<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『待ち受ける謀略』

●序章〜過去を知る者〜
「ん、これは……」
 エランが目を留めたのは、孫太行の名前で書かれた依頼書であっ
た。特に仕事に困っていたわけではない。たまたま、レベッカから
の手紙にここでの出来事が書いてあったので寄ってみただけの事で
あった。
(まぁ、レッドの成長ぶりを見たいというのもあったんですけどね
……)
 そこに書かれていた神殿跡の探索というのが引っ掛かった。関連
があるのであれば、何らかの手助けになるかもしれない。
 きっかけは、その程度のものであった。
 彼女が、運命というものが年老いた魔女の横顔の様に歪んでいる
と知るまでには、まだしばらくの時間が必要であった……。


●シティ〜再び神殿跡へ〜
「ちっ、いいかげんダルくなってきちまったな」
 ランスが外の様子を伺いながら呟く。
 冒険者とは多かれ少なかれ、危険や外敵に対しての勘が働くもの
だが、彼のそれは予知能力と言っていいほど正確なものだった。
 ファルアビルド・パスティスの依頼を受けて、孫太行以下六名が
シティに入ったのは半日前の事である。一度通ったルートという事
もあり、道中は楽に進むと思っていたのだが……。
「どうなっているんだ……? 今日に限ってモンスターの活動が活
発だな」 
 太行が軽く首を捻る。
 通常、朝夕を除けば、怪物たちと遭遇する確率というのはそれほ
ど高いものではない。もちろん、一度や二度はあるものだが……。
「行程の半ばで、もはや八度目ですか。これはもう、偶然とは言え
ない様な気がしますね」
 アミュートと呼ばれる精霊鎧に身を包んだエトワール・ランダー
が口を開く。それは誰もが考えていた事なのだろう。廃墟の一角に
身を潜めていたパーティの間に沈黙が降りた。
 ランスの超感覚のおかげで、戦闘を回避しながらここまで来たも
のの、こうして廃墟に身を潜めたままじっとしている時間が多いの
は苦痛以外の何物でもなかった。
 まだそれでも、ランスやエランなどは経験を積んでいるからマシ
である。
「あたし、こういう辛気臭いの苦手なのよね〜」
「ぼ、僕もどちらかというと、こういう風が澱んでいる所はちょっ
と……」
 炎のエレメンタリスであるフレミア・ダルケニスや、有翼人であ
るリュウ・アルフィーユなどにとっては忍耐心にやすりをかけられ
ている様な気分であった。
 太行も、そんな二人の様子には気がついていた。
 エレメンタリスという種族は四大元素から生まれたとされる種族
であり、自身の性格に合わない環境などに著しく弱い面がある。
 冒険者としての経験が足りない二人には、いささか酷な状況であ
った。
「せめて、空を飛んでいけるのなら気分も変わってくるのに……」
 リュアルの漏らした一言に、傍らにそびえ立っていた巨漢が反応
した。
「よし、それでいこう!」
「は?」
 このマッチョな中年親父の名はオーマ・シュヴァルツ。自称、聖
都公認腹黒同盟総帥である。愛妻と愛娘と鍛え上げられた筋肉をこ
よなく愛する男だった。
「こんなところでビクビクドキドキしながら進んでくくらいなら、
バビューーンっと飛んでいっちまった方が早かろう? この俺様の
セクシー筋肉変化で運んで行ってやるから、とっとと行こうぜ」
 曰く、翼のある銀の獅子に変化出来るとの事である。
 大きくなるという事は、それだけ敵に見つかる可能性も上がると
いう事である。太行もオーマも、無用な戦闘は避けたかったので、
ここまで歩いてきたのだが、今日の遭遇頻度を考えれば、それもや
むなしと言ったところか。
「……そうだな。ここからはしばらく瓦礫の山も少なくなる。低空
で飛んでいけば、危険は減らせるかもしれん」
 頷いた太行に、リュアルはおずおずと、しかし、はっきりとした
口調で提案した。
「えっと……僕の力で風を操る事が出来ます。流れを変える事で、
羽ばたく時の音を少しでも小さく出来ると思います」
 シティに入って初めて、リュアルは自分に出来る事を伝えた。少
年の気持ちを考え、太行は彼の提案を受け入れた。
「そうか。なら、頼むぜ、リュアル!」
「はい!」
 翼を持つ少年を先頭に、一行は廃墟の暗がりから外へと飛び出し
ていった。


