<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


想石

 聖都全体が年に一度の聖なる日に向け、華やいでいる。
 道行く人々もイブの日の今日を楽しもうと言うのか皆笑顔で。
 そして、今ゼンとほんのちょっぴり緊張しつつ歩いているシキョウもまた、今夜のパーティが楽しみで楽しみで今からもう目の中に星がきらきらと瞬いている状態だった。
「おいこら。混んでんだからそうあちこち行くんじゃねえ」
「え〜〜〜〜」
 年末に今年の売上の帳尻を合わせるためか、買出しに頼まれたゼンが向かった市場は常にない大量の店とそれを当てこんで来ている人々とでごった返している。
 そんな中、ちょこまかと様々な品物を並べている店を見つけてはその品を見に行こうと動き回るシキョウの首根っこを、ゼンが呆れた顔をしつつぐいと掴んだ。じたばたと暴れるものの、それはそう簡単に離れず、シキョウはぷうっと頬を膨らませる。
「忘れんなっつってんだ。俺らは買出しにここに来てるんだぞ? てめぇも荷物持ちの頭数に入れてんだから、勝手にあちこち動き回るなっつうの」
「でもぉ〜〜〜」
「駄目だ。言う事聞かねぇと今夜のパーティ、誰が何と言ってもてめぇを部屋に閉じ込めて出さねぇようにしてやる」
 ずい、といつになく強面で顔を近づけながら言うゼンに、しゅんとしながらも、
「はぁい……」
 こっくり、ととりあえずその場では頷いて見せたシキョウ。
 ちなみにゼンが言葉どおりの事を実行したとしたならば、部屋の外でシキョウが出てこないようゼンが見張る事になるだろうし、そうなればゼンもパーティに出られなくなるのだが、その辺は全く考えていないようだった。
「……誰だこんな量の品をガキ二人に持たせようと考えたの」
 買い物リストを確認しながらぶつぶつと文句を言うゼンの隣で、はぐれないようにゼンの服の裾を軽く握っているシキョウは、それでも何かが気になるらしくきょろきょろと辺りを見回している。
 ――と言うのも。
 今日の買出しは、シキョウにとって重大な目的があったからで。
 ゼンには内緒だが、シキョウのポケットにはいつももらう小遣い以上の金額が入っている。それは街で売っている駄菓子を買うのとは訳が違っていた。
 それは、家人がくれた、ゼンへのプレゼントを買うためのお金で、買出しのついでに買っておいで、と渡されたものだ。
 だから、シキョウは買出しよりも、寧ろそっちに力を入れて様々な店を覗き込んでいたのだった。
 問題は、何を買ったらいいのかまるで分からないと言う事なのだが。
「う〜〜〜〜〜〜ん」
 次第に荷物が増えていくゼンの後ろに付いて歩きながら、かくん、かくん、と左右に首を振るシキョウ。
 シキョウの知る限りの『贈り物』と言えば、花冠や、花束や野生の果物といった自然の営みの中で出来たものしか思いつかないため、店を覗き込んでもいまいち手が伸びず、また、肝心のゼンが貰って喜ぶものが何なのか見当がつかないために、ここに来てからずっと悩んでいるのだった。
「おい。ちょっとこれ持ってろ、俺はあれを買ってくるから。いいな、ここを動くんじゃねえぞ」
 そんなシキョウの態度を知ってか知らずか、相変わらずシキョウには優しい態度を取る事が無いゼンが荷物のひとつをシキョウに押し付けると、人ごみの中に紛れて消えていく。
「あ〜、まってよゼン〜〜〜ッ」
 自分の考えに没頭していたため、ゼンの行動に付いていけなかったシキョウが声を上げるも、これだけのざわめきの中でそれがゼンの耳に届く筈も無く。せっかく二人きりでお出かけなのに、ともう一度頬をぷうっと膨らませたシキョウが荷物を手に立ち止まっていると、
 ―――――――――。
「…………?」
 誰かに呼ばれたような気がして、シキョウが後ろを振り向いた。だが、シキョウへ目を向けている者は無く、さっきと同じようなざわめきがあるばかり。
 ―――――――――。
 再び。
 顔を戻そうとしたシキョウの耳を撫でるかのように、その『声』はシキョウへ届いていた。
 すとん、とシキョウの手から荷物が落ちる。そして、一歩、二歩と歩き出すシキョウ。
 彼女の頭には、そこを動くな、と言われたゼンの言葉はとうに吹き飛んでおり、その目の前には昼間でも暗い路地への入り口がぽっかりと口を開けていた。
「ったく、混みすぎだっての……」
 ぶつくさと文句を言いながら、ようやく目的の物が買えたゼンが、先程までシキョウがいた筈の場所へと戻って来る。
 が。
「シキョウ、おい、どこだてめぇ!」
 残っていたのはシキョウに渡した荷物。それが、持ち主の帰りを待つようにぽつんと置かれているだけで、シキョウの姿は、そして気配はどこにも感じられなかった。

