
簡単にできるようでいて、なかなかできない――彼は、それができているから。
護るもの、護りたいもの、害するもの、自分がすべきこと。
それらの狭間で揺れ動き葛藤する人間たちの前で。
「優しいキミらが羨ましいだなんて言わないからね」
クルスという名の『精霊の森』の守護者は、軽く微笑んだ。
【エンディング】
最初の依頼書のとおり、クルスは「報酬はお金じゃないからね」と言った。
まず、正和には色違いのドリンクを数本。
「これは精霊の力が宿っている。飲むと、精霊の加護で力が倍増したり防御力アップしたり回復したり……」
ヒーロー稼業に役立てて。そう言って、正和に微笑みかける。
「ヒーローとして、ありがたく受け取るぜ」
正和はにかっと笑い、「では、ヒーローは去り際も颯爽と――さらば!」
身をひるがえし、姿を消した。
「ええと、アレスディアには――」
「私はいい」
すっきりとした表情を浮かべていたアレスディアは、笑顔で首を振った。「今回は、何だか気分が爽やかなんだ。だから……報酬はいい」
オーマ殿、とアレスディアはオーマに声をかける。
「あの魔物たちの様子をときどき見に行ってもよいだろうか? 怪我もさせてしまったことだし――」
「おお、歓迎だぜ」
と胸を叩くオーマに、
「ああ、それじゃあその魔物たち用にこれってことで、どう? 報酬代わりに」
クルスは正和に渡したのとは違う液体をオーマたちに差し出した。
「噂の、樹の精霊ファードの樹液。最高の傷薬になるよ」
「おお! それはありがてえ」
足を拾ってくっつけてやるかな。そう言ってオーマは笑う。それを聞いてアレスディアが、「足をさがしに行かなくては」と慌てて森のどこかへと行ってしまった。本当に足をさがしにいったらしい。
「……ファードの……樹液……」
傍らで、千獣が痛々しそうな顔をしてクルスを見ていた。
「それ……ファードを、傷、つけて……とった、の……」
非難するように見る少女の目に、クルスは微笑みを返し、
「今回は特別だ。……ファードが『樹液を渡して』と言ったから」
「ファードが……?」
「そう。……キミに、ってね」
そう言って、クルスは残りの樹液をすべて、千獣の手に握らせた。
「ファード……」
千獣がそれを腕にかき抱いて、精霊の名をつぶやく。
嬉しそうな、切なそうな、そんな響きの少女の声を聞きながら、クルスは両手を広げた。
「それじゃ、これにて報酬は全部――」
「こら待てクルス。お前俺の分ごまかしてねえか?」
後ろからがっしりとオーマがクルスの肩を抱く。
「……ごまかせなかったね」
「おう。ごまかされないぜ? で、俺用は?」
「仕方ないなあ……」
それじゃあ、とクルスはため息をついた。「あれでどう? 腹黒同盟だっけ、キミのとこのあれに加盟するってので、ひとつ手を打ってくれない?」
「おおおおお! そりゃあ大歓迎だぜーーー!」
オーマは雄たけびをあげた。
その音声に、森の木々がざわめいた。
今日は、いつもとちょっとだけ違う穏やかさの空気の流れる精霊の森――
「足、見つかったぞ――角も、一本……っ!」
嬉しそうな声で言いながら、アレスディア遠くから走ってくるのが、見えた。
【END】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(腹黒副業有り)】
【2929/アレスディア・ヴォルフリート/女性/18歳/ルーンアームナイト】
【3022/世渡・正和/男性/25歳/異界職】
【3087/千獣/女性/17歳(実年齢999歳)/異界職】
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■ ライター通信 ■
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世渡正和様
初めまして、笠城夢斗と申します。このたびは依頼に参加してくださり、ありがとうございました!
立場的にあまり目立たせることができず申し訳ありませんでした;せっかく素敵なヒーローでしたのに……。
(なお、他三名の動きは三名の納品物にて分かりますので)
とても楽しく書かせていただきました。本当にありがとうございました!
またお会いできる日を願って……
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