<PCクエストノベル(3人)>
美人女将のいる宿 〜ハルフ村〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2079/サモン・シュヴァルツ/ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー 】
【2080/シェラ・シュヴァルツ/特務捜査官&地獄の番犬(オーマ談) 】
【助力探求者】
なし
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オーマ:「よっしゃああっ!」
拳を握り締めた手を高々と掲げたのは、周りの者たちからゆうに頭一つ分は抜きん出ている大きな男。それと同時に、売り子たちがぱちぱちと次々に拍手をして、
売り子:「おめでとうございます〜〜〜〜っ!!」
と、黄色い声援を上げる。
ここは、年末特別大セールの会場。いいものを安く手に入れたいと願う主婦たちや、在庫を処分していい年を過ごしたいと願う売り手たちの熱き攻防戦が繰り広げられる年末の一大イベントなのだった。
オーマ・シュヴァルツも当然主夫として参加し、売主たちを出し抜いたりぼられたりしながらも、年越し準備の買い物をちゃくちゃくと済ませて行った。そしてそれに付随したのが、いくらか買う度に手に入る福引券。一等商品はエルザード近郊で収穫された穀類一年分であり、特賞としてハルフ村のイベント参加チケットが掲げられていた。
当然家計を助ける一等を狙っていたのだったが、それは当たらず、手に入ったのは特賞。それでもこれで家族を連れて年末の旅行が出来るとオーマは喜び勇んでチケットを手に家へと舞い戻った。
シェラ:「一日女将体験? へえ、面白そうじゃないか」
家に帰ってから良く読んでみると、三人一組でハルフ村の老舗旅館で女将体験をして貰おうというもののようで、妻のシェラがその唇に笑みを浮かべる。
オーマ:「だろ? だろお? いやー、当たった時は神様の存在を信じそうになったぜ。流石俺様、運がいい!」
つうわけで丁度三人だし行くか、と妻と娘の二人に言い置いて準備をしなければと立ち上がったオーマに、サモンが静かな目を向けた。
サモン:「……女将って、女だよ」
と、冷静な突込みを入れつつ。
オーマ:「何ッ!?」
そんな条件が入っていたのかとオーマが説明文を読み返すと、確かに女性三名様でお越しくださいと最後に小さく書かれており、オーマが難しい顔をした。
サモン:「それだと二人になるから、行けないよね」
シェラ:「そうだねえ……せっかくのチケットだけど、他の人に上げた方がいいのかね」
オーマ:「ま、待て待て。ちょーっと待て。今考えてるから」
女性でなければ駄目と言われているのに何を考える事があるのかと、シェラとサモンがじっとオーマの動向を見守る。
――女装。
その言葉は、女性のみと聞いた瞬間オーマの頭にぽんと浮かんでいた。が、娘の前で父の威厳を見せつける事が主目的なこの旅で、オーマが女性の格好をしていいのか? という悩みがしばしオーマの頭をぐるぐると回転し出す。
だが、オーマがそれをしなければそもそも旅が始まらない。加えて、もしサモンだけが温泉へ行ったとして――万一誰かに覗かれたとしたらと思い至った瞬間、オーマの頭からぷしゅうっと湯気が立った。
オーマ:「い、いいい行こう! サモンの危機だと言うのに俺様が側に居られないなんて状況が許されるワケねぇ!」
サモン:「……」
シェラ:「はいはい。ひとりでヒートアップしてないで落ち着きなさいよあんたはもう」
妻と娘の二人からそれぞれひんやりとした視線を浴びながらも、オーマの暴走は留まるところを知らず。
かくして、ハルフ村行きの奇妙な三人組が出来上がったのだった。
*****
村人:「いらっしゃいま……せ?」
目的の旅館へ辿り着いた三人のうち、シェラがチケットを見せ、従業員のひとりが三人を出迎えて、きょとんとした顔をする。
シェラ:「何か問題でもあるのかい?」
村人:「い、いえ……その」