●遭遇〜待ち伏せ〜
「(いくぜ。用意はいいか?)」
「はい!」
 全長10mほどの姿に変化したオーマの背に乗り、一行は大空に
舞い上がった。その首のすぐ後ろには、リュアルが羽根を広げて立
っている。
 低空を飛びながらも、速く、強く飛べるように。そして、オーマ
の羽ばたく音が周囲に広がらないようにと、風の流れをコントロー
ルしているのだ。
「しかし……乗せてもらっておいてなんですが……乗り心地は最悪
ですね……」
 尻尾に程近いところにしがみ付きながら、エランが感想をもらす。
 ふわふわのもこもこで、触り心地はいいのだが、空を飛ぶとなる
と半端ではない振動があるものだ。
 それでも、乗り心地の悪さをカバーして余りあるスピードで一行
は飛んでいた。周囲の状況は気になるところだが、今のところは敵
影らしきものは見えない。
「ふふふ……この感じ……久しぶりですわ〜」
 ファラが嬉しそうに金髪を風になびかせている。
「前にも誰かの背中に乗って飛ばれた事があるんですか?」
 同じく、気持ち良さそうに風を感じていたリュアルが彼女に問い
かける。だが、ファラによると、彼女自身が竜語魔法と呼ばれる力
で飛行できるらしい。
「へぇ……」
 なんとなく、リュアルは嬉しかった。魔法でとはいえ、自分と同
じ様に翼で空を飛ぶ楽しさを知っている者がいる事が、純粋に嬉し
かったのだ。
「(そろそろ目的地が見えてきたぜ。どうやら運が良かったようだ
な)」
 背に乗っている全員に、オーマのテレパシーが聞こえる。
 太行でさえ、空を飛ぶモンスターと遭遇せずに済んだ事にほっと
した。
 その瞬間であった。
「……!!」
 ランスの背筋に、これまで感じた事の無い『危険』が駆け抜けて
いった。
 あまりの強さに、警告を発するのさえ遅れるくらいに。
「やばい! 来るぞっ!!」
「何!?」
 神殿跡近くの瓦礫が崩れ、何かが高速で空に舞い上がった。その
影を確認するよりも早く、一行に強烈なGがかかる。
「うわぁぁぁぁっ!」
 なす術も無く、オーマの背中に押しつけられたまま大地に叩きつ
けられる。
 増大した重力に押し潰されながら、かろうじて視線を上げた、そ
の先には……。
「あれは……南天地竜王……!?」
 頭部や背中の翼などに、竜の面影を宿した神像が、空中から一行
を見下ろしていた。
 全長では変化したオーマ及ばないものの、大きく広げられた翼の
両端を含めると、それ以上に大きく見え、圧倒的な存在感を周囲に
撒き散らしていた。 
 欠損している右腕には白い骨のような物がぶら下がっており、そ
の異形ぶりを強調している。
「この程度で……!」
 オーマでさえ起き上がるのが困難な高重力の中、レミの右手が背
中の大剣の柄をつかんだ。羽根の様な装飾のついたそれは、重さを
無視して軽々と振るう事が出来る上、重い一撃を加えることが出来
る。
 そう、重力を制御できるマジックアイテムなのだ。
 柄に埋め込まれた宝玉の光に、レミは自分の体が軽くなっていく
のを感じ取り、一気に高重力圏から抜け出した。
「ファイアーブリッツ!」
 レミの赤毛が炎となって燃え上がる。
 三つ編みを縛っていた紐が解け、炎と化した髪を一閃すると、い
くつもの炎弾が生み出され、上空の神像に襲い掛かった。それらは、
大したダメージにはなっていない様であったが、それで十分であっ
た。
キン!
(発動した……!)
 ランスは自分の周囲に結界が発動したのを感じ取った。魔法の効
果を打ち消すそれが、僅かに体の自由を取り戻させてくれた。
「今だ!」
 一行はその隙に、オーマの背中から飛び降りた。神殿跡に向かっ
て一目散に駆け出す。
「オーマ様!?」
「(いけ! こいつの相手は俺がする)」
 振り向き、足の止まったファラにオーマの『声』が響く。
「(おまえの目的は神殿の調査だろう。戦う事じゃない。俺の目的
はおまえを護る事だ。ここは任せろ!)」 
 高重力を抜け出し、再び銀の獅子は大空へと舞い上がった。その
姿を見送るファラの腕を、太行が引く。
「あのおっさんにとっては、足手まといが無い方がやりやすいのさ。
やばくなったら、適当に逃げるくらいの分別は持っているさ。いく
ぞ!」
「はい!」
 そして、一行は神殿の中へと再び足を踏み入れていった。


