<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


§1→始まりは『名付け親』


 ふかふかのベッド。
 頭上から垂れ下がっているのは真っ赤なビロード地の天蓋。
 煌びやかなステンドグラスがはめ込まれた大きな飾り窓から差し込む光は、きらきらと宝石を散りばめたよう。
 そう、いつも通りの平和な朝。
 けれども、むっくりと――そう、まさに「むっくり」――起き上がったドリアン王は、ふと困ったように首を傾げた。
「はて……そういえば、我が国の都市には固有の名前があったかな?」
 昨晩、遅くまで続いた新年を祝う宴。
 その席でちょっぴり果実酒を飲みすぎたのか、傾いだ頭はころりと転がり落ちそうなくらいに重い。
「うーんうーん……や、一人で考えても仕方ないことだな。うん、そうだ」
 何だか靄がかかったような思考のわりに、なんて良いことを思いついたのか。
 自分の閃きに、ぱっと顔を輝かせたドリアン王は、勢い良くベッドから飛び出した。
「よしよし、名前を募集しよう。うんうん、これは楽しくなりそうだ♪」

 かくして国中のあちこちで、てんやわんやの大騒ぎの幕があがる。
 え? そんな王様や国でいいのかって?
 そりゃー、良いに決まってるじゃないですか。
 だってそれが「グリーンキングダム」なのだから。


★かくして人々は集う、かの国へ

 だっだぴろい原野。舞い上がるのは乾ききり赤茶けてしまったぼろぼろの土――なんて状態だったら、マントを翻す姿もちょこっとくらいは様になったかもしんない。
 けど、実際のところ。
 港町から王都へ向かうレンガ造りの街道の両端は、どこまでもどこまでもどっこまでも平和でのんびりほのぼの、豊かな田園風景が続いていた。
 あぁ、平和って素晴らしい。
 でもって。
 先ほど馬車から華麗に飛び降り――決して無銭乗車がばれそうになったからではない――しばし人気の途絶えた――遠くには農作業する人々や、牛馬の姿が見えているけれど――長い道に佇んでいるのは、銀というより白に近い髪をゆるゆると吹く風に毛先を遊ばせているちょっと渋めの男性の姿。
 その名はスフィンクス伯爵。まさに『伯爵』というに相応しい、優雅な出で立ちなのだが……どこか愛らしい。いや、かなり。
 その原因は、頭からぴょっこり覗いている猫耳と、お尻から生えている――こっそり衣装に専用の穴があけてあるのかが非常に気にかかるところ――器用によく動く尻尾にあることは間違いない。
 世の男性は猫耳、猫尻尾には弱いと相場が決まっているのだ。萌えー。
「失敬な。わしも男性なのじゃ」
 っは! そういえば、動物は人間の目にはみえないものを見て、吠えたりするんでしたね。
「だから外野はいい加減にするのじゃ。わしの可愛い猫達が気が散って収穫の旅……もとい、情報収集へ出発できないのじゃ!」
 ……しゅーん。
「しおらしくしても無駄じゃ。こんな所で油を売っていないで、さっさと先に進めるんだね」
 スフィンクス伯爵。またの名を秘密結社ネコネコ団総帥。
「や。予告なく真っ当に戻られても驚くし」
 スルーして下さい、スルー。そういう世界ですから、ここ。はい。そんなわけで、皆さんも覚悟OK?
「そこで確認とっとるあたりが既に覚悟が足りとらん証拠――って、私もつられている場合ではないな。さぁ、我が愛しき同胞たちよ、この国の美味なる……違った。情報という情報を集めてくるのだっ!」
 ずびしと決めた秘密結社ネコネコ団総帥。
 金というよりオレンジ色した瞳の端がキラリと光る。なんとなくミラクルベリーを彷彿させた。レモンさえも甘く感じさせるという奇跡の果実。
 そーゆーわけで、総帥。今日の名前はミラクルベリー・スフィンクス伯爵に確定。


「なるほど、王様には若いお妃さんと、息子二人に娘が二人。そりゃースペシャルマッチョな大黒柱ってワケだな」
 いや、マッチョじゃないから。
 ってゆーか、どっちかってーと、かなりちんちくりんな部類だから。
 そんな水着姿の男女のツッコミもどこ吹く風。割れに割れた見事な腹筋を、爽やかな潮風にうねらせる天にも聳えそうな――大げさに表現してみました――マッチョな大男――その人の名はオーマ・シュヴァルツ。
 こんがり小麦色に焼けた肌――実際のところ、焼けたわけではなく、地肌なのだが――が、ノリノリ観光スポットな感じの港町に相応しい。
 ついでに言うなら、赤い瞳はお空で燦々と光を振りまくお日様のようだし、いっそ青みがかって見えるほどの漆黒の髪は、とれたて新鮮海苔のよう――これ間違いなく、褒め言葉。
「でもでも、王様っていつもにこにこしてらっしゃるから大黒柱って感じとちょっと違うよね。どっちかっていうとお妃さまや姫さま達の尻に敷かれてる感じ?」
「そうそう。うちの王室って女性陣が強い感じがするよなー」
 ずっきゅーーーん。
 まるでお隣さんを評するような会話。そんだけ王室ってのが国民にとってフレンドリーな存在だと思って貰えればこれ幸い。
 え?
 台詞と解説の間に変な擬音が聞こえたって?
 気のせい、気のせい。きっと気のせい。
「ずっきゅーん、まさに俺の熱く滾るマッチョハートはナウ筋鷲掴みっ」
 ――わしづかまれました。
 どーやらオーマ、ドリアン王の境遇(?)に感じ入るものがあったらしく、大胸筋がぴくりぴくぴく。
 ついでに上腕二頭筋――個人的に上腕二等筋ってなんか色っぽいと思うんですが、いかがでしょう?――も盛り上がり燃える。
「勝手に家族馬鹿仲間決定。俺は行く、志を同じくする者のところへ!」
 手近なところの実っていたドラゴンフルーツ――中身は濃ゆく紫色の方――をもぎ取り、オーマは巨体を風のように疾走させた。
「!! ワル筋発見! 桃色サボテン針アターック」
 が、その直後。へにょりとした男性観光客――もちろん水着姿――を発見し、大胸筋から不可思議な針を駄目筋ツボに向かってレッツ照射開始。
 彼が王都にたどり着くのは、ちょっぴり遅くなるかもしれない。
 それはさておき。この国で与えられた彼の名はドラゴンフルーツ・オーマ・シュヴァルツ。
 ドラゴンフルーツの前に「マッチョ」を冠詞として現在申請中。


