<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


魔法使いと一緒【桃色の花園】


 突然、直感が走る。
 腹黒同盟普及洗脳充満むらむら徘徊中、新たなる生贄筋ビビビ親父愛をキャッチしたオーマ・シュヴァルツはその足を一件の店の前で止めた。もう夕刻だというのに明かりもつけずに真っ暗な宝石店。
 熱い視線ナンパ癖有のラブマッスルフレンズ人面草&人面石軍団も彼の引率として後ろをついてくる。
「ここからだ、ここからビビビときたぜ」
 ずんずんと店の扉の前へ、開店中の札がかかっている。と、その入口にスフィンクスの聖獣装具である聖刻盤ヒエログリフリドラーが落ちていた。それを拾い上げオーマはふむ、と思考をめぐらせる。それには普通と違い薄い桃色の宝石がはめ込まれていた。
「こんなところに落ちているなんて不自然すぎる……これは持ち主を探さねば、そして腹黒同盟勧誘も忘れずにだな!」
 よし、行動は決まった、とばかりにオーマは勢い良く店の扉を開けた。からんからん、と扉についていた鈴が鳴る。
「邪魔するぜ!」
「お? 勢い良く扉が開いたと思ったらお客さんか、御用は何かな? ボクはラナンキュラスというんだ」
 突然の来訪者、その騒がしさに店の奥から一人、姿を現すものがいる。橙と紫のグラデーションの髪の女だ。
「そうか、ラナ! 御用は勧誘だ!」
「え、えぇ!?」
 ずんずん、と彼女に近づき、オーマはどこからか同盟勧誘パンフと総帥ナマサイン入り桃色ハート乱舞ティーカップを彼女に渡した。
「腹黒同盟は素晴らしいぜ、ラナも入るといいそれはもう是非にだ!」
「あははは……すごいティーカップだねこれ……」
 受け取った、というか受け取らされた物を苦笑しながら眺めてそして彼女は辺りを見る。オーマとともにやってきた人面草たちは庭をしきりに気にし、そして人面石たちはショーケースの中の宝石に興味を示していた。
「ところで」
 と、オーマが先ほど拾った聖刻盤を取り出す。それをラナンキュラスは持っていたティーカップなどをショーケースの上に置いてから受け取った。
「これはラナのか?」
「いや、違うよ、これどうしたんだ?」
「落し物だ。ふむ、ではそれに聞いてみるとするかね」
 オーマは聖刻盤を受け取りそれに問う。
 お前の主は誰かと。
 そう問うた瞬間、その聖刻盤より光が発せられ、そしてそれに包まれる。一瞬の閃光。
 瞳を開けたときにはオーマ、人面草&人面石軍団、そしてラナンキュラスはほのかな淡い桃色に光る宝石に囲まれた世界にいた。
 何がどうなっているのかわからない。
「これは……どうなっているんだ?」
「俺に聞かれてもわからねぇさ、さてどうするか……」
 足元の宝石、それは宝石でできた花だ。踏みしめるのも惜しまれる。
「ローズクォーツのでできた宝石の花なんて初めて見たよ」
「俺もだな。ここにいてもしょうがねぇ、ちょっと歩きまわってみるか。下僕主夫るんるん☆大胸筋乱れ乱舞薔薇アニキ聖筋界ナイトメア桃色ツアー★ってかね?」
「よくわかんないけどまぁ、キミ面白いからいいや!」
 そう言って二人、とその他大勢の軍団はその世界を歩く。どこを見ても薄桃色。そらも薄桃がかっている。
 そして暫く歩いていくうちに、遠くにこの花々とは異質なものが段々と見えてくる。距離が縮まるたび、オーマはその興奮を隠しきれなくなる。
「あ、あれはやはり……!」
 いてもたってもいられなくなりオーマは走り出す。その後ろから残りの全員も歩を早めて行く。
 そして辿り着いた先、そこにあるのは薔薇マッスルアニキ像。もちろんローズクォーツで出来ているらしく薄桃の肉体はばっちりポーズを決めている。背後にはあるはずの無い薔薇が咲き乱れているように見える。
「素晴らしいぞ……」
「素晴らしいだろう」
 オーマの言葉に、薔薇マッスルアニキ像は言葉を返す。少し驚くが、何があっても不思議ではない。
「お前達は迷い込んだのだな? ふむ……ここから脱出出来なければ、どうなるか知りたいか?」
 くく、と笑いを含んだ声色で薔薇マッスルアニキ像は言う。
「一応、教えてもらえるかな?」
 ラナンキュラスはそう言った。すると薔薇マッスルアニキ像はいいだろう、と偉そうな声色で言葉を続ける。
「脱出できない場合は」
「場合は?」
「二人共アニキ像になり飾られる。私もその一人だ、結構楽しいぞ。ちなみに制限時間は一時間、とあるものを見つければいい」
 楽しいぞと言われても、とラナンキュラスは苦笑する。
「どうする?」
「脱出しなければアニキ像、それはそれで魅力的だが俺は下僕主夫だ、戻らねばならねぇだろ」
「そうか」
 二人とも脱出をする。それで意見はまとまる。
「あと四十三分だよ」