*****

「……あれ?」
 静かな人の声と、立ち並ぶ露店の前で気が付いたシキョウがきょろきょろと辺りを見回し、それから上へ目を向けた。
 日の光が僅かに差し込んで来る、ここは路地裏の奥。
 顔を布で覆った店主たちと、同じく顔を見られないようにか顔を隠した人々が動き回る。そして、それらの店で扱われている品々は出所不明であったり、国が取引を禁じている品であったりと表立って売り買いする事の出来ないモノばかり。
 ここは、闇市場。
 健全な人間であれば開催されている場所すら知らない、そんな中に明らかに場違いなシキョウが紛れ込んでいるのを、いくつもの無遠慮な目がじろじろと見詰めていた。
 だが、シキョウにはそれが分からない。何故見られているのかも、どうやって自分がここまでやって来たのかも。
 ゼンに持っているようにと渡された荷物が無い事もすっかり忘れ、シキョウは目をきらきらさせて、そこに並ぶ珍しい品へと心を奪われていた。
 噂ではどこかの貴族の倉の中にあると言われているような精緻な細工物が堂々と並ぶ、見た目にも美しい品が多いここで、シキョウが夢中にならないわけもなく。値段も書いていないそれらがいったいどのくらいの値で取引されるのかも考える事無く、次々と品物を見ていくシキョウの目に、ひとつの綺麗な石が誘うように淡い輝きを見せた。
「……え……こんなところにもあるの?」
 シキョウも驚いたそれは、ひとつの輝石。ルベリアの花から作り出されると言うそれは、普通に加工して作れるものではなく、店で売る程の数はとてもではないが作れるものではない。
 そして、シキョウが驚いたのにはもう一つ理由があった。
 それは――その、色。
 初めて見る、血のように赤いルベリア……いや、ただ赤いだけでなく、淡い輝きの中でどろりと蠢くようにさえ見えるその輝石は、もしゼンが、あるいはシキョウの知る者たちがこの場にいたなら、何らかの対応をしただろうと思わせる不吉な輝きを帯びている。
 だが――シキョウにとっては、それは珍しい色をした輝石でしかない。
 不思議な事に誰もその石に目を留めたり、買おうと言う気配の無いルベリアを、もっと近くで見ようとシキョウがゆっくりと手を伸ばしていた。
「――!? シキョウ、待て、それは――!」
 その時。
 ようやくシキョウの気配を辿ってこの場に駆け込んで来たゼンが、シキョウの伸ばした手の先にある物に気が付いて声を張り上げる。
「あ、ゼン!」
 嬉しそうにその声に振り向いたものの、シキョウの手は、指先は止まる事無く『それ』に触れてしまっていた。
 その行為が引き金となったのか。
「――うわっ!?」
 店主が、客が、そしてゼンが声を上げる。
 シキョウはまだゼンに目をやっていて気付いていなかったが、シキョウの触れた指先を核として、ルベリアから真っ赤な血が噴き出し、それはみるみるうちにシキョウを中心として闇市全体を覆い尽くし――。
 数瞬の後、そこにはもう何も残っていなかった。