「えーっと。これはどういうことかな?」
「……えーっと」
「ずばり、王宮の目の前にある広場を訪れた私たちの眼前に、この国の現王妃が仁王立ちしている――という状況だな」
 微妙に途方にくれたような状態なのは榊・遠夜(さかき・とおや)。ぶっちゃけもなにも、立派に我等のよく知る高校生――が、なんでこんなとこにいるかは置いておこう。世の中、時空が入り乱れて磁気嵐が発生しまくってて、事情があるのだ。
 でもって、その隣で可愛らしく小首を傾げているライラック色の髪の持ち主がリラ・サファト。彼女もひじょーに複雑な事情の持ち主だが、とりあえず割愛――というか、現状をどう切り抜けるかが目下最大の懸念事項。
 さらにその隣で凛と背筋を伸ばし、宣教師服に身を包んでいるのは、実は新婚さんらしい清芳(さやか)。おろおろするばかりの二人を尻目に、一人目の前の緑色の人物と渡り合う。
「この国は、野菜とふるーつの国だそうだな。そして現在各都市の名前を募集していると聞いたのだが」
「いかにもその通り、麗しき客人ご一行様方」
「そして先ほどから何度もお伺いしているが、貴女はこの国の王妃だと」
「えぇ、何度でもお答えしますよ。私の名はスピナッチ。このグリーンキングダムの王であるドリアンの妻です」
 なんでそんな人がお供も連れず、こんな所に来てるんですかーっ
 ↑これ、遠夜の心の叫び。出来れば滂沱の涙とセットにして想像してもらえると嬉しい。
 ………えーっと……んと……
 ↑これ、現在一生懸命考え中のリラの心の中。物事をゆーっくり考えてから発言する性格のため、心の中もただいま「……」で満ち満ちているモヨウ。
 というか、です。一国のファーストレディが唐突に現れて、パニック起こさない方が普通は凄い。
 んじゃ、清芳はかなり凄いのか――と思いきや。とっても真面目さんなので、とにかく現状をどうにかしようと考えていたら、こうなっていたらしい。それはそれである意味、大物。
「では、なぜそのような方がこのような場所に?」
「だってこの辺りは私の庭のようなものですもの――っていうのは、半分本当で半分、嘘♪ なんとなく、私好みのお嬢さんの姿が見えたから、城を抜け出してきてしまったのですわ」
 うふふ。
 囀る小鳥のように笑い、悪戯っこのように目を細める王妃……というより、きっぱりすっぱり『女王様』。
 ぜったい何かを企んでいる。ものすっごいことを考えている。その証拠に、目の端っこがキラーンと輝いた。
「え?」
「………?」
 それは刹那――いや、例えて書くなら緑の疾風が一帯を切り裂いたと表現してもいいけれど。
 とにかくあまりに素早い動きに誰もついていけなかった。
 そして気がついた時には、王妃の小脇に抱えられていたのは――リラ。
 後ろからその様子を眺めたら、緑色の髪とライラック色の髪が揃って余韻に揺れ、けっこう美しい――とか、そういう事を言ってる場合じゃなくって。
「私、この子のこと気に入りましたの♪ だからこのお嬢さんには私と同じ名を与えますわ。今日から貴女はほうれん草・リラ・サファトに決定です」
 スピナッチ=ほうれん草。
 ――って、勝手に拉致られても困りますから! このご一行唯一のツッコミ可能な人物を!
 なんて言う魂の雄たけびは虚しく青い空へと吸収されて。
 遠夜と清芳が救いの手をさし伸ばそうとした頃には、既に女王様の姿は広場の中から消えていた。
 残されたのは『王妃様って可愛いもの好きだから』『これで暫くは安全ね』『あたしも一度、攫われてみたい〜』なんて外野のざわめき。
「清芳さん! リラさんを救出に行きますよ!!」
「うむ。しかしその前に私たちも自分の名前を決めねば……」
「あ。そっかー」
「遠夜さんは肌が綺麗だから、柚子なんてのはどうだろう?」
「柚子、いいね〜。日本人の心だよねー」
「日本人? それはさておき、では私はパセリにしようかな。すくすくと伸び、かつ添え物であってもたくましい……」
「……なんかものすごーっく実用的だね」
「人間、実用的が一番だ」

 かくして、攫われた姫君。ほうれん草・リラ・サファトの明日はどっちだ?
「……書いてる人さん。……なんだか、お話が違う方向へ進んでます」
 ん。いつものことだから、気にしちゃいけない。気にしてたら先へは進めないゾ。
「……ある意味……先に進むのが……こわい、かも?」