シェラとサモンの後ろで、大きな身体を縮めようとして敵わず、ごつい体をきっちりとした服で覆った『女性』の姿を、従業員の目が凝視し、だがそれ以上は何も言わずに従業員用の部屋へと案内する。
シェラ:「ところで――外の様子なんだけど」
村人:「あ、チケットを受けとった所では説明していませんでしたか」
三人がここへ来て驚いた事に、ハルフ村はいつもと様子がまるで違っていて、村人の姿は無く、外をうろうろと慣れない様子で歩いていたのは、魔物やウォズや、果ては聖獣らしきものの姿など、それ以外にも様々な種の姿が見えた。
一瞬ハルフ村が乗っ取られたのかと思いきや、聖獣もいるのだからそう言う事ではないだろうと、とりあえず居場所を確保するためと説明を聞くために旅館へ赴いた三人へ、年季の入った従業員が語り始めた。
ここハルフ村でいつから始まったかわからない古い風習で、年の瀬に人以外の種を招いて歓待すると言うしきたりがあり、村人は旅館の従業員を除き新年を迎える直前まで村に戻らず、別の場所へと移動するのだと言う。
従業員のみは招待客を歓迎するために残り、無事に新年を迎えられるよう異種族を歓迎するようで、今回の女将体験もまた、そのしきたりのひとつだと言った。
村人:「旅館も開けているのはここだけです。それから、女将は回りもちでやっていただきますが、細かい業務内容などは私たちに任せておいて下さい。女将さんはにこにこと常に笑顔を忘れないようにお願いします」
そんな説明を受けている間にも、誰かが訪ねて来た音が玄関から聞こえ、
村人:「さあ始まりましたよ。頑張って下さい」
にこりと笑ってそう言った。
*****
女将体験は、初日から苦労が耐えなかった。と言うのも、人間と似通った種であればまだ意思疎通も可能なのだが、魔物となればこれはもうどう扱って良いのやら、何を食べるのか温泉に入れてしまっても良いのか戸惑うばかりで、見た目でも雰囲気でもメインにシェラが据えられたものの、彼女自身も時折頬を引きつらせる事があった。
その後ろに控えるサモンと、そして――女装姿のオーマはシェラのフォローに大忙し。とは言え、今回はオーマがいて助かったと言えるかもしれない。『客』を運ぶのに、力のある者が必要となる事が多々あったからだ。
ほとんどの指示は何度もこの行事に付き合っている従業員から出され、ほとんどの場合はその指示どおりに動けば良いだけだったが、そうでなければオーマをはじめとして一家が皆逃げ出していただろう。
オーマ:「ふー」
『客』が寝静まった頃に、温泉をひとつ開けてもらってそこにゆっくりと浸かるオーマ。他の従業員も寝て、シェラとサモンの二人が先に入った後での事。
本当は一緒に入りたかったのだが、シェラはともかくサモンからの微妙な拒否に合い、恥じらいの感情も出始めたかと嬉しい一方で拒絶されてかなり寂しい思いのオーマが、天井を見上げる。
今だけはカツラも取り、窮屈なコルセットとパットを外した自由な姿でいられるが、寝る時も起きている間もまたあれを付け直さなければならないとなると、流石にげんなりして、少しでも時間を引き延ばそうとゆったり風呂へ浸かっている。
オーマ:「……ん」
――ふと、何かの匂いを嗅いだような気がして、オーマが顔を後ろへ向ける。
誰もいない温泉。湯が流れる音以外、何の音も気配も無い。
けれど、ではオーマの鼻をくすぐったのはなんだったのだろうか。
オーマ:「……『客』の残り香か」
ぱしゃりとお湯を弾いて顔を撫でながら、オーマはそう呟いて、ごく微かに漂っていた香りの事はすぐに頭から追いやってしまった。
*****
――次の日。
あまり良い眠りを迎えられなかったオーマが、ざわざわと言う何かの声のようなものに目を覚まして、重い頭を振る。
シェラ:「おはよう。……何だか困った事が起こったらしいよ」
オーマの名を呼びそうになったシェラが一度口を閉じて、それからざわついている理由を簡単に説明する。
この旅館の一室に泊まっていた一行が、朝従業員が迎えに出た時にはその姿が無く、それとほぼ時を同じくして、温泉の掃除に出ていたひとりの従業員が、昨夜行方不明になった一行の使った温泉が枯れているのを発見した。源泉からは今も絶え間なくお湯が溢れていると言うのに、その温泉へ通じる管からはお湯の一滴も流れ落ちては来ない。
