<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


『私のコレクション』

 ソーン中心通りにある、白山羊亭。
 料理が美味しいことで知られる評判の酒場である。
 この酒場では、様々な依頼を受けることができる。
 それだけではなく、興味深い噂話も毎日耳にすることができるのだ。

 そんな噂話の一つ。
 今、冒険者達の専らの話題は、路地裏にある、古びた奇妙なお店のことであった。
「あの店、出るんだぜ。毎晩、女性の呻き声が聞こえるんだ。何かを欲しがっているような」
「俺も聞いた。気味わりぃよな、確か、う……なんとかが欲しいとか……」
「でさ、そこを訪れた冒険者は、皆呪われて『アフロ』になっちまうんだって」
「アフロ? 男でも、女でも? どんな髪型でも?」
「そうだって噂だぜ」
「そうだ、最後は『ち』だった気がする。うぅち?」
「う、うぅ血が欲しいとか!?」
「いや、血とは限らないだろ……最初が『う』で最後が『ち』」
「う〜ち……う〜ち……ってまさか、アレってことはないよな」
「それなら貰わなくても」
「きっと、貧乏でロクなもの食べてないのよ(ほろり)」
「つーか、むしろ幽霊にそれは無縁だろ」
「だからこそ、恋しいんじゃないか?」

 ――さて、ここに一人の男……いや、マッチョがいる。
 彼の名はオーマ・シュヴァルツ。
 巨体ド派手強面筋肉ナイスマッチョ!
 噂を聞き……いや、筋肉で感じ取った彼が、ついに立ち上がったのだ。
「アレだな。聖筋界アフロ美筋に染め染めマッチョカリスマ美容師マニア★でも出やがったんかね?」
 ギラリと腹黒筋肉が光る。
 期待に大胸筋が乱舞する。
 聖獣界の平和の為に!(嘘)
 己の好奇心を満たすために!(半分本当)
 筋肉の赴くままに、路地裏の調査に乗り出したのであった!!

*****

 噂の店はすくに判った。
 古びた、小汚い店だ。
 良くいえば、趣のある小汚い崩れかけた、いかにも出そうでなんだか臭いそうな店か。
「べん……屋?」
 崩れかけた看板には、どうやら『べんとう屋』と書いてあるらしい。『とう』の字が消えかかっている。
 ドアを押し、店内に入る。
「いらっしゃい」
 元気の無い声だ。
 オーマはその草臥れた様子の老婆に、話を聞くことにする。
「この付近に幽霊が出ると聞いてきたんだが」
「なんだい、お前さんも、トイレ客か! トイレは貸しとらんよ!!」
「いや、アフロのな」
「どうしてもというのなら、出すもん出してもらおうか!!」
「いや、呪いがな」
「鈍いだと! わたしゃ仕事は速いんじゃ、材料がないだけで!」
 ……。全っっ然話が噛み合わない!!
 小一時間ほど、そんな楽し〜い会話を続けた後には、老婆はぐったり倒れこんでいた。
「トイレを貸さんというのに、出せとは……実に緊張感のある会話だった、うむ」
 オーマは一人満足気に、店を出る。
 楽しい会話の詳細はともかくとして……。
 大体の状況は解った。
 この店は、弁当屋なのだが、老婆の博打好きが原因して、毎月米を買うお金もないということだ。
 老婆は、毎晩う〜ちの夢を見るという。う〜ちに埋もれる夢である。
 う〜ちを切望するが故に見る夢である。う〜ちをフンだんに食べる幸せいっぱいの夢だ。
 その歓喜の声がうめき声のように、外を歩く冒険者に聞こえたのだ。
(※ちなみに、〜には「る」が入るのだが、ここは違うものを想像してほしいので、あえて〜と表しておく!)
 なんでもその噂のお陰で、頭の薄い客が急増し、トイレだけ借りて帰っていく有様だという。
 なかには、老婆をトイレに連れ込んで、出したものを見せようとする客までいるそうだ。
「これじゃ、弁当屋じゃなく、大便屋じゃー!!」
 老婆の悲痛な叫びは、オーマの大胸筋にビシッと届いた。
 なんて悲しく不憫で、自業自得の人騒がせな人なんだッ。
 そういうわけで、全ての謎は解けたのであーる。