★さぁ、みんなで考えましょう
 マッチョ(←承認済)ドラゴンフルーツ・オーマの場合〜

「タイトル長ぇな〜」
 うん。おかげで2段になっちゃった。
「そうかそうか、流石はナウ筋パワー」
「だ・か・ら! その『なうきん』っていうのは何なんですのっ!」
 ちょっぴり外宇宙と交信していたオーマの脳天に痛烈な一撃――威力はそれほどでもないが。
「違う違う、違うぞ嬢ちゃん。『なうきん』じゃなくって『ナウ筋』」
「同じじゃありませんことっ!?」
「違いますわよ〜、東花ちゃん。『なうきん』じゃなくて、『ナウ筋』ですわ。『なう』は軽やかな感じで『きん』には力強い感じがつくんですの〜」
「ぬ、そっちの嬢ちゃんは話が分かるねぇ」
「………………(奇怪なものを見つめる眼差し)」
 現在地、グリーンキングダムの王都。さらに細かく場所を限定するなら、王宮。さらにさらにもーっと限定するなら、パーティが行われていた大広間から外に出た庭――王宮の庭だと言うのに、そこたら中に農作物が植わっているのはこの国ならでは。
 港町から王都まで、ワル筋を退治(?)しながら移動してきたオーマは、予定――そんなものがあったのか謎だが――を遅れ、5日かかるはずの道程を7日かけて辿りついていた。
 で、もって。
 人の噂というのは人の移動より早いと申しまして。
 彼が王都に到着する頃には『謎のマッチョ男現る!』と、既に結構な有名人となっていたのであります。
 だもんで、あんまり肉体に自信のない者は『退治されてなるものか』と部屋の奥に隠れ、扉を堅く閉ざし、逆に自信のある者は歓喜の歌でもって彼を出迎え――って、微妙に大げさ(いや、かなり)に書いたけど、それなりにちょこっとした騒ぎになっちゃったりしたわけで。
 なにはともあれ、王都に到着したオーマは即座に王宮への客人としてお縄……もとい、手厚く出迎えられることとなったのだ。
 そして現在進行中の状況はと言えば。
「それにね『ワル筋』だと、『わる』が嫌そうな雰囲気で、『きん』はひ弱そうな感じになるんですわぁ」
「おおぉっ! ナイス解釈。嬢ちゃん、心はアニキ燃えだな」
「ふふふ、なのですわv」
 オーマ以外にも『名付け親』となるべく、この王宮に逗留している者はけっこういるらしく。今宵はその人々を歓迎するための宴が開かれたのだが、そこでもオーマがワル筋退治の桃色サボテン針を飛ばしまくったがゆえに、あっという間に広間の外へと連行……ぢゃなくって、ご招待となり、もれなく大絶賛その延長中。
 明るい光が零れる窓の内側からは、温かい食事の匂いに、華やかな音楽の響き。
 己の置かれた境遇に「異界の神は冷たいもんだ」と嘆くより他はなし――かと思いきや、状況はどっちかってーとオーマにとって愉快なものだった。
 原因は、目の前の同じ顔をした二人の少女。一人はさっきから冷たい視線を向けてきているが、もう片方がなんとも愉快痛快コンチクショウ(謎)。
「……わたくし、西姫ちゃんにそんな趣味があったなんて、今の今まで知りませんでしたわ」
「わたくしも、この方に出会うまで、こんなにステキな方がこの世にいらっしゃるなんて思いませんでしたわ〜」
 えーっと……これ以上の説明は長くなるから割愛するとして。ぶっちゃけ、オーマはドリアン王の娘である双子姫の片割れ、西姫にえらい気に入られたようだ。世間知らずの娘というのは非常に恐ろしい――かもしれない? いや、世間を知らないからこそ、何者にも汚されない美しき眼(まなこ)で真実を見抜くのやもしれないが――この際どっちでもいい。
「そうと決まれば話は早い。嬢ちゃん、俺が名づけるに相応しい都市って言ったらどこか教えてくれないか?」
「そうですわね〜……やっぱりオーマ様にお願いするなら、暑く眩しい港町が最適だと思いますわぁ」
「なるほど! やはりあの都市か。ならばギラギラ感にドリー夢筋な感じを追加して……」
「頼むからっ! 頼むから普通に考えてくださいませっ!!!」


