<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
喫茶店“ティクルア”【サンタ×プレゼント×Xmasパーティ】
■□■
台所に立ちながら、リンク エルフィアは喫茶店の後片付けをしていた。
持っていたお皿をタオルで綺麗に拭き、まだ泡のついているお皿を、水で洗い流す。
シャリアーが上で遊んでいるらしく、時折バタバタと走る音が聞こえてくる。
閉店後のティクルアの日常風景に、リンクは思わずほっと息をついていた。
今日もかなり忙しかった・・・。クルクルと店内を回り、注文をとったり、料理を運んだり、たまの休憩時間にはシャリアーと遊んだり・・・。
あとは晩御飯を作り、シャリアーを寝かしつければ、今日のリンクの仕事は全て終わりだ。
「もうこんな時期なのね。」
リタ ツヴァイのそんな一言に、リンクはふいと顔を上げた。
窓ガラスは、中と外の温度差に耐え切れずに真っ白に染まり、外の光景を淡くぼかす。
とは言っても・・・例え窓の外が見えたところで、闇夜の中で見えるものと言ったら夜空に瞬く星ぐらいではないだろうか?
それも、かなり窓に近づいて上を見上げなければ見えないが・・・。
「どうしたの?急に。」
「そう言えば、今日は聖夜だったわね。」
「・・・何言ってるのさ。ついさっきまでクリスマスディナー作っておきながら。」
「あら、あれは無意識なんだから仕方がないでしょう。」
「無意識って・・・変なもの入れなかった〜?」
「・・・変なものが入っていたら、今頃大騒ぎでしょう?」
「どうだろうね。生きてれば大騒ぎだろうけど・・・・。」
「そんなに殺傷能力が高いものを作った覚えはないんだけれど。」
リタが苦笑する。
「あれ?シャリアーが大人しい・・・。寝ちゃったかな?」
「まさか。まだご飯を食べていないし、第一リンクが寝かしつけない限りはどんなに眠くても自分から寝たりしないわ。・・・何かあったのかしら?」
「ちょっと、俺が行って来る。リタは此処に残ってて。」
「えぇ・・・。」
普段はゆったりとした時間が流れるティクルアだったが、今日は少し違う。
張り詰めた雰囲気が、喫茶店内に漂っていた―――。
―――その頃2階では
突如窓の外を人面草と霊魂軍団が通り過ぎた。
あまりの衝撃に、パタパタと走って遊んでいたシャリアーはその場に固まった。
何が起こってるのぉ?と、小首を傾げていると、次に現れたのは桃色の橇だった。
そして―――その橇に乗っている人物を見やると、シャリアーはぱぁっと顔を輝かせた。
喫茶店『ティクルア』の2階の窓の外、オーマ シュヴァルツは橇を止めると小さな窓から部屋の中へと降り立った。
「オーマちゃんなのっ!」
この喫茶店の看板娘、シャリアーがそう言って、パタパタとオーマに走り寄ると、足に抱きついた。
「おうおうおう、元気だったかぁ〜!?」
足に抱きつくシャリアーを抱きかかえ、そのピンク色の髪をくしゃくしゃと撫ぜる。
少しくすぐったそうに目を閉じて、にっこりと微笑むと、シャリアーは言った。
「元気だったのぉ〜!オーマちゃんも、元気そーなのぉ!でも、どうしたのぉ?お2階に御用なのぉ??リタとリンクは喫茶店の方だよぉ??」
そう言った時、シャリアーはふと、オーマの着ている服が目に入った。
普段のワイルドな格好とは少々違う―――『下僕主夫上等筋★』と刺繍された赤い服・・・勿論、シャリアーには『下僕主夫上等筋』と言う言葉は読めなかったが・・・。
「わぁ、お星様なのぉ〜!」
そう言って、撫ぜるのは『★』の部分だ。刺繍された言葉の中で、唯一シャリアーが分かるものだった。
「今日来たのはなぁ、何もリンクとリタに用があってと言うわけでもねぇんだ。おう、勿論用ならあるっちゃーあるんだが・・・」
ニヤリと微笑んだオーマを、シャリアーは不思議そうに見つめた。
「あ!オーマちゃん、サンタさんなのぉ?」
じーっと見つめるうち、シャリアーの視界に入ってきた赤い帽子に、思わずそう叫んでいた。