*****

 ――嘆きの声が、耳を打つ。
 誰かを呼ぶその泣き声で、シキョウは目を覚ました。
 むくりと身を起こして周囲を見回し、ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返して、もう一度辺りを見る。
 そこは、見たこともないもので溢れていた。
 空気も、においも、空の色も違う。
 どことなく息苦しさで喉が詰まる気がするその場所には、見たこともない色や形の建物が建っており、その建物にくっ付けるように、細い変な棒が黒い紐を建物へと伸ばしている。
「……?」
 かっくん、と首を傾けるも、それが何であるかシキョウには認識出来ない。
 その目の前には、不思議な黒い服に身を包んだ人々が吸い込まれるように入って行くひとつの建物があった。不思議、というのか、そこには見える限り黒髪の人々しか存在しない。
 ――髪まで服に合わせて黒くしたのかな。
 そんな事を思い、もう一度首を傾げながら、泣き声の聞こえるその建物の中へと入って行く。
 そこで、ぷん、とお香のような匂いが鼻をついた。シキョウの知るものよりもずっとシンプルな香りのそれは、建物の中全体を白く尾を引いてたなびいていた。
 ――なんだろう、ここ。
「……まだ見付かっていないってほんと?」
「そうらしいわよ。でも、現場の様子とか落ちてた血の量で、きっと生きていないだろうって……」
「奥さんも可愛そうに。可愛い盛りだったのにねえ」
 見ている間にも、奥へ進んで残る人たちと、一旦紙を張られた扉の中に入ってすぐ出て来る人に分かれていく。どうやら黒服を着たひとたちは二種類に分かれているらしい、とシキョウが気付くも、一体何がどうなっているのかまるで分からない。
 その間にも、胸を打つような泣き声はシキョウの耳に届き続けていた。
 紙と木で出来たような、不思議な扉が開く中へとシキョウは入り込んでいく。不思議な事に、シキョウが動いても誰も彼女を見る事は無く、ぶつかる事も無い。
 だがシキョウはその事には気付かず、何故か皆が泣いている室内へと足を踏み入れていった。
 ――お香の匂いと煙が一番きつい。それは、金色があちこちにちりばめられた祭壇のようなものの場所から漂って来る。
 クッションに似た四角いものの上に皆座り、次々と来ては祭壇前に行って帰っていく人たちを見送りながら、涙にぬれた顔を何度も拭う人々。
「……どうしたの?」
 声をかけても聞こえている様子が無いのか、シキョウに気づかずにいた一組の男女の前に、一人の男性が近づいて来て膝を付いてぺこりと頭を下げた。
「この度はご愁傷様です。……どうか、お気を落とさずに」
「ありがとうございます――まだ、信じられません。あの子がいなくなってしまったなんて」
 声を詰まらせながらそう言う女性に、痛ましい目を向ける男性。
「だれかがいなくなっちゃったの? それで、みんなないてるの?」
 ――シキョウの問いかけに、応えられる者はいない。
 けれど、シキョウにも段々と状況が飲み込めてきた。
 誰かがいなくなって。
 そして、皆がそれを悼んでいる。悲しんでいる。だから泣くのだ、と。
 そう思って部屋を見渡すと、祭壇の上に大きな写真が飾られている。黒い枠で縁取られ、黒いリボンを付けた中で笑顔を浮かべてこちらを見ているのは、ひとりの少年の姿。
「――あ――」
 この子が。
 この子が、いなくなったのだろうか。
 部屋の中に居並ぶ人々と同じく、黒い髪と黒い目の、いたずらっぽくこちらを見ている少年。
 だが、驚いたのはそれだけではない。
 ――知っている。
 嘆きの中にいる、この少年を、シキョウは知っている。
「……」
 だって、何度も見たのだから。
 抱き締めた事だって、あるのだから。
 そうして。
 シキョウはそうして、少年の写真に一番近いところで涙に暮れている男女――恐らく、少年の両親と思われる二人に近づいていき、両手を大きく伸ばして、ぎゅっ……、と抱き締めたのだった。
 あまりにその悲しみが深すぎて、癒す事も出来はしないけれど。
 何故か、そうしなければいけない気がして――。
 次の瞬間、シキョウは建物の外にいた。いや、先程の建物のすぐ外ではなく、塀らしきもので囲まれた、草が生い茂る空き地の中に。
 そこには、枯れた花束と、新しく沿えてある花束と、玩具とお菓子が置かれていた。
 そして、その目の前には、そこだけ黒々と地面が何かを吸った跡が残っていて、
「……あ、ルベリア」
 何故ここに、これが咲いているのか分からないが、一輪だけ、想いを乗せると言われるルベリアの花が、先程見た輝石と同じく血のように真っ赤な色をしてゆらゆらと風に揺れていた。
 ――悲しみの想いが、深すぎて。
 それ以外の色になりようがなかったルベリア。
「……どうすればいいの?」
 その想いが凝って、凝り過ぎて、輝石と化したのだろうか。
 あの輝石がこの世界を垣間見せたのだろうか。
「どうすれば、あんなおもいをしなくて、すむの?」
 悲しすぎて。
 嘆きの声が、シキョウの心の奥にまで、悲しみを運んで来る。
「……シキョウ……わかんないよ……」
 膝を付き、掌を地面に押し当てる。そこに残る痕跡から、何かを読み取ろうとでもするように。
 その手の甲に、ぽたり、と、大粒の涙が落ちた。
 ――その途端。
 シキョウの掌から、酷く熱いものが流れ込み、そして目の前が真っ赤に染まり――シキョウは再び意識を失った。