★それじゃ、みんなで発表しよう。

「それじゃ、次。えーっとミラクルベリー伯爵?」
 玉座にはちんまりぽってり丸いブッタイ――いや、失敬。まさに見るからに王様――威厳っぽいものは皆無だけど――が鎮座し、次の名付け親候補者の名前を読み上げた。
 自分が言いだしっぺなのだが、それでも毎日のように朝から晩まで――昼食休憩にお昼寝休憩はあるけれど――同じことを繰り返しているものだから、その顔に浮かんでいるのは明らかな『つまんないも〜ん』な色。
 が、しかし。
 不意にそのドリアン王の目が点になった。
 理由は簡単……だけど、ちょっと複雑。
「では私、不肖ミラクリベリー伯爵こと、スフィンクス伯爵がこの国の都市に名を授けよう」
 呼ばれて進み出てきたのは、ひょっとしなくても自分よりも偉そうで立派そうな人物。
「……ナイトぉ? そこで何しとるんじゃ?」
「アンタ……何しとるんじゃ? じゃないだろーっが! 見ただけで分かるだろ、この状況がっ!!」
「はっはっは。怒鳴る姿も愛らしいのじゃ♪」
 きょとん、とドリアン王。
 ご機嫌に尻尾を揺らすのはスフィンクス伯爵。
 で。
 そのスフィンクス伯爵にがっちりしっかり抱きしめられているのは、抱きしめるにちょうど良いサイズの黒いアフロウサギ。ここグリーンキングダムでも稀少な存在である魅惑のふわふわ小動物――というには若干大きいが、まぁ、気にしない。
「なるほど。どーりで昨夜からナイトの姿を見なかったわけか。で、ミラクルベリー伯爵、いかな名前を考えてくれたのかのう?」
「ふむ、この愛らしい動物をぎゅぎゅっとしていたら色々素晴らしいアイディアが浮かんできたのだ。まずは王都、これの名はモリンダシトリフォリア。年中採れ、どの四季にも抜かりなく。さらには『神様からの贈り物』とも称されるこの果実の名こそ、素晴らしき王国の王都の名前に相応しいかと」
「ほほうほうほう」
 ドリアン王の瞳が点から、興味に光を宿す。その様子に気を良くしたのか、スフィンクス伯爵の口調にも熱がこもる。むぎゅ。
「ぐへっ(ウサギ)」
「さらに学びの都。ここには『筍』の名が相応しいかと。まさに天に向かって高く伸びる様は、この都で学ぶ者たちの志の見本となろう。ちなみに次点でおススメは空豆。理由はおんなじ」
「ふむふむふむ」
「さらには砦の町、ここには仏手柑という名を。この不可思議な形がなんとも言えず、さらには千手観音を彷彿させるという辺りが、砦の町に相応しいのではないかと。ホントは鬼胡桃と迷ったのじゃが、ぜひ食べてみたいほうを推挙(えっへん)」
 むぎゅぎゅ。
「ぐばーっ(ウサギ)」
 語尾になんだか威張りモード。自分のナイスアイディアにうっとり。ついでに王様もすっかり感心モードでふむふむふーむモード。
「ところで、千手観音って何だ?」
「ワシもよく知らんのじゃ。たった今、カンペが舞い降りてきたのだ」
 そのカンペ、秘密結社ネコネコ団の構成ネコからの差し入れです。総帥のために、かげながら日々努力しております。ご苦労様です、構成ネコ。
「なるほど、舞い降りるカンペが千手観音か」
「きっとそうなのだ」
「………(ウサギ)」
「そしていよいよ最後、出会いと別れの街、港町。ここにはっ、ここにはっ」
 力はいってます。ぎゅぎゅぎゅぎゅむ。
「うーうーごーーーーっ(ウサギ)」
「ズバリ蕃茘枝! 複雑な形も興味深いが、それよりも見かけに反したその魅惑の甘さ。お釈迦様とか言う人の頭の形に似てるというのもまたツボなのじゃっ!」
「おおぅーー」
「っていうか、いい加減オレを離せーっ!」
 『甘い』って言葉に、まだ控えているメンバーの中からちょっと唾を飲む音が聞こえたような気がしたが、それはナイトの叫びによって幸運なことにかき消された。
「おや、ナイト。まだそこにおったか?」
「おったか、じゃないーっ! さっきから『(ウサギ)』で存在は自己主張してたぞっ!」
「おおう、愛らしい自己主張なのだ。ドリアン王、このウサギ、私が貰い受けるってのは駄目かね?」
「………ふーむ(悩)」
「なんでそこで迷う! 育ててやった恩義を忘れたか、このボケ王!!」
「……うちの教育係は口うるさいからのう……たまにはゆっくり温泉ってのもいいかのぅ」
「ならば、私が連れてゆこう♪」
「勝手に話を進めるなーっ!!」
 なお、この会話は延々1時間近く続いたらしい。