客が消えた理由も、温泉が枯れた原因もよく分からないまま、他の客は不安そうに集まって従業員の説明を聞いている所だった。
シェラ:「そんなわけでね。これからフォローに走り回らないといけないんだけど。ちょっとサモンを連れて温泉の方を見て来てくれるかい?」
オーマ:「ああ、そうだな」
カツラを丁寧に櫛で梳いて整え、鏡を覗き込んで自分とはとても思えない不思議な生き物のチェックをした後で、静かにそこに佇んでいるサモンに声を掛けて外に出た。
と言っても――多種族同士の事。
自分たちにも危害が及ぶ事は心配でも、被害に遭った者の事はあまり心配していない様子が、少し経ってから外へぞろぞろと出歩いて来た姿を見て容易に窺えた。
オーマ:「サモンはどう思う?」
サモン:「……見てみないと」
オーマ:「それもそうだな」
客の機嫌伺いと同時に彼らから行方不明となった客の様子を聞き出して貰えるだろうと、その辺はシェラの元の職業の手腕を期待しつつ枯れたと言う温泉へ向かう。
サモン:「お湯が、消えてる」
オーマ:「……波動が……僅かだが残ってるな」
お湯を抜いただけでなく、そのあと徹底的に乾かしたようになっている元温泉を眺めながらオーマが呟く。
痕跡としては微々たるものだが、それは間違いなく具現波動。だが、それがどういった理由で使われ、そしてその痕跡から行方不明になった者とどう関わっているのかを調べるのはほぼ不可能だった。
消えかけの香りのような、そんな痕跡から分かる事と言えば、具現波動だと言う事ともうひとつ、もしかしたらオーマたちと何らかの係わり合いがある可能性が出て来たと言うだけ。
せっかくの年の瀬、しかも新年を迎える前準備のようなこのしきたりに汚点を残すような事にならなきゃいいが、と思いはしたものの、新年を迎えるぎりぎりまで女将をやる事もしきたりのひとつであり、そこを逃げたとしたら後で何を言われるか、何が起こるかわからない。
仕方無しに、オーマとサモンの二人は、具現波動を少しでも早く察知するために意識を村中に飛ばし、全身ぴりぴりとさせながら、前日と同じようにシェラの手伝いで走り回ったのだった。
*****
――どこかで。
あの匂いを嗅いだ事がある。
*****
四日目――。
前日、前々日と行方不明者を出し、その都度客が使った温泉が枯れ、三度目となった今日、ひとつの異変が起きた。
それは、三つ目の枯れた温泉。そこに染みのように血の色が湧き上がり、オーマたちヴァンサーなら知らぬ者は無い、タトゥの形となって浮かび上がったのだ。
それと同時に、今までとは打って変わって酷く濃い具現波動がその温泉跡から溢れ出し、波動を感じる事が出来ない種にもオーマが使う精神感応の変異のような形で刺激を受け、体調を崩したり感情の調整が出来なくなる者が続出。
おまけに、今回招待されたウォズが、温泉跡に浮かび上がったタトゥの模様をヴァンサーの物と見知っていたため、ヴァンサーであるサモンに行方不明者を連れ去った容疑が圧し掛かったのだった。
……ちなみに、オーマは容疑者から外れている。
それは計らずも女装していたためウォズから面識が無かったのと、ヴァンサーの持つ匂い、とでも言えばいいのか、雰囲気を娘のサモンも同様に持っていたため、サモンへ容疑が集中しオーマの持つそれが誤魔化されてしまったためだった。
――とは言え、今更女装でしたなどとは言えない。
それを言ってしまえば、名も顔も知れているシェラやサモンにも迷惑がかかるうえ、聖都での今後の生活にも支障をきたしてしまうのが想像できたためだ。――いや、一度はカツラも服もかなぐり捨てようとしたのだが、そのオーマを止めたのは誰あろう、サモン本人だった。
その目線ひとつでオーマを制し、容疑者となったサモンに詰問するために集まった者たちと一緒に別の建物へ移動していく様を、オーマとシェラの二人が気を揉みながら見送る。
シェラ:「……困ったねえ。いや、そんな事を言ってる場合じゃない。行くよ、あたしたちでサモンの疑いを晴らしてやらなきゃ」
オーマ:「もちろんだ」