*****

「……ちゃん。お嬢ちゃん」
「……はあいっ!? ――って、あれ?」
 きょときょとと辺りを見回す。
 そこは、元の闇市で、慣れ親しんだ匂いがシキョウの鼻をくすぐって来た。
「それに魅入られたか? 珍しい品だが、色が拙いのか誰も買わないんだがな。お陰で他の品もさっぱりだ。いっそお嬢ちゃんが引き取ってくれるかい?」
 そう言われ、シキョウは自分がルベリアをぎゅっと握り締めたままだったと気付く。
「えっとえっと、じゃあ」
 ごそごそと片手でポケットを引っくり返し、ようやく見つけ出したお小遣いをばっと店主へ突きつけるシキョウ。
「これで、かえる?」
 かっくん、と大きく首を傾けるシキョウに、
「……まあ……引き取ってくれと言ったのは俺だからな。いいだろ」
 覆面の内側で苦笑したような響きがあり、店主はシキョウから全財産を受け取ると、
「毎度あり」
 そう言って、満面の笑みでその場を立ち去る、闇市には似つかわしくない少女の後姿を見送ったのだった。
 一瞬前まで、この市場がどこか知らない場所へ飛ばされていた事にも気付く事無く。
 そして。
「……あれ? あれ?」
 シキョウがぎゅっと握り締めていた手を開いたそこにあったのは、澄んだ無色の輝石がひとつ。血の色をしていた輝石ではなく、だがあの輝石だと言う事は間違いなく。
 何時の間に、癒されでもしたのだろうか、とシキョウがもう一度首を傾げる。
 どうにかして手に入れて、時間をかけてもいいから、この輝石をシキョウの持つ輝石と同じような輝きを取り戻したいと思っていたのに拍子抜けしたシキョウが、でも、とにっこり笑う。
「これでだいじょうぶね?」
 それなら、贈れるかもしれない。この輝石を、あの人に。
「――シキョウ! てめぇ何やりやがった!?」
 戻る時に別の場所に飛ばされたのか、両腕に大量の荷物を抱えたままもう一度走りこんで来たゼンが、にこにこと、嬉しそうに、そして照れくさそうに笑うシキョウに何かを感じたのか、それ以上怒鳴る事はせずに立ち止まった。
「あのねあのね、ゼンにあげたいものがあるの」
「ああん? んな事してる暇はねえだろ? どうせどっかで買い食いでもした余りモノなんだろうが」
 まだ買わなきゃいけねえものが山のようにあるんだからな、と続けたゼンが、首を振りながらシキョウが恐る恐る手の上に乗せてゼンへと差し出したものを見て、一瞬顔を引き締める。
「……うけとって、くれる?」
「どっからこれ……っつうか、いつの間にルベリアなんか精製したんだ」
「ううん。ちがうの」
 ふるふるともう一度首を振って、
「でも、これ、ゼンのだよ。ゼンにあげるってきめたの。……うけとって、くれる?」
 想いを乗せるルベリアの輝石。
 それは、生半可な事で手に入る物ではなく、ましてこのように綺麗な輝きを見せる結晶は、それこそ余程の想いを込めなければ出来るものではない。
「……ったく」
 顔を顰めつつ、ゼンはひとつため息を付くと、荷物を降ろしてシキョウの手にあったそれを引ったくるようにして握り締めた。
「受け取らねぇとてめぇはしつこいからな。いいか? 俺たちは買い物に来てるんだ。これ以上余計な手間かけたくねぇんだよ。それだけだぞ分かったか?」
 何故か早口でそう言うと、ぷいと横を向いて、それでも絶対に落としそうにない服の内側にあるポケットへ仕舞いこむゼンに、シキョウがにこにこ顔で「うんっ!」と頷いた。

