<PCあけましておめでとうノベル・2006>
新年の良き日に
年が明ける。
明けようとしている空に掛かるのは鮮やかな緋の色。
何処までもあかくあかく、染め上げるような空の色に新年の空気を思う。
……新年、始まりの日だけは、どういう訳だか空気が清い。
何故だろう。
何時の日であろうとも空気も何も変わるはずが無いのに「清い」と思うのは。
それは――、
「誰に聞いても解ることじゃないな」
オセロットは、そのまま、いつもどおりの所作で窓の近くへと腰掛けると煙草を咥え、火を点けた。
紫煙が立ち上がり、天井まで届くと霧散され、消える。
決まった事が当たり前のように起こる。
当然だと誰かが定めたように。
その誰かを何と言うかは解らないし、喩え、解ったとしても呼びはしない。
自分にとって、「それ」は、不要なものだ。
不要なものとは必要ないもの、解らなくても困らないもの――……、そう言うものだから。
だから、清いものは清いままで置いておく。それでいい。
短くなった最初の一本を灰皿にねじ込み、オセロットは新年と言う日の今日、過去の自分を振り返る。
――鮮やかな色に、自らが居た場所へと置き換えて。
+
戦うものは常に、その身体を戦場に置く。
上からの要請があれば尚の事。
綿密な計画を練り、勝利を手にするまで帰ることは許されない。
いいや、許されたとしても、それは部隊の大部分が壊滅状態にまで陥り命からがら逃げる事が許された時のみだ。
だから、兵士は生身の身体を戦場に置く。
一日でも多く、一秒でも長く、生き延びる為。
そうして、オセロットにもそんな身体を持つ事があったのだ。
人は無から生まれない。
現実があり、過程があり結果があって人は自らの形を形作っていく。
銃を持つ事で女性特有の柔らかさを持つ身体は硬くなり、銃での衝撃に耐えられるようになった。
日々、怠ること無い訓練で男性の輪に入っても遜色ない……いいや、それ以上だと言われるほど強くもなり。
だが、それでも。
それでも人の身体では限りがある。
身体は一つ、命も一つ。直ぐに交換のきく生身のスペアなどあろう筈も無い。
ならば。
何故、自分があの時死ななかったかとオセロットは何度も思いを馳せ、その度、紫煙をくゆらせてしまう。
――父が死んだ戦い。
どのように身体を鍛えようと、生身の身体に限りがある事をまざまざと教えられたあの日。
師匠である父が死ぬような事があるのかと、死ぬのなら自分が先だろうと自嘲気味に思った事もあった。
なのに、運が選んだ相手は父親その人。
――何故だ?
答えなど出る訳も無い。
結果は結果として差し出される。
過程の何処で間違えたかなど明記される事も無く。
そうして、オセロットは父が死んだその戦いで、同様に瀕死の重傷を負い、それをきっかけに身体を鋼へと変えた。
自分が元々持っていたものではない、冷たい鋼へ身体を差し替えた時に、去来した感情を何と言うか知らない。
そして、その時から絶えずオセロットの中にある事。
それは――……、
+
例えば、この瞳が見てるからと言って、心までが見てるとは限らないように。
例えば、今、この腕が物体を握り潰したとしても感覚が身体全体に伝わってるのか、と言われたら答えられないように。
変わらないものが、日々変わりつつあるものの中に置かれる矛盾。
新年とは日々変わるものの中において最も解りやすいものだ。
新年。
新しい年の幕開け、新しい日。
昨年の365日とはまた違う何かを期待し、生きていこうと誓いを新たにする日でもある。
なのに、変わらない「自分」
生きとし生けるもの全ては、生き死ににとても貪欲であるのに、自分ひとりだけが変わらないことを知っている、気付いている。
鋼鉄へ自らを変えたのは他ならぬ自分でもあるのだから。
なのに、変わらない。いいや、変えられない。
煙草を吸うのが好きなのは父の影響もあるだろうが、そんな風に変われない自分が、変わるものを手にする事が出来る実感を噛みしめているからかもしれない。
(それだけは私にも出来る)
息を吸って吐いて。無意識に行う行動。睡眠でさえ、何時しか訪れる「死」に慣れるための行動。
だが、オセロットにはそれは遠い、遠い、憧れよりももっと遠い、彼方にあるものでしかない。
まるで、ぽっかりと自分の中に大きな穴が開いてしまったかのようだ。
そしてその穴の中から、皆を見ているような……自分ひとりが「時」と言う流れの中に置いていかれてしまった、そんな風に思えて仕方が無くてしょうがなく、そして。
"思い出は古い本のようなもの"
そう言った人の言葉が、すっきりと理解できるようになっていた。
モノクロームの映画を繰り返し繰り返し見ているような「現実」。
――果たして。
――果たして、私はこれで、「生きている」と言えるのか?
変わらぬ時などない。
日々絶えず変化する……そう、随分昔の人が「エントロピーの法則」を打ち出したように、全ては変化を繰り返すのに。
変わらない事が酷く、奇妙で、不思議だ。
+
緩やかに濃い色から少しずつ、穏やかな色へと変わる陽。
自然でさえ、繰り返す変化に、オセロットは何本目になるだろう煙草へと火を点け深く、深く、息を吸いこんだ。
煙草の煙が身体の奥深くにまで染み込んでいくようで、けれど、何も変わらない。
何も変わらずに、独り。
一秒、一分、一日、一週間、一ヶ月、一年――……どれほどの時が経ち過ぎ去ろうと、それが何れ積み重なり、十年二十年経とうとも。
流れから離れたところに身を置き、きっと今年も様々な事を思い続けるだろう。
眺め続けて、行くのだろう。
変わらない日々を続けていく者として、ずっと。
(………)
終わりが近くなってた煙草を口から離し、トントンと音をたて、灰を灰皿へと落とすと、
ぷかり。
溜め息を出すかのような、紫煙を吐き出す。細く、長い煙が風に流されるまま、天井へ、更には窓の外へと流れていくのを見、
「……やれやれ」
そう呟き、堪らずに頬を掻いた。
時の流れを、一人、見やる。
今日という日を、「思い出」と言う書物に書きためていく為。
そうしてオセロットは、時の流れから離れた自らの身体についてぼんやり思いながら、変わらぬ日々が変わらぬまま流れていくだろう事に笑い、立ち上がった。
―End―
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【2872 / キング=オセロット / 女性 / 23歳(実年齢23歳) / コマンドー】
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■ ライター通信 ■
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キング=オセロット様、こんにちは。
今回、こちらのノベルにご参加頂き本当に有り難うございました!
キングさんのお名前を見た時に「これは夢?」と思ってしまったりでしたので……、
また、お会いできて本当に嬉しいです(^^)
そしてキングさんのプレイングに色々考え、深いなあと思いました。
無意識にしている行動や、その他、行動について色々考えたりしてしまって。
何はともあれ、キングさんにとって、今年と言う年が少しでも良い年でありますように。
また何処かでお会いできる事を祈りつつ、本年もどうぞ宜しくお願い致します。
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