 その彼らを、遠い廃墟の一室から観察する視線があった。
「どういたしますか。太行どもは神殿跡に入り込んだ様ですが」 
「そうですわね……。あんな化け物が護衛についてるとは、思いも
しませんでしたし、ここは引き上げるとしますわ」
 廃墟の中に、闇よりもさらに濃い影が二つ存在した。
「よろしいのですか?」
「あそこにはもう、わたくし達に必要なものなどありはしませんわ。
勝手に漁らせておけばよいでしょう? 地竜王の操作が問題ないよ
うであれば、貴方も下がりなさい」
 そう言って、影の片割れはゆっくりと暗がりに姿を溶かしていっ
た。
「プラントを作るにも、まだ時間がかかります。今は好きにさせて
おきなさい」
 そして完全にその姿が消え去った。
 あとに残された影は、忌々しげに呟いた。
「雌狐めが……」
 廃墟の中に低く、鈴の音がこだまして消えていった。


●探索〜もう一つのドーム〜
 神殿後に入り込んだパーティの面々は、ファラの誘導に従って、
ある部屋を目指していった。
「風竜王の神殿と、構造的には大差ないのか?」
「ええ、こちらの方が破損が酷いですけれども。作り自体は同じ様
なものですわ〜」
 ファラは既に、この神殿跡に来る前に、別のパーティに護衛を依
頼してもう一つの神殿を探索している。その、西天風竜王の神殿に
おいて、ここに南天地竜王と呼ばれていたモノが祭られていた事は
確認済みである。
「おっと、邪魔ものが来たようだぜ……前回はいなかったが」
 前衛を務めていた、太行、エラン、レミの三人に緊張が走る。
 神殿内部は魔法の明かりで満たされたいるのだが、ところどころ
で消えている。その合い間を縫うように、複数のガーディアンの姿
が現れた。
「三体ですか……見くびられたものですね」
 夜目の利くエランが、その数を確認する。同時に、前衛の三人は
弾かれたようにそれぞれの相手に向かって駆け出していた。
 上半身は人型をしているものの、下半身は無く、平たい板のよう
な物に載って滑る様に移動している。
 接触まで三歩というところで、エランは先手を打った。
 武器を持たない方の手に、一瞬でオーラが集中する。
「はっ!」
 彼女の最も得意とする、オーラショットと呼ばれる攻撃魔法であ
った。
 通常は遠距離攻撃に使われるのが常なのだが、彼女は近〜中距離
の戦闘においても、巧みにそれを織り交ぜて使っていた。それを可
能にしているのは、彼女自身のオーラ魔法の『練り』のスピードに
あった。
 間合いの外から強力な気弾を受け、ガーディアンは左手を軸とし
て体勢を崩した。そこにエランのエクセラが斬りかかる。
 一撃で破壊するほどの剣撃は、彼女の腕力では望めない。しかし、
それを補って余りあるほどの戦闘センスが彼女にはあった。
 切り結んで五合目。彼女のエクセラは正確にガーディアンの首を
斬り落としていた。


 一方、ルーンアームナイトであるレミは、聖獣装具を鎧に変えて
戦っていた。黒い金属部分に、燃える様な赤が刻み込まれたそれは、
炎と化した髪によって美しく照らし出されていた。
 彼女の主武器は、先程も使っていた大剣である。巨大なそれを振
るうには、レミの腕は余りにも細すぎるように見える。だが、実際
には施された装飾の様に、まさに羽根のごとき軽さしか感じさせな
いのだ。
「いっくよ〜〜……ええいっ!!」
 下からの切り上げは疾風のごとく。返しの上段は鉄槌のごとく。
それはまさに重力を無視したかのような光景であった。 
 その一撃で武器を持った方の腕を斬り落としたレミが勝負を決め
るのに、さほどの時間はかからなかった。