「あー、で、次。愉快な漫才トリオ?」
「いや、違いますから。正確には……リラさんとその愉快な仲間たち?」
「……遠夜くん?」
「うん、どうせなら其方の方が面白そうだな」
「……清芳さん??」
「なるほど、なるほど。柚子とパセリとほ――ほっ……ほ………ほうれん草の愉快な仲間たち……な。うむ……ほうれん草……」
 永遠に終わりが来ないかと思われたスフィンクス伯爵とドリアン王の愉快談義――ナイトもいたのだが――は痺れを切らしたスピナッチ王妃の乱入により幕を下ろしていた。
 だもんで、ちょっぴりドリアン王。現在『ほうれん草』に過剰反応中♪――何が起こったかは皆さまのご想像にお任せ致します。唯一のヒントは、ドリアン王の額に貼られたでっかな絆創膏一枚、以上。
「まぁ、うん。ともかくとしてだな。ではそなた達の考えた名前を聞かせてくれるかな?」
「それでは私から」
 最初にずいっと一歩前に出たのは清芳。黒いヴェールがふわりと揺れて、彼女の瞳の青さを強調する。それはまるで澄んだ美しい水のよう。
「私はこの王都に『曲水(めぐりみず)』という名前を提案する。日本の言葉に『巡りめぐって』というものがあり、これは『戻ってくる』という意味になる。つまり人々の戻り、活気の戻り、文化の戻り――ありとあらゆるものが、この都より発ち、またやがてはこの都に戻りなおいっそう栄えるようにという願いの気持ちを込めたつもりだ」
 一息に語り終え、それまでまっすぐにドリアン王を見据えていた瞳が、静かに伏せられる。微細な仕草ではあるが、確かな『礼』を込められたその行動に、ドリアンはふっと小さな笑みを零した。
「ふむふむ。客人である貴女にそのような名前を考えて頂けるとは、我が国も幸せなものだな。確かに確かに、万物の巡りは必定であり、かつ宝だからな」
 幾度も自分の内側に問いかけるように頷きを繰り返すドリアン王。その様はさながら一国を治める王のようで――って、実際王様でした。
 ともかく、真面目に自分の意見を聞いてくれた王の様子に、清芳の表情も僅かであるが和らぐ。
「じゃ、次は僕で」
 きちんと一礼して一歩辞した清芳に代わって、今度は遠夜が歩み出る。
「僕は砦のある町に『竜門』って名前をつけたらどうかなぁ……って、駄目?」
 とりあえず結論だけ先に述べたら、不安になったのか。遠夜は皆の反応をうかがうように周囲の様子を伺った。
 遠夜本人としては、ここでドリアン王が玉座から転がり落ちてくれたりしたら面白ポイントだったのだが、なかなかどうして普通に受け止められたらしい――それはそれで微妙に残念かもだが。
 どうやら続きを促すような雰囲気に、遠夜は再びドリアン王の方を向き直る。
「えっとですね、雪に閉ざされ竜の来襲を防ぐ場所だって聞いたんです。だから逆にそのものの名前をつければいいんじゃないかなって。文法で言うところの逆接……は、違うか。その、なんていうのかな嫌なものの名前をつけて、逆にそれを防いじゃえって考えで」
「ふむふむ。それはなかなか面白い考え方だのぅ」
「でしょ! で、ですね。日本には『饅頭怖い』ってお話があってですね」
 ……なんか微妙に話がズレてきた。
「マンジュウ怖い?」
 でもドリアン王、食い付いた。出来ればキャッチ&リリース希望。
「えーっとですね、饅頭っていうのは真っ白なふかふかの生地で餡子をくるんだ日本のお菓子なんですけどね」
「アンコ?」
 リリース失敗。食い付きっぱなし――っていうか、むしろ針をごっくり飲み込んだ感じ。
「アンコっていうのは、小豆を煮てから裏ごしして、それからお砂糖とちょびっとのお塩で味付けしたものなんですけどね。ちなみにこのちょびっとのお塩っていうのが甘さを引き立てる役割をしているんですが」
 ……微妙にお料理講座入ってきました。
 夜までに全員の発表が終わるか不安です。
「なるほど。辛さで甘さを引き立てる――ふむふむ、スイカに塩を振るのと同じ原理だな」
「そうです、それそれ。とにかく、お饅頭っていうのはそういう甘いお菓子なんですけど」
「饅頭怖い」
「へっ!?」
 いざ、本題――や、既にかなりどっかにズレまくってるけど――に入ろうとした遠夜の話の腰を、清芳の一言がばっきりぼっきり打ち砕く。
「あぁ、私は饅頭怖いぞ」
「パセリさん?」
「清芳さん?」
 ドリアン王と遠夜の視線が清芳に集中する。
 そして次に発せられた言葉は。
「確か、こういえば饅頭が貰えるのだったよな? だから私は饅頭怖い」
 再び点になるドリアン王の目。しかし意図を察した遠夜がすかさず説明の続きに入る。
「そうなんです。とある町で若者達が自分達の怖いものを言い合うってのをやってたんですが、その中の一人が自分には怖いものはないと言ったんです。ところがその若者、突然思い出したように」
「饅頭怖い」
「そう、そう言ったんです。そしたら翌日、彼に嫌がらせをしようとした別の若者が、彼の家に饅頭を投げ込んだんです」
「ほほう、ほうほう」
「饅頭怖い」
「ところが『饅頭怖い』と言っていた若者は、むしゃむしゃとその饅頭を平らげちゃったのです。実はこの若者、饅頭が大好きで、だから別の人がそんなことをするのを見越してわざと好物のものを」
「饅頭怖い」
「って言ったんです」
「なるほどーーー! それは実に素晴らしい!!」
「饅頭怖い――だから私にも饅頭を……」
「……ストーップ、です」
 ばこん、べこん。もひとつオマケにぽっこん。
 どこから取り出したのか湯気の上がったほっこりほかほか饅頭。それらをどういう早業か、遠夜と清芳、ついでにドリアン王の口につめこんだのは言わずもがなのリラさん。
「……えと、ですね。後ろで聞いていて……色々と考えたんです……けど。なんだか……話の方向がズレてるな……って。だから……止めなくちゃいけないって思ったんですね」
 言いつつ、遠夜と清芳の首根っこをかるーく引っ張り、自分の後ろに下がらせた。
 なお、遠夜は突然の饅頭に目を白黒。清芳は甘い味わいにご満悦、王様は『なるほど、これが饅頭』と口をむぐむぐ。
「……では、次は私の番ですね」
 すいっとこれまたどこから取り出したのか、熱い緑茶をドリアン王に差し出したリラ、可愛らしくぺこりとご挨拶。薫風のように広がるライラック色の髪が、なんだかとっても美味しそう。
 お茶でごっくんと饅頭を飲み込み終わった国王は、姿勢を正してリラの言葉に耳を傾ける――なんだか背後から王妃様の冷たく痛い視線が突き刺さっているとか、いないとか。
「まずは港町ですが……これにはフルーツポンチという名前は如何でしょうか? 果物たちは一度綺麗に盛り付けられますが、その後取り分けられていきます。つまり、出会いと別れ――ということですね」
「ほう」
 最初はどこか気もそぞろだったドリアン王、けれどリラの話に徐々に引き込まれていく。強烈なインパクトはないが、じっくり耳を傾けて聞いていると良い味が出てくる。
「それから……王都にはミックスベジタブルというお名前を。様々な野菜が彩りよくある様はきれいですし――それに何と言ってもお手軽簡単に美味しいチキンライスが作れます」
 あ、リラの手になにやらノートが。
「それから……それからですね。砦の町にはオニオンスープってお名前はどうでしょう? 寒い場所だと聞いたので……あったかいお名前がいいかなって。いいですよね、ほかほかのオニオンスープ。……あ、これ。私が集めた特性レシピメモなんですけど」
 ぴらり、と王様に見せる。
 そこにはびっしりと書き込まれたステキクッキングのレシピがいっぱい――って、なんだかまた路線がずれてきてませんか?
「……あ、いけないけない。あともう一つありました。学園都市なんですけど……これは、フルクトゥスでどうでしょう? ラテン語で『フルーツ』のことなんですけど。フルーツって言ったら……あの、イチゴは果物になるんでしょうか? それとも……野菜?」
「はへ?」
 国王の口から変な音が零れた。
 真っ当にスタートしたはずが、途中で微妙にずれはじめ、予想だにしないところに着地したので頭がついていかなかったらしい。否、単純に唐突な質問に軽くパニックになっただけかもだが。
「よく思い出したら……野菜なのか果物かよくわからないものって……けっこうたくさんありますよね。そういうのって……やっぱりものすごく気になるじゃないですか。だから、そういうの研究するのも大事だと思うんですよね」
 熱弁は続く。
 イチゴは果物? それとも野菜?
 実は国王も答えを知らなかった――ちなみに豆知識。日本ではイチゴは学術的には野菜に分類されているけれど、政府機関では果物だったり野菜だったりまちまちのようです。ぶっちゃけ、どっちでもいいってことみたいです。なるほど。

