<PCあけましておめでとうノベル・2006>
お正月のプレゼント
お正月と言えば初詣。
「ふ……家系火の車アニキ打倒シュヴァルツ筋2006★腹筋パラダイス祈願マッチョ!」
……を兼ねた下僕主夫神社掃除のバイト中たるオーマ・シュヴァルツ。
つまるところ、初詣もバイトのついででしかできないでいるのだった。
「しかーし! お参りは欠かせないぜ……!」
新年早々暑苦しいマッチョマンは、力一杯祈願すべく朝早く、神社へやってきた。
白くけぶるような景色の中――
ふと、気配に気がついて振り向くと。
「こんにちは」
――目の前に、小さな少女が現れた。
和服に、おかっぱ。見るからに『座敷童子』的な少女だったが――
「おまいりにきてくれて、ありがとう」
少女ははかなそうな顔で、微笑んだ。
「おれいに……これ、あげる」
差し出されたのは――数枚のおふだ。
何かご利益があるのだろうか? そう思って手に取ると、
「そのおふだをね……てにとってねんじると……ほしいものにへんしんするの……」
お年玉の代わりにね、と少女はにっこり笑った。
「そのおふだで……すきなもの、あげるね」
**********
「欲しいもの?」
つい受け取ってしまってから、オーマは聞き返した。
少女はこくんとうなずいた。
「ほしいもの……なんでも、いいよ……」
ほわほわとした、優しいかわいい顔で、
「そのおふだで……いっぱい、しあわせになってね……」
少女はにっこりと微笑んだ。
「欲しいもん……欲しいもんか……」
オーマは悩んだ。
本当に欲しいもの。それは家族の笑顔だとか、腹黒同盟の同志だとか、筋肉同志だとか――しかしそういうものは、己の手と想いで手に入れるべきものだ。
「欲しいもん……欲しいもん……」
親父愛秘奥義・美筋側転乱舞掃除しつつもじもじお悩みマッチョ。
「ちょ、ちょっと待っててくれな」
少女にへこへこ頭をさげて、さっさか掃除をしつつオーマは考えた。
目の前を、初詣の客が通りすぎていく。人間はもちろん、獣人やら有翼人やら、ありとあらゆる人種がいる……それがこの世界だ。
「そーいやー……前に異界から来た人間に聞いたことあんなあ……。正月には決まって、昔の時代を再現した劇をやるとかなんとか……」
ジダイゲキ、とか言うんだったか、とオーマはつぶやく。
その中にはアダウチ、セップク、オーマには信じられないような異文化の詰まったものばかりだった。
ふと思い出した言葉は『忠臣蔵』――
「ああ、他にも……正月にはやたらスポーツをやるんだっけなあ……」
たしか『駅伝』とかいう、走るスポーツも。
「ううむ。見てみたいよーな気もする……っ」
欲しいものが見つからない。
代わりに何となく見てみたものが思い浮かんできた状態で。
親父は筋賀イロモノ忠臣蔵腹黒箱根親父アニキ駅伝浪漫譚スピリッツを全開させ、お札を大胸筋でホールドした。
すると――
ぴかーっ
札から桃色ハートビームフラッシュ炸裂――
**********
気がつくと、オーマは見知らぬ世界にいた。
ひどく動きづらい『袴』姿。頭には妙なかぶりもの。簡単な甲冑を身につけ、腰には刀。
「オーマ殿……!」
自分と同じような格好をした下僕主夫が、悔しげな声でまくしたて始めた。
「我らが筋肉マスターゴッド当主が、先だって殿中での揉め事の結果、切腹なさりました……っ」
「な、なにいいいいいっ!」
オーマは指先をわななかせた。我らが筋肉マスターゴッドが下僕主夫昇天!? 何たる無念!