 握り締めた時。
 一瞬、一瞬だけ、もう忘れてしまいそうな遠い記憶が浮かび上がったのは、口に出してなど言えるわけが無い。
 ましてや、そんな思いを抱かせるこの石の由来など知る筈も無いシキョウになど。
 だから、聞かなかった。どうやって輝石を手に入れたのかと。
 自分ひとりの胸に仕舞っておけばいい事だから。

 受け取ってくれた。
 ルベリアが、恋人や夫婦、家族の間で交換するのがセオリーだと知っているのに、受け取ってくれた。
 それだけで、シキョウは満足だった。
 何となく戻って来てから体が重いような気もするが、そんなものは今の嬉しい気持ちに比べたらどうと言う事は無い。
「つぎはどこにいくの?」
「こっちだ。――ったくよぉ、てめぇがうろちょろしなかったらもう終わってんだぞ? 能天気に笑いやがって分かってんのかてめぇは」
「えー? だって、おかいものたのしいよ?」
「これだけの量を買えと言われてもかよ!」
 まだぶつぶつと文句を言うゼンに、シキョウがにこにこと笑いながらその後を付いていく。自分の体に起こった僅かな変化に気付かないまま。

 ――ルベリア。
 精製するために必要とされるものは、想いそのものの力であり、善悪、あるいは喜びや悲しみの区別は無い。
 そして、例えば悲しみの想いでもって精製された石と言うものは、嘆きの輝石とも呼ばれ、それを手にする者に悲しみと不幸を運ぶと言われている。
 ……もちろん、石の浄化など、簡単に出来る筈は無い。それは、その石が出来るだけの想いの力以上の代償が必要とされるのだった。
 今。
 シキョウの中には、『それ』が大量に流れ込んでいる。
 そして、シキョウも気付かぬうちに、彼女はひとつの大きな選択をしてしまっていた。
 輝石の悲しみの元となった、少年。
 その人生の一部を、自ら背負ってしまうと言う選択を。
 それが、今後のシキョウにどういった影響を与えるか、彼女自身を含め誰ひとりとして予想だに出来ない事であった。

 ――尤も。
 ゼンに関係する事ならば、シキョウは喜んで何度でもその代償を受けたのだろうけれど。


-END-