 薔薇マッスルアニキ像は面白そうに時間をカウントダウンし始める。
「えーっととりあえず、ここに来たのはあの聖刻盤の所為だったよね」
「そうなる、んだろうな。聖刻盤に持ち主を聞いてここへ来た」
「……なんか普通のと違ってたよね? 特徴覚えてない?」
 うーん、と記憶の糸を手繰り寄せる。
 聖刻盤、その姿はどんな物であったか。
「薄桃の、そうこの辺の花と似たような石がはまってた、よな?」
「……あったっけ?」
 オーマの言葉にラナンキュラスは首をかしげる。そんなもの記憶に残っていないが、確かにあったかもしれない。
「あった、あったぞ、俺は覚えている」
「そっか……じゃあきっとそれはローズクォーツだろうね。ここもそうだし、関係があるとしたら、だけど」
「ローズクォーツについて何か情報とかねぇのか?」
「えーっと……紅水晶、ラブストーンとも言われるね、誠実な愛の象徴ともされる」
「いいねいいね、愛の象徴! 他にはなんかあるかい?」
 オーマはその立派でがっしりとした胸板の前で腕を組み、そして豪快に頷く。
 ラナンキュラスはうーん、と唸っている。
「あと、心臓を活性化させる働きがあるとか言うね、こんなもんかな」
「心臓つまりハートだな」
 と、その言葉に薔薇マッスルアニキ像の雰囲気が硬くなる。そしてそれを見逃すオーマではなかった。
「アニキ像、今反応したな? ハートか、ハートの何かなのか?」
「そうみたいだね、このあたりにあるのは全部ローズクォーツの花だから、その中にハートの形のものがあったり……」
「ギクッ!」
 薔薇マッスルアニキ像、失態。冷や汗はかけないがそれでもそのかもし出す雰囲気にかげりがでる。
 オーマはにやりと笑った。
「人面草&人面石軍団総動員……!」
 ハート型のローズクォーツをしゃがみこみ、そして掻き分けながら捜索。人員も多くすぐに見つかる、かと思ったがこの広さだ。無駄に時間は過ぎていく。
「あと三分で薔薇マッスルアニキ像の仲間入りだな」
「まだ三分もあるしっ!」
「そうだ、まだ諦めるには早すぎると……ってこれか?」
 ふと手に触れたローズクォーツ。それをオーマは手に取り高くかざして見上げる。
 紛れもなくハート型をしている。
「うっ、しょうがない……元の世界に戻るがいい……」
 薔薇マッスルアニキ像は溜息をつけないがついたような、そんな感じだった。そしてその言葉が終ると同時にオーマが掲げたハート型のローズクォーツから、この宝石の花園へと導かれた時と同じようなまばゆい閃光が発せられる。
 それが眩しくて目を閉じて、そしてまた再び目を開けるとそこは薄暗い場所だった。
 辺りを見回してそれが店の中だと確信する。ちゃんと人面草&人面石軍団も戻ってきているようだ。
「戻ってきたね……」
「そのようだな、よかった、お?」
 と、オーマが手にしていたローズクォーツがぱきんと割れた。それと同時に聖刻盤にはまっていた石も割れる。
「不思議なこともあるもんだね、まぁ楽しかったよ」
「そうだな、ところで」
「え?」
 オーマはこれは忘れてはいけない、とニッと笑った。
「腹黒同盟への加盟はどうする?」
 きょとん、とラナンキュラスはし、だが一拍おいて笑い出す。
「あははは、おっもしろいね、キミ! いーよ考えておく、うん」
「そうか、ではまた出会った時にいい返事を期待しマッスル」
「ぶっ! 最後まで笑わせてくれるね、あはは」
 よほど笑いのツボにはまったらしくラナンキュラスはひーひー言いながらオーマとその付き添い人面草&人面石たちを扉まで見送る。
 これから夕闇の始まる時間帯。夕日の沈む方向へとオーマは歩き出す。
「むっ、あっちからもまたビビっときたぞ!」
 新たなる親父愛をキャッチしオーマは走り出す。
 いざ布教に!


    <END>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

 NPC>>ラナンキュラス
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■         ライター通信          ■
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 オーマ・シュヴァルツさま

 初めまして、ライターの志摩と申します。御発注ありがとうございました!
 頂いたプレイングから自分の頭をフル回転で書かせていただきました。楽しかったです!
 ノリと勢いしか無いようなノベルなのですが楽しんでいただければ幸いです。

 それではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!