「敵は!」
「はっ。カカア天下一族にござります!」
「うぬぬっ! こうなったら我らがマスターゴッドの無念を晴らすべく、カカア天下一族に討ち入りを……っ!」
オーマは拳を握りしめた。
自分でも自分が何を言っているのかだんだん訳が分からなくなっていたが、とりあえずマスターゴッドが無念昇天なさり、そしてその原因がカカア天下一族だということは理解した。
「それでは、オーマ殿!」
下僕主夫仲間は、ぱっと立ち上がり、言った。
「我ら筋肉マスターゴッドのしもべ四十七人、カカア天下邸まで駅伝いたしましょうぞ……!」
取り出したるは、白たすき。
四十七人士は大胸筋団結し、『箱根』と呼ばれる場所からカカア天下邸まで駅伝をすることとなった。
「駅伝! それをすることによって、カカアたちに我らがマスターゴッドの無念を示すことができるのだ……!」
何故だか分からないがそう確信し、オーマは仲間たちとともに鬨の声をあげた。
ばっと上着の裾をはためかせ。四十七人はそれぞれの位置につく。
アンカーはもちろんオーマ。
「父上! 父上の場所まで必ずたすきを届けまするゆえ……!」
なぜか見知らぬ少年が自分を父と呼び、そしてスタート地点まで走っていった。
箱根から――
四十七人士、筋肉マスターゴッドの無念晴らし駅伝。
よーい スタート!
下僕主夫たちは走り出した。必死に走り出した。
我らがマスターゴッドの無念を晴らすべく走り出した。たすきをかけ走り続けた。
たすきが次に、次に、次に渡っていく。
下僕主夫の肩から肩へ。
四十七人の下僕主夫たちが駆ける。カカア天下一族邸目指し。
アンカーたるオーマの元へ、たすきを届けるために。
走る。走る。走る。下僕主夫が走る。
一体何のためなのか、もはや分からなくなりながら。
「否っ! 忘れるな……!」
たすきが渡されるたび、次の者へと言葉はつながっていく。
「我らがマスターゴッドが無念昇天なされた! そのかたきを討つ! 忘れるな!」
たすきを届けるのだ!
我らが同盟主、オーマ殿の元へと届けるのだ!
下僕主夫たちの汗が散る。
必死の声がここまで届くような気がして、オーマはくおおと泣いた。
「筋肉マスターゴッドよ……っ。その無念、必ず晴らしてみせますぞ……!」
気のせいか、口調まで変わってきた。
「マスターゴッドよ、どうか我らの姿を見ていてくだされい……!」
にっくきカカア天下一族。その一心で下僕主夫たちが駆けてくる。
たすきが――
オーマの目に、見えてきた。
「よくやった!」
オーマの手にたすきを渡した下僕主夫は、疲れきりそのままバタリと倒れこんだ。
たすきは下僕主夫たちの汗で、すでにべとべとだった。
「よくやったぞ……っ。後は任せろ!」
オーマはたすきをななめがけにし、走り出した。
カカア天下一族の邸は目に見えるところにまで近づいている。さあ、あそこだ。あそこまで行けば我らが当主の無念は晴らせるのだ……!
輝く大胸筋。飛び散る汗に、桃色心臓はどくんどくんと早鐘を打つ。
「超マッハ筋、このようなところで負けるものか……っ!」
しゅばばばばば
オーマの人生史上でも記録に残る速さで、オーマは駆けた。
カカア一族の屋敷が近づいてくる。
カカア一族の屋敷が目の前に迫ってくる。
カカア一族の屋敷の門が目の前に。
どごん!
オーマはカカア一族の屋敷の門を突き抜けた。
「やったぞ……! たどりついた……っ!」
たすきをはずし、それを天にかざしながらオーマは吼えた。
「我らがマスターゴッド当主よ、見ていてくだされたか……!」
「……ああ、見ていたともよ……」
ふと――
傍らから、低い声。
オーマは天にたすきを突き上げたまま、硬直した。
「ふふふ。この屋敷まで来るとは……いい度胸じゃないかえ」
ふふふ。ふふふ。
いつの間にか、オーマを囲むように……カカア天下一族の女たちがずらりと並んでいる。
オーマの体から、かつてないほどの汗がぶばっと吹き出た。
「当主の無念を晴らそうと……その心意気は買ってやろうじゃないか」
カカア天下一族の当主が、その紅色の唇をゆったりと微笑みの形にした。
「ただし――あんたも、ただでは帰さないよ……っ!」
女の構えた刀が、
オーマに向かって――振りかざされる!