 かくして、いつの間にやらとっぷり日は暮れていた。
 様々な話題に色々な演出に、正気を保っていた国王も、いいかげん意識が妖しい――いや、怪しい――いや、やっぱり妖しいで正解かも。

「うぅぅうっむ、やはり父親像とはかくあるべき!」
 てな具合に変に唐突ですが王様。熱く、妖しい。なんだか可笑しく燃えている――萌えじゃない。
「うむうむ、うむうむ、マッチョドラゴンフルーツ殿の言う事は一味も二味も違う気がするな」
 玉座の前――っていうか、その隣。なんでそうなっちゃったかは知らないが、ドリアン王の隣に椅子を並べて座っているのは、腹筋が見事に割れてるオーマ。これまたどういう経緯かは分からないが、どーにもこーにもこの親父2名は妙なところで意気投合したらしい――どこでかは聞かないで。一国の主として切なさに涙が出てきちゃうから。
「で、マッチョ殿はどんな名前を考えてくれたのだ?」
 ……長かったので略されました<マッチョ。
 ………って、実は盛り上がるだけ盛り上がっておいて、本題には入っていなかったモヨウ。良かった良かった、実況中継滑り込みのギリギリセーフ。
「俺が考えたのは一つの都市の名前のみ。名付けは王国にある全ての者への最初の贈り物――だからこそ、俺はたった一つに想いをこめて」
 突然ですが、ここで宣言します。
 真っ当っぽいのはココまでよ♪
 ってわけで、はい、オーマさん続きをどうぞ。
「名を捧げる都市、それはホットで太陽光線ギラリでマッチョも喜ぶ港町! 繋げてズバっと『ホットギラリマッチョ』こそ、俺の想いの丈全てをぶつけた名。その名がつけば、町はますます栄え、やがてはアニキオーシャン盛りで大胸筋が乱れ飛び、愛くるしくも奇跡の桃色筋肉が両手を広げてウェルカム筋シティ!」
 決め、筋肉ポーズ。むき。きらり。
 ………
 ………
 えーっと、きっと町が素晴らしく栄えて、立派になって漢(ヲトコ)たちもますます逞しく、世界筋肉自慢コンテストが開けちゃうような都市になる――ってことだよね、きっと。
 ついでに現場を映像でお届けできないのが非常に残念無念なくらいに、効果的にオーマの筋肉各所がズッキュンドッキュンと波打つ。
 その素晴らしき(?)光景に、一同小波のように引いているようでいないようで、で実際どっちなんだ? という状況だが、ちまっと丸っこいドリアン王の瞳は爛々と輝いていた。
 何かに魅せられてしまったらしい。筋肉とは、罪作りなブッタイだ――ただいま大絶賛崩壊中。
「この国の王は実に話がわかるねぇ。姫の方もかたっぽは実に優秀だったし。これでこの国も親父桃源郷化へ腹黒強制大胸筋問答無用で導かれっ」
 がしゃーん。
 マッチョボデーで覆われていない頭上に、予告なく金盥の直撃。そう、あの伝説のお約束の金盥――脈絡のなさは今に始まったことではないので、右か左に置いておいて。
 卑怯なまでの不意打ちに、さすがのオーマも軽く頭をさすさすさす。その瞬間、金盥は火薬が爆ぜるような音をたて、一人の少女の姿へと変貌を遂げた。
「さっきから影で聞いてれば、なにがなんだか分からないことばっかり! 少しは真っ当に考えてくださいませっ」
 金盥の招待――もとい、正体はドリアン王の娘の一人、東花。既にオーマとは面識があるのだが、はっきり言って相性は宜しくない雰囲気。
「いや、俺は真面目に考えてるぞ」
「どこがマジメ!? 何がマジメ!? この国をマッチョ量産大国にでも仕立て上げるおつもりですの?」
「マッチョ量産大国――それは思い付かなかったな。感謝の気持ちを込めて我が腹黒同盟の勧誘用パンフレットをくれてやろう。オマケにこの観光名所用噴水アニキビーナス像も進呈だ」
 そういうとオーマ、やおら懐より1/2スケールのマッチョ像と、妖しげな黒いオーラを放つパンフレットを取り出す。
 ずばり東花、墓穴掘り? っていうか、アニキビーナス――想像してみよう、超絶マッチョなビーナス像。本日の筋肉率、通常当社比4倍。さらに最終問題なので倍率、倍。どん――なんてものを用意してるあたり、オーマの方が一枚も二枚も上手なのか。
「ってー! なんで腹黒同盟なんですのっ」
「……東花ちゃんが腹黒だから〜?」
 今度は床からにょろり。生えたのは東花とおんなじ顔の少女――名は西姫。
「おおぅ、西姫! いいタイミングで生えてきたな。そうか、東花は腹黒なのか?」
 少しは驚け。
 と思わず吐いて捨てたくなるくらいのフツーさで、オーマは西姫をかるーく抱き上げた。どうやらこっちが『優秀』な方らしい。
「学院では先生方にそう言われてるみたいですわ」
「だから、なんでそんな話になってるのよっ! っていうか、馴染み過ぎですわ! お父様、なんとかしてくださいませっ」
「なるほど……東花は腹黒であったと」
 本気で収集つかなくなっているので、この辺で強制的に実況中継完了。双子姫を加えての壮絶バトルはこの後、夜が明けるまで延々と続いたらしい。
 でもって、オーマが念の為にと考えてきておいたマジメ&ステキお名前『ルリリア』のお披露目は、小鳥が囀り始めた朝靄の中で行われたことだけちょこっと追記。