 オーマがその場に現れたのは、太行が火炎槍の三連突きでガーデ
ィアンを破壊するのと同時くらいであった。
「無事だったのか。あの、神像もどきは?」
「俺様の筋肉に恐れをなして逃げてったよ。何度か超音波を叩きつ
けてやったんだが、手応えは無かった。生物の気配は感じなかった
けどな」
 一応、去った後もオーマは周囲を確認してから中に入ってきたと
いう。帰り際にまた、待ち伏せをくらってはたまらない。
「そうか……」
 中途半端な待ち伏せは気がかりだったが、とりあえず太行は探索
を進める事にした。帰りに出会ったら、その時はその時である。
 瓦礫が散らばった通路の片隅で、ファラが立ち止まった。その眼
前には一枚のプレートがある。
「何て書いてあるんだ、これは?」
 首を傾げるランス。彼はその生涯の殆どを、放浪の旅の中で過ご
してきた。それは彼の種族に関わるものでもあるのだが、その中で
様々な言語に接してきた。しかし、プレートに書かれている文字ら
しきものには、法則性すら見いだせなかった。
「これは……」
 ファラが大きく息を吸い込む。
「Baruufhhhhheu!」
 人間には到底発音できそうにない声をファラがあげると、音もな
く壁の一角がスライドし、一枚の壁にしか見えなかったところに扉
が出現した。
「……って読むんですよ?」
「ありがとよ。勉強になったぜ」
 すぐ傍らで大きな咆哮を聞かされたランスは、耳を押さえながら
小さく呟いたのであった。
 彼が慎重に中を覗きこむと、自動的に中に明かりが灯り、そこが
小さなドームになっている事が伺えた。
 天井絵と、周囲に叙事詩が刻み込まれた造りは、風竜王の神殿と
変わらないとファラは伝えた。ただ、残念な事にその一角は完全に
瓦礫によって押し潰されていたのであった。
「遥か古代。聖獣王ドラゴンは四体の重臣に、天空都市レクサリア
の守護を命じた。聖獣王、四竜をもって四天に封じ、その力を持っ
て都市に繁栄をもたらさん」
「何なんです、それ?」 
 リュアルの問いかけに、ファラはにっこりと笑った。
「ここに書かれている叙事詩を要約したものですわ〜。四竜という
のが、それぞれ順に、東天火竜王、南天地竜王、西天風竜王、北天
水竜王の事です。もっとも、向こうの神殿では、その後の名前の部
分が綺麗に削り取られていたのですが」
「では、こちらのは残っていたのか?」
 ファラは大きく頷き、その後でちょっと情けなさそうに笑った。
「とはいえ、結局、水竜王の名前は不明です。崩れているのがちょ
うどその部分なんですわ〜。火竜王の名がリフレイアスなのは判明
していましたが、地竜王の名前がジャンブレオス。そして、風竜王
の名前がシルファリウスという事が判りましたわ」
 嬉々として語るファラ。しかし、その視線が壁の一角で止まった。
「どうしたの?」
「いえ、ここに何枚かの絵画がかかっているのですが、向こうには
無かったなぁ、と」
 エランとファラはその絵を順番に眺めていった。それらには全て、
変わった衣装を身につけた少女が描かれていた。
 最後の一枚のところで、ファラの足どりが止まる。
「この女の子……」
「?」
「あ、いえ。向こうの護衛でご一緒した、レベッカ様という方に似
ているかなぁって」
「レベッカに?」
 エランは改めてその絵をまじまじと見てみた。
 確かに、幼き日のレベッカに似ていなくもないが……。
「あれ? エラン様はレベッカ様の事をご存知なんですの?」
「ええ。彼女が小さい頃からの付き合いだから……」
 それ以上は語らなかった。
 この場で語りつくせるほど、レベッカと過ごしてきた日々は簡単
なものではなかったからだ。 
「そうかしら? それほど似てるとも思えないけど」
 奇抜な衣装のせいもあるかもしれないが、彼女の目にはそれほど
似ているようには見えなかった。
 それについては、ファラも特に固執しなかった。
 元々、彼女は人の顔を覚える事自体が得意ではないらしい。
「収穫はそれくらいか……。お宝が転がっていないのは確認済みだ
しな。そろそろ戻るとするか」
 太行の言葉に、全員が頷いた。
 帰り道には、先程の敵が待ち構えているかもしれないのだ。緊張
感が高まる。
「ファラ、さっきの敵についてはどう思う? あれは地竜王の本体
だと思うか?」
 通路を歩いていた太行が振り返らぬまま、後ろのファラに問いか
ける。それについて、彼女は言葉を選んで答えた。
「本体か、そうでないかははっきりとしませんが……。間違いなく
竜の因子が関係している事は確かですわ〜」
「あたしにもよく判らないんだけど……」
 太行の隣を歩いていたレミが言葉を繋いだ。
「さっきの奴の周囲からは、歪められた地の精霊の、声みたいなも
のが聞こえたよ。ここいらは、地の精霊力が微弱だけど、あいつの
周りだけはそれを強く感じた」
 エレメンタリスの言葉に、太行は黙って耳を傾けていた。外の光
りが差し込むようになってきた時、彼は低く呟いたのであった。
「どうにも、嫌〜な予感がするな……。ゆっくり考える時間が欲し
いところだぜ……」
 そして一行は、光りの中へと歩いていった。


