<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


【楼蘭】秘薬を求めて



「ちょっと、遠い国仕事なんだけど……」
 受けてみるかい?と、エスメラルダが冒険者たちを見回した。
「ここから、東へ4月と4日ほど船でいったところに蒼黎帝国っていう国があるんだけどね」
 その国では薬学が発展しているのだという。 
「ほらそろそろ、寒くなってくるだろ?」
 だから、其処の国から薬を仕入れてきて欲しいのだという……

「那里的哥哥、請稍微看!」
「這是多少?」
「是去姐姐那兒的!?」
 船を一歩下りるとそこは、異世界だった。
 漆喰で塗られた白壁の建物の屋根は瓦に覆われ、耳慣れない言葉が交わされる。
「ここが、蒼黎か……?」
 窮屈な、船室での生活から開放され久々に揺れない大地を踏みしめひとつ大きく伸びをした。
 エスメラルダの言葉によると、帝都『楼蘭』では人里から離れた場所で生活する仙人達が調合した薬が手に入るらしい。
「さて、どうするか……?」
 薬といっても、いろいろある。
 エスメラルダの希望は、乾燥した肌に良い薬ということだが…希望にそうものがここで手に入るのだろうか?


 冬になると寒いものは寒い。蒼黎帝国は帝都『楼蘭』の市場の片隅に、人面草を手にした我らが聖筋界聖都代表オーマ・シュヴァルツの姿があった。
 寒風をものともせず、上半身は鍛えられた筋肉に桃色ふりふりのエプロン、手にした買い物籠には『下僕主夫』の4文字が眩しい。頭はエプロンと同じデザインのふりふり三角巾。
「打倒、家計火の車!」
 その言葉を胸に秘めたオーマの前に言語の壁など無きに等しかった。
「で、何をかってくるんだったけ?」
 一先ず人の集りそうなところということで、市場にやってきたオーマであった。
 買い物籠から取り出したのはピンク色の買い物メモ。
『肌によい薬を買ってくること』
 主夫たるもの、常に買い物メモは肌身離さず置かねばならぬ。
「肌にいい薬だな!」
 ふふ〜ん♪と鼻歌と足取りも軽やかにスキップをしながらオーマは楼蘭の市場にくりだしていった。
 買い物の全ては、ポージング……ではなく、ジェスチャーと何処からともなく取り出したるるぷ楼蘭ガイドマップの片言用語を駆使する。
「乾燥肌に」
 むきっと二の腕を突きつける。
「きく」
 ふんぬっと大胸筋を誇示する。
「薬が」
 せいやっと、綺麗に割れた腹筋がふりふりエプロンの間から覗きちょっとしたチラリズム。
「どこにあるかしらねぇかぃ?」
 最後にビシッとウィンクを飛ばす、オーマの周りは人の波が引き、まるでドーナツの様にぽっかりと穴があいていた。
「那……」
「令人可怕……」
 囁きがさざめきの様に、広がる。
「なんだノリがわりぃな」
 オーマが肩を竦め、仕方なく地道な捜索に入ろうとしたとき。
「是了、兄弟」
 HAHAHA,と白い歯の輝きも眩しい、アニキがオーマの肩を叩いた。
 その身のこなしは隙がなく、何よりも鍛え抜かれた肉体がオーマの親父魂に火をつけた。
「ウ―――ハッ!」
「覇威ィ―――」
 オーマのポージングに、マッスルアニキもポージングで応える。
「出来るなお前さん」
「正是至Q」
 この冬の寒さにも負けぬ、黒光りする肉体の前に言葉の壁など無きに等しかった。
 二人は筋肉と筋肉、魂と魂の根底からたがいを理解する。
 それは漢の中の漢という、人外魔境の中でのみ通用するマッスル魂というもの。
 人ごみで賑わう楼蘭の街角の一角で筋肉の乱舞が繰り広げられることになる。

