<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


【ダーリンを探して!】

 日が傾きかけた頃、聞きなれない女性の声が店内に響いていた。
「そうなのよ! 私のダーリンといったら、いつも――」
「あらあら」
 エスメラルダに話しかけている女性はココといい、最近エルザードに来たばかりと話した。ベールで覆い素顔を隠していたが、今は邪魔なのか顎まで下げている。
「うーん! このお酒最高。もう一杯追加ね」
「今日はそのくらいにしたら? 依頼、持ってきたのでしょ?」
「そうそう、ダーリンがいなくなったのよ」
 当たり前のように言った様子にエスメラルダは心で色々思いつつ、
「どのようなものかしら? ここのお客さん達は結構なんでも引き受けてくれるわよ」
「まぁ、心強いわ。内容はえっと――ダーリンがいなくなっちゃって、探しようにもエルザードって慣れてないのよね、私まで迷ってしまったらダメじゃない。心当たりはあるのだけどね。それで知り合いに聞いたら、ここで募集したらいいと言ってて。誰かいないかしら?」
 ココは他の客席を見渡し、問いかけた。

 バンッという音とともに扉は開かれ、外から1人の男が黒山羊亭に入ってきた。
「話は人面草の陰から聞いたぜ!! その話、このオーマに任せてくれねぇか?」
 オーマといった男は親指をビシッと立て、ウインクした。
「あら頼もしい。じゃあさっそく」
「ちょっと待ってください」
 ココの隣で飲んでいた一人の青年が待ったをかけた。
「オーマさん一人じゃ、何をしでかすか分かりません。僕も一緒に探します」
「おうおうアイラス。お前そんなこと言って、この姉ちゃんに惚れたんじゃねぇのかぁ?」
 ニヤニヤしながら聞くオーマを無視し、アイラスは自己紹介を始めた。
「僕はアイラス・サーリアスです。貴方は?」
「私はココよ。依頼内容は二人とも聞いているわね。あ、そうそう言い忘れていたけれど、探してほしい人の名前はヴィンセント・フィネス。通称ヴィンね。後はこの紙に書いたし、必要なアイテムも重ねて置いたから、寝るわね。おやすみなさい&がんばってね」
 大きなあくびをしてからココは、寝る体勢にはいってしまった。
「え」
 この状況に二人は驚いた。
「ちょ、ちょっとまて! オイオイ、こりゃねぇだろ??」
 二人は色々な情報を聞く気でいたし、喉までその内容が出掛かっていた。驚いたオーマはココの肩を揺すってみたが返事が無い。逆に何か嫌な予感がする。
 アイラスはため息をつき、紙に手をのばした。
「・・・とりあえずこの紙を見ましょう」
 今すぐにも叩き起こしたい――正直なところ、酔っ払いなので不安だったが、こういうことになるとは。
 見ると今はエスメラルダも肩を揺さぶっている。殴るも蹴るも耳元で叫んでも、起きる気配がまったくない。仕舞いには寝息までたてている。
 感情を抑えつつ、エスメラルダにココをまかせて、オーマと一緒に渡された紙を読むことにした。

  ○探してほしい人:ヴィンセント・フィネス。男。
  ○種族:見てからのお楽しみ
  ○髪の色:青
  ○心当たり:広場・菓子屋・木の上
         ・
         ・
         ・
  最後に、ヴィンに会ったらお面かぶった方がいいよ(キスマーク)
 (以下、補足としてヴィンセントに対する愛が語られていた)

「ぬぉぉぉぉ!!! 秘密の親父フェロモンBOXオイル満タン!! らぶりぃカカア天下ぁぁぁ!!!!!」
「落ち着いて下さい、オーマさん。迷惑ですよ」
 二人は心当たりの【広場】から考えて【天使の広場】に行くことにした。移動中、菓子屋を見つけると中を覗いてみたり、木の上を見たりしたが、青い髪の男は一人もいなかった。

 天使の広場。ここはソーンの中心地であるため、色々な種族の人や店が立ち並んでいる活気ある場所。
 二人は広場を歩き回って、やっと青い髪の男には会うことには会ったが「人違い」だと言った。
「しっかし、青い髪に軽装で器用でよく走るって・・・アイラスか?」
「僕じゃないですよ。まったく、今回はひどい依頼者さんですね、これじゃあ該当者が多すぎる」
 次にどこへ行くか、そう考え始めた時、オーマはふと服についてある【黒くて長いもの】に気が付き、思いついた。
 ニヤリとするとアイラスのほうを向き、
「行くぜ、アイラス」
「どこにですか? 迷惑はかけないでくださいね」
「大丈夫だって。成功したら一発で見つかるぞ!」
 ルンタッタ♪ルンタッタ♪進むオーマを背に、アイラスは風に吹かれ、寒さを感じた。

