<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


Tales Of The Dark-servant 1

《オープニング》
 雨が降っている。
 昼には出かけて市場に出かけようと思っていた矢先だった。
 いきなりの雨でスケジュールが狂ってしまい、酒場で時間を潰す。
 雨の強さは土砂降り。しかし、コレは長引く感じだ。今日は宿で腐っていようかと思っていた。
 雨宿りの為に何人か黒山羊亭で雨宿りをする。
 「雨で大変だ」とか「やまねぇな」とか、ありきたりな会話をして、時間を潰していた。

 うわさ話、吟遊詩人の詩に耳を傾ける。
 そこで聞いた物語。

 Tales Of The Dark-servant。
 過去にあった闇仙子との戦いを歌った物語。
 地底深くにおこった陰謀を暴き、阻止したという英雄達。
 しかし其れは知られる事もなく風に消えたものと……。
 さて、上演の始まり。
 過去に君たちが体験したが、語られなかった冒険を思い出してみよう……。

 

 聖都エルザードから西に数マイル。
 ある村で、奇妙な病が流行る。
 重度の風邪に似た症状。現代出身者なら分かるだろうがインフルエンザに非常に似ている。
 どんな薬草も効かない(一部の魔法は大丈夫なのだが、そこまでのレベルを持つ術者は居ない)。
 普通の人にはかなり危険な病気の様だ。
 近くに病魔を振りまくモノが居るとか祟りとかと恐れている。
 幸い、有る程度力を持っている君たちはその病魔に冒されることはなかった。
 君たちに村人が何とかこの原因を突き止めてくれと言う。
 この病気が発症し始めたのは、2週間前。
 井戸水を使ってからという。
 家畜にも影響が出て、殆どの家畜は死んだ(普通の動物である山羊だけは何ともないらしい)。
 エルザードまで感染してパニックになる前に、何とかしなくてはならないだろう。
 
 井戸を調べ、その源を探す。その先に何かがあるのだ。
 何かが……。

〈§1〉
 村は鬼のようなうめき声であふれかえっていた。悲鳴、絶望による嗚咽。平和な世界であるはずの聖獣界でこのようなことが起ころうとは。
 一番大きな倉庫から全部荷物を引っ張り出して隔離施設を作り、そこで患者を運び入れる作業に健康な村人がおこなっている。その人々は防護服を着ていた。
「お湯はしっかり沸かして! ゆっくり運ぶんだ!」
 派手な服装をしている身長7フィートはあろうかという大男が、その服装の上に白衣を羽織って、患者を診ている。彼はオーマ・シュヴァルツ。見た目には見当も着かないが、れっきとした医者である。
「こいつぁちぃっとばっかし、ただのナニの類じゃ済まされそうにもねぇってかね。単なる流行病であれば苦労もしねぇが、かなりやばいな。 俺が持ってるワクチンや抗生剤が持つか……?」
 医者の勘でこれが危険なものであるものと告げている。ただ、幸い手持ちの医療器具で何とか、症状の緩和や解熱など緩和はできても、完治まで至らないようだ。
「家畜は一部残してくれ調べてみる。山羊だけ無害っていうなら、数頭貸してくれ。」
 オーマは、村人に頼んでいた。

 一方井戸では、キング=オセロットが井戸をのぞき込んで何かを考えている。不安そうに見守る村人の中で、煙草をくわえて考えている。
「なにか、わかりますか?」
 彼女は一番近くにいた村人に訊いてみた。
「過去に誰かがここに投げ捨てたことは? 村人の仲でも旅人でもいい」
「滅相もない。井戸水は重要なところです。そんなとんでもないことは……」
 ざわめく村人たち。
「この村では、数ヶ月前に旅人なんてきてなかったよ。あんたたちが久方ぶりだ。」
 同時にうなずくほかの人々。
「では……、この井戸に通じている水脈はどこか、わかるか?」
「ああ、それならグレムットが知っている。ドワーフだが、今はあの病で……。」
「そうか……地図があればいいのだが……。 オーマも看病やほかのことで忙しいか?」
 眉に皺を寄せながら、キングは腕組みして考え込んだ。