「おう!アニキスマイルギラリマッチョサンタが喫茶店ティクルアに親父愛を届けに降臨だ!」
「こうりんだぁ〜っ!」
シャリアーが満面の笑みで片手を天井に突き上げる。
「え・・・オーマさん・・・?」
階下から顔をのぞかせたリンクに、オーマはビっ!と親指を差し出した。
「腹黒むっふん☆聖夜カーニバル!」
「いえいえ、何ですか急に・・・。それよりオーマさん、主夫業は大丈夫なんですか?」
お家の方が心配されませんか?と、小首を傾げたリンクの突っ込みに、オーマは満面の笑みを返した後でシャリアーをトンと床に下ろした。
「下僕主夫バイト中のサボりマッスルムネドキタイムに突っ込みは・・・大胸筋リフレクト!」
笑顔のまま近づくオーマに、リンクは青い顔をしながら視線を左右に揺らした。
絶体絶命の大ピンチ☆に、助けはない。
「だいきょーきん・・・りふれくとなのぉ??」
唯一止められるポジションに居るシャリアーは、こんな調子だし・・・。
「お・・・オーマさん、えーっと・・・」
「あらぁ?オーマさんじゃないですか〜。何時の間にいらしてたんです?」
ふわりと、穏やかな笑顔を浮かべながら立っていたのはリタだった。
中々戻ってこないリンクを心配してか、上がってきたようだった。
「リタ!オーマちゃんね、サンタさんなのっ!」
「まぁ、そうなんですか??」
「おー!ここも一応配達先指定でなぁ。」
「そうですか・・・。聖夜にプレゼント配りなんて大変ですね〜。」
リタがそう言って、おっとりとした微笑を浮かべる。
「リタ!見てなのっ!窓の外にトナカイさんとソリさんがいるのっ!」
シャリアーがリタの手を引きながら、パタパタと窓に走って行き・・・人面草と霊魂軍団、そしてあり得ないくらいにピンク色をした橇を見つめる。
「シャリアー!!それはトナカイじゃないっ!!」
「えー。だって、ソリ引いてるからトナカイさんなのっ!」
あんなに絵本を読んで、トナカイさんはこれだよ〜と教えてあげたのに・・・教えてあげたのに・・・。
リンクは思わずその場にペタンと膝をついていた。
「おうおうおう、3人とも、ちーっとお願いがあるんだけどよぉ。」
「なんですか?」
「一緒にプレゼントをマッスル配ってくれねぇか?」
「シャリー達もサンタさんになれるのぉ!?」
シャリアーが満面の笑みでオーマに飛びつく。それを難なく受け止めると、オーマはリンクとリタに視線を向けた。
「良いですね。聖夜にサンタさんの格好をしてプレゼントを配る・・・素敵じゃないですか。ね、リンク?」
「まぁ、シャリアーもその気だし・・・。」
「んじゃ、決まりっつー事で・・・。」
オーマはそう言うと、持っていた巨大な桃色の風呂敷から3人に何故かぴったりのサイズのサンタ衣装を取り出した。
「さぁ、コレに着替えて・・・!」
3人がそそくさと部屋を出て行き、帰って来た時には真っ赤な衣装に身を包んでいた。
オーマ同様『下僕主夫上等筋★』としっかり刺繍されてはいるが・・・。
「・・・なんでこんなにぴったりなんですか・・・。」
着終わったリンクがそう呟くが、オーマはそんな質問はギラリマッチョモード全開でさらりと流した。
桃色風呂敷の中からお次に取り出したのは・・・ガリバー宜しくなマッスルアニキ立体模型付きトンネルだ。
「巨大とは言え、風呂敷の中からなんでそんなに次々・・・と言うか、なんで模型が・・・?」
超現実主義的な事を言うリンクに、オーマはにこやかに微笑みかけた。
本当に純粋な微笑みに、リンクがふいっと視線を逸らす。
「・・・・ごめんなさい・・・・。」
何で謝られたのかは定かではないが・・・・・・。
「それじゃぁ、こん中を通ってくれ〜!」
「シャリーが最初に行くのっ!」
そう言ってシャリアーが喜び勇んでトンネルを通り、次にリタが通り、最後にリンクが通った。
「あらあら〜、不思議ね〜!周りのものが大きくなったわ!」
「オーマちゃんもビッグなのぉ〜!」