「ひいいいいい! やめてくれーーーーー!」
**********
――はっ。
「……だいじょう、ぶ……?」
気がつくと、オーマは和服の少女に顔をのぞきこまれていた。
心配そうなその顔が、やけに間近にある。
「だ、大丈夫……なのか?」
自分で自分に問いかけてしまった。
背中が冷たい。どうやらオーマは地面に寝転んでしまっているようだ。
ざわざわと人ごみのざわめきが聞こえる。
オーマは起き上がった。きゃっと悲鳴があがった。
そしてオーマを囲っていた人垣が、あっという間に散っていった。
「うん……?」
ぼんやりとしている頭を振る。「な、なんだ、夢、か……」
「うん……おふだがね、ねがいを、かなえたの……」
少女がオーマの傍らにちょこんと座って、小首をかしげる。
「でも……うれしそうじゃない……。しっぱい、しちゃったかな……」
泣きそうな顔になる少女に、オーマは慌てて大きく首を振った。
「いやいや、楽しかったぜ……!」
――楽しかった。普段出来ない経験ができて、それはもう楽しかった。
最後の最後は日常だったような気もするけれども。
「『駅伝』か……」
オーマは感慨深くつぶやいた。
結果はともあれ、皆の心が本当に一致団結して、一生懸命走ったような気がする。あの汗の心地よさ。
――忘れられない。
ついでに言えば、筋肉マスターゴッド当主の無念も忘れられないが、カカア天下一族には勝てるわけがないので、その無念が晴らされることもあるまい。
いつだって下僕主夫は――カカアに弱い。
「つーか、ただの夢だっつの」
真剣に考えている自分にふと気づき、オーマは笑った。
「あ……わらってくれたの……」
少女がふんわりと微笑んだ。白かったその頬に、朱がさした。
ふと気づくと、手に持っていたはずの数枚のお札がすべてなくなっていた。どうやらあの夢だけですべて使ってしまったらしい。
「おう。お前さんに礼をするのを忘れていたな」
オーマは具現でルベリアの花を取り出した。
桃色に輝いていた。偏光を放つ不思議な花。
「これをやる。……お札、ありがとよ」
頭をなでてやろうとしたら、すかっと手が少女の体をすりぬけてしまった。
「……なんだおめえ、触れねえのか」
しかし少女は、ルベリアの花を受け取った。嬉しそうな顔で。
「ちょくせつのもらいもの……はじめて……」
――そう言えば、この子は何者だ?
今さらながらに思って、オーマはまじまじと少女を見つめた。
少女は頬を赤くして、えへへとかわいい笑みをうかべていた。
(――まあ、いいか)
正体なんぞ知らなくたっていいこともある。
「無粋ってやつだ」
「なあに……?」
「うん? なんでもねえよ」
オーマは立ち上がる。少女もちょこんと立ち上がった。
「それじゃ……わたし、いくね……」
ふんわりと、その輪郭がぼやけはじめる。
――他の野郎どもにも、お札を配りに行くのかな。そんなことをオーマは思った。
「ああ、元気でな」
手を振ると、少女は輝くルベリアの花を持つ手とは反対の手で、嬉しそうに手を振り返してきた。
――ばいばい。
鈴のような声だけを残して、女の子の姿は消えていった。
「………」
景色はまだ白い。雪が降っているわけでもないけれど、早朝のこの白さは美しい。
底冷えするような寒さを急に思い出して、オーマはぶるっと震えた。
「イフリートの加護があるはずなのになあ……今日は、冷えるな」
あの子は大丈夫だろうか。
何となく空を見上げて、白い息を吐く。
そして、もう目の前にはいない少女に向かって――
オーマはいたずらっぽくつぶやいた。
「……風邪引くなよ?」
うん、と――
白い空のどこからか、返事があったような気が、した。
―Fin―
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【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
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■ ライター通信 ■
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オーマ・シュヴァルツ様
いつもありがとうございます、笠城夢斗です。
新年いっとう、ギャグなノベルのお届けです。少しでも楽しんでいただけるとよいのですが……;
少女にルベリアの花をありがとうございましたv
今年もよろしくお願い致します。
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