★結果発表、それからそして……?

 狂乱の宴(?)が全て完了して3日後――1日はその日の明け方まで発表が続いていて、その後、丸1日王様が電池の切れたおもちゃのようにピクリとも動かなくなり、ようやく復活して考えをまとめるのにそれだけの時間がかかった――の城の中の大広間。
 そこでは結果発表の張り出しを待ちながら、の食事会が開催中。
 王室の食事会――なんて書くと非常に堅苦しく感じるが、実際の所はビュッフェスタイル。客人・王族はもちろんのこと、給仕するはずの使用人さんたちも、緊張の前の楽しい時間を過ごしていた。
「……甘い。ふるーつとはこんなに甘いものだったのだな」
「しっかり熟してからもがれた果物の甘さは格別。ちなみに野菜も十分に甘いのじゃ。鍋なんかにすると、その魅力にうっかりほっぺが落ちる」
 すっかり意気投合しているのは、清芳とスフィンクス伯爵。
 テーブルに並べられた様々な料理――清芳は問答無用で甘いもの集中攻撃――に舌鼓を打ちながら幸福街道をネコまっしぐら。
「いっそのこと、都市の名前はおでんとかジャムとか、料理の名前を提案すればよかっただろうか。……想像しただけで、美味しそうじゃの」
「『じゃむ』とは果物を甘く煮詰めたものだったか? ならばそれには賛成だが、私としては『おでん』は賛成しかねるな――甘くない」
「ん、ん、ん。甘いだけが料理の全てじゃないぞ」
「しかし、甘いというのは非常に魅力的」
「それは確かにそうじゃけど……」
 そんな会話をしつつ、テーブルの上に並んでいるものを、ひょいぽいぽいっと自分の皿に移しては、口の中に放りこむ。ダイエット中の女性が見たら、羨ましさのあまりに卒倒しそうな光景だろう。
 そんな彼らの背後の調理スペースにはライラック色の髪をした割烹着姿の少女の姿。
「やっぱりね、新鮮な食材は自分で調理してみなきゃって思うの」
 頭にはきちんと三角巾までつけて、リラいつの間にやら出陣中。ちゃっかり確保したスペースで、特製レシピメモを片手に包丁を振るい、鍋をぐつぐつとリズミカルに歌わせ中。
「あら? このスパイスは珍しい……せっかくだから入れちゃって……」
「……リラさん」
 リラの背後で調理道具ラック――もとい、お手伝い係りに任命された遠夜がポツリと呟く。
 しかし料理に夢中なリラに、その呼びかけは虚しくスルー。
 いや、別にいいっちゃいいんだけど。
 今更ながらに、この城に訪れた――訪れさせられた?――経緯を思い出し、遠夜は遠い世界へ瞳を馳せる。
 まぁ、皆が楽しそうにしているのだから、それはそれで問題ないけれど。
 最初はリラの拉致騒ぎから始まって、それから話がどんどん膨らんでいって――あぁ、そうだ。気分は所謂わらしべ長者? 決して事態が良い方向へ良い方向へと流れているとは思えない気もするけれど。
 人生って、きっとそんなもの。
 一方その頃、再び舞台は大広間に戻って。
「よかったらこのパンフレットを読んでくれ――いや、マッチョ痺れで読むしかない」
 新手の宗教勧誘よろしく、同盟パンフレットを配っているのは勿論オーマ。
「ちなみにただいま入会すると、もれなくこの桃色筋肉針をプレゼントだ。これで明日から魅惑のアニキボディ」
 アニキボディって何だろう? 抽象的でありながら、なんとなく想像がつくあたりが怖い。
 そんなかんじで、それぞれにそれぞれの時間を過ごしている時、大広間の入り口付近で高い歓声があがった。
 どうやら結果が出たらしい。
 結果が書かれた紙を手にした2人の騎士が、ずずいっと部屋の中央まで突き進み、ズバっとそれを広げた。
 パパパッラパ〜♪(←盛大なファンファーレ)