「違いますよっ!俺達が縮んだんですっ!!」
リンクの言葉に、シャリアーとリタが小首を傾げる。まったくもって理解していなさそうな反応に、リンクが盛大な溜息をつく。
「しかも、なんでマッチョになってるんですか〜っ!!」
「まぁ、マッチョですよ!シャリアー、マッチョです!」
「シャリーもマッチョなのぉ〜!ムキムキなのぉ〜!」
ミラクルマッチョ、全員ミニマム化を見届けたオーマも、トンネルを潜って皆と同じ大きさになる。
とは言え、元の身長の違いもある分他の3人と比べてオーマの方がかなり背が高かったが・・・。
「良かったですねリンク!なんの努力も要らずにマッチョになれて。」
リタが無邪気な微笑をリンクに向ける。
「・・・俺が何時、マッチョになりたいと言いましたか??」
「マッチョなの!マッチョなのぉ〜!オーマちゃんも、リタもリンクも、シャリーもマッチョなのぉ〜!」
「それじゃぁ、聖筋夜★ビバぷりぷりサンタバトルアニキ聖歌inティクルアでもおっぱじめるか!」
「ぷりぷりサンタバトルなのぉ〜!」
「頑張りましょうね!」
「・・・なんで俺しかツッコミがいないのかなぁ・・・。」
そんなリンクの溜息は完全に無視の方向で―――。
□■□
「まずは、むっふんプリティー腹筋ミニマム達にプレゼントを配るかっ!」
「むっふん・・・え・・・?」
リンクが小首を傾げる。
屋根裏に上がる小さな階段・・・無論、今では超巨大階段になってはいるが・・・をオーマが上り、続いてリタ、シャリアー、リンクと続く。
危なっかしいシャリアーをリンクが抱き、オーマがリタを気にしながら上にのぼる。
着いた先は薄暗い屋根裏だった。月明かりがボンヤリと入ってくる他は光らしい光はない。
オーマが持っていた小さな蝋燭に明かりを灯す・・・・・・。
「おうおうおう、親父マッスルアニキラブリー胸キュンプレゼントだぜぇ〜!」
そう言ってオーマが叫ぶと、いたるところから鼠や子兎等の小動物が・・・。
「わぁっ!ウサギさんなのっ!」
「こんなに屋根裏に沢山動物さんが住んでいるとは思いませんでしたわ〜。」
「リタ!自分のお店なんだから、そのくらいの管理はしといてよ!ってかオーマさん、ここにも配達ですか!?」
リンクの声に、オーマは1人1人―――もとい、1匹1匹にプレゼントをあげながら呟いた。
「そこにも配達かとかの突っ込みは腹黒四の字固めっ!」
「・・・・ごめんなさい・・・。」
素直に謝ると、リンクはリタの背後に隠れた。
「シャリーも配りたいのっ!」
「ほら、それじゃぁゆっくり・・・驚かさないようにあげるんだ・・・」
オーマがシャリアーに小さな箱を1つ手渡した。
シャリアーが慎重な手つきで箱を目の前の鼠に差し出す・・・。
鼠が警戒したように少しビクリと肩を震わせ、恐る恐る近づき―――シャリアーの手からプレゼントを受け取った。
「出来たのっ!オーマちゃん、見たぁ!?」
満面の笑みで自慢そうに言うシャリアーの頭を優しく撫ぜる。
「それでは、私達もお手伝いいたしましょうか。」
「そうだね。」
リタとリンクにもプレゼントを渡し、どこからともなくパラパラとやって来る小動物の皆さんにプレゼントを手渡して行く。
中には警戒心むき出しで、手からプレゼントを取った瞬間に脱兎のごとく逃げるものもいれば、反対にゆっくりと、確かめるようにプレゼントを受け取って小さくお辞儀をしてから去って行くものもいる。
「みんな、バラバラなのぉ・・・??」
「だから楽しいんじゃねぇか。」
シャリアーの呟きに、オーマはそう応えるとニカっと微笑んだ。
プレゼントと共に、ついでに親父愛もばら撒く。
どちらもタダだ。
それでも、どちらも優しい気持ちになれる事だけは確かだ。
温かい雰囲気がティクルアの屋根裏に広がる。
大きな袋の中に入っていたプレゼント達は、瞬く間に誰かの手に渡って行った・・・・・。
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全てのプレゼントが配り終わると、オーマ達は階下におりて先ほどのトンネルを今度は反対から潜った。