 エルザードから少し行った所に小高い山がある。そこに二人はいた。木々は葉を落とし、地面を鮮やかな赤で飾っていた。
「オーマさん、こんな所へ来て何をするつもりですか? 僕は少々寒いのですが」
「まぁまぁ待て、今からアレだ。楽しいショーのはじまりってやつよ」
 親指をビシッと立て、「まかせとけ!」というスマイルをしたあと、エルザードのほうへ向かって叫んだ。その手には何か握られている。
「マーチョマッチョ・テラマッチョ☆★☆下僕は下僕を呼びカカア天下に集う法則の書29ページ☆
 城てっぺんより、カカア天下のラブ電波フェロモンを風に乗せ、聖都中に漂わせ、この髪の持ち主の下僕、激ヤバ探偵団に追われし下僕を己が元へと運命の赤い下僕糸、手繰り寄せ導き大胸筋ホールドゲッチュウェルカムスタンバイ★☆★ いつでも来い!!」
 言い終わるとオーマは両手を大きく広げ、余韻に浸りながら待った。その様子を見ていたアイラスは、木枯らしに吹かれていた。

 遠くのほうから何かが凄い速度で向かってくる。それは近づくにつれオーマを喜ばせ、アイラスを困らせた。
「オーマの兄貴。例のものをゲッチュしましたゼィ」
「おう、いつも早くて助かるぜ」
 オイルで整えテカテカに光る髪の毛に黒のスーツ。パイプを燻らせ見た目は探偵。身体はボディービルダーの巨体が5体。熱気で湯気まで立っている。
「これがゲッチュしたものですワァン。ウッフンご馳走様」
 そのテカテカした腕に抱かれているのは一人の青年だった。青年はぐったりした様子で頬には大きなキスマーク。白目を向いている。
「えーっと、青い髪だな。それと軽装・・・コイツっぽいな。だよな、アイラス?」
 気を取り直して青年を観察したアイラスは、紙に書いてあった特徴と同じだと思った。しかし本人に確認しないと天使の広場の男のように人違いの場合がある。
 そう提案しようと口を開きかけた時、目の前にいる男の目が変わったような気がした。
 アイラスはお面を被った。
「まぁまぁまぁ!! アイラスさんですか。アッハン。噂はかねがね承っております。ウッフン。イヤン、こんなところで会えるやなんて、ワシは幸運の筋肉がついているかもしれませんワァン。ウフフどこにいらっしゃるのぉ?」
 男は目を輝かしながら辺りを探し始めた。
「・・・」
「まぁまぁ、っぽい奴は見つかったし、確認は起きてからとして。お前らありがとな! 頼んでよかったぜ」
「テッカリ探偵団に依頼されたものは全てパーフェクトだゼ。オーマの兄貴よ!さらヴァッ」
 男達は青い髪の青年を地面に置くと、笑いながら小高い山を去っていった。
 いつの間にか、落ち葉は桃色に変わっている。