 〜〜グリーンキングダム、都市名決定のお知らせ〜〜

 さて、先日以来募集していた我が国の各都市の名前が決定したので、ここにそれらを発表する。

 【決定名称】
 王都:ミックスベジタブル(名付け親:ほうれん草・リラ)
 学園都市:筍(名付け親:ミラクリベリー・スフィンクス伯爵)
 国境砦:仏手柑(名付け親:ミラクリベリー・スフィンクス伯爵)
 港町:ルリリア(名付け親:マッチョドラゴンフルーツ・オーマ)

 これらの名称に決定したのは、理由が面白かった――もとい、我が国のこれから先の未来を見据え、もっとも相応しいと思ったからである。
 以後、この名前を正式名称として公文書・地図は勿論のこと、広く使用するので、国民はしっかりと覚えておいてもらいたい。
 なおルリリアに関しては、別に推挙していた名前があったのだが、我が国の一の姫である東花の断固反対に遭い、此方の採用となったことを追記しておく。

 さらに付け加え。
 今回、これら以外にも素晴らしい名前を提案してもらったので、それらを活かすべく、次の名前を以下のような形で採用とする。

 曲水:王城の名前として採用。
 以後、この城の名称は『曲水宮(めぐりみずきゅう)』と呼ぶこととする。名付け親:パセリ・清芳。

 竜門:国境砦の砦自体の名称として採用。
 これまで重要拠点でありながら、ただの『砦』としか呼ばれてこなかったこの砦を、これより『竜門』と呼ぶこととする。名付け親は柚子・榊。

 以上をもって結果発表終了。
 私はこれから数日、冬眠に入るので何人も起こしにきてはならん。

 〜〜お知らせ終了。なおこのお知らせは本日より効力を発揮し、未来永劫続くものである〜〜

 かくして、各都市および城名、砦名決定。
 皆さま、本当にお疲れ様でした。


「本当は、アニキなお名前の方を私は採用したかったのですけれど〜」
 場所は、港町――今は『ルリリア』と名付けられた場所。
 その全てが一望できる小高い丘の上に立つのは、オーマと西姫。
 結果発表が終わった後、ぜひこの場所を訪れたいと願い出たオーマに、西姫が同行を申し出たのは数日前。そして二人は今、眼下に広い海を眺める。
「いや、こっちの名前で俺は良かったと思うぞ」
 言いながら、オーマは手にしていた花の苗を西姫に渡した。
 その花の名はルベリア。偏光色に輝く不可思議で美しい花――オーマの故郷に生息し、人の想いを映し見て、送った者と永久に結ばれるという奇跡を起こすといわれているそれ。ある種の幸せの象徴。
 ルリリア。与えた都市の名前も、元を正せば、この花の名前に由来を持つ。
「この町――国に訪れた者に、永劫の幸福が訪れるように。名付け親として、俺はそれを願う」
 その言葉に、嬉しそうに目を細めた西姫は、簡単な呪文を唱えた。それは緑を育む魔法、西姫の手をするりと離れたルベリアの苗は、静かに大地へ根を下ろす。
「この花は、やがてこの町いっぱいに広がることでしょう。それはきっととても美しい光景なのでしょうね」
 まだ見ぬ未来へ思いを馳せ、オーマも目を細める。赤い瞳に映るのは、どこまでも果てしなく広がる青。
「またぜひ遊びにいらしてくださいませ。そのときはぜひに私の弟、南央ちゃんにステキマッチョ体操を教えてあげてくださいませ〜」
「おう、任せとけ。ミラクルマッチョはいつでもウェルカムだ」
 ……しっとり終わるかなって思ったら、オチはちゃんと(?)つきました。
 西姫野望=見込みのない父や、言う事きかなさそうな兄は置いといて、弟を筋肉漢に育て上げることらしい。
 オーマさん、腹黒同盟一員に、西姫をいかがでしょう?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0227 / 榊・遠夜 / 男 / 18 / 陰陽師
0520 / スフィンクス伯爵 / 男 / 34 / ネコネコ団総帥
1879 / リラ・サファト / 女 / 16 / 家事?
1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳 /
            医者兼ヴァンサー(ガンナー)
3010 / 清芳 / 女性 / 20歳 / 異界職

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。そして何より『初めまして』。この度、ソーンデビューと相成りました、ライターの観空ハツキです。
 このたびは、グリーンキングダムにステキな名前をお考え頂き、本当にありがとうございました――はい。感謝しております。その感謝の気持ちが、壊れ具合に繋がっていると思って頂けると是幸い(あぁっ、すいませんっ;;)

 ●オーマ・シュヴァルツ様
 改めて、初めまして。
 ソーンのあちこちでお姿を拝見するオーマさん。ご参加頂き「なんだかこれで私もソーンの一員?」とか喜んでしまいました。
 行動がとっても面白く、オーマさんを書いている時はかなりハイテンションでした――が、いまいち筋肉描写(違?)やらが上手くいかず。表現しきれない部分が多く、申し訳ございませんでした。

 誤字脱字等には注意はしておりますが、お目汚しの部分残っておりましたら申し訳ございません(これも壊れの一部として笑い飛ばして頂けると幸いです←ダメですか?・汗)。
 ご意見、ご要望などございましたらクリエーターズルームやテラコンからお気軽にお送り頂けますと幸いです。
 素晴らしいお名前、ありがとうございました。
 そして、少しでも皆さまに喜んで頂ける部分があるよう、切に願っております。