やはり枯れた温泉が気になると早足で温泉へ近づいて行く二人。そこでは、不気味なタトゥの模様が枯れた底に浮き上がり、今も波動を村中へと送り込んでいた。
オーマ:「誰も来ないように見ててくれるか」
シェラ:「任せときな」
温泉へ降り立ったオーマが、大きなタトゥの模様、その真ん中へ手を当てる。途端、ぞくりと悪寒が背を駆け抜けたが、気色悪さを押し殺してそこへ意識を集中させた。
――その時、再び、いつか嗅いだ匂いがオーマの鼻をくすぐる。
それは、いつだったかもう思い出せないくらい遠い遠い昔。
まだソサエティが完全にその機能を使いこなせていなかった時期――。
タトゥはまだ、その当時全てのヴァンサーが刻んでいたわけではなかった。後に体制が整い、タトゥを義務付けるようになったが、まだソサエティそのものが生まれたばかりという、何もかもが手探り状態だったために、その辺が徹底していなかったとも言える。
タトゥは――最初、反対する者が多くいた。外部から力を取り入れ、自らの能力の安定化を図る。そんな理由で作られた図案だった筈だが、何か感じるものがあったのだろう、オーマの目から見てもかなりの能力の素質があった者は皆、タトゥを刻む事を最後まで拒んでいた。
オーマとて、ソサエティの全てを盲信していたわけではない。
タトゥにしても、どこかで拒絶したい気持ちがあったのは事実だったが、それも自らの怯えと考え、戒めの意味もあって大胆な位置に彫らせたのだ。
その時の、なんと言えばいいのだろうか。世界を侵食し続けるモノとの奇妙な一体感がオーマに降りかかったのを覚えている。
その感触に慣れるまで、暫く無謀なウォズ狩りを繰り返した事も。
今、温泉地でオーマが感じているのは、その時と非常に良く似た感覚だった。世界を侵食し続ける具現波動と、どこかで繋がっているような――そして、それと気付いた途端にばっと手を離して、もう一度周囲に漂う匂いを嗅ぐ。
あれは――同じではなかったか?
具現侵食が、世界を大きく覆うのと同時に、どこからか漂ってきた匂いと。
オーマ:「つうか――まさか」
タトゥが、もし、ある『道』を繋ぐ扉の役割を果たしていたとしたら。
具現を使用するヴァンサーたちでさえ持て余す、あのゼノビアの波動が、この世界のどこかで繋がったとしたら――どうなる?
それに気付いた瞬間、オーマの手は再びタトゥ模様の上に押し当てられていた。
気持ち悪いなどと言ってはいられない。それがもし、ゼノビアのように緩やかな死に向かう事になってしまえば、今度は悔やんでも悔やみきれない。
オーマ:「さあ……来るんだ」
描かれたのが、具現波動によるものであれば、それは同時に具現を使いこなす者の手によって消し去る事も出来る筈――もちろん、力の格差があるとは言え。
そして、先日どういう理由でか嘗ての力のほとんどを取り戻したオーマには、『これ』を引きずり出してしまうのは、さほど難しい事では無かったのだった。
だが、それでもオーマは想像できなかっただろう。
浴槽の底に染み込んだそれを引きずり出したら、温泉の底が割れ、赤い温泉と共に行方不明だった異種族が三組とも飛び出して来る事など。
そして――皆真っ赤に茹だってはいたが、夢心地の表情を浮かべたままで……それを目覚めさせたのは、汗だくになってタトゥを引きずり出し、化粧もなにもどろどろに溶けたオーマの顔だった。
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――赤い温泉は、鉄鉱泉と知れた。
これで新たな温泉が湧き、新年からそれを目当ての客を呼び込む事が出来ると感謝され、また謝罪と共にたくさんの土産を貰ったのは、ひとり容疑をかけられ取り調べを受けていたサモンだった。
年の瀬のしきたりに赴いた一般人を容疑者扱いした事が知れれば、ハルフ村の評判にも関わる事。最後の最後でばれたオーマの女装も大目に見てもらい、三人が家路についたその途中。
シェラ:「というかさあ。あれだけ気に入られたんだから、いっそ名物女将にでもなって居付いた方が良かったんじゃないのかねえ」
オーマ:「よせやい」