 依然白目を向いたままの青年は目を覚まさない。
「おーい、起きろよー」
「大丈夫ですか? もしかして肋骨でも折れているかもしれませんよ」
「おいおい、そんなヤワな男は主夫になれねぇぞ」
 ピクッと青い髪の青年が反応した。
「目ぇ覚ましたら、オーマ直伝主夫の友を朗読しょうと思ったのによ」
 ピクッと青い髪の青年が反応した。
「オーマさん、この方はまだヴィンセントさんと分かったわけではないですよ」
「いやいや、主夫臭がこうも来る奴は絶対ヴィンだ」
「またそんなこと言って」
「ぼ・・・僕は主夫じゃ、ありません」
 青い髪の青年は服に引っ付いた葉を落としながら立ち上がった。
「こんにちは、僕を主夫と言った方々」
 笑顔でそう言ったが、目の奥は笑っていない。
「貴方がヴィンセントさんですか?」
「はい、そうです・・・が、僕はなぜここにいるのですか? さっき変な集団に襲われて」
 ヴィンセントは思い出したのか、目に涙が溢れている。
「ここはエルザードから少し離れた山の頂上です。貴方を探すために、ちょっとここで・・・まぁ、それで貴方をここに」
 アイラスはハンカチを取り出すとヴィンセントに渡した。
「有難う御座います。でもお二人さん。すぐにお面を被るか、逃げてください。キマス」
「え?」
 ヴィンセントは首を前に垂れ、まるで項垂れているようにし、腕も垂れ、左右に揺れた。
「お、おい、ヴィン」
 体から黒い煙が出、包み込む。
「ヴィンセントさん?!」
 完全にヴィンセントの体を包み込むと煙は丸くなった。
「いったい・・・何が」
 二人はただ目の前で行われている光景を見るだけしかできず、オーマは指示された通りお面を被ってみる事にした。
 アイラスが被ったお面はどこにでもあるような木彫りの面で、目と鼻と口の部分に穴が開いてあるだけのシンプルな物だったが、オーマが被ったお面は桃色ハート型の面だった。丁寧に穴は全部ハート型である。
「おぉ! すげぇぞこりゃあ♪ いい物貰ったっいでっ!!」
 オーマの頬に何かがぶつかった。ダメージは少ないが行き成りのことで心臓に悪かった。
「誰だ!」
 二人は見てみると、さっきまでヴィンセントが怪しい動きをしていた所に、ボーリングの玉位の大きさの丸いものが転がっている。
「むにゃ〜」
「なんだぁ??」
 丸いものが振り返ると、そこには顔があった。髪の毛もあったが、手足がない。小人の類ではないようだ。
「うおおおぉぉ!!! 人面ゴム鞠はっけぇぇぇん!!! 親父感激ぃぃぃ!!!!!」
 オーマはその巨体で喜びを表現し、目から大粒の涙を飛び散らかせた。
 その衝撃でお面は粉々に割れている。
「オーマさん、落ち着いてください! もう、こんな時に何をやっているんですか。ヴィンセントさんが変なゴム鞠になったんですよ」
「むにゃ〜!」
 どうやら【変】と言われて怒ったようである。
 人面ゴム鞠ヴィンセントは回転スピードを上げ、アイラスに体当たりしようと構えた。
 その様子に気づいたアイラスは隙を狙おうと攻撃態勢に入る。
「むにゃ〜!」
「ダーリィィィン!!!」
 町の方から爆音のような音と砂煙が叫び声と共に誰かが走ってくる。その誰かはヴィンセントをさっと拾うと止まり、力強く抱いている。
「もう何処に行っていたのよ、ダーリン! 探されちゃったじゃないの」
 ヴィンセント抱っこしているのはココであった。ヴィンセントの気配を感じ取り、黒山羊亭から走ってきたようである。おかげで綺麗なドレスが砂まみれである。
「あら、アイラスさんにオーマさん。お疲れ様です。どうやら目立ったケガもないようで、運が良いのですね。ダーリン、一度大怪我させちゃって。おほほ」
「は、はぁ。そうですか」
 アイラスはお面を取り、状況を把握しようと思ったが、疲れて今すぐにでも部屋で寝たい気分だ。
「では、これが報酬です。またご縁がありましたら、失礼します」
 ココは二人に袋を渡すと、指を鳴らし音が消えると同時に姿を消した。
『言い忘れましたが、僕が人間の姿になったこと、秘密にしといてくださいね』
 ヴィンセントの声が空から降ってきた。
「またな! らぶりぃ人面ゴム鞠!」
 オーマは名残惜しそうに声がしてきた空に向かって叫んだ。
「さて、袋の中身はなんでしょうかね。危険な気配はしないのですが、どれどれ」
 袋の中にはそれぞれ2枚のチョコチップクッキーが入ってあった。
 さっそくオーマは口の中に入れたが、次の瞬間、顔を引きつらせた。
「あ、あめぇ!!! なんじゃこの甘さは」
「ココさんがくれたので何かあると思いましたが・・・」

 今日一日、本当にお疲れ様でした。
 そう言って二人はそれぞれの家へと帰った。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳(19歳)/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】

 NPC
 エスメラルダ
 ココ
 ヴィンセント・フィネス

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■         ライター通信          ■
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  初めまして、アイラス様。田村鈴楼と申します。この度、ご参加有難う御座います!
 どうだったでしょうか? 少しでもよかったと思って頂いたら幸いです。
 今回初の執筆作品で、時には緊張し、時には爆発して書いたもので、至らない点が多々あると思いますが、
 ご感想等ありましたら、ご連絡ください。今後の参考にします。
 またお会いできることを祈って。