*****

 とはいえ。
 まだ一つ解けていない謎がある。
 それこそがオーマの新の目的だのだ。
 夜、再び彼は店に現れる。
 その頭は、虹色。
 虹色アフロ!
 筋肉にはアフロ下僕主夫ムテ筋グ★刺繍入り大胸筋全開桃色特攻服を纏っている。
 実は日中、具現精神感応で店内を探ってある。
 妙な部屋が一部屋存在している。
 老婆に聞いたところ、開かずの間だという。10年の間、誰も立ち入ったことのない部屋。
 ……孫以外は。
 つまり下宿している孫の部屋なのね。孫に締め出されていれてももらえないわけね。店舗のほか、一部屋しかないから、自分は店舗で寝てるのねッ(ほろり)。
 オーマは、下僕主夫第一体操で身体を解し、準備を整える。
「う〜ち。う〜ちが欲しい……。う〜ちをください。ああ、う〜ちぃ」
 素敵な声が聞こえる。
 途端!
 ピカアァァァッと、オーマの虹色アフロが七色に輝く!
 胸筋に潜む親父愛がビビビと反応をする。
「あそこか。あそこが根城か!」
 オーマは声の元へ走る。むしろ、部屋は一つしかないので、そこしかないのだがッ!!
 窓枠を難なく外し、ヒラリと部屋に入り込む筋肉の塊。
 部屋の中は真っ暗だった。
 次第に目が慣れる。
 アフロ人形。
 アフロな犬のぬいぐるみ。
 アフロな猫のぬいぐるみ。
 アフロな魚のぬいぐるみ。
 アフロな蝿のぬいぐるみ。
 アフロなミジンコのぬいぐるみ。
(以下ズバッと略!)
 部屋の中はアフロだらけであった。
「何て、ナイスな部屋なんだ!」
 オーマは深く感激した。筋肉が痙攣を起こすくらい。
「きゃ〜〜〜〜〜っ!!!」
 突然、黄色い声が筋肉に響いた。
「なんて素敵なアフロなのっ(はあと)」
 そこには、ネグリジュを着た少女の姿。
 年齢は15歳くらいだろうか。
「起してしまったか。すまない。だがしかーし! 何故にアフロを求めるのだ!? おまえの仕業でいまや街のアフロ人口は以前の1.05倍へと伸びている! これを黙認できるか? 否。早急に2倍へすべく速度をあげるべし!」
 そういう問題ではございません。
「きゃああ、私のコレクションになってぇ〜っ」
 突然、少女が飛びついてくる。オーマのアフロ目指して一直線にベッドからジャンプ!
 ぱさり。
 虹色アフロが落ちる。
「か、カツラ……。ダメよ、ダメ。そんなのダメよ。あなたみたいにアフロが似合う人が、そんな普通の頭じゃ!」
 取り出したるは、大砲のような筒。
「なるほど、それがアフロ製造機か」
「私の10年の研究の成果を受けなさい! アフロのアフロによる、アフロの為の世界に!!」
 どばーんと、光の玉がオーマに向けて発射される。
「たかが10年の研究で、この俺の筋肉が破れると思ったか!」
 少女の熱い愛を、ガバッと胸をはだけ、大胸筋で受け止めるオーマ。
 弾かれた光は、七色に変化をする。
 辺りに飛び散り、少女は目を瞑る。
「い、いやあああああああ!!」
 目を開けた途端、少女が絶叫する。
「わ、私のアフロちゃん、アフロくん、アフロレディ、アフロボォイ、アフロっちー!(以下略)」
 すべて。す・べ・て。素敵なアフロたちが、モヒカンへと変化していたのだッ。
 泣き崩れる少女を、大きな手で撫でて慰めるオーマ。
「偉大なお前の研究も、親父愛下僕主夫力には適わなかったということだ。どうだ、これを期に家計火の車アニキ応援光熱費無料呪い装置でも作ってみないか?」
「おじさまが、アフロヘアーになって、私の部屋に飾られてくれるのならっ」
「む、構わん。画家を手配しよう」
「ううん、剥製になってっ。でないと、今夜のおじさまとのあつぅい夜の出来事を皆に話してしまうかもしれないわ、私……」
「まて、食費無料呪いの方がいいか……。美味しいものを家族に食べさせてやれるからな!」
「装置の開発の為に、50年ローンを組んでね☆」
「いや、家賃、宿泊費無料も捨て難い……」
「それじゃ、早速開発よ!」
「ぽん。全て無料。これが一番! 頼むぞ、娘」
「まっかせといて〜!」
 とんでもない約束をさせられていた、オーマである。でも、本人発想に夢中で気付いてな〜い。装置の成功を夢見ながら、るんたったと家族の元に帰っていくオーマだった。
「ああ、そうだ。消えかかった文字を書いてやるか」
 帰り際、店の前で看板に『大』の文字を刻む。
 今度こそ、全ての謎は解けたのである!

*****

 白山羊亭は今日も冒険者達でにぎわっている。
「知っているか、あの店!」
「ああ、呪いの大べん……店だろ!」
「そうそう、通りかかっただけで、呪われることもあるそうだぜ!」
「昨晩、出たんだってな」
「うん、突然周囲が光ったと思ったら」
「通りかかった人物と、近隣の住民全員」
「モ・ヒ・カ・ンになっちまったんだと!!」

 真冬の世にも恐ろしい小話であった。

おしまい☆

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男性 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、川岸満里亜です。ご参加ありがとうございました!
 ……もちろん、少女もモヒカンになってますよ。本人気付いていないだけでッ。