「で、乾燥肌に効く薬って言うのをさがしてるんだ」
「OK、俺に任せときな」
 良い薬屋を紹介するぜ!異国で出会ったアニキは親切に薬やまでの道を案内してくれた。
『黒龍藥房』とかかれた、看板がかかる店に一歩足を踏み入れるとそこは、乾燥した薬草特有の香りが漂う落ち着いた店先になっていた。
「親父、客だぜ」
 アニキの呼びかけに、店の奥から小柄な人影が出てくる。
「む、イカス親父だな」
 体格こそ小柄なものの、その肉体には微塵も無駄のない筋肉が眩しい、爺マッチョの姿があった。
「だろ?」
「随分と遠い国からの客だとか………」
「おう、筋肉にいい薬、じゃねぇ肌にいい薬を探してるんだ」
 なんかねぇかな。オーマの前にプロテイン入り薬草茶が出される。
「うむ……ならば、これなどどうじゃ」
 店先の便の中から、どこかオーマににたマッチョな塊根を取り出す。
「筋肉密度を上げるには、これがいちばんじゃ」
 ちと値がはるがのう。ムキッとマッスルポーズを決めたそれに、オーマとアニキの目が釘付けになる。
「す、すげぇ」
 見ただけでも、その塊根が只ならぬ漢魂に溢れていることがヒシヒシと伝わってくる。
「肌にも利くだろうよ」
「確かに利きそうだぜ……」
 一つ問題なのはそのお値段。
「……それはちょっときびしいなぁ」
 店の親父から呈された金額にオーマが難色を示した。
 何せ、家計は常に火の車。値切れるものなら値切り倒すが下僕主夫の信念。
「これで、なんとかならねぇか」
 毎度おなじみ、腹黒同盟桃色パンフ。
「ならんな」
 これ以上はまけられん、生活がかかった薬屋の親父も容赦がなかった。
「だったら……これでどうだ!」
 買い物籠から取り出したマッスル人面草に薬屋の親父が、目を見張った。
「そ、それは……ま、幻の筋面草!?」
「これとそれを使えば、すんげえ薬が出来るとおもうんだが」
「む……確かに……」
「だからもうちっと負けてくれよ」
 オーマの懇願に、店の親父が折れた。
「では、その筋面草を少しわしにも分けてくれ」
 商談成立、その場で店の道具を貸してもらいオーマが薬の調合にとりかかった。
 マッスル塊根はそのまま熱湯にかけ、そのにじみ出るアニキエキスを抽出し、人面草は乾燥させ粉末にし………その他薬屋から分けてもらった、グリセリンやらワセリンやらと薬草の数々を調合し出来上がったものは……

「これがその薬ね」
 オーマの持ち帰った薬にエスメラルダが瞳を輝かせる。蒼黎帝国の薬その効能はいかなるものであろう……。
「おうよ、体内からの摂取が効果的な栄養ドリンクタイプと、こっちが風呂上りに塗るタイプな」
「じゃ、ちょっとしつれいして……」
 ラベルも何も貼ってない茶色の瓶にエスメラルダが口をつける。
「味は普通ね……」
 苦くもなく、すっぱくもなく実に爽やかな口当たりだ。

「ちょっと、何よこれ――――!?」

 悲鳴のような、怒りの声が黒山羊亭から聞こえてきたのは5分後のこと。
「完璧だな」
 エスメラルダの悲鳴から追い立てられるようにオーマが黒山羊亭から飛び出してくる。
「肌はつるつる(というよりてかてか)ぴちぴちマッスル兄貴御用達マッスルドリンク」
 これはうれるぜ。と真顔で呟くオーマの手の中の買い物籠の中には、いく本もの栄養ドリンクの瓶があった。
 飲めばたちまち、筋肉マッチョ。
 その後ドリンクの効能が切れて元に戻ったエスメラルダは流石に、その手の中に残された塗るタイプの薬には手を伸ばそうとはしなかったという……
 冬の聖都にマッチョな男性たちの姿が目撃されたのはまた別の話。





【 Fin 】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】


【NPC / エスメラルダ】


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■         ライター通信          ■
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何時もお世話になっております。ライターのはるです。
楼蘭での話の一発目は、薬探しということで……
マッチョな漢達が乱舞する国……ではありませんが、冒険が少しでも楽しんでいただければ幸いです。

イメージと違う!というようなことが御座いましたら、次回のご参考にさせて頂きますので遠慮なくお申し付けくださいませ。