オーマが大目に見られたのには、もう一つ理由がある。
化粧が流れた顔を見て悲鳴を上げたものの、その『客』たちは、隣で心配そうに声を掛けるシェラよりも、慌てて化粧を拭って素顔を見せてしまったオーマの方が嗜好に合っていたのだった。
つまり、
『いつもはどうにも魅力にかける女将だったが、今年に限ってはなんとも惚れ惚れする女将が来てくれて大変満足している』
と、通訳が伝えに来た程で。
そうした『客』から、おひねり……と言えばいいのだろうか。この世界の物とは法則が違うのではないかと言う、柔らかい金属で出来た蜥蜴のようなペットを貰ったオーマがシェラにちくちくと嫌味を言われ続けているというわけだった。
ちなみに、金属製だが蜥蜴は生きている。何を食べるのかも不明だが、かさかさとオーマが具現化した虫かごの中で動き回る様子は、今にも溶けそうな身体をしている癖に妙に愛嬌があり、虫かごはそれを気に入ったらしいサモンの手に渡されていた。
ただ。
『誰』があのような事をしたのかと言う事は、結局分からずじまいで。
タトゥの真の意味について薄々察し始めているオーマにとって、もうすぐ新年と言うこの時期にあの出来事が起こったのは、まるでこの先を暗示しているようでどうにも気分が悪かった。
唯一の救いと言えば、今回攫われた『客』が、人間やそれに類する類の異種族ではなかったため、地下に流れていた温泉脈の中に閉じ込められていても全く平気だった事だろう。
あれが、もし、人間であったならば、大惨事は免れようもなかったのだから。
新たに出来上がった温泉は、オーマが調べたところでは具現によるものではなく、タトゥの模様が描かれた場所にまだ少し残っている波動も次第に薄れており、人体への影響はほとんど無いと判断していた。
オーマ:「済まなかったな、サモン」
サモン:「……?」
それから暫く無言で歩いた後、ぽつりとオーマが言う。
オーマ:「サモンをひとりっきりにさせちまってな。俺だったらいくらでも容疑者になってやれたのに」
サモン:「……別に。僕がひとり連れられた方が、効率がいいと思っただけ」
オーマも共に取り調べを受けていたら、今もハルフ村に留め置かれていたかもしれない。だからサモンの言う事も尤もなのだが……と、オーマが実に残念そうな顔をする。
シェラ:「なに子どもみたいな顔をしてるんだい」
オーマ:「だってよぉ」
いじいじ。
大きな図体を小さくしていたオーマをちらと見、シェラの呆れ顔をも見たサモンが、前方を向いて、
サモン:「……僕は、オーマが解決してくれるって、分かってたから」
聞こえるか聞こえないかの微妙な声で、呟いた。
オーマ:「っっ!?」
途端、オーマの身体が跳ね上がる。
オーマ:「なっ、何っ、もう一回言ってくれサモン!」
サモン:「……いい」
オーマ:「いいじゃなくてだな、な、な、な――ぐげええっ」
シェラ:「娘にそんな事を問い詰める父親がどこにいるんだい、こぉの――馬鹿親が」
今回は鎌でなく、腕を回されてヘッドロックをかけられ、じたばたと暴れるオーマを、サモンが少し振り返って、
サモン:「二度も言うような言葉じゃない」
ほんの少しだけ、オーマから視線を逸らして、サモンにしては珍しい早口で告げるとすたすたと先に立って歩く。
シェラ:「ほら。あんたはあんな子にこれ以上言わせようっていうのかい?」
オーマ:「は、反省してる……うぅう、すまねえサモン」
それが、サモンの照れと気付いたオーマが、腕を外された首を撫でながら言い、黙って先に行くサモンへ足早に近づいて行く。
シェラもその後に続き、心なしかサモンの足取りがゆっくりになった頃、三人が横並びになって――シェラとオーマが、サモンを挟んで頭上から目を見交わし合い、そしてゆっくりと微笑んだ。
具現波動とゼノビア、この世界にちょっかいをかけてくる何らかの力と不安要素は尽きないが、二人の間にいるこの少女の成長だけは、何にもまして喜ばしい事だった。
そう、僅かな間とは言え不安の種を吹き飛ばしてくれるサモンの存在は。
-END-
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