元の大きさになり、割れていた腹筋が元に戻る。ついでに、各部分も3分の1ほどの太さに縮小される。
「マッチョ、楽しかったのぉ〜!!」
「・・・シャリアーのマッチョはちょっと・・・。」
リンクがそう言って、額に手を当てた。
苦悩しているかの表情に、オーマは思わず噴出すと、リンクの銀色の髪をわしゃわしゃと撫ぜた。
「まぁ、マッチョどーこーは置いていて、助かったな。」
「いいえ〜。私達も、貴重な経験させていただいて・・・ね、シャリアー?」
「うんなのっ!オーマちゃん、大好きなのっ!」
シャリアーがピンク色の髪をブンと振りながら、元気良く言った。
「まぁ、手伝ってもらった御礼と言っちゃぁなんだが・・・Xmasパーティでもいっちょやっかぁ〜!?」
「そう言えば、まだ夜ご飯食べてませんでしたね。」
「お客様のディナーが早い時間だったからね・・・。」
「パーティなのっ!パーティなのぉっ!」
「お料理はどうしますか?材料ならありますけれど・・・・」
「この、腹黒親父下僕主夫マッスル腹筋むっふん★オーマ様が腕を奮って御馳走すっかぁ!」
その言葉に、リタとリンクが顔を見合わせる。
「それじゃぁ、俺達もお手伝いを・・・」
「オーマさんが今夜の料理長ですね。」
「おぉっし!それじゃぁ、聖筋夜★ミラクルマッチョパーティinティクルアの開催かぁ〜?」
「ミラクルマッチョパーティなのぉっ!」
興奮したシャリアーがピョンピョンと飛び跳ね、オーマに抱きついたりリタに抱きついたりする。
一足先にリンクが階下におり、必要そうなものを見繕って台所に置いて行く。
ここから先は、オーマの腕の見せ所だった。
手際良く、色とりどりの料理を沢山作って行く。
美味しそうな香りが漂い、温かい雰囲気がティクルアに流れる。
オーマがチキンを焼き、リタが苺のケーキを作る。
リンクがグラスに甘い林檎ジュースを注ぎ、シャリアーがお皿をテーブルの上に置いて行く。
全ての料理が揃ったところで、席に着き、カチリとグラス同士をぶつける。
美味しい料理達は自然と笑顔を作り出し、会話を弾ませる。
<Close>の看板がかかる喫茶店。
その中から香るのは美味しそうなご馳走の香り。
聞こえてくるのは賑やかな話し声。
ゆったりとした雰囲気が流れる喫茶店『ティクルア』も、今日ばかりは弾む会話に時を任せて・・・。
「またのお越しを、心よりお待ち申し上げております。」
〈Close〉
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1953/オーマ シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り
NPC/リタ ツヴァイ /女性/18歳/喫茶店の店長
NPC/リンク エルフィア /男性/15歳/喫茶店のウェイター
NPC/シャリアー /女性/10歳/喫茶店の看板娘
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■ ライター通信 ■
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この度は、喫茶店『ティクルア』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、いつもお世話になっております。
さて、如何でしたでしょうか?
メニュー番号は10番と言う事で、スペシャルメニューをご用意させていただきました。
前半はテンポ良く、後半はまったりとした雰囲気を出せていればと思います。
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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