 この二人がこの村にいたのは、偶然である。しかし、この村の異様な状態に放っておけるわけはない。二人とも高技術の出身界のためにインフルエンザクラスの伝染病の怖さを知っているのだ。しかし、発症源が井戸ということだけ、あと、なぜか山羊だけかからないという不可思議なもの。
「急速に広まらないことが救いか。ふつうならこの村程度だと……全滅している。」
 と、二人の考えである。
 村の規模は200世帯程度らしい。幸い感染力は弱く、進行速度は遅いらしい。だが、原因がなんなのかわからない場合、焦るものだが、二人は落ち着いて行動していた。
 キングがオーマのところにやってきた。
「ドワーフのグレムットってどこだ?」
「ドワーフのじいさんか? こっちだ」
 と、案内してもらうと。そこにがっしりとしているが小さい髭のはやした男がベッドでうめいている。
「グレムットさん、訊きたいことがある」
「……あ? くるしい、助けてくれ……。だ? 誰だ?」
 意識はもうろうとしているらしい。
「少し、訊きたいことがある。 井戸を掘ったときのことだが……」
 キングはドワーフに負担をかけないように、説明と、
「地図を見せてほしい。そのために家にはいることを許可してくれ。」
 と頼んだ。
「くるしい、……ああ、かまわん……ううう」
「よかった。時間をかけてすまなかった。急ぐのでこれで失礼する。」
 キングは一礼して、この場を去っていく。
「くるしい、た……たすけて……くれ」
「俺はあとで地質・水質を調べてみる。後で山羊も調べないと。」
 オーマは、キングにそういって、グレムットに沈静の注射を打った。


〈§2〉
「さて、山羊の様子も変わりない……なんなんだ? 水質も地質も目立ったウィルスがない。こりゃ魔の物か?」
 と、簡易研究室でオーマはつぶやいた。
 基本的な検査でここまで異常がないのはおかしい。
「予想はしていたが、全然反応ないって言うもの考え物だぜ」
 オーマはため息をつく。
「こっちは、地図を持ってきた。」
 キングが中に入って来た。
「おいおい、防護服ぐらい着ろよ。」
 苦笑するオーマ。
「煙草が吸えなくなるから着ない。」
「それはそれだ。いくらおまえがサイボーグとはいっても、感染するおそれはあるんだぜ?」
「それより、水質、地質、山羊の結果は?」
「収穫なしだよ。呪いか魔の関係みたいだな」
 オーマはキングに資料を見せてから、肩をすくめた。
「そうか……。」
 資料を眺めて頷くだけのキングだが、
「では、現地に向かうしかないな」
「地下水脈か」
「そうだ。明かりや探検道具は必須だ。その用意はすでに整えている」
 出口には確かに探検道具各種が詰まっていそうなバックパックが入っている。
「用意がいいねぇ」
 オーマはにやりと笑った。


 水脈の地図と、オーマの故郷にあるという占術効果を持つルベリアの花を頼りに、進む。滅多に水脈洞窟を使う物はいないようで、かなり巨大な自然洞窟そのものだ。つい最近人が入った形跡はないようだ。しかし、キングは、こうつぶやいた。
「なにか、悪意が先にあるようだ。」
 と。
「今までの修羅場をくぐり抜けた勘か?」
「そうだな。」
 オーマの問いにキングは苦笑する。
 歩いていくと、どんどん迷宮になっていく水脈だが、ルベリアの花のおかげで病原が流れる“筋”を見失うことなく先に進めた。
「この先に水源があるな。そこに何かあるのだろう」
 と、進んでいくと、道に蜘蛛の巣でふさがれている。何か気配を感じる。
 二人は立ち止まる。
「かなり大きな蜘蛛の巣だな」
 キングは松明をつかい、蜘蛛が不意を打ってこないか注意しながら蜘蛛の巣を焼き切る。
「この大きさだと、1メートルはあるんじゃないか?」
 オーマは毒ついた。
 天井に巧妙に隠れている大蜘蛛が、二人に襲いかかる!
「!?」
 とっさに身をかわすオーマ。キングが見事な身体能力で蜘蛛に蹴りを入れ吹っ飛ばした。それは壁にぶつかってかなり肉体がぼろぼろになっていながらも、奥の方に逃げていった。
「ふう、野生か?」
 オーマが安堵するが、キングが言う。
「いや、水源に向かっているな 見張りだったかもしれない」
 しとめればいいと思ったが、かなりタフなようだ。