●帰還の宴〜酒場にて〜
 カグラの酒場に辿り着いたのは、翌日の事であった。周囲を警戒
しながらの帰路は時間がかかったものの、幸いにも戦闘にはならな
かった。
 太行はすぐにギルドへと向かい、夕方遅くなるまで帰ってこなか
った。
「よ、待たせてすまなかったな。始めててくれてよかったんだぜ?」
 メンバーが揃い、宴が始まったのはとっぷりと日が暮れてからの
事であった。皆、気持ちよく酒を飲み、酔っ払う。
「ささ、これが名酒『美麗少年』だ。飲め、少年」
 リュアルも、オーマからの杯を受け、少し口をつけてみる。意外
に癖がなく、飲みやすかった。
 その旨を伝えると、オーマは高らかに笑いながらこう言った。
「そうだ。正しく筋肉を成長させる為には、酒とマッサージが基本
なのさ。男ならまずはそこからがスタートだ」
 相変わらず、巧妙に酒を注いでやりながら、オーマは笑う。
 その頃には、一人静かに酒を楽しんでいたランスも、酔っ払って
ハイテンションになったレミに引きずられてダンスを踊る破目にな
っていたし、
「なんだとう〜! 俺だってなぁ! 本当は剣が使えるんだぁ!」
「あははは、そうだねぇ? キミは立派だぞぅ?」
 人格が変わったリュアルの相手をしていたエランが、海皇剣を振
り回そうとした彼を優しく叩きのめしていたりもした。
 そんな中、太行は杯を片手に、空に浮かぶ月を眺めていた。
(新年祭の間は冒険にはいかないつもりだったが……少し時間をか
けて調べる必要がありそうだな。ジェントスのギルド……そしてギ
ルドナイトか……) 
「ほらほら、何を辛気臭い面して飲んでんだよ。飲めよ、『美筋中
年』を」 
 店の奥でごそごそしてると思ったら、オーマは何やら小細工をし
ていたらしい。
 手製のラベルには、流れるような書体で書かれた文字と、マッス
ル親父のイラストが描かれていた。
「いただこう」
 苦笑して、太行は店の奥へと舞い戻っていった。
 カグラの年の瀬まではあと三日を残していたが、その夜、酒場の
嬌声が絶える事はなかったという。 



                             了
 

                          
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業

1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39/医者兼ヴァンサー
3077/フレミア・ダルケミス/女性/18/ルーンアームナイト
3116/エトワール・ランダー/女性/25/騎士
3117/リュウ・アルフィーユ/男性/17/風喚師
3159/LANCE/男性/34/賞金稼ぎ

※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なります。

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■         ライター通信          ■
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 どうも、神城です。
 今回のところは、こういう結果に落ち着きました。
フリーズブレードもゼロブレイクも使いませんでしたが、必殺技
は出し惜しみしてナンボという事で。しかし、MT3の時にはこん
な形になるとは、想像もしてませんでしたね。
 ちなみに、水竜王の神殿に行くとは一言も書いてませんよ?(笑)

 次回はカグラとジェントスの新年祭の風景という事になります。
この期間は通常、冒険者達もシティ内部に行く事は珍しいです。
 2〜3日中には窓を開くつもりでいますので、よかったら個別ペ
ージを覗いて見てください。
 ではでは〜。