 二人はその先を急ぐ……。
 そしてみた物は……。
 水源の滝に、人影と、漆黒大蜘蛛の大群だったのだ。


〈§3〉
 水源は、空洞になっており、わき水の池があふれて皮に滝のように流れている。その空洞を池にしている感じだ。そこには、漆黒の蜘蛛と、人影が数体いる。明かりは光苔のみ。わき水のところには何かの彫像がおかれているようだが、そこまで明かりが届いてないようで、詳しく判別がつかなかった。それは人の形をしているが、漆黒の肌を持っている。
「おまえか!? 病原をまき散らした奴は!」
 オーマが叫ぶ。
「……? ………?」
 その言葉に首をかしげる漆黒の肌の人影。
 蜘蛛が反応する。
 人影はオーマたちの言葉がわからないのだろうか?
「地上 の 下賤な生き物か」
 言葉を思い出したかのように片言でしゃべった後、人影はため息をついた。声色からすると女性らしい。
「そういうおまえたちの方が下賤だぜ。命を粗末にするたぁ医者としてゆるさねぇ!」
 オーマが怒りに燃える。
「何が目的だ?」
 キングが人影に問う。
「言っても無駄だ。おまえたちは秘密を知らずに死ねばよい。」
 人影はあざ笑うかのように問いを拒否した。
 その言葉に漆黒の蜘蛛が二人に襲いかかってきた。
「魔物か! しかもデヴィル系?」
 戦うにつれてその存在がわかり始めるオーマとキング。
 ソーンではデーモンは聖獣である。その加護におかれて生物は存在していることが普通なのだが、例外が存在する。この蜘蛛のように。おそらく、あの漆黒の人影もそうであろう。
 オーマがミニ獅子に変身する。そして、太陽と同じ光と爆音(だけ)などを具現化。蜘蛛には余り効かなかったようだが、黒い人影は、うめいていた。
 そこでキングが格闘術で蜘蛛を屠っていく。しかし死骸は、煙のように消えていく。
 そのまま呻いている、人影に向かうキングだが……
「!」
 キングの目の前が瞬間的に真っ暗になった。
 そう見えただけで、置物だったらしい物が、キングを打ちのめしたのだ。
「くぅ! これは!?」
 3つ頭の山羊、コウモリの翼、恐ろしいほど鋭利なかぎ爪を持つ4本の腕、毒々しく赤黒さをもつ肌、みただけでわかる。悪魔のたぐいだ。異形なるものだ。
 なにかしら、まがまがしい言葉を叫びながら、ソレは襲ってくる。
「大丈夫か!?」
「大丈夫だ。早々倒れない」
 ソレは、オーマの具現を解呪し、環境を元に戻した!
「げぇ! うそだろう!?」
 獅子姿で驚くオーマ。
 人影は叫ぶ。 なにかおぞましい言葉のようだが聞き取れない。

 ソレは暴れる。
 キングが躱わし、オーマが具現を幻覚として使い惑わせる。
 このままだと洞窟全体が崩れ落ちる危険性が高くなっていく。この3つ頭の山羊を持つ悪魔を消さなければならない。
「おとなしくしろぉ!」
 キングが懐に入って連撃。
 悪魔はにやりと笑い……そのまま消えていった。
「逃げたか!?」
「くそ! なんてやつだ」
 元の姿に戻ったオーマが、キングにたどり着く。
 その場所には何もいなくなっていた。おそらく逃げたのだろうか。
「くそ! 取り逃がしたか! ふんじばって吐かせたかったのに!」
 舌打ちするオーマ。
 よく調べると、奥に祭壇があり、そこに先ほどの魔物の彫像と、形容しがたいまがまがしい像と魔法文字が残っていた。ルベリアは強く反応し光っている。
「これか。病の元凶は……」
 オーマが祭壇を壊すと(持ち運べるほど軽くないようだ)、ルベリアの反応が徐々に小さくなり、病の気配はなくなった。
「これで村は大丈夫だろう」
「今は、な……」
「どういうことだ?」
 オーマが首をかしげるも、その意味がわかり、顔をゆがめた。
 キングが見ている先を同じように見る。
 キングは、《彼ら》が消えた先を見据えて、つぶやいた。
「……何をしたかったのだ? だが、なんだろうな。悪意の牙をびっしり生やした大きな口が、長年狙い続けた獲物に食らいつこうと、口を開こうとしているような、そんな気がする。」
 と。
 そう、その先に……。悪意に満ちた二人を誘い、食らおうとする洞窟を見つけたのだ。

 


《吟遊詩人は唄う》
 村を襲った謎の病
 二人の英雄により阻止されるとも
 謎は深まる
 病は3つ首の山羊の悪魔
 煽動は黒き人影
 悪しき意図の元
 誘い食らおうと口を開く
 ……


2話に続く

■登場人物
【1953 オーマ・シュヴァルツ 39歳(実年齢999歳) 男 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2872 キング=オセロット 23歳(実年齢23歳) 女 コマンドー】



■ライター通信
 初めまして、滝照直樹です。
 「Tales Of The Dark-servant 1」に参加していただきありがとうございます。
 今回は、謎の存在との遭遇と多少の戦闘で終わりましたが如何でしたでしょうか?
 お二人方の設定量の多さにとまどいを感じつつも何とか1話を仕上げることができました。
 後6話続きます。2話はさらに地下深く潜りそうな感じです。オープニングはまた黒山羊亭のところからなるかと思います。
 

 では、2話でお会いしましょう。
 滝